オタク男の暴走は、終わりの時を迎えようとしていた。
暴走した復讐心の末に、残るものは一体何か。
暴走憑依男Xの最終回です!
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ゲーム屋…”だった”場所。
今やオタク男に支配され、
風俗店のような営業ばかりしているその店内…。
テーブルでは、
木藤とさくらが、向かい合って座っていた。
かっては、お互いのことを好いていた二人は、
今や敵として、対峙していた。
その脇には、謎の装置に固定された、
木藤の妹、奈菜がいる。
うつろな目で、奈菜は、ゲームの人質に
使われていた。
周囲には、
バイトスタッフの風香と明美がいる。
二人とも、意思のない人形のような雰囲気で
その場に立っている。
「うふふ・・・死ぬの?」
さくらが笑いながら言う。
「--俺は、さくらを傷つけることはできないよ」
木藤は言った。
勝てば、さくらが電撃の餌食になる。
負ければ、自分はーー
けれど、それでも…
さくらは助かる。
木藤は、さっき自分がめくった2枚のカードを見つめる。
木藤のライフは1。
5回ミスをすれば、致死量の電撃が、木藤を襲う。
対するさくらのライフは2。
けれどもさくらは、人質の奈菜に電撃を浴びせることで
使うことのできるお助け機能「ターンスキップ」を躊躇なく
使うだろう。
さくらを倒すことはできない。
奈菜を危険にさらして、自分が助かることもできない。
なら、自分にできるのはーー
「死ね!」
さくらが満面の笑みで叫んだ。
「死ね!しね!しね!しね!しーね!」
片手をカウンターにバンバン叩きつけながら
笑うさくら。
「---罪を償え!
僕を笑った罪を!」
さくらが憎しみを込めて叫ぶ。
「さぁ贖罪の時間よ!!!
あはははははははっ♡」
さくらは狂ったように笑い続けた。
ついに、自分を笑ったこいつを葬ることができる。
面白くて仕方がなかった。
「---バッカじゃないの」
木藤とさくらが声の主の方を振り向いた。
バイトスタッフの明美だったー。
「---!?」
さくらは驚いて顔を上げる。
「--残念ね!このオタク男!
私はあんたの暗示になんかかかっていない!」
明美が言うと、さくらは「どうして…」とつぶやいた。
明美は目からコンタクトレンズを外して見せつけた。
「あんたの暗示…
目に直接かけないと聞かないみたいね?
市川先輩も白崎さんも、木藤先輩の妹さんも、
メガネもコンタクトもしてなかった…
だから…気付けなかったみたいね?」
明美はそう言うと、木藤の方を見た。
「先輩。何バカなこと考えてるんですか!
先輩が死んで、市川先輩が助かるんですか?
妹さんが助かるんですか?
相手が誰だか分ってるの?
このオタク男は木藤先輩が死んだって、
市川先輩も妹さんも、白崎さんも、
誰一人解放しない!
そういうヤツでしょ!!」
明美が叫ぶと、
木藤が少し考えて、ほほ笑んだ。
「そっか…そうだな…
うん、山西さんの言うとおりだよ」
木藤が言うと、明美も少し笑った。
「--私、こう見えても”演技派”なので」
明美が笑いながらメガネをかけると、
奈菜の方に向かって行った。
演技派。
木藤は、その言葉に納得した。
明美は、大人しく真面目なイメージだけど、
どこか距離感があるような、壁が一枚あるような子だと
思っていた。
あれもまた、作られた姿だったのだろう。
木藤には、今の、ちょっと気の強そうな、
頼りになる明美を見て、
今までよりも明美に対して好感を持てた。
明美が奈菜を拘束している装置を解除していく。
「ふざけんな!このクソ女!」
さくらが叫んだ。
しかし、テーブルに手をロックしているため、
抜けることができない。
「風香!」
さくらが言うと、メイド服姿の風香が
「はい、ご主人様…」とつぶやいて、
明美を止めようとする。
けれど、明美はそれをかわして、
風香を動けない状態にすると、
奈菜を救出した。
「---私、護身術、少しできるんで。
ザンネンだったわね?」
さくらの方を見て明美が言うと
さくらは怒りに満ちた表情で明美を睨んだ。
救出された奈菜は依然としてうつろな目のまま。
けれどー。
「これでもうお前はターンスキップできないぜ」
木藤が言うと、
さくらは笑った。
「あはははっ!でも、アンタのライフは残り1!
1回でトランプを当てることができるの?」
さくらが高飛車な様子で言った。
木藤はーーー
目をつぶり、
”みんなを助けたい”
その一心でカードを2枚引いた。
引いたカードはダイヤのQとスペードのQだった。
「なっ…」
さくらが唖然とする。
「---」
木藤は目をつぶる。
さくらなら、きっと耐えられる…。
俺が死んでも、
さくらを助けることはできない。
なら、かけるしかないー。
さくらに、電撃を浴びせることになってもーー。
俺は、この電撃神経衰弱に勝たなくてはならない。
「---くそ!くそ!くそ!くそ!」
さくらが髪の毛をぐしゃぐしゃにかき乱して
怒りを露わにする。
「どいつもこいつも、僕を馬鹿にしやがってぇ!」
さくらは、狂ったように喚いている。
可愛らしいさくらの面影はもはやどこにもない。
「はぁ…はぁ…
ぶち殺してやる…」
さくらは低い声でそう言うと、
カードを2枚引いた。
けれどー
それはハズレだった。
「うぐぁあああああああああああああっ!」
さくらが悲鳴を上げる。
残りライフは1。
木藤はつらそうに目をそむけた。
さくらの悲鳴。
憑依されて乗っ取られているとは言え、
好きな子の悲鳴を聞くのはつらい。
「--ご主人様…」
風香が起き上がって、さくらの方を心配そうに見つめる。
明美は、風香が余計な事をしないように手を抑えた。
「---くそがぁ!くそがっ!!!
僕は、、、ぼくは!!!!」
さくらが、目に怒りと涙を浮かべて
ボロボロになりながら叫ぶ。
そしてーーー
「僕はお前らが許せないんだよ!!!!」
そう叫んでカードを2枚引いたーー
それはーーー
電撃がさくらを襲う。
「ぎぃあああああああああああ~~~~!!!!」
今まで以上の悲鳴を上げて、
さくらは、力無く、テーブルにうつ伏せになった。
手のロックが解除される。
「さくら!」
木藤が慌ててさくらに駆け寄る。
さくらの体は痙攣を起こしていた。
「さくら!しっかりしてくれ!さくら!!」
その時だった。
「うるせぇええええええ!」
さくらが叫んで立ち上がった。
目は白目を剥き、
からだはピクピク痙攣している。
それでもー、
オタク男の憎しみがさくらの体を突き動かしていた。
「ゆるさない…!ゆるさない・・・!」
さくらはフラフラした足取りで…
木藤の妹、奈菜にキスをすると、そのまま倒れた。
「貴様!」
木藤が叫ぶ。
妹の奈菜が、うつろな目から、意思のある目に変わって
笑った。
「うははははははははははっ!
お兄ちゃん!本当っにすっごいね!!!!
本当にむかつく!!!!」
奈菜がオタク男に憑依された
太ももをベタベタ触りながら、ニヤニヤする奈菜。
さくらは床に倒れたまま痙攣している。
「---お前!奈菜から今すぐ出ろ!」
木藤が叫ぶ。
「--くくくっ!出るわけないでしょ!
バイバイお兄ちゃん!」
そう言うと奈菜が、店の外に逃げ出した。
「おい待て!」
木藤が後を追う。
奈菜は、真冬なのに、太ももを露出した
ショートパンツ姿で全力疾走していた。
「くそっ…僕の精神ダメージを回復しないと…」
オタク男は電撃でダメージを受けていた。
ここはいったん、この奈菜のからだを使って
しばらく潜伏する必要がある。
「・・・・」
木藤が後を追ってきている。
奈菜は、長い逃亡劇を繰り広げた。
街からはずれー、
デートスポットとして人気な岸壁へとやってきていた。
「はぁっ…はぁっ…」
奈菜が息を切らす…。
「---もう逃がさないぞ…」
木藤が背後から姿を現す。
「いい加減しつこいんだけど!!」
奈菜が怒りを露わにして言った。
「---奈菜、聞こえるか…」
木藤は、妹に語りかけるようにして言う。
「奈菜、お前、将来なりたいものがあるって言ってたよな?
それなのにいいのか?そんな奴に好き勝手されていて…。」
木藤の言葉を奈菜は不愉快そうに聞いている。
「--俺はお前を信じてる!
菜奈、そんなやつに負けるな!
お前は、そんなに弱いやつじゃない!」
木藤が叫ぶようにして言った。
奈菜の背後は、崖になっている。
数十メートル下の海に飲み込まれれば、
このからだは助からない。
「---バッカじゃねぇの!
何言ったって無駄なんだよ!
この憑依薬の力は!」
奈菜が叫ぶ。
「ほぅら!この女、ぜ~んぶ僕の思うが儘だ!」
奈菜が唇を舐めたり、
胸を力強く揉んだり、
自分の手のニオイを嗅いでペロペロ舐めたりする。
「---くそっ」
木藤は悔しそうにつぶやく。
「うふふふ♡
どう、こんなところでエッチなことしてる
妹の姿は♡
あはっ♡ はははっ♡ あははははははっ♡」
奈菜が興奮しきった様子で、胸を揉みまくっている。
ショートパンツから、イヤらしい液があふれ出てきている。
「ぐふっ…♡ 興奮してる…♡
うふふふふふふ」
奈菜が木藤を無視して、快感に身をゆだねている。
「---この屑野郎が!」
木藤は奈菜の方に駆け寄って行って
奈菜の胸倉をつかんだ。
「お兄ちゃん…やめてよ…」
奈菜が弱弱しくそう言うと、
木藤はハッとして手を離した。
「ばーか!」
奈菜が木藤を蹴り飛ばすと、
木藤を力強く、掴み、岸壁の淵まで
持って行った。
「お兄ちゃん…わたしが
ぶっ殺してあげようか?」
奈菜が狂った目つきで言う。
「奈菜…やめろ・・・」
木藤は背後の岸壁を振り返りながら言う。
「お前は、ここで死ぬんだ!
贖罪のために!!!
そして、わたしは、お兄ちゃん殺しの罪を
着せられちゃうの!うふふふふふ~!」
奈菜が木藤を落とそうとしたその時ー。
「やめなさい!」
背後から明美の声がした。
「---山西さん?」
木藤が驚いて声を出す。
店から数時間の距離のこの場所…
明美も後を追ってきていたのか…?
「ーーさ、、さくらと白崎さんは?」
木藤が尋ねると、明美は笑った。
「二人は、正気を取り戻しましましたよ。
そいつが、二人から遠い距離に離れたので、
暗示が解けたんだと思います」
明美は微笑むと、
奈菜の方を見た。
「よくも私の人生を滅茶苦茶にしてくれたわね…!」
明美はそう言うと、奈菜に近づいていく。
「はっ…はは♡ 私を殺すの?突き落とすの?
わたし、木藤の妹だよ!?
いいの???」
奈菜が挑発的に叫ぶ。
しかしーーー
明美はーーー
”カマキリ”を、奈菜の口に押し付けた。
「---ひっ…!」
奈菜が驚きに目を見開いたまま、
その場に倒れる。
明美が手につかんだままのカマキリがじたばたしている。
「---へ?」
木藤が唖然としていると、明美は言った。
「私、見たんです。
オタク男が、友人の男を、バッタに憑依させて踏みつぶすのをー。
キスすると、人間でも昆虫でも、見境なく、憑依できちゃうみたいですよ」
明美は、
事務所に居たカマキリを持ってきていた。
オタク男を始末するために。
「--私はあなたと違って野蛮なことはしない」
明美がカマキリになったオタク男に語りかけると、
「----消えなさい!」
と叫んで、カマキリを岸壁の下の海めがけて、投げ飛ばした。
「~~~~~~~~~~~~~!」
カマキリは言葉を発することなくー
そのまま、濁流に飲み込まれた。
「---ありがとう」
木藤は奈菜を抱きかかえたまま、
明美にお礼を言った。
「いえ、私、短い間でしたけど、
このバイト、本当に好きだったので」
明美はそれだけ言うと、立ち去ろうとした。
「--山西さん…大丈夫なのか?」
木藤が尋ねる。
明美も一時期憑依されていた。
大学は退学、友人も失い、ネットに自分のエロ動画が
上がっている。
「---なんとか、なりますよ」
明美はそれだけ言うと、振り返って微笑んだ。
木藤は「そっか…」とだけ言うと、
明美はそのまま立ち去って行った…。
「---お兄ちゃん?」
奈菜が目を覚ました。
「---奈菜…良かった…」
木藤が嬉しそうに言うと、
奈菜が叫んだ。
「きゃああああああああああ!
な、、何よ!こんな服着せて!」
奈菜が木藤を突き飛ばす。
太ももを露出したショートパンツと
胸元を強調した服…
「---お、、お兄ちゃんのバカ!」
そう叫ぶと、奈菜は逃げるようにして走って行ってしまった。
「ちが!待ってくれ!」
木藤は奈菜の後を追いかけた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間後。
店は閉店になった。
暗示をかけられていた本部社員も正気を取り戻したためだ。
病院…。
白崎風香は精神的ショックで入院していた。
高校は退学させられ、親からも見放された。
親は、憑依などというのを信じてくれなかった。
「----」
風香は涙目で、窓の外を見つめていた。
その時だった。
母親と父親が病室にやってきた。
「お父さん…
お母さん…?」
風香が尋ねると、
二人は目に涙を浮かべていた。
「ごめんね…風香…
風香の苦しみ、知らなくて…気づいてあげられなくて」
母親は言った。
”憑依されていた”
そのことを信じる気になったのだったー。
”同じバイト先に居た我妻”という人物から
風香の家に手紙が届いたー。
そして、USBが。
USBの中にはオタク男の友人、榊山に憑依されていた風香と
我妻が自宅で喋っている映像が収録されていた。
それを見た両親は、風香はこんなことしない…と、
憑依を受け入れざるを得なかった。
「---お母さん…お父さん…」
風香は涙ながらに、両親たちと抱き合い、
涙を流し続けるのだった。
我妻は何故、風香を助けたのだろう。
あの日、憑依された風香を追い払った後に
我妻は考えた。
そして
”なんとなく”風香を助けてやるか、という気分に
なり、風香が憑依されていたことを、風香の両親に
知らせたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「-----」
木藤は、墓参りをしていた。
死んだ尾崎店長の墓ー。
「--店長、みんなは、無事でしたよ」
木藤が寂しそうに言うと、
背後からさくらが姿を現した。
さくらは、電撃を浴びながらも一命を
取り留めていた。
「・・・俺、店長を助けられなかった」
木藤が悔しそうに言うと、
さくらは悲しそうに微笑んだ。
「--でも、みんなを助けてくれたじゃない…
木藤さんは…悪くなんかない」
さくらが言うと、
木藤は「ありがとう」とほほ笑む。
「---それで…あの時の返事…」
さくらが言う。
オタク男を葬った日、
木藤は病院に駆けつけて、
さくらにこう呼びかけた。
「さくら!死なないでくれ!
俺、さくらの事が好きなんだ!だからー」
と、重症だったさくらにそう叫んだー。
「---私も、木藤さんのこと、大好きです」
さくらが、涙ぐみながら微笑んだ。
「色々、迷惑かけちゃいますけど、
こんな私で良ければー」
さくらが頭を下げる。
さくらも大学を退学させられ、
エロ動画をあげられ、これからの人生、
決して楽なモノではないだろう。
けれど…
「---いいさ」
木藤は、さくらの手を取り、そして優しくさくらを抱きしめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
海辺…。
冬の海辺に、寂しそうに女子高生が佇んでいる。
可愛らしい女子高生。
彼女は、失恋したばかりのようだ。
海辺で一人、涙を流す。
そこに、
カマキリがやってきた。
「あらー?
こんなに寒いのに、カマキリさん?」
少女は微笑む。
そして、涙を拭きながらカマキリを手にとり、
見つめた。
「あなたも、私と一緒で
ひとりぼっちなのね?」
少女は微笑んだー
その直後、カマキリは羽を広げて、少女の口元にとびかかった…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
人気のない、夕暮れの道路ー。
物陰に居た、明美は微笑んだ。
ーーポケットから、何かを取り出す。
手元にあったのは”憑依薬”
「じゃあね!梓沙ちゃん!」
”ターゲット”の女子高生が、友達と別れて、
一人になる。
明美は微笑んだ。
「ごめんね。
私、新しい人生が欲しいの」
明美はそう呟き、
梓沙と呼ばれた女子高生の方に向かって行った・・・
おわり
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コメント
1周年記念でリメイクした暴走憑依男、
ようやく完結までたどり着きました!
ここまでお読み下さり、ありがとうございました!
続きは、皆様の空想の中で…!
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