憑依小説 ”悪の魂” ⑩ <奥本麻理 編>

悪の魂に侵食され行く妹の麻里ー。

見かねたジョーは妹に”悪の魂”について打ち明け、
なんとか悪に染まりきるのを阻止しようとする…。

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ジョーは妹の家に合鍵でお邪魔した。

いや、不法侵入というべきか。。

ジョーは妹の家の冷蔵庫を開けた。

料理好きの彼女の冷蔵庫はーー
いつもきれいだった。

だがーーもうその面影はない。
冷蔵庫の中は散乱し、レトルト系のものが
適当に放り投げられていた。

悪の魂が
彼女を変えてしまったのだー。

ジョーは神妙な面持ちで妹の帰りを待った。

”悪の魂”の事を妹に告げるー。
そして、共に悪の魂と戦うー。

それが、ジョーにとって大切な妹を救い出す、
最後の希望だった。

ガタッ!

乱暴な音を立てて、玄関が開いた

ーーー妹の麻理だった。

「ホラ!悪いと思ってんなら見せてよ!」
麻理が怒りっぽい口調で誰かに言っている。

ジョーは、入ってきた人物を見て
目を見開いた。

ーー麻理が彼氏の高沢を引きずるようにして
連れてきていた

「お、、俺が何をしたってんだよ!」
高沢の顔には打撲がある。
麻理がやったのだろうかーー。

麻理がふと、ジョーの方を見た。

「あら、お兄ちゃん!
 どうしたの急にィ?」

いつも通り明るい麻理。
だが、その口ぶりはどこかおかしい。

「ウフフ…見ててねお兄ちゃん!
 あたしを裏切った、コイツに
 今から目にモノ見せてやるから!

 睦美と浮気なんかしちゃって…
 ゼッタイ許せない」

そう言うと、麻理は彼氏を睨みつけた。

彼氏には睦美という女友達がいた。
やましい関係にはない。
そして、麻理も、それを快く承諾していた。

しかし、悪の魂は麻理のそんな優しい心をも変えてしまった。

疑心暗鬼になり、
嫉妬心が極限まで増幅され、
憎しみと憎悪が、彼女の中にあふれた。

最初は、麻理も自分で自分を抑えていた。
しかし、彼女に放り込まれた悪の魂は、
ささやく。

”我慢するのをやめろー”

”憎め” ”恨め” ーーと。

「俺は浮気なんかしてなーーーぐあっ!」

反論した彼氏の高沢を麻理が
ハイヒールで思いっきり踏みつけた。

そのまま力を入れて踏みにじる。

「ウフフ…
 あたしを何だと思ってるの~?
 
 今までずぅっと我慢してきた。

 ずーっと、ずーっと!

 あたしはテメェの道具じゃねぇんだよ!」

そう言うと、麻理がハイヒールで彼氏の
顔面を蹴りつけた。

そしてしゃがんで髪をつかむ。

「ねぇ、、アンタはもうあたしだけのもの。
 いい?

 これからは何でも言うことを聞くの。

 いい?返事は!」

髪を引っ張りながら怒鳴りつける麻理。

彼氏の高沢はハイヒールで蹴られて血を
流している

「ま…麻理…どうしたんだよ…
 何があったんだよ」

高沢がもうろうとした目で
尋ねる。

しかし、麻理は狂ったように笑い出した

「あんたのせいよー。

 あたしねー
 何もかも面倒くさくなっちゃったの!

 あはは!
 真面目にやってるのが馬鹿みたい!

 介護の勉強もやめてやったわ!
 自分じゃ何もできないくせにあいつら
 人ばっか頼って!
 超むかつく!」

そう言うと、麻理は乱暴に、冷蔵庫を開けると
不機嫌そうにペットボトルのお茶を飲み
そのままペットボトルを彼氏の方にぶん投げた

「なんだよ!その目!」

ジョーは唖然として妹の姿を見ていたーー

こんなのーー麻理じゃないとーー

彼女は天使のような存在だった。
悪の魂にも打ち勝てると信じていたーー

なのに
これでは

今までの99人と同じだ。

「---麻理!」

ジョーは叫んだ。
すると、妹の麻理が振り返る。

その表情はーー
麻理のものとは思えなかった。

化粧が濃くなり、
メイクもきつくなっている。

そして何より、優しそうな笑みが無くなっていた。

「--お兄ちゃん?なぁに?」
その声は不気味に優しく響く。

「麻理、、聞いてくれ!
 俺は、、、俺はーーー」

ジョーは普段の冷静な振る舞いを全て捨てて
必死に麻理に全てを話した

”自分の力のこと”

”悪の魂を麻理本人にも放り込んだこと”

”今までの99人がどうなったか”

ーージョーは思った。
これで自分が逮捕されても構わない。

麻理がもとに戻ってくれるのであればー
自分はどうなっても。

全てを告げると、麻理は
涙を流し始めた。

「…ふざけないでよ…」
その涙はーー
以前の優しい彼女のモノに見えた。

「---もう遅いよ!
 私…もう、私じゃなくなってる。。
 心の奥底から黒い感情があふれ出て来るの…

 どうしてくれんのよ!!!

 ねぇ!お兄ちゃん!

 私、、、あたしはーーー

 うあああああ!」

麻理が頭を抱えてうずくまる。

唖然とする彼氏の高沢をよそに、
ジョーは妹に駆け寄った。

「お兄ちゃん!嫌だ!
 私が私で無くなっちゃう!

 今も、、今も、、、 
 すっごいイライラしてる!
 お兄ちゃんをボコボコにしたい!

 でも、、、でも…嫌だ!」

ジョーは泣きじゃくる妹を必死に
抱きかかえた。

彼氏の高沢は混乱しながらも
彼女の麻理に駆け寄った。

「……おい!麻理!
 しっかりしろ!」

彼氏の高沢も、兄のジョーも必死に妹を
励ました。

だが…

「あ~~~~もう!
 鬱陶しい!よるな!」

麻理が突然暴れ出し、二人は
突き飛ばされた。

「悪の魂だか何だか知らないけど、
 も~どうでもいい!

 あたしは好きなように生きる!
 気に入らないヤツはボコボコにして、
 好きな男とい~~っぱい遊んでぇ!

 あはははは!
 
 今までのことがバカみたい!」

麻理の表情にもう迷いや怯えは
無かった。

悪の魂の浸食がより進んでしまったのだろうかーー。

「うぜぇんだよ!」
そう言うと、麻理が再び彼氏に暴行を始めた。

「やめてくれ!麻理!
 やめろ!
 悪の魂なんかに負けるな!」

ジョーは叫んだ。
自分で悪の魂を妹に投げておきながら
なんて勝手な事を叫んでるんだろうーーー

そう思いながらーー

「そうだ!あたしね!
 この前、近所の金髪男誘って
 ホテル行ったの!

 超気持ちよかったよ!
 ウフフ…あんたも今度行く?」

馬鹿にしたように彼氏に言う。

そんな麻理を彼氏は睨みつけた。

すると麻理が
低い声で言った

「--何よその目」

そして麻理は乱暴にキッチンにあった
包丁を取り出した。

「あたしを馬鹿にするな!」
乱れきった鬼の形相で、麻理は
彼氏に包丁を向けた。

「---頼む!
 やめてくれーーーーーーーーー!」

ジョーは目をつぶり、叫んだ。

全ての感情を込めて。

ーーーー数秒が経過した。

ジョーが目を開くと、
そこにはーーーー

自らに包丁を刺して倒れている

なんだ…この光景は…
ジョーは現実が受け入れられず、体を震わせた。

彼氏の高沢は怯えきった表情で
玄関から飛び出して行った。

一人残されたジョーは涙を流す

「---麻理ーー」

麻理が目を開いた。

その表情は穏やかだった。

「----お兄ちゃん…」

「わたし、、勝ったよ……・
 悪に………」

そう言うと、麻理は涙を流して
そのまま眠るように動かなくなった

「うっ…
 うっ…
 おおおおおおおおおおおおお!」

ジョーはその場にうずくまり大声をあげた。

妹はーー
最後の最後に悪の魂に打ち勝った。

これ以上、自分が変わっていくことに
耐えられなかった麻理は
自分の意思で自分の命を奪ったのだった。

「おおおおおおおぉぉ……」

なおもジョーはその場で泣きじゃくる。

しかし…

「うっ…く、、く、、、ふひひ…」

ジョーは笑い出した

「ふ、、ふ、、ふはははははははは!」

狂ったような笑みを浮かべてジョーは顔をあげた。

妹の”死体”に手をかざす。

そして、妹の体から”光”が飛び出てきた。

そう、、妹・麻理の”悪の魂”だ。

その光を見ながらジョーは言う。

「悪の魂には、、麻理でも勝てなかった。。。

 じゃあ…
 麻理の悪の魂をーーー
 誰かに投げ込めば、きっと麻理は戻ってくるーー
 ヒヒ…」

ジョーは正気を失っていた。

悪の魂に生前の人間の人格はない。
ただ、その人間の負の部分だけが残っている
いわば”ぬけがら”

しかし、ジョーは既に狂ってしまっていた。

妹に似ている女子大生を探し、
妹の悪の魂を放り込みー。

妹を復活させるーーー。

狂気の考えに囚われていた。

「麻理~
 今、新しい体、用意してあげるからねぇ~」

ジョーは狂ったような笑みを浮かべて
妹の悪の魂を優しくなでた。

そしてーー

「コイツで良いかぁ…」

ジョーが悪の魂のターゲットを定めるために
集めていた写真の中から、
一人の女子大生の写真を取り出した。

ーー中島 静恵(なかじま しずえ)

その外見はーー
妹より少し活発そうだがーー
妹によく似ていた。

”狂気”に染まったジョーがその写真を手に笑みを浮かべる。

そしてーー
呟いた

「新しいからだーー
 見つけたよ~~~~麻理~~」

そこに、冷静なジョーの姿はもう無かった。

<奥本真理編 完>
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コメント

暴走してしまいました…
どうなってしまうのでしょう(汗

書いてる本人にもわからなくなって(笑)

明日からは”ムスメの身代金”を書いていきます~(新作)

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憑依<”悪の魂”>

コメント

  1. 長文失礼 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    自分は実は、憑依の恐ろしさにも注意しながら読んだりしてるんですが、今回改めて思いました。
    もしかしたら憑依で楽しんでる奴らも結局の所、憑依の「チカラ」に弄ばれてるだけなのかなと。
    しっかし考えれば考えるほど憑依が最強だと感じてきました。そして…憑依の力に溺れるかもと思いつつ、相変わらず手に入れたいなあと強く思ったり。
    色々ながコメすいません。結局自分は終始憑依に魅了されちゃってます。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 自分は実は、憑依の恐ろしさにも注意しながら読んだりしてるんですが、今回改めて思いました。
    > もしかしたら憑依で楽しんでる奴らも結局の所、憑依の「チカラ」に弄ばれてるだけなのかなと。
    > しっかし考えれば考えるほど憑依が最強だと感じてきました。そして…憑依の力に溺れるかもと思いつつ、相変わらず手に入れたいなあと強く思ったり。
    > 色々ながコメすいません。結局自分は終始憑依に魅了されちゃってます。

    憑依の力を手に入れてその力に溺れる…
    ありがちなことですよね…!
    小説でも何度かそんな展開のものを書いてます!