検死官・ジョー。
彼には遺体から”悪の部分”だけを取り出せる能力があった。
そしてその悪の魂を人に投げ入れる能力もーー。
99人目の獲物を定めたジョーは、不敵に笑う・・・
---------------------------------------------—-
男は退屈そうに、
手にしていたグラスに注いであるサイダーを見つめた。
男の名はジョー。
本名は分からない。
検死官として働いているうちに、彼は死体から
悪の部分だけを取り出せる能力を得た。
何故かは分からない。
そして、その魂を生きている人間に投げ込めることに
気づいた。
それに気づいたジョーは、今まで98人の人間に
悪の魂を放り込んできた。
すると、どうだろうー?
人々はたちまち、悪の道へと転がり堕ちる。
小学生の子に放り込んだときは、悪がきへと変貌した。
スーパーの人気女性店員に放り込んだときには、
着服を繰り返す様になり、その女は逮捕された。
温厚そうなおばあさんに放り込んだときには、
周りになんでもケチをつける近所でも迷惑がられている
おばあさんに成り下がってしまった。
そして、この前ー。
優等生の女子高生、西原愛華に投げ込んだときには、
彼女は不良へと成り下がった。
今では地元のワルとつるんで、好き放題やっているらしい。
「ふぅ…」
ジョーはため息をついた。
人の心とはそんなに弱いモノなのか。
死人から取り出した”悪”が混ざるだけで
そんなにも堕ちてしまうものなのか。
ジョーはグラスのサイダーにメロンシロップを注ぎ、
かき混ぜた。
「今度こそは……乗り越えてくれよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
藤森彩乃。
24歳の
彼女は会社の同僚、倉木毅と結婚し、
幸せな新婚生活を送っていた。
会社は既に退社して、今は家事に専念している
「いってらっしゃい!」
彩乃が笑顔で夫を送り出す。
彩乃は近所でも評判の良妻だった。
いつでも笑顔を絶やすことなく、
おしとやかな雰囲気の彼女は
近所でもすぐに良いイメージを持たれた。
「あ、…毅ったら忘れ物してる」
彩乃は時計を見る。
そして一人微笑むと、
「しょうがないなぁ、持って行ってあげよっと!」
そう呟いて、出かける支度をしたーー。
ちょうど、会社の休憩時間に会社についた彩乃は、
会社内へと入って行った。
元々働いていたこともあり、中小企業なので
そこらへんは融通が利くのだ。
「---毅!」
彩乃が休憩室で夫を呼ぶと、夫の毅は驚いた表情を浮かべる
「彩乃~ どうしたんだよ?」
毅が言う
彩乃は、毅が午後の会議で使う資料をかばんから
取り出し、毅に手渡した。
「あ、--これ、忘れてたのかーー
悪い!助かったよ!」
毅が言う
「もう、、ドジなんだから」
彩乃が笑いながら言う。
その様子を見た毅の後輩が
「お二人、ラブラブですね」
と茶化した。
「ちょっと~やめてくださいよ!」
彩乃が顔を赤くしながら言った。
彼女は恋愛には奥手な方だ。
「…まぁ、とにかく、助かったよ!ありがとう」
毅が言うと、彩乃もほほ笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
”姿”を消した男が、帰路についた彩乃の後ろから
静かに歩いていた。
その手には謎の光る物体がある。
ーーーそう、悪の魂だ。
ジョーは目を細めた。
悪の魂も、取り出した元々の人間によって
少しずつ性質が違う。
勿論、死人の魂だから、もう意識はないし、
誰かを操ったりできるわけでもない。
だが、生きている人間の体に入った魂は
次第に溶けていき、その宿主と同化する。
そして、心弱い人間はーその魂の影響を受け、
変貌してしまうのだ。
人によって悪の部分は異なる。
この前、西原愛華に投げ入れた魂は
交通事故で死んだ暴走族の魂だった。
だから、その魂にあった”暴走”の部分が
愛華と同化し、今ではすっかり彼女は不良少女になってしまっている。
「今回はー」
ジョーは呟いた。
病気で死んだ男好きの浮気女の魂ー
浮気女の悪の魂をこの清楚で奥手な
藤森綾乃に投げ入れたらどうなるのだろう?
彼女の清楚な部分が勝つのだろうかー
それともーーーー
ジョーは唇をゆがめて笑うと、
目の前に居る彩乃に悪の魂を投げ入れた
「うっ…… え?」
彩乃が振り返る
「あれ?今、何かぶつかったような…」
彩乃が不思議そうに背後を見ているが、
そこには誰の姿も無い。
ーーー否、
姿を消したジョーが立っているが彼女には目視できない。
「気のせいかな…」
そう呟いてほほ笑むと、彼女は家に向かって歩きはじめた。
彩乃はまだ知らなかった。
これから自分に起きる”変化”をーーー
⑤へ続く
コメント