<憑依>覆面ライダー⑦~愛の果てに~(完)

ついに姿を現したオーン大首領。

大首領の口から、全てが語られるー。
道生は、最後の戦いに挑む。

オーンから世界を救うため、
そして、大切なものを守るためー。

-------------------------

人の気配のない遊園地が、
色とりどりの光を放つー。

その光が、3人を照らす。

道生は、唖然とした表情で、アリサを見つめていた。
彼女こそが、オーン大首領だったなんて・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

〇倉本 道生 (覆面ライダー)
覆面ライダーとして戦い続ける高校生。

〇中橋 香奈
道生の彼女だった女子高生。半年前にオーンの幹部に憑依されてしまう。

〇アリサ
道生に覆面ライダーの力を授けた謎の女性。自称・女子大生

〇高杉 麗香
道生のクラスメイト。

〇オーン大首領
謎の組織・オーンを率いる謎の人物。その素性は不明。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「君が…オーンの大首領…?」
道生は唖然とした表情で言う。

アリサは光の中、歩きながら答えた。

「そう。あの家から、わたしは
 あなたに”アリサ”として、アドバイスを送り、
 ”オーン大首領”として、配下に指令を送っていた」

アリサは道生の方を見て笑う。

「--覆面ライダーのその力も、
 私がオーンの情報を手に入れることができたのも、
 全てはわたしがオーン大首領だから…!」

香奈が、恐怖に満ちた表情で、アリサの方を見る。

「ーーもちろん、この身体は人間のものよ」
アリサは自分の胸に手を当てながら笑う。

「でもね、わたしがこの女に憑依したのは1年前ー。
 我々オーンがこの世界にやってきたとき。」

道生はその言葉を聞いて思う。
アリサと出会ったのは半年前。
ならば既に、アリサは大首領に憑依されていたことになる。

「雪城 愛梨沙…(ゆきしろ ありさ)」
アリサはそう言うと、立ち止まった。

「--それが、この女の本名ね。
 姉妹揃って、我々オーンに利用された悲しい姉妹…
 ふふふ、どう?興奮しない?」

アリサが歪んだ笑みを浮かべながら笑った。

「--な、ならどうして、どうして俺に協力を…?」
道生が叫ぶと、アリサは笑いながら、
腕のリングを構えた。

そして、道生が持っていた、覆面ライダーへの
変身に使う端末から、エネルギーを吸収し始めた。

「どうしてあなたに協力していたかって?
 くくく…
 この時のためよ!」

エネルギーの吸収を終えると、
アリサは、指を鳴らした。

すると、遊園地の中央広場が開き、地下から
謎の動力装置のようなものが、出現した。

不気味な動力音を響かせる大型の装置。
観覧車の半分ぐらいのサイズがあるー。

「--わたしたちが、人間に憑依して騒ぎを起こして
 少しずつ、人間を抹殺していく。
 別にそれでも良かった。」

アリサは髪をなびかせながら、装置の方を見る。

「でも、それじゃ、時間がかかり過ぎる。
 だから、わたしは一気に人間を抹殺することにしたの。

 この装置はそのためのもの。
 膨大なエネルギーを集めて、それを一気に解き放つことによって
 地上の人間を全て抹殺することのできる装置。

 遊園地の運営者にオーンの技術者を憑依させて
 この1年間で作らせたの」

アリサが振り向く。
その表情は、道生をサポートしていた時とは違い、
狂気に染まっていた。

「--そして、この装置を起動するためのエネルギーを
 あなたに集めてもらった。
 人間の憎しみと怒りは、莫大なエネルギーになる。

 あなたと、わたしたちオーンを戦わせて、
 あなたに、怒りと憎しみのエネルギーを溜めてもらう。」

アリサの言葉に、
道生は、光を失った端末を見つめる。

「--気づかなかった?
 あなたにその力を授けたとき、端末の光は緑だった。

 それが黄色、オレンジ、赤…
 そして最後に真紅…どんどん色が変わっていたことに」

アリサはさらに続けた。

「あなたにその力を授ける前にも、
 3人に、覆面ライダーの力を授けたわ。
 でも、どいつも使えなかった。

 一人目は下級オーンに殺された。ただの雑魚だったわけね。
 二人目は、強すぎる自分の力に悩んで自殺した。
 三人目は、オーンにびびって逃げ出して消息不明よ。

 あなたは、4人目の覆面ライダー。
 ここまで頑張ってくれるなんて、見事だったわよ…。

 おかげで、この装置を起動させることができる」

アリサはそう言い終えると、
装置の、中央部に向かって歩き出した。

中央には不気味な光の渦みたいなものが
出来上がっている。

「--待ってくれ!今までの話は、全部ウソだったのか!」
道生が背中を向けたアリサに叫ぶ。

アリサの笑顔ー、
アリサの悲しそうな顔、
それらがすべて演技だったとは思えないー。

「--ふふふ、あんたが間抜けだっただけよ」

道生は、信じていたアリサに裏切られて
心を抉られるような思いを抱きながら、
さらに問いかけた。

「--どうしてだ…!どうしてオーンは
 俺たち人間を…!」

道生が叫ぶ。

アリサがふいに、輝く観覧車の方を見つめた。

「---わたしたちの世界は、
 電子の世界…。
 わたしたちオーンは、あなたたちとは違って
 気体のような存在。

 個の名前も無ければ、男女の区別もない。
 定められた人格もない…。
 けれど、わたしたちは、わたしたちなりに
 一生懸命、そして幸せに生きていた。

 あなたたちからは理解できない世界でしょうけれど」

アリサがなびく髪を抑えながら言う。

オーンは、人間と違い”個”というものが希薄な存在。
それゆえに、人間に憑依すれば、その影響を大きく受けることになる。

「--だったら何故、俺たちの世界を侵略するんだ!」
道生が叫ぶと、
アリサが突然怒鳴り声をあげた

「先に侵略したのは、お前たちの方でしょ!」
アリサの目には怒りがにじみ出ている。

「--何だって…?」
道生が言う。
香奈も不安そうな表情で、アリサを見つめている。

アリサは悲しそうにつぶやいた。

「あなたたちに悪気がないのは分かってる…
 でもね…」

アリサがポケットから何かを取り出した。

それは、スマートフォンだった。

「--あなたたちが使う、この端末…
 そこから発される電波が、別次元に存在する
 わたしたちの世界に干渉した」

アリサがスマホを憎しみの目で見つめながら言う。

「--あなたたちの世界で飛び交う電波は、
 わたしたちオーンの世界を浸食した。
 次第に、わたしたちの電子世界は乱れ、
 歪み、時空の渦が世界の各地に発生した。

 その異常事態の原因が、
 このスマートフォンの発する電波。
 あなたたちの世界の、電波。」

アリサが道生の方を見つめながら言った。

「何だって…そんなことは…」
道生は思う。
スマホの電波が別次元の世界を壊す?
そんなことが…

「”あなたたちの常識”では、あり得ないと
 思うでしょうね。
 でもね、これは事実。
 わたしたちの世界は、実際に、あなたたちの世界の
 電波の干渉を受けて、滅びに向かっている。」

アリサはそこまで言うと、香奈の方を見つめた。

「--我々オーンには、男女の区別とか
 そういうのはないの。
 でも、わたしにも、大切な存在はいたー

 なんていうのかな…
 人間に理解してもらうのは難しいでしょうけど、
 分かりやすく言えば、
 あなたにとって、香奈のような存在がー、
 わたしにも居た」

アリサは観覧車の方を見つめながら、
少し涙声になって呟く。

「--もう、わたしの大切な存在は
 時空の渦に飲み込まれて消えてしまったから」

アリサは、そこまで言うと、
道生の方を敵意のまなざしで見つめた。

「だからわたしは決めたの!
 別次元であるこの世界に来て、 
 人間を滅ぼすって!

 わたしたちの世界を、守るために!」

道生は、首を振った。

「…わかった、君の世界が大変なことはわかったよ…
 でも、でもだったら何で、こんなことするんだ!
 話し合って解決できれば…」

道生がそこまで言うと、アリサは失笑した。

「--バカじゃないの?
 話し合いで解決?
 アンタ、やっぱ餓鬼ね」

アリサが敵意をむき出しにして言う。

「--いきなり別次元からやってきたわたしたちが
 ”あなたたちのスマホの電波がわたしの世界を浸食しています”
 なんて言って、あんたたちは、話し合いに応じるの?」

アリサの言葉に道生は「それは…」と黙り込んでしまう。

「ーー応じないよね??何もしないよね???
 そもそも、わたしたちのことなんて、信じないよね???」

アリサが感情的になって叫ぶ。

「--所詮、あんたらは自分のことだけ。
 力で制圧しなければ、わたしたちは、このまま滅び去る」

香奈は悲しそうにアリサの方を見つめた。
世の中は綺麗ごとじゃ、解決できない。
オーンと人間の共存もまたーー。

「--でも、、でも、何とか方法が…!俺が…!」

道生が言うと、アリサはさらに笑った。

「だから何ができるのよ!?
 いつまでも夢追ってんじゃないわよ!」

「--それでも、、それでも俺は!
 何もできないけど、何もできないかも知れないけど、
 でも、俺は…!」

確かに、道生にできることなんてない。
”オーンの世界を救うため、スマホの使用を”なんて
言っても、笑われるだけだ

「--馬鹿なヤツ…。
 わたしたちが、あんたたちに何をしてきたか、知ってるでしょ?
 あんたもわたしたちのことを憎んでるはず。
 多くの人間の命を奪ったし、そこの香奈ちゃんのことも
 利用した」

アリサが不気味に微笑む。

しかし、道生は叫んだ。

「あぁ、確かにオーンは憎い!
 でも、俺は知ってる!
 半年間、一緒にやってきたからこそ分かる!
 君は、オーンの大首領だとしても、
 本当は優しいって!」

その言葉に、アリサが表情を歪める。

「--だってさ…
 他のオーンたちのことは分からないけど、
 君は…君は、
 ”自分の目の届く範囲に居た人間”は 誰一人殺していない!」

道生は、これまでのことを思い出す。
他のオーンたちは確かに、人の命を奪っている。
けれど、アリサはー。

憑依された女性警官に襲撃されたときもそうだった。
憑依から解放された女性警官を、殺そうと思えば殺せたはずなのに、
アリサは近くの病院まで、その婦警を運び、
今、その女性警官は現場に復帰している。

そして、ユーチューバーのマドカが憑依されていた間に
起こした炎上騒動を、裏から手をまわして、沈静化させたことも
道生は知っている。

「---…」
アリサは道生から目を逸らした。

大首領は、別世界からオーンを引き連れて
この世界にやってきた。
しかし、最初から
”エネルギー収集のために、覆面ライダーと戦わるための
 捨て駒”

計画のためとは言え、仲間を犠牲にすることに対して、
大首領は強く心を痛めていた。

しかし、人間を滅ぼさねば、自分たちが滅ぶ。
そこで、大首領はオーンの世界での、
”人間界で言う犯罪者”をこの世界に連れてきた。

”侵略”を名目に、メンバーを集めたところ、
すぐに多くのオーンが名乗りをあげた。

大首領以外の、この世界にやってきたオーンは、
オーンたちの世界では”犯罪者”のような扱いのオーンたちだった。

「俺は知ってる!君は本当は優しいって!」
道生がさらに叫ぶ。

「--黙りなさい」
アリサが鋭い目付きで言う。

大首領は、直接人間の命を奪うことは一度もしていない。
配下のオーン達が暴走したのは誤算だった。
けれど、大首領は、決して人の命を奪わなかった。

もちろん、最後には人間は滅ぼさなければならない。
だが、せめてー。
”楽に消してやろう”と、大首領はそう考えていた。

この特殊装置に溜めたエネルギーを放てば
人間は”一瞬”で消滅するー。

苦しみも、
悲しみもなく。

”少しずつ奪われていく苦しみ”は
自分が一番よく知っているからー。

「オーン大首領!
 俺にとって、俺にとって、君は、
 君はアリサなんだ!」

道生の叫びを聞きながら
アリサは、吐き捨てるようにして言った。

「--黙れと言ってるだろうが!」

アリサの声に、道生は悲しそうな表情をする。

「さぁ、エネルギーは満ちたわよ」
アリサが、巨大装置の方を見つめて、言う。

巨大装置の中心部の光の渦の部分に、
アリサが向かう。

「--やめろ!アリサ!やめてくれ!」
道生が叫ぶ。

「--ねぇ、やめてよ!」
香奈が横から叫ぶ。

「---やめない。」
アリサは不気味にほほ笑んだ。

「わたしは、もう決めた」
冷徹な声。

「--くっそぉぉぉ!」
道生は、アリサの方に向かって突進した。

しかし、
アリサは道生の腕を掴み、腕を力強くねじる。

「--わたしに勝てると思ってるの?」
アリサが邪悪な目付きで、道生を睨む。

道生は、アリサの恐るべき力に、
もの凄い勢いで吹き飛ばされた。

「ぐあっ!」

「道生!」
香奈が叫ぶ。

香奈は、憑依されていた際に使っていた
サーベルを手にして、アリサの方に向かう。

「香奈!」
道生が叫んだ。

香奈は、オーンと一緒だったときの
感覚を覚えていた。

サーベルを手に、アリサに攻撃を加えようとする香奈。

しかしー
指一本でアリサにサーベルを止められてしまう。

恐怖を浮かべる香奈に、
顔を近づけてアリサは言った。

「--本当に、嫉妬しちゃう」
アリサが憎しみを込めて言う。

そして、
香奈に”何か”を耳打ちした。

「---!!」
香奈が驚いてアリサの方を見る。

次の瞬間、アリサは微笑んで、
香奈を遠くにはじき飛ばした。

「--やめろ・・・やめてくれ!」
道生がボロボロになりながら立ち上がる。

アリサは腕を組みながら
見下すようにして、道生を見つめているー。

「---俺は、俺は、この世界を守りたいんだ!
 そして、君たちの世界も守りたい!」

アリサに向かって走る道生

「-だからっ…そんなきれいごと、
 無理だって言ってるでしょ!」

アリサが向かってきた道生の拳を受け止めた。

そしてー
道生に耳打ちをした。

「--”香奈ちゃんを、大事にしなさいー”」と。

「---!?」
道生は驚いて、アリサの方を見ると、
アリサは、この半年間のように、
優しく微笑んだ。

そして、道生に強烈な蹴りを喰らわせて
道生を吹き飛ばした。

「--」
装置の方を見るアリサ。

「--全部、わたしの思い通り」
道生たちに聞こえるように、アリサは言った。

「---でも!
 一つだけ”誤算があった”」

アリサの言葉に、道生と香奈は不思議そうに
アリサの方を見る。

「--刑務所から抜け出す前に、あなたに
 わたしが教えたこと、覚えてる?」

アリサは、道生たちの方を見て、言う。

「---」
道生は思い出すー。

”オーンは、憑依している女性の影響を少しずつ
 受けていくみたいなの。
 憑依している時間が、長ければ長いほど。
 もしかしたら、この特性が、攻略の鍵になるかも”

「---最初は、あなたたちを滅ぼすつもりだった。
 けどー、
 わたしは、この女の影響を受けちゃったみたい…」

アリサは自虐的にほほ笑んだ。

「この女、とっても優しいの…
 おかげで、わたしも、、あなたたちのこと、
 滅ぼすなんて…できなくなっちゃった」

アリサが道生に微笑みかける。

「…じゃ、、じゃあ、なんで」
道生が装置の方を見ながら言う。

「--この装置に溜めたエネルギーは
 色々なことに使えるの」

アリサはそう言いながら装置の方を見た。

「---そう、わたしたちオーンが
 ”元の世界に戻るために”
 エネルギーを使うことも」

アリサ=大首領の目的は、
最初は装置に貯めたエネルギーで人間を消滅
させることだった。

しかし、いつしか、愛梨沙の影響を受けた
大首領は、考えを変えたー。

オーンたちは、この世界に”一方通行の次元の裂け目”を
通ってやってきた。
それ故、帰る手段がない。

しかしー、この装置のエネルギーを使えば
自分たちの世界に帰ることができる。

アリサは、半年前、道生に出会ったころには既に、
目的を変えていた。

「--今日で我々は、あなたたちの世界から消える。」
アリサが悲しそうに微笑んだ。

「…え…で、、、でも…
 それじゃあ、君たちの世界は!」

道生が叫ぶと
アリサは優しく微笑んだ。

「--なんとかするわ」
その表情には”諦め”の色も見えた。

「--だ、ダメだ!そんなんじゃ!
 きれいごとかもしれないけど、俺は…!」
道生がそこまで言うと、
アリサが悪戯っぽく微笑んだ。

「俺たちの生きる道は、俺たちが決めるーーーでしょ?」
道生の決め台詞を口にして、アリサは笑う。

「--私たちオーンの生きる道も、わたしたちが決める…。
 あなたの気にすることじゃない」

アリサはそこまで言うと、
装置のエネルギーを起動させた。

激しい光と振動が周囲を襲う。

それと同時に、各地で女性に憑依していたオーンたちが、
装置に吸収されていく。

「ーーーー道生くん」
アリサが背を向けながら言う。

「---半年間、楽しかったわ。
 ……ありがとう」

アリサは、いつものような、穏やかな声で言った。

「---…」
道生は、どうしていいか分からなくなった。

憎むべきオーンの大首領であり、
自分を助け、導いてくれた恩人でもあるアリサ。

けれど、道生は叫んだ。

「--君が何者であろうとも、
 俺にとって君はアリサだ!
 半年間、君のおかげで戦ってこれた!
 だから今度は、俺が君に恩返しをするー!

 君たちの世界をー」

道生がそこまで叫ぶと、
装置に、大首領以外の全てのオーンが取り込まれた。

「---お別れよ」
アリサはそこまで言うと、
装置の方を向いて、呟いた。

「--どこまでも、めでたいヤツ…
 でも…あんたみたいな人間も…いるのね」

アリサは、光に包まれながら、
静かに微笑んだ。

そしてー、
アリサから、セピア色のような気体ー、
オーン大首領の本体が飛び出し、
そのまま装置の放つ光に飲み込まれた。

「----!!」

光が消えた時ー、
そこに、もう装置は無かった。

倒れているアリサー、
大首領から解放された
雪城 愛梨沙の身体が横たわっているだけだった…。

この日、全国に散らばっていたオーンは
一体残らず消滅した。

人類を滅ぼすためにやってきたオーン大首領は、
憑依したアリサを通じて、優しさを知り、
半年前から、目的を変えていた。

それは誤算だったのか。それともー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

クリスマス当日。

道生は、病院を訪れた。

「--メリークリスマス」
道生が笑いながら、病室に居る彼女、香奈に話しかけた。

香奈は半年間も憑依されていてたため、
身体の精密検査を行うため、入院することになっていた。

「-来週には、退院できるって」
香奈がほほ笑む。

「---ごめんね。道生に色々迷惑かけたよね。
 それに、みんなにも…」

香奈が悲しそうに、呟く。

「--大丈夫だよ。俺は迷惑なんて
 全然思ってないから」

道生が、ベット横のイスに腰掛けると、
香奈の方を見て言った。

「おかえりー。戻ってきてくれてよかった」
道生が言うと、
香奈がほほ笑んで
「ただいま。長いお出かけしちゃってごめんね」と笑う。

「それにしてもー」
香奈が病室を見回しながら微笑んだ。

「--私たちの初クリスマスが、病院の中なんて…ネ」
微笑む香奈に、道生も
「本当だよ、びっくりだよ!」と笑いながら返事をしたー。

香奈は窓の外を見つめる。
最後に”アリサ”に耳打ちされた言葉を思い出す。

”道生は、本当にあなたの事を想ってるー。
 だから、あなたは無茶しちゃダメ。
 自分を大切にしなさい”

とー。

そして、アリサは香奈を突き飛ばす直前に言った。

”ちょっとだけー、羨ましいな、あなたが”と。

香奈は、窓の方を見て、少しだけ微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

政府はー
オーンについての全てを発表した。
今までのいきさつ、そして、政府が動けなかった理由ー。

その責任をとり、現政権は解散するのだと言うー。

道生は、病院から出ると、
終業式に出席するために学校に向かった。

「--おはよう」
クラスメイトの麗香が道生を見つけて挨拶をする。

「-あ、おはよう」
道生も笑みを浮かべて挨拶を返した。

麗香も、オーンに憑依されたことがある子の一人だ。

「あのー」
麗香が背後から道生を呼ぶ。

「---あの、覆面の戦士って…倉本くん、なんだよね?」
麗香の言葉に、道生は首を振った。

「はは…俺、そんな勇敢に見える?
 俺はただの高校生だよ?」

道生は、笑いながらそう言った。

そう、ヒーローの正体を知る必要なんてない。
覆面ライダーは覆面ライダー、
自分は自分。それでいい。

麗香は微笑みながら「そっか」と答えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の夕方、
道生はとある墓を訪れた。

クラスメイトの小田原 良治。
道生や麗香を助けて、オーンの大幹部の手
かかってしまった。

「ごめんな」
道生は、寂しそうにつぶやいた。

どうしてやることもできないー。
どんなに後悔しても、
彼はもう、戻ってこない。

オーンのしたことは許せない。
けれど、オーンの世界が、人間の何気ない行動に
よって、相当な打撃を受けているのも事実。

道生は、複雑な心境で居たー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

休日。

道生は、とある家を訪れた。
大首領に憑依されていた雪城 愛梨沙の家。

「--あ、どうぞ」
愛梨沙は優しく微笑んだ。

アリサ、だったころの凛とした雰囲気ではなく、
心優しそうな、穏やかな雰囲気だった。

オーンが消えて以降、
道生は、愛梨沙のもとを時々訪れている。

大首領によって改造された彼女の家の片づけなどを
手伝うためだ。

なんとなく、事件の当事者として、
手伝わなければいけない気がした。

道生が、アリサに生活感を感じなかったのは、
彼女が、オーンの大首領だったからだろう。

「--1年前、妹は、突然バスジャックを起こして
 最後には事故を起こして死にました」

愛梨沙は悲しそうに言う。

「その葬式の最中に、わたしも、突然気が遠くなって…
 気が付いたら、この前の遊園地で…」

愛梨沙は、”1年も好き勝手されていたんですね”と
悲しそうに微笑んだ。

アリサとは半年間、協力関係にあった。
けれどー
同じ見た目でも、中身は全くの別人だった。

「--愛梨沙さん」
道生が言うと、愛梨沙は首を振った。

「別に、アリサでも大丈夫ですよ。
 ずっと、そう呼んできたんでしょ?」

愛梨沙が悪戯っぽく微笑んだ。

「--あ、いえ、ほら、俺高校生ですし、
 愛梨沙さん大学生ですから」

道生がそう言うと、愛梨沙は「そうですね」と
照れくさそうに微笑んだ。

「--……」
片づけの手を止めると、
愛梨沙は、道生の方を見た。

「--あの、良ければ聞かせてくれませんか?
 あなたと出会ったわたしが、半年間、
 どんなことをしていたのか」

愛梨沙に尋ねられて、
道生は、自分とアリサの半年間の戦いを
静かに語り出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日。

道生は、政府の関係者と会う約束を
こぎつけた。

オーン大首領であったアリサ、
そして覆面ライダー。
そのことを知る政府関係者が内密に
接触を試みてきたのだ。

「--」
道生は、スマホの電波に関する話をするつもりだった。

スマホの使用をやめることはできない。
でもー、
もしも、もしも電波を少しでも変えることができれば。

道生は、この2週間、必死に電波について勉強し、
一つのとある可能性を見出した。

それで、オーンの世界への影響が無くなるかは分からない。

「だから何ができるのよ!?
 いつまでも夢追ってんじゃないわよ!」

大首領=アリサに言われた言葉を思い出す。

「--それでも、俺は夢を追うよ。
 きみの言うとおり、俺はバカだから」

そう言うと、手にした資料を手に、
政府関係者の待つ場所へと歩き始めた。

「例え笑われても、
 俺の生きる道は、俺が決めるー」

道生は、自分の信じた道を、これからも歩き続けるー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

覆面ライダー完結しました!
最終回は、説明が長くてごめんなさい!!
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!

PR
憑依<覆面ライダー>

コメント