<憑依>悪の魂~悲願の時~(前編)

遺体から、人間の悪意を取り出し、
その悪意を他人に憑依させる力を持つ謎の男・検死官ジョー。

彼は、今日も、他人に悪意を憑依させ、
観察を続けていたー。

※「悪の魂」(過去作品はこちら)の新作デス
※過去作品を知らない方には、分かりにくい描写がたくさんあります!すみません!

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人間は、悪意には勝てないー

どんなに、正義を振りかざしていてもー
悪意に憑依された人間は、必ず”悪の道”に堕ちるー。

それが、”人間の限界ー”

検死官ジョーは、
クラシック音楽を聴きながら
ワイングラスに入れたぶどうジュースをおいしそうに飲み干したー

妹の麻理(まり)の写真を見つめるジョー。

彼には、妹がいたー。
だが、その妹にま、彼は悪の魂を憑依させてしまった結果ー
妹の麻理は、死んでしまったー

この部屋には、そんな妹の”悪の魂”があるー。
ジョーは、死んだ人間から、その人間の悪意だけを抜き出す力を持っていたー

ジョーはそれを”悪の魂”と呼んでいるー。
その悪の魂を他人に投げつけ、憑依させ、多くの人間を悪の道に堕としてきたー

”人間の限界を見たい”
最初は、好奇心から始めたその行為も次第にエスカレートし、
多くの人間が、ジョーの犠牲となり、悪の道に堕ちた。

真面目な女子高生ー
真面目な会社員ー
真面目な女性教師ー

あらゆる人間を、悪に堕とし、人生を狂わせてしまったー
そして、妹までもー。

悲しそうなクラシック音楽が流れるその部屋で、
ジョーは、妹の”悪の魂”を見つめるー

妹の遺体から取り出した、この悪の魂を
妹に出来る限り容姿の似ている女に憑依させ、
妹を復活させることもできるかもしれないー

ジョーは、そんな狂気に憑りつかれていたー。

自分の行為のせいで、妹が死んだのに、
その復活を願っているー
常軌を逸したジョーは、今日も、悪の魂を手に、
外へと歩を進めたー

・・・・・・・・・・・・・・・・

目崎 菜々緒(めざき ななお)-。
真面目な雰囲気の女子高生に
”結婚詐欺の男”の遺体から取り出した悪の魂を放り込んだジョーは、
その様子を観察していたー

菜々緒は、いかにも優等生と言う感じの女子高生だー

「くくくく…果たして、”悪の魂”に打ち勝てるかな」
ジョーはそう呟きながらも、笑みを浮かべていたー

これまで、大勢の人間に悪の魂を憑依させてきたジョーは、
ついに、”ある結論”にたどり着いた。

死んだ妹の麻理を復活させる方法ーだ。
麻理は、死んでしまった。
だが、麻理の遺体から取り出した”悪の魂”がジョーの
手元にある。

それを元に、麻理を復活させる。
そのために、ジョーは、ずっとずっと、これまでも過ごしてきた。

以前からジョーが考えていた方法に
”プラスアルファ”を行うことで、
麻理は、復活できる。
最愛の妹を、再びこの手にできるー。

”妹なら悪の魂に打ち勝つことができる”
かつてジョーは、そう考えて、妹の麻理に悪の魂を憑依させたー。

妹の麻理なら、絶対に勝てるからー、
そう思って。

だが、麻理は、他の人間と同じように、悪意に飲み込まれて豹変してしまったー
兄であるジョーに襲い掛かってきた麻理ー
そして、最後の最後にー

「----お兄ちゃん…」

「わたし、、勝ったよ……・
 悪に………」

麻理は、ジョーではなく、自分で自分を刺してー
そのまま、息を引き取ったー

最後の最後に、悪の魂の支配に、打ち勝ったー。

そんな、妹の麻理を復活させたい。
そのためのターゲットは既に見つけてあるー

中島 静恵(なかじま しずえ)、という女子大生だ。

その外見はーー
妹より少し活発そうだがーー
妹によく似ているー

この静恵という女子大生に麻理の悪の魂を憑依させ、
麻理の新しい身体とするー
そうすることで、麻理は生き返ることができるー

ジョーは、そんな狂気に駆られていたー。

だが、それでは、
憑依させるのは”麻理の悪の魂”。
静恵を乗っ取ることができても、それでは悪の麻理になってしまうー

だからー

ジョーは考えたー

他の人間の遺体から取り出した”悪の魂”の破片をほんの少しだけ
麻理の悪の魂に融合させていくことで、
悪意を悪意によって打ち消すー

そんな方法をー。

既に、準備は整ったー。
麻理の悪の魂に、少しずつ、他者の悪の部分をつぎ込んでいきー
悪の部分を、他の悪の部分を持って中和させたー。

今、自宅にある麻理の悪の魂からは
悪の部分が消えたー。
魂の色が、白くなったことで、ジョーは、そう確信したー

あとは、麻理の魂を中島静恵に憑依させれば、
麻理は、復活するー

「ーーーねぇねぇ、わたし、健一くんのこと、ずっと大好きだったの」

ーー!
検死官ジョーは、その言葉に我に返るー

結婚詐欺の男の悪の魂を放り込んだ女子高生・菜々緒が、
クラスの男子に告白しているー

菜々緒は、そういうタイプの女子ではないー
これは、結婚詐欺の男の悪の魂を憑依させたことによる影響だろうー

「-え、、、え…」
健一と呼ばれた男子が戸惑っている。
菜々緒はわざとらしく身体を密着させると、
健一の耳元で、甘い声を出したー

”この子も、悪の道に堕ちたかー”

ジョーは、自身の”透明になる能力”で、
菜々緒と健一のやり取りを見つめるー

菜々緒の告白を健一は受け入れて、
二人は付き合い始めるー

その日から、菜々緒は健一に”おねだり”を始めたー

あれが欲しいー
これが欲しいー

初めての彼女だからだろうかー
健一は嬉しそうに、菜々緒にお金をつぎ込んでいくー

「なるほど」
ジョーは笑みを浮かべる。

アクセサリーや可愛い小物を身に着けてご満悦の菜々緒ー

結婚詐欺の男の悪の魂に憑依された菜々緒はー
その悪の意志に支配されてー
結婚詐欺ではなく、彼女として誘惑して、
彼氏にお金をつぎ込ませるという”小悪党”になっていたー。

「--確かに、女子高生の身体じゃ、結婚詐欺は難しいからな」
ジョーはそう呟くと、
菜々緒の様子をさらに数日確認するー

菜々緒は、健一の貯金が尽きたことを知るや否や、
健一を切り捨てたー。

完全に悪の魂に支配され、
菜々緒はすっかり悪女になってしまったー

男子を誘惑しては、付き合いを初めて、
お金を貢がせてー、
そして、お金が無くなったと知ると、その男を切り捨てるー

「---愚かだな」
ジョーは、すっかり悪女になった女子高生・菜々緒の前に姿を現したー

菜々緒は、男子を騙して手に入れたネックレスを身につけながら、
夜の街を歩いていたー。

「--くくく、自覚のないまま、人間は悪の道に堕ちる」
ジョーは笑う。
ジョーを前に、菜々緒は表情を歪めるー

菜々緒も、時々、自分で自分に違和感を感じることがあるー
”どうして、わたしはこんなひどいことをしているんだろう…?”と。

けれどー
菜々緒に憑依した悪の魂が、菜々緒のそんな疑問を
打ち消し、菜々緒を悪の道へと引きずり込んでいくー

ジョーは、多くの人間を、自分が悪の道に突き落としてきたのに、
それを、まるで他人事のように見つめ、楽しんでいるー

今回も、そうだー

「---男がバカなだけよ!わたしは悪くない!」
菜々緒は、ジョーに向かってそう言い放ったー

”優等生”の面影はもはやなくなっているー

ジョーは、菜々緒に向かって、指をさしたー。

そして、笑うー

”お前は、負けた”
とー。

「---は?」
菜々緒が不機嫌そうに声を荒げるー

「お前は、悪の魂に負けたー」
ジョーは、菜々緒に対してそう言い放つと、
笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「長かったー」
帰宅した、検死官ジョーは笑みを浮かべながら呟いたー

死んだ・妹、麻理を生き返らせる時が、ついにやってきたのだー。

検死官ジョーは、ワイングラスにぶどうジュースを入れて、
自宅のベランダから夜の街を見つめながら呟くー

自分は、どうして”こんな力”を持っているのだろうかー。
遺体から、悪の部分を取り出し、
それを他人に憑依させる能力ー
そしてー透明になる能力ー

検死官ジョーは、ぶどうジュースを飲みながら、
目を細めるー

「------」
そんなことを考えても、何にもならないー。
それは分かっている。
今までに何度も自問自答してきた-

けれど、この力に目覚めた理由は分からないー

「--もしかしたらー
 ”悪”に飲み込まれているのは、私自身なのかもしれないなー」
ジョーは静かに呟いたー。

この力に目覚める前は、ジョーは普通に働いていたー

今も、普通に働いてはいるがー
この力を使い、多くの人間を悪の道に堕としてしまったー。

力を手に入れて、
ジョー自身も、悪に染まってしまったのかもしれないー

「---」
ジョーは、ベランダから室内の方を見つめるー

そこには、死んだ妹・麻理の遺影と悪の魂があるー。

自分のことなど、どうでもいいー。
妹を生き返らせるー
今は、そのことだけ、考えようー。

ジョーは、かつて争った”他の憑依者”のことを思い出すー

ホテルの支配人として働いていた憑依人・名倉俊之ー、
憑依能力を使って、悪を暗殺していた・憑依暗殺部隊ー

風の噂で、
彼らはもう、”この世にいない”ことを、ジョーは知った。

「-----私もじきにー」
ジョーは、そう呟くと、ぶどうジュースの入ったワイングラスを
天にかざして、乾杯したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「何をするの!?!?」
女子大生・中島 静恵を、家に連れ込んだジョーは笑みを浮かべるー

「---これから、貴様には、我が妹になってもらう」
と、ジョーはワイングラスを持ちながらほほ笑むー

妹・麻理の悪の魂を、容器から取り出したジョー。

ついに、念願の時がやってきたー
夢にまで見た、この瞬間。

死んでしまった妹・麻理を復活させる計画ー

妹・麻理は、ジョーが悪の魂を憑依させたことにより、死んだー。
妹なら”悪の魂”に打ち勝てると思い、
好奇心から、悪の魂を妹に憑依させてしまったからだー。

その死を悔やんだジョーは、妹・麻理の復活のため、
あらゆる手段を模索し、そしてたどり着いたー

妹・麻理の遺体から取り出した”悪の魂”を、
妹・麻理そっくりの人間に憑依させ、
麻理を復活させる、という方法にー。

それを実現するためにー
ジョーは麻理と出来るだけ似ている女を探し出した。
それが、女子大生の中島静恵だ。

そしてー
その静恵に、麻理の魂を定着させるためー
麻理の悪の成分を少しでも中和し、
自我を少しでも強めるためー

ジョーは、他人の悪の魂を少しずつ、
麻理の悪の魂に継ぎ足ししていき、
それが出来ると確信していたー。

だいぶ、時間はかかってしまったが、
麻理から取り出した悪の魂はー、
度重なる継ぎ足しにより、
悪の部分が中和され、その自我を強めたー

輝きを増した麻理の悪の魂はーー
通常の悪の魂とは違いー
”一瞬で”静恵を完全に支配するだろうー。

ジョーは笑うー

「---とにかく」

そう、能書きはいらないー

ジョーが言いたいことはただ一つー。
妹・麻理を復活させる準備がようやく整ったのだー

「さぁ麻理」
麻理の悪の魂を優しく撫でるジョー。

「-ー新しい、身体だよ」
ジョーは、にっこりとほほ笑んだー

ジョーは、怯える静恵に向かってー
妹・麻理の”悪の魂”を投げつけたー

「ひぅっ!?」
静恵がビクンと震えるー

「あぁぁぁぁぁぁ…おかえり…おかえり!」
ジョーが笑いながら、静恵の方に駆け寄るー

妹・麻理に似ている静恵に
麻理の悪の魂を憑依させたことで、
静恵は、麻理となるー。

はずだー。

静恵が目を開くー

「--おかえり、麻理ー」

ジョーは満面の笑みで
”他人の身体で復活した妹”を出迎えたー。

<後編>へ続く

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コメント

初期作品「悪の魂」の久しぶりの新作デス~!
検死官ジョーが、まだ目的を果たせていなかったので
そろそろちゃんと果たさないと…ということで書きました~!
(ずいぶん間が空いているので、あんまり需要もなさそうな感じですが、
それでも、0ではないと思うので…!)

続きはまた来週の火曜日になりますので、
もう暫くお待ちください!!

今日もありがとうございました!!

明日は普通の新作デス!!

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憑依<”悪の魂”>

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