苛烈さを増すオーンの計画。
あらゆる女性に憑依し、道生を抹殺しようと
目論むオーン。
オーンの野望を打ち砕き、憑依された彼女を
取り戻すことはできるのか?
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「ーーーあ、お兄ちゃん、おはよう!」
妹の姫里が、いつものように、ほほ笑みながら
朝の挨拶をしてきた。
「あぁ、おはよう」
道生は、そんな姫里の笑顔を見ながら思う。
先日、オーンに憑依された姫里は、道生の手により
救い出された。
こんなにやさしくて可愛らしい姫里が
あんな悪魔のような表情を浮かべさせられてしまうー。
オーンの憑依は、女性たちの尊厳を
ズタズタに引き裂いている。
道生の彼女・香奈も憑依されたままだ。
「---どうしたの?ボーっとして」
姫里が不思議そうに尋ねる。
「--え?あぁ、いや」
とにかく、姫里が無事で良かった。
オーンにこれ以上、好き勝手はさせない。
「---そういえばさ」
姫里が、問い詰める様な口調で声を出した。
「ん?」
道生が、姫里の方を見ると、
姫里が何かを持っていた。
「----!」
姫里の手には大人のおもちゃー、
憑依された姫里が使わされていたバイブが握られていた。
「これ、お兄ちゃんの机の中にあったんだけど、何?」
姫里が怒っている。
「え・・・そ・・・それは…!」
姫里をオーンから救い出したあと、
オーンの手がかりになるかもしれないと、回収しておいたバイブを
机の中にしまったことをすっかり忘れていた。
「--お兄ちゃんのエッチ!」
バイブを投げつけて姫里はそのまま部屋の外に
出ていってしまった。
「--えぇぇぇっ!?っーか、俺の机の引き出し、
勝手に開けたのかよ!」
道生は、突っ込みを入れずには居られなかった・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〇倉本 道生 (覆面ライダー)
覆面ライダーとして戦い続ける高校生。
〇中橋 香奈
道生の彼女だった女子高生。半年前にオーンの幹部に憑依されてしまう。
〇アリサ
道生に覆面ライダーの力を授けた謎の女性。自称・女子大生
〇高杉 麗香
〇小田原 良治
道生のクラスメイト。
〇オーン大首領
謎の組織・オーンを率いる謎の人物。その素性は不明。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---どんな手を使ってでもいいわ。
あいつを抹殺しなさい」
香奈が、霧状の生命体・オーンに
近づきながら言う。
「--はっ」
オーンは、曇ったような声で返事をした。
オーン本体のままでは、上手く発声することも
できないのだ。
香奈は一人になると険しい表情を浮かべた。
先日ー、
道生と対峙した際に、突然、身体の自由が
一瞬利かなくなった。
「---この女」
香奈は自分の身体を見つめて呟く。
憑依による支配は完全なはず。
なのに、何故?
香奈の道生を想う心は、それほどまでに強いのか。
「--ふふ、まぁいい」
香奈は呟いて笑みを浮かべる。
「この手で、大事な彼氏の命、奪ってあげる・・・
ふふふふふふふ♡」
邪悪な笑みを浮かべて、香奈は、道生の映るモニターを見つめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---いやぁ、昨日も夜更かししちゃってさ~」
今日は、高校に登校していた。
クラスメイトの良治の他愛ない話をを聞きながらも、
道生はオーンのことを考えていた。
何故、香奈は自分を殺さなかったのだろう。
完全にオーンに乗っ取られているはずの香奈が、
なぜ、あのとき自分を見逃したのだろう。
「なぁ・・・」
上の空の道生を見て、良治は呟いた。
「え?」
道生が咄嗟に返事をすると、
良治が言う。
「--お前”何と戦ってるんだ?”」
良治の目は真剣だった。
「---は、、え?な、何のことだよ・・・」
道生が言うと、いつもお調子者でふざけた感じの
良治は真剣なまなざしで道生を見つめた。
「”オーン”って言ってただろ?
麗香ちゃんを乗っ取ったやつら・・・!」
良治の言葉に道生は慌てた。
オーンとの戦いに、みんなを巻き込むわけにはいかない。
「--し、知らないよ。俺はその日、休んでたんだし」
道生はそう言って、良治を置いて、足早に教室へと向かった。
一人残された良治は呟く。
「--道生・・・お前は・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とある女子大生が、
帰宅して、何かの準備を始めていた。
「--さっ、今日も配信がんばろっ!」
彼女は現役女子大生で実況動画や、日常的な動画を
配信し、その可愛らしい容姿などから人気者となった
ユーチューバー・マドカ。
バーチャルユーチューバーが流行する中、
彼女は素顔で、人気者となったのだった。
衣装を着替えて、
配信の準備をする彼女。
その背後にーー
オーンが居た。
”オマエノカラダ・・・カリルゾ”
「---えっ!?」
彼女が振り返ると同時に、
彼女の身体はビクンと激しく痙攣した。
「あ・・・あぁあ・・・」
床で苦しむマドカ。
そしてーー
ゆっくりとマドカは立ち上がった。
「ふふふ・・・ファンの皆に”お願い”しなくちゃ♡」
その笑みは、歪んでいたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放課後、
アリサから呼び出しを受けて、
アリサがアジトにしている山奥の小屋へと道生はやってきた。
「--あ、いらっしゃい」
アリサが微笑む。
モデルのような綺麗な足を曝け出した
ショートパンツ姿だった。
冬だけど、部屋の中は暖かい。
「--どうぞ」
アリサが飲み物を出してくれる。
道生が、アリサの家に来るのは数回目だ。
重要なやり取りの時だけ、アリサは道生を家に呼ぶ。
「・・・・・」
道生はこの家に来るたびに思う。
通信機や謎の機械が置かれている家。
綺麗に整理はされているけれど、
”女子大生としての生活”がまるで見えてこない。
まるで、”オーンへの復讐”
それだけに囚われているかのような、
そんな家だ。
「あなたに調べて欲しいって言われたこと・・・
調べたわ」
アリサが書類を出しながら言う。
道生が依頼していたのは、
”政府がオーンを隠そうとする理由”
アリサからもらった書類に、道生は目を通した。
「---そっか」
道生は呟く。
アリサが口を開いた。
「今の総理大臣や、政府の偉い人たちは、
娘さんや、妻、身近な女性をオーンに憑依されて
奪われているの。
言いなりにならないと、こいつの命はない、って。
だからね・・・
政府がオーンを隠ぺいしようとするのは」
アリサの言葉に道生は、頭を抱えた。
人は誰だって、身近な女性が奪われれば
抵抗できないだろうー。
政府のお偉いさんたちも、
身近な人間を人質に、しかも、憑依されて奪われていてはー
道生は、彼女の香奈の顔を思い浮かべるー。
歪みきった香奈の笑みー。
また、元の優しい香奈を取り戻すことが、できるのだろうかー。
「--それと・・・」
アリサが険しい表情で、スマホを差し出した。
そこには、
”現役女子大生ユーチューバー”である”マドカ”の
動画が映し出されていた。
「これは?」
道生も、この子の事は知っている。
顔だしでゲーム実況や、日常的な動画をUPしている人気の子で
その可愛らしい容姿と、面白おかしいトークが人気の子だ。
「いいから、動画を見て」
アリサに促されて、道生は動画を再生した。
アイドル風衣装のマドカが姿を現して、
可愛らしく手を振るー。
「--みんな、元気?マドカだよ!
今日はマドカからお願いがあるの。
実はね、マドカに嫌がらせをしてくる人がいるの。
お願い!みんな、わたしを助けて!」
マドカが泣きそうな目をしながら、
とある人物の顔写真を出した。
それはーー
道生の写真だった。
「お願いみんな!
マドカを助けて!
お願い、こいつを、殺してー」
マドカが言う。
「こいつを殺してくれたら、
マドカ、サービスしちゃう!うふっ♡」
スカートを少しだけめくって微笑むマドカ。
動画はそこで終了した。
「・・・・・オーンか」
道生が言うと、アリサはうなずいた。
「その子は、そんな過激な発言をしたりする子じゃないわ。
オーンに憑依されたのね。
とにかく気を付けて」
アリサの言葉に道生はうなずく。
そして、飲み物を飲み終えると、
道生は「じゃあ、そろそろ行くよ」と言って
玄関先に足を運んだ。
そして・・・
「あのさ・・・」
アリサの方を振り向く。
「いつも助けてくれて感謝してるんだけど・・・
けどさ・・・
この覆面ライダーの力とか、
オーンの情報とか・・・
いったいどこから・・・?」
道生は思う。
アリサは半年間、ずっと協力してくれた
敵意は無い。
けれどー
アリサの技術や情報は、どこからー。
「・・・・・・それは」
アリサは口を閉ざす。
「--俺さ・・・君が無理してないか心配なんだ。
君はどうしてこんなに・・・
この部屋だってそうだよ!
君はオーンを倒すことしか考えていない。
人生の全てをそれに捧げているようなー」
そこまで言うと、アリサが言葉を遮った。
「--ごめん。今は言えない。
でも・・・時が来たら、ちゃんと話をするから」
アリサは悲しそうな表情で道生を見た。
”なんて悲しい目をしているんだろう”
道生はそう思った。
ふと、アリサの机の上に、アリサと一緒に
笑顔で映る少女の写真を見つけたー。
「・・・・わかった。変なこと聞いてごめん」
これ以上、詮索するべきではない。
道生はそう思って、そのままアリサの家を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外に出ると、
男たちに尾行されているのに気付いた。
「おい!あいつがマドカちゃんの言っていた・・・」
「でも殺すって・・・?マジかな?」
男たちのひそひそ声が聞こえている。
「・・・・」
道生は思う。
憑依された美少女ユーチューバーにたきつけられて
やってきた者たちだろう、と。
ファンの中には過激な人間もいる。
そういった人間を焚き付けて、
道生を抹殺するー
それが、憑依されたマドカの狙いなのだろう。
だが、一般人を傷つけるわけにはいかない。
「---逃げるか」
道生は走った。
相手は一般人。
覆面ライダーの力を得て、身体能力の強化された
道生の敵ではない。
すぐに、ファンたちから姿を隠すことに成功した。
「---・・・
一般人を攻撃するわけにはいかないからな・・・。
アリサ、マドカの居場所を突き止められるか?」
道生が端末に向かって話しかけると、
アリサは”うん、わかった”とだけ返事をした。
少し時間がかかるらしい。
道生は、その日、
家に帰らず、過激なファンたちから逃げ続けた。
夜―。
マドカは苛立っていた。
「--まだアイツは逃げてるの!」
マドカが髪の毛をイラついた様子で掻き毟っている。
マドカに憑依しているオーンは
人間のことをあまり深く知らなかった。
だからー
焚き付ければすぐに道生を始末できると思っていたのだ。
「くそっ!使えないやつらめ!」
マドカが壁を思い切り蹴り飛ばして、
再び動画の撮影を始めた。
ライブ配信が開始されるー
マドカは微笑んだ。
「-ねぇ、みんな。
まだ、あの男を殺せてないの?
殺せないなら、わたしのところに連れて来るだけでもいいから、
早くしてくれるかな?」
顔は笑っている。
けれども、マドカは露骨にイラついていた。
「--あぁ、もう!
マドカ、急いでるの。
みんな、分かる?
ファンなら、わたしの言うこと、すぐに聞きなさいよ!
ほら、わたしの胸でもなんでも見せてあげるから!
いい?これ以上わたしを待たせないで!」
それだけ言うと、マドカは配信を停止した。
ファンたちの間で動揺が広がる。
ごく一部の過激なファンを除いて、
マドカの言動についていけずに、ネット上では
様々な憶測が広がった。
マドカのツイッターや動画へのコメントは
次第に炎上し始めていた。
「----・・・」
道生も、その配信を隠れながら見ていた。
オーンの中には、人間社会に上手く溶け込めずに
自滅するものもいる。
今回の、マドカに憑依したオーンはそれだろう。
奴等が異次元から現れて1年ー。
人間の社会をよく知っているものもいれば、
そうでないものもいる。
そしてー
道生は過激なファンから逃げ切った。
朝が訪れるー。
マドカが再び配信を開始した。
「--ねぇ、いつまで待たせるのよ!
使えねーやつらだな!
早く、アイツを捕まえて来いって言ってるの!」
マドカが、乱れきった風貌で、
怒鳴り声をあげる。
動画に対するコメントは完全に炎上していた。
「--マドカちゃんどうしたのって・・・?
うっせぇんだよ!
いいからテメェら早くアイツを捕まえてこいよ!」
マドカが動画に対してぶち切れている。
彼女がこれまで積み上げてきたものは、
オーンによって壊されてしまった。
今や動画には低評価が噴出し、
ツイッターは凍結されてしまった。
「--くっそ・・・
ホラ、みたいんだろ?わたしの身体!」
マドカが配信中に服を脱いで、
身体を曝け出した。
「--見せてやるよ!ホラ!見ろよ!」
そして、マドカは言う。
「--ほら、わたしの身体を見たら
早くあの男を見つけてこいよ!」
マドカは、カメラにグラスを投げつけて、
そこで動画は終了した。
動画を見終えた道生に、アリサから連絡が入った。
”マドカの居場所、分かったわ”
アリサから、住所が送信されてきた。
道生はうなずいて、そこに向かった。
「--くそっ!ふざけやがって」
マドカは自宅で、昨夜購入してきた酒を飲みまくっていた。
飲み終えた酒ビンを壁に叩きつける。
「はぁ・・・はぁ・・・
このままじゃ、香奈様に・・・」
オーンは、憑依した人間の身体で呼び合うのが
通例になっていた。
元々、オーンたちに個体ごとの名前は存在しない。
「---見つけたぞ!」
「--!?」
マドカが振り返ると、そこには
覆面ライダーが居た。
「--貴様!」
マドカが憎しみを露わにして叫ぶ。
「--純粋な子を弄びやがって!」
覆面ライダーがベルトを発光させると、マドカはそれを
バック転して回避した。
包丁を手に襲い掛かってくるマドカ。
「死ね!」
叫ぶマドカを抑えながら、覆面ライダーは
「ごめん!」と言いながら、マドカを投げ飛ばす。
「ぐあぁっ!」
マドカが痛そうに悲痛な叫びをあげる。
その隙にベルトから光を放ち、
マドカの身体からオーンをあぶり出した。
「ぎぃぃぃぃぃぃっ!」
奇声をあげながら逃げようとするオーンに、
覆面ライダーは、強烈なパンチをお見舞いした。
オーンの本体は脆弱だ。
断末魔をあげながら、マドカに憑依していたオーンは消滅した。
「-----」
倒れているマドカを見つめる覆面ライダー。
可愛らしい寝顔で、気絶しているマドカ。
「---何て事を・・・」
覆面ライダーは道生の姿に戻り、
マドカの部屋のパソコンを見つめた。
動画は完全に炎上していたー。
もう、マドカはユーチューバーとして活動できないだろう。
恐らく、政府はこの件を隠ぺいするから、
マドカが殺人予告などで逮捕されることはない。
けれども、彼女の人生は壊されてしまった。
「---オーンめ・・・俺が必ず・・・」
そう呟いて、道生は、マドカの部屋を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
駅ビルの壁に設置されたモニターでは
クリスマスのCMが流れている。
それを見つめる道生は
切なそうな表情を浮かべた。
「--香奈・・・
俺、今でも、クリスマス、楽しみにしてるから・・・」
あと2週間ー。
クリスマスの日までに、香奈を取り戻せるのだろうかー。
そんな風に思いながら、道生は寂しそうに歩き始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「くそっ!」
オーンのアジトでは香奈が不機嫌に叫んでいた。
また、道生の始末に失敗した。
香奈は、オーンのシンボルマークを見つめる。
大首領からの通信はない。
「--私の邪魔ばっかりして・・・」
香奈がイライラした様子で、唇を噛みしめた。
「---許さない・・・」
道生に対する憎しみは、さらに、膨れ上がっていた。
そんな香奈の様子を”大首領”は、
別の場所から監視していた。
大首領は笑うー
モニターには
幹部の香奈や、覆面ライダーの道生が
映し出されている。
「--憎め・・・」
大首領はそう呟くと、不気味にほほ笑んだ・・・。
④へ続く
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予告
電車で通学中の道生は、
電車に乗っていた女子高生に”痴漢”扱いされてしまうー
身に覚えのない濡れ衣。
しかし、周囲の女性たちは、一斉に声をあげた。
彼女たちは全員、オーンに憑依されていた。
指名手配される道生。
真面目な新人婦警に憑依したオーンの執拗な追跡が始まるー。
そして、道生をサポートする謎の女性・アリサの
真意が明らかに・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
覆面ライダーは③で一旦終了します!
④~⑥は来週か、再来週から開始します!
内容は頭の中で完成しているのですが、
他の作品を読みたい方もいらっしゃると思うので
一旦間を開けますー!
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