ついに姿を現したオーン大首領。
大首領の口から、全てが語られるー。
道生は、最後の戦いに挑む。
オーンから世界を救うため、
そして、大切なものを守るためー。
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人の気配のない遊園地が、
色とりどりの光を放つー。
その光が、3人を照らす。
道生は、唖然とした表情で、アリサを見つめていた。
彼女こそが、オーン大首領だったなんて・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〇倉本 道生 (覆面ライダー)
覆面ライダーとして戦い続ける高校生。
〇中橋 香奈
道生の彼女だった女子高生。半年前にオーンの幹部に憑依されてしまう。
〇アリサ
道生に覆面ライダーの力を授けた謎の女性。自称・女子大生
〇高杉 麗香
道生のクラスメイト。
〇オーン大首領
謎の組織・オーンを率いる謎の人物。その素性は不明。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「君が…オーンの大首領…?」
道生は唖然とした表情で言う。
アリサは光の中、歩きながら答えた。
「そう。あの家から、わたしは
あなたに”アリサ”として、アドバイスを送り、
”オーン大首領”として、配下に指令を送っていた」
アリサは道生の方を見て笑う。
「--覆面ライダーのその力も、
私がオーンの情報を手に入れることができたのも、
全てはわたしがオーン大首領だから…!」
香奈が、恐怖に満ちた表情で、アリサの方を見る。
「ーーもちろん、この身体は人間のものよ」
アリサは自分の胸に手を当てながら笑う。
「でもね、わたしがこの女に憑依したのは1年前ー。
我々オーンがこの世界にやってきたとき。」
道生はその言葉を聞いて思う。
アリサと出会ったのは半年前。
ならば既に、アリサは大首領に憑依されていたことになる。
「雪城 愛梨沙…(ゆきしろ ありさ)」
アリサはそう言うと、立ち止まった。
「--それが、この女の本名ね。
姉妹揃って、我々オーンに利用された悲しい姉妹…
ふふふ、どう?興奮しない?」
アリサが歪んだ笑みを浮かべながら笑った。
「--な、ならどうして、どうして俺に協力を…?」
道生が叫ぶと、アリサは笑いながら、
腕のリングを構えた。
そして、道生が持っていた、覆面ライダーへの
変身に使う端末から、エネルギーを吸収し始めた。
「どうしてあなたに協力していたかって?
くくく…
この時のためよ!」
エネルギーの吸収を終えると、
アリサは、指を鳴らした。
すると、遊園地の中央広場が開き、地下から
謎の動力装置のようなものが、出現した。
不気味な動力音を響かせる大型の装置。
観覧車の半分ぐらいのサイズがあるー。
「--わたしたちが、人間に憑依して騒ぎを起こして
少しずつ、人間を抹殺していく。
別にそれでも良かった。」
アリサは髪をなびかせながら、装置の方を見る。
「でも、それじゃ、時間がかかり過ぎる。
だから、わたしは一気に人間を抹殺することにしたの。
この装置はそのためのもの。
膨大なエネルギーを集めて、それを一気に解き放つことによって
地上の人間を全て抹殺することのできる装置。
遊園地の運営者にオーンの技術者を憑依させて
この1年間で作らせたの」
アリサが振り向く。
その表情は、道生をサポートしていた時とは違い、
狂気に染まっていた。
「--そして、この装置を起動するためのエネルギーを
あなたに集めてもらった。
人間の憎しみと怒りは、莫大なエネルギーになる。
あなたと、わたしたちオーンを戦わせて、
あなたに、怒りと憎しみのエネルギーを溜めてもらう。」
アリサの言葉に、
道生は、光を失った端末を見つめる。
「--気づかなかった?
あなたにその力を授けたとき、端末の光は緑だった。
それが黄色、オレンジ、赤…
そして最後に真紅…どんどん色が変わっていたことに」
アリサはさらに続けた。
「あなたにその力を授ける前にも、
3人に、覆面ライダーの力を授けたわ。
でも、どいつも使えなかった。
一人目は下級オーンに殺された。ただの雑魚だったわけね。
二人目は、強すぎる自分の力に悩んで自殺した。
三人目は、オーンにびびって逃げ出して消息不明よ。
あなたは、4人目の覆面ライダー。
ここまで頑張ってくれるなんて、見事だったわよ…。
おかげで、この装置を起動させることができる」
アリサはそう言い終えると、
装置の、中央部に向かって歩き出した。
中央には不気味な光の渦みたいなものが
出来上がっている。
「--待ってくれ!今までの話は、全部ウソだったのか!」
道生が背中を向けたアリサに叫ぶ。
アリサの笑顔ー、
アリサの悲しそうな顔、
それらがすべて演技だったとは思えないー。
「--ふふふ、あんたが間抜けだっただけよ」
道生は、信じていたアリサに裏切られて
心を抉られるような思いを抱きながら、
さらに問いかけた。
「--どうしてだ…!どうしてオーンは
俺たち人間を…!」
道生が叫ぶ。
アリサがふいに、輝く観覧車の方を見つめた。
「---わたしたちの世界は、
電子の世界…。
わたしたちオーンは、あなたたちとは違って
気体のような存在。
個の名前も無ければ、男女の区別もない。
定められた人格もない…。
けれど、わたしたちは、わたしたちなりに
一生懸命、そして幸せに生きていた。
あなたたちからは理解できない世界でしょうけれど」
アリサがなびく髪を抑えながら言う。
オーンは、人間と違い”個”というものが希薄な存在。
それゆえに、人間に憑依すれば、その影響を大きく受けることになる。
「--だったら何故、俺たちの世界を侵略するんだ!」
道生が叫ぶと、
アリサが突然怒鳴り声をあげた
「先に侵略したのは、お前たちの方でしょ!」
アリサの目には怒りがにじみ出ている。
「--何だって…?」
道生が言う。
香奈も不安そうな表情で、アリサを見つめている。
アリサは悲しそうにつぶやいた。
「あなたたちに悪気がないのは分かってる…
でもね…」
アリサがポケットから何かを取り出した。
それは、スマートフォンだった。
「--あなたたちが使う、この端末…
そこから発される電波が、別次元に存在する
わたしたちの世界に干渉した」
アリサがスマホを憎しみの目で見つめながら言う。
「--あなたたちの世界で飛び交う電波は、
わたしたちオーンの世界を浸食した。
次第に、わたしたちの電子世界は乱れ、
歪み、時空の渦が世界の各地に発生した。
その異常事態の原因が、
このスマートフォンの発する電波。
あなたたちの世界の、電波。」
アリサが道生の方を見つめながら言った。
「何だって…そんなことは…」
道生は思う。
スマホの電波が別次元の世界を壊す?
そんなことが…
「”あなたたちの常識”では、あり得ないと
思うでしょうね。
でもね、これは事実。
わたしたちの世界は、実際に、あなたたちの世界の
電波の干渉を受けて、滅びに向かっている。」
アリサはそこまで言うと、香奈の方を見つめた。
「--我々オーンには、男女の区別とか
そういうのはないの。
でも、わたしにも、大切な存在はいたー
なんていうのかな…
人間に理解してもらうのは難しいでしょうけど、
分かりやすく言えば、
あなたにとって、香奈のような存在がー、
わたしにも居た」
アリサは観覧車の方を見つめながら、
少し涙声になって呟く。
「--もう、わたしの大切な存在は
時空の渦に飲み込まれて消えてしまったから」
アリサは、そこまで言うと、
道生の方を敵意のまなざしで見つめた。
「だからわたしは決めたの!
別次元であるこの世界に来て、
人間を滅ぼすって!
わたしたちの世界を、守るために!」
道生は、首を振った。
「…わかった、君の世界が大変なことはわかったよ…
でも、でもだったら何で、こんなことするんだ!
話し合って解決できれば…」
道生がそこまで言うと、アリサは失笑した。
「--バカじゃないの?
話し合いで解決?
アンタ、やっぱ餓鬼ね」
アリサが敵意をむき出しにして言う。
「--いきなり別次元からやってきたわたしたちが
”あなたたちのスマホの電波がわたしの世界を浸食しています”
なんて言って、あんたたちは、話し合いに応じるの?」
アリサの言葉に道生は「それは…」と黙り込んでしまう。
「ーー応じないよね??何もしないよね???
そもそも、わたしたちのことなんて、信じないよね???」
アリサが感情的になって叫ぶ。
「--所詮、あんたらは自分のことだけ。
力で制圧しなければ、わたしたちは、このまま滅び去る」
香奈は悲しそうにアリサの方を見つめた。
世の中は綺麗ごとじゃ、解決できない。
オーンと人間の共存もまたーー。
「--でも、、でも、何とか方法が…!俺が…!」
道生が言うと、アリサはさらに笑った。
「だから何ができるのよ!?
いつまでも夢追ってんじゃないわよ!」
「--それでも、、それでも俺は!
何もできないけど、何もできないかも知れないけど、
でも、俺は…!」
確かに、道生にできることなんてない。
”オーンの世界を救うため、スマホの使用を”なんて
言っても、笑われるだけだ
「--馬鹿なヤツ…。
わたしたちが、あんたたちに何をしてきたか、知ってるでしょ?
あんたもわたしたちのことを憎んでるはず。
多くの人間の命を奪ったし、そこの香奈ちゃんのことも
利用した」
アリサが不気味に微笑む。
しかし、道生は叫んだ。
「あぁ、確かにオーンは憎い!
でも、俺は知ってる!
半年間、一緒にやってきたからこそ分かる!
君は、オーンの大首領だとしても、
本当は優しいって!」
その言葉に、アリサが表情を歪める。
「--だってさ…
他のオーンたちのことは分からないけど、
君は…君は、
”自分の目の届く範囲に居た人間”は 誰一人殺していない!」
道生は、これまでのことを思い出す。
他のオーンたちは確かに、人の命を奪っている。
けれど、アリサはー。
憑依された女性警官に襲撃されたときもそうだった。
憑依から解放された女性警官を、殺そうと思えば殺せたはずなのに、
アリサは近くの病院まで、その婦警を運び、
今、その女性警官は現場に復帰している。
そして、ユーチューバーのマドカが憑依されていた間に
起こした炎上騒動を、裏から手をまわして、沈静化させたことも
道生は知っている。
「---…」
アリサは道生から目を逸らした。
大首領は、別世界からオーンを引き連れて
この世界にやってきた。
しかし、最初から
”エネルギー収集のために、覆面ライダーと戦わるための
捨て駒”
計画のためとは言え、仲間を犠牲にすることに対して、
大首領は強く心を痛めていた。
しかし、人間を滅ぼさねば、自分たちが滅ぶ。
そこで、大首領はオーンの世界での、
”人間界で言う犯罪者”をこの世界に連れてきた。
”侵略”を名目に、メンバーを集めたところ、
すぐに多くのオーンが名乗りをあげた。
大首領以外の、この世界にやってきたオーンは、
オーンたちの世界では”犯罪者”のような扱いのオーンたちだった。
「俺は知ってる!君は本当は優しいって!」
道生がさらに叫ぶ。
「--黙りなさい」
アリサが鋭い目付きで言う。
大首領は、直接人間の命を奪うことは一度もしていない。
配下のオーン達が暴走したのは誤算だった。
けれど、大首領は、決して人の命を奪わなかった。
もちろん、最後には人間は滅ぼさなければならない。
だが、せめてー。
”楽に消してやろう”と、大首領はそう考えていた。
この特殊装置に溜めたエネルギーを放てば
人間は”一瞬”で消滅するー。
苦しみも、
悲しみもなく。
”少しずつ奪われていく苦しみ”は
自分が一番よく知っているからー。
「オーン大首領!
俺にとって、俺にとって、君は、
君はアリサなんだ!」
道生の叫びを聞きながら
アリサは、吐き捨てるようにして言った。
「--黙れと言ってるだろうが!」
アリサの声に、道生は悲しそうな表情をする。
「さぁ、エネルギーは満ちたわよ」
アリサが、巨大装置の方を見つめて、言う。
巨大装置の中心部の光の渦の部分に、
アリサが向かう。
「--やめろ!アリサ!やめてくれ!」
道生が叫ぶ。
「--ねぇ、やめてよ!」
香奈が横から叫ぶ。
「---やめない。」
アリサは不気味にほほ笑んだ。
「わたしは、もう決めた」
冷徹な声。
「--くっそぉぉぉ!」
道生は、アリサの方に向かって突進した。
しかし、
アリサは道生の腕を掴み、腕を力強くねじる。
「--わたしに勝てると思ってるの?」
アリサが邪悪な目付きで、道生を睨む。
道生は、アリサの恐るべき力に、
もの凄い勢いで吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
「道生!」
香奈が叫ぶ。
香奈は、憑依されていた際に使っていた
サーベルを手にして、アリサの方に向かう。
「香奈!」
道生が叫んだ。
香奈は、オーンと一緒だったときの
感覚を覚えていた。
サーベルを手に、アリサに攻撃を加えようとする香奈。
しかしー
指一本でアリサにサーベルを止められてしまう。
恐怖を浮かべる香奈に、
顔を近づけてアリサは言った。
「--本当に、嫉妬しちゃう」
アリサが憎しみを込めて言う。
そして、
香奈に”何か”を耳打ちした。
「---!!」
香奈が驚いてアリサの方を見る。
次の瞬間、アリサは微笑んで、
香奈を遠くにはじき飛ばした。
「--やめろ・・・やめてくれ!」
道生がボロボロになりながら立ち上がる。
アリサは腕を組みながら
見下すようにして、道生を見つめているー。
「---俺は、俺は、この世界を守りたいんだ!
そして、君たちの世界も守りたい!」
アリサに向かって走る道生
「-だからっ…そんなきれいごと、
無理だって言ってるでしょ!」
アリサが向かってきた道生の拳を受け止めた。
そしてー
道生に耳打ちをした。
「--”香奈ちゃんを、大事にしなさいー”」と。
「---!?」
道生は驚いて、アリサの方を見ると、
アリサは、この半年間のように、
優しく微笑んだ。
そして、道生に強烈な蹴りを喰らわせて
道生を吹き飛ばした。
「--」
装置の方を見るアリサ。
「--全部、わたしの思い通り」
道生たちに聞こえるように、アリサは言った。
「---でも!
一つだけ”誤算があった”」
アリサの言葉に、道生と香奈は不思議そうに
アリサの方を見る。
「--刑務所から抜け出す前に、あなたに
わたしが教えたこと、覚えてる?」
アリサは、道生たちの方を見て、言う。
「---」
道生は思い出すー。
”オーンは、憑依している女性の影響を少しずつ
受けていくみたいなの。
憑依している時間が、長ければ長いほど。
もしかしたら、この特性が、攻略の鍵になるかも”
「---最初は、あなたたちを滅ぼすつもりだった。
けどー、
わたしは、この女の影響を受けちゃったみたい…」
アリサは自虐的にほほ笑んだ。
「この女、とっても優しいの…
おかげで、わたしも、、あなたたちのこと、
滅ぼすなんて…できなくなっちゃった」
アリサが道生に微笑みかける。
「…じゃ、、じゃあ、なんで」
道生が装置の方を見ながら言う。
「--この装置に溜めたエネルギーは
色々なことに使えるの」
アリサはそう言いながら装置の方を見た。
「---そう、わたしたちオーンが
”元の世界に戻るために”
エネルギーを使うことも」
アリサ=大首領の目的は、
最初は装置に貯めたエネルギーで人間を消滅
させることだった。
しかし、いつしか、愛梨沙の影響を受けた
大首領は、考えを変えたー。
オーンたちは、この世界に”一方通行の次元の裂け目”を
通ってやってきた。
それ故、帰る手段がない。
しかしー、この装置のエネルギーを使えば
自分たちの世界に帰ることができる。
アリサは、半年前、道生に出会ったころには既に、
目的を変えていた。
「--今日で我々は、あなたたちの世界から消える。」
アリサが悲しそうに微笑んだ。
「…え…で、、、でも…
それじゃあ、君たちの世界は!」
道生が叫ぶと
アリサは優しく微笑んだ。
「--なんとかするわ」
その表情には”諦め”の色も見えた。
「--だ、ダメだ!そんなんじゃ!
きれいごとかもしれないけど、俺は…!」
道生がそこまで言うと、
アリサが悪戯っぽく微笑んだ。
「俺たちの生きる道は、俺たちが決めるーーーでしょ?」
道生の決め台詞を口にして、アリサは笑う。
「--私たちオーンの生きる道も、わたしたちが決める…。
あなたの気にすることじゃない」
アリサはそこまで言うと、
装置のエネルギーを起動させた。
激しい光と振動が周囲を襲う。
それと同時に、各地で女性に憑依していたオーンたちが、
装置に吸収されていく。
「ーーーー道生くん」
アリサが背を向けながら言う。
「---半年間、楽しかったわ。
……ありがとう」
アリサは、いつものような、穏やかな声で言った。
「---…」
道生は、どうしていいか分からなくなった。
憎むべきオーンの大首領であり、
自分を助け、導いてくれた恩人でもあるアリサ。
けれど、道生は叫んだ。
「--君が何者であろうとも、
俺にとって君はアリサだ!
半年間、君のおかげで戦ってこれた!
だから今度は、俺が君に恩返しをするー!
君たちの世界をー」
道生がそこまで叫ぶと、
装置に、大首領以外の全てのオーンが取り込まれた。
「---お別れよ」
アリサはそこまで言うと、
装置の方を向いて、呟いた。
「--どこまでも、めでたいヤツ…
でも…あんたみたいな人間も…いるのね」
アリサは、光に包まれながら、
静かに微笑んだ。
そしてー、
アリサから、セピア色のような気体ー、
オーン大首領の本体が飛び出し、
そのまま装置の放つ光に飲み込まれた。
「----!!」
光が消えた時ー、
そこに、もう装置は無かった。
倒れているアリサー、
大首領から解放された
雪城 愛梨沙の身体が横たわっているだけだった…。
この日、全国に散らばっていたオーンは
一体残らず消滅した。
人類を滅ぼすためにやってきたオーン大首領は、
憑依したアリサを通じて、優しさを知り、
半年前から、目的を変えていた。
それは誤算だったのか。それともー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
クリスマス当日。
道生は、病院を訪れた。
「--メリークリスマス」
道生が笑いながら、病室に居る彼女、香奈に話しかけた。
香奈は半年間も憑依されていてたため、
身体の精密検査を行うため、入院することになっていた。
「-来週には、退院できるって」
香奈がほほ笑む。
「---ごめんね。道生に色々迷惑かけたよね。
それに、みんなにも…」
香奈が悲しそうに、呟く。
「--大丈夫だよ。俺は迷惑なんて
全然思ってないから」
道生が、ベット横のイスに腰掛けると、
香奈の方を見て言った。
「おかえりー。戻ってきてくれてよかった」
道生が言うと、
香奈がほほ笑んで
「ただいま。長いお出かけしちゃってごめんね」と笑う。
「それにしてもー」
香奈が病室を見回しながら微笑んだ。
「--私たちの初クリスマスが、病院の中なんて…ネ」
微笑む香奈に、道生も
「本当だよ、びっくりだよ!」と笑いながら返事をしたー。
香奈は窓の外を見つめる。
最後に”アリサ”に耳打ちされた言葉を思い出す。
”道生は、本当にあなたの事を想ってるー。
だから、あなたは無茶しちゃダメ。
自分を大切にしなさい”
とー。
そして、アリサは香奈を突き飛ばす直前に言った。
”ちょっとだけー、羨ましいな、あなたが”と。
香奈は、窓の方を見て、少しだけ微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
政府はー
オーンについての全てを発表した。
今までのいきさつ、そして、政府が動けなかった理由ー。
その責任をとり、現政権は解散するのだと言うー。
道生は、病院から出ると、
終業式に出席するために学校に向かった。
「--おはよう」
クラスメイトの麗香が道生を見つけて挨拶をする。
「-あ、おはよう」
道生も笑みを浮かべて挨拶を返した。
麗香も、オーンに憑依されたことがある子の一人だ。
「あのー」
麗香が背後から道生を呼ぶ。
「---あの、覆面の戦士って…倉本くん、なんだよね?」
麗香の言葉に、道生は首を振った。
「はは…俺、そんな勇敢に見える?
俺はただの高校生だよ?」
道生は、笑いながらそう言った。
そう、ヒーローの正体を知る必要なんてない。
覆面ライダーは覆面ライダー、
自分は自分。それでいい。
麗香は微笑みながら「そっか」と答えたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夕方、
道生はとある墓を訪れた。
クラスメイトの小田原 良治。
道生や麗香を助けて、オーンの大幹部の手
かかってしまった。
「ごめんな」
道生は、寂しそうにつぶやいた。
どうしてやることもできないー。
どんなに後悔しても、
彼はもう、戻ってこない。
オーンのしたことは許せない。
けれど、オーンの世界が、人間の何気ない行動に
よって、相当な打撃を受けているのも事実。
道生は、複雑な心境で居たー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
休日。
道生は、とある家を訪れた。
大首領に憑依されていた雪城 愛梨沙の家。
「--あ、どうぞ」
愛梨沙は優しく微笑んだ。
アリサ、だったころの凛とした雰囲気ではなく、
心優しそうな、穏やかな雰囲気だった。
オーンが消えて以降、
道生は、愛梨沙のもとを時々訪れている。
大首領によって改造された彼女の家の片づけなどを
手伝うためだ。
なんとなく、事件の当事者として、
手伝わなければいけない気がした。
道生が、アリサに生活感を感じなかったのは、
彼女が、オーンの大首領だったからだろう。
「--1年前、妹は、突然バスジャックを起こして
最後には事故を起こして死にました」
愛梨沙は悲しそうに言う。
「その葬式の最中に、わたしも、突然気が遠くなって…
気が付いたら、この前の遊園地で…」
愛梨沙は、”1年も好き勝手されていたんですね”と
悲しそうに微笑んだ。
アリサとは半年間、協力関係にあった。
けれどー
同じ見た目でも、中身は全くの別人だった。
「--愛梨沙さん」
道生が言うと、愛梨沙は首を振った。
「別に、アリサでも大丈夫ですよ。
ずっと、そう呼んできたんでしょ?」
愛梨沙が悪戯っぽく微笑んだ。
「--あ、いえ、ほら、俺高校生ですし、
愛梨沙さん大学生ですから」
道生がそう言うと、愛梨沙は「そうですね」と
照れくさそうに微笑んだ。
「--……」
片づけの手を止めると、
愛梨沙は、道生の方を見た。
「--あの、良ければ聞かせてくれませんか?
あなたと出会ったわたしが、半年間、
どんなことをしていたのか」
愛梨沙に尋ねられて、
道生は、自分とアリサの半年間の戦いを
静かに語り出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日。
道生は、政府の関係者と会う約束を
こぎつけた。
オーン大首領であったアリサ、
そして覆面ライダー。
そのことを知る政府関係者が内密に
接触を試みてきたのだ。
「--」
道生は、スマホの電波に関する話をするつもりだった。
スマホの使用をやめることはできない。
でもー、
もしも、もしも電波を少しでも変えることができれば。
道生は、この2週間、必死に電波について勉強し、
一つのとある可能性を見出した。
それで、オーンの世界への影響が無くなるかは分からない。
「だから何ができるのよ!?
いつまでも夢追ってんじゃないわよ!」
大首領=アリサに言われた言葉を思い出す。
「--それでも、俺は夢を追うよ。
きみの言うとおり、俺はバカだから」
そう言うと、手にした資料を手に、
政府関係者の待つ場所へと歩き始めた。
「例え笑われても、
俺の生きる道は、俺が決めるー」
道生は、自分の信じた道を、これからも歩き続けるー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
覆面ライダー完結しました!
最終回は、説明が長くてごめんなさい!!
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
コメント