<憑依>暴走憑依男X⑩~贖罪~(完)

オタク男の暴走は、終わりの時を迎えようとしていた。

暴走した復讐心の末に、残るものは一体何か。

暴走憑依男Xの最終回です!

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ゲーム屋…”だった”場所。

今やオタク男に支配され、
風俗店のような営業ばかりしているその店内…。

テーブルでは、
木藤とさくらが、向かい合って座っていた。

かっては、お互いのことを好いていた二人は、
今や敵として、対峙していた。

その脇には、謎の装置に固定された、
木藤の妹、奈菜がいる。
うつろな目で、奈菜は、ゲームの人質に
使われていた。

周囲には、
バイトスタッフの風香と明美がいる。
二人とも、意思のない人形のような雰囲気で
その場に立っている。

「うふふ・・・死ぬの?」
さくらが笑いながら言う。

「--俺は、さくらを傷つけることはできないよ」
木藤は言った。

勝てば、さくらが電撃の餌食になる。
負ければ、自分はーー

けれど、それでも…
さくらは助かる。

木藤は、さっき自分がめくった2枚のカードを見つめる。

木藤のライフは1。
5回ミスをすれば、致死量の電撃が、木藤を襲う。

対するさくらのライフは2。
けれどもさくらは、人質の奈菜に電撃を浴びせることで
使うことのできるお助け機能「ターンスキップ」を躊躇なく
使うだろう。

さくらを倒すことはできない。

奈菜を危険にさらして、自分が助かることもできない。

なら、自分にできるのはーー

「死ね!」
さくらが満面の笑みで叫んだ。

「死ね!しね!しね!しね!しーね!」
片手をカウンターにバンバン叩きつけながら
笑うさくら。

「---罪を償え!
 僕を笑った罪を!」

さくらが憎しみを込めて叫ぶ。

「さぁ贖罪の時間よ!!!
 あはははははははっ♡」

さくらは狂ったように笑い続けた。
ついに、自分を笑ったこいつを葬ることができる。

面白くて仕方がなかった。

「---バッカじゃないの」

木藤とさくらが声の主の方を振り向いた。

バイトスタッフの明美だったー。

「---!?」
さくらは驚いて顔を上げる。

「--残念ね!このオタク男!
 私はあんたの暗示になんかかかっていない!」

明美が言うと、さくらは「どうして…」とつぶやいた。

明美は目からコンタクトレンズを外して見せつけた。

「あんたの暗示…
 目に直接かけないと聞かないみたいね?
 市川先輩も白崎さんも、木藤先輩の妹さんも、
 メガネもコンタクトもしてなかった…
 だから…気付けなかったみたいね?」

明美はそう言うと、木藤の方を見た。

「先輩。何バカなこと考えてるんですか!
 先輩が死んで、市川先輩が助かるんですか?
 妹さんが助かるんですか?

 相手が誰だか分ってるの?
 このオタク男は木藤先輩が死んだって、
 市川先輩も妹さんも、白崎さんも、
 誰一人解放しない!
 そういうヤツでしょ!!」

明美が叫ぶと、
木藤が少し考えて、ほほ笑んだ。

「そっか…そうだな…
 うん、山西さんの言うとおりだよ」

木藤が言うと、明美も少し笑った。

「--私、こう見えても”演技派”なので」

明美が笑いながらメガネをかけると、
奈菜の方に向かって行った。

演技派。

木藤は、その言葉に納得した。

明美は、大人しく真面目なイメージだけど、
どこか距離感があるような、壁が一枚あるような子だと
思っていた。

あれもまた、作られた姿だったのだろう。

木藤には、今の、ちょっと気の強そうな、
頼りになる明美を見て、
今までよりも明美に対して好感を持てた。

明美が奈菜を拘束している装置を解除していく。

「ふざけんな!このクソ女!」
さくらが叫んだ。

しかし、テーブルに手をロックしているため、
抜けることができない。

「風香!」
さくらが言うと、メイド服姿の風香が
「はい、ご主人様…」とつぶやいて、
明美を止めようとする。

けれど、明美はそれをかわして、
風香を動けない状態にすると、
奈菜を救出した。

「---私、護身術、少しできるんで。
 ザンネンだったわね?」

さくらの方を見て明美が言うと
さくらは怒りに満ちた表情で明美を睨んだ。

救出された奈菜は依然としてうつろな目のまま。
けれどー。

「これでもうお前はターンスキップできないぜ」
木藤が言うと、
さくらは笑った。

「あはははっ!でも、アンタのライフは残り1!
 1回でトランプを当てることができるの?」

さくらが高飛車な様子で言った。

木藤はーーー
目をつぶり、
”みんなを助けたい”

その一心でカードを2枚引いた。

引いたカードはダイヤのQとスペードのQだった。

「なっ…」
さくらが唖然とする。

「---」
木藤は目をつぶる。
さくらなら、きっと耐えられる…。

俺が死んでも、
さくらを助けることはできない。

なら、かけるしかないー。
さくらに、電撃を浴びせることになってもーー。

俺は、この電撃神経衰弱に勝たなくてはならない。

「---くそ!くそ!くそ!くそ!」
さくらが髪の毛をぐしゃぐしゃにかき乱して
怒りを露わにする。

「どいつもこいつも、僕を馬鹿にしやがってぇ!」
さくらは、狂ったように喚いている。

可愛らしいさくらの面影はもはやどこにもない。

「はぁ…はぁ… 
 ぶち殺してやる…」

さくらは低い声でそう言うと、
カードを2枚引いた。

けれどー
それはハズレだった。

「うぐぁあああああああああああああっ!」

さくらが悲鳴を上げる。

残りライフは1。

木藤はつらそうに目をそむけた。
さくらの悲鳴。
憑依されて乗っ取られているとは言え、
好きな子の悲鳴を聞くのはつらい。

「--ご主人様…」
風香が起き上がって、さくらの方を心配そうに見つめる。

明美は、風香が余計な事をしないように手を抑えた。

「---くそがぁ!くそがっ!!!
 僕は、、、ぼくは!!!!」

さくらが、目に怒りと涙を浮かべて
ボロボロになりながら叫ぶ。

そしてーーー

「僕はお前らが許せないんだよ!!!!」

そう叫んでカードを2枚引いたーー

それはーーー

電撃がさくらを襲う。

「ぎぃあああああああああああ~~~~!!!!」

今まで以上の悲鳴を上げて、
さくらは、力無く、テーブルにうつ伏せになった。

手のロックが解除される。

「さくら!」
木藤が慌ててさくらに駆け寄る。

さくらの体は痙攣を起こしていた。

「さくら!しっかりしてくれ!さくら!!」

その時だった。

「うるせぇええええええ!」
さくらが叫んで立ち上がった。

目は白目を剥き、
からだはピクピク痙攣している。

それでもー、
オタク男の憎しみがさくらの体を突き動かしていた。

「ゆるさない…!ゆるさない・・・!」
さくらはフラフラした足取りで…
木藤の妹、奈菜にキスをすると、そのまま倒れた。

「貴様!」
木藤が叫ぶ。

妹の奈菜が、うつろな目から、意思のある目に変わって
笑った。

「うははははははははははっ!
 お兄ちゃん!本当っにすっごいね!!!!
 本当にむかつく!!!!」

奈菜がオタク男に憑依された
太ももをベタベタ触りながら、ニヤニヤする奈菜。

さくらは床に倒れたまま痙攣している。

「---お前!奈菜から今すぐ出ろ!」
木藤が叫ぶ。

「--くくくっ!出るわけないでしょ!
 バイバイお兄ちゃん!」

そう言うと奈菜が、店の外に逃げ出した。

「おい待て!」
木藤が後を追う。

奈菜は、真冬なのに、太ももを露出した
ショートパンツ姿で全力疾走していた。

「くそっ…僕の精神ダメージを回復しないと…」

オタク男は電撃でダメージを受けていた。
ここはいったん、この奈菜のからだを使って
しばらく潜伏する必要がある。

「・・・・」
木藤が後を追ってきている。

奈菜は、長い逃亡劇を繰り広げた。

街からはずれー、
デートスポットとして人気な岸壁へとやってきていた。

「はぁっ…はぁっ…」
奈菜が息を切らす…。

「---もう逃がさないぞ…」
木藤が背後から姿を現す。

「いい加減しつこいんだけど!!」
奈菜が怒りを露わにして言った。

「---奈菜、聞こえるか…」
木藤は、妹に語りかけるようにして言う。

「奈菜、お前、将来なりたいものがあるって言ってたよな?
 それなのにいいのか?そんな奴に好き勝手されていて…。」
木藤の言葉を奈菜は不愉快そうに聞いている。

「--俺はお前を信じてる!
 菜奈、そんなやつに負けるな!
 お前は、そんなに弱いやつじゃない!」

木藤が叫ぶようにして言った。

奈菜の背後は、崖になっている。
数十メートル下の海に飲み込まれれば、
このからだは助からない。

「---バッカじゃねぇの!
 何言ったって無駄なんだよ!
 この憑依薬の力は!」

奈菜が叫ぶ。

「ほぅら!この女、ぜ~んぶ僕の思うが儘だ!」

奈菜が唇を舐めたり、
胸を力強く揉んだり、
自分の手のニオイを嗅いでペロペロ舐めたりする。

「---くそっ」
木藤は悔しそうにつぶやく。

「うふふふ♡
 どう、こんなところでエッチなことしてる
 妹の姿は♡
 あはっ♡ はははっ♡ あははははははっ♡」

奈菜が興奮しきった様子で、胸を揉みまくっている。

ショートパンツから、イヤらしい液があふれ出てきている。

「ぐふっ…♡ 興奮してる…♡
 うふふふふふふ」

奈菜が木藤を無視して、快感に身をゆだねている。

「---この屑野郎が!」
木藤は奈菜の方に駆け寄って行って
奈菜の胸倉をつかんだ。

「お兄ちゃん…やめてよ…」
奈菜が弱弱しくそう言うと、
木藤はハッとして手を離した。

「ばーか!」
奈菜が木藤を蹴り飛ばすと、
木藤を力強く、掴み、岸壁の淵まで
持って行った。

「お兄ちゃん…わたしが
 ぶっ殺してあげようか?」

奈菜が狂った目つきで言う。

「奈菜…やめろ・・・」
木藤は背後の岸壁を振り返りながら言う。

「お前は、ここで死ぬんだ!
 贖罪のために!!!
 そして、わたしは、お兄ちゃん殺しの罪を
 着せられちゃうの!うふふふふふ~!」

奈菜が木藤を落とそうとしたその時ー。

「やめなさい!」

背後から明美の声がした。

「---山西さん?」
木藤が驚いて声を出す。

店から数時間の距離のこの場所…
明美も後を追ってきていたのか…?

「ーーさ、、さくらと白崎さんは?」
木藤が尋ねると、明美は笑った。

「二人は、正気を取り戻しましましたよ。
 そいつが、二人から遠い距離に離れたので、
 暗示が解けたんだと思います」

明美は微笑むと、
奈菜の方を見た。

「よくも私の人生を滅茶苦茶にしてくれたわね…!」
明美はそう言うと、奈菜に近づいていく。

「はっ…はは♡ 私を殺すの?突き落とすの?
 わたし、木藤の妹だよ!?
 いいの???」

奈菜が挑発的に叫ぶ。

しかしーーー
明美はーーー

”カマキリ”を、奈菜の口に押し付けた。

「---ひっ…!」

奈菜が驚きに目を見開いたまま、
その場に倒れる。

明美が手につかんだままのカマキリがじたばたしている。

「---へ?」
木藤が唖然としていると、明美は言った。

「私、見たんです。
 オタク男が、友人の男を、バッタに憑依させて踏みつぶすのをー。

 キスすると、人間でも昆虫でも、見境なく、憑依できちゃうみたいですよ」

明美は、
事務所に居たカマキリを持ってきていた。
オタク男を始末するために。

「--私はあなたと違って野蛮なことはしない」
明美がカマキリになったオタク男に語りかけると、

「----消えなさい!」
と叫んで、カマキリを岸壁の下の海めがけて、投げ飛ばした。

「~~~~~~~~~~~~~!」
カマキリは言葉を発することなくー
そのまま、濁流に飲み込まれた。

「---ありがとう」
木藤は奈菜を抱きかかえたまま、
明美にお礼を言った。

「いえ、私、短い間でしたけど、
 このバイト、本当に好きだったので」
明美はそれだけ言うと、立ち去ろうとした。

「--山西さん…大丈夫なのか?」
木藤が尋ねる。

明美も一時期憑依されていた。
大学は退学、友人も失い、ネットに自分のエロ動画が
上がっている。

「---なんとか、なりますよ」
明美はそれだけ言うと、振り返って微笑んだ。

木藤は「そっか…」とだけ言うと、
明美はそのまま立ち去って行った…。

「---お兄ちゃん?」
奈菜が目を覚ました。

「---奈菜…良かった…」
木藤が嬉しそうに言うと、
奈菜が叫んだ。

「きゃああああああああああ!
 な、、何よ!こんな服着せて!」

奈菜が木藤を突き飛ばす。

太ももを露出したショートパンツと
胸元を強調した服…

「---お、、お兄ちゃんのバカ!」
そう叫ぶと、奈菜は逃げるようにして走って行ってしまった。

「ちが!待ってくれ!」
木藤は奈菜の後を追いかけた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1週間後。

店は閉店になった。
暗示をかけられていた本部社員も正気を取り戻したためだ。

病院…。

白崎風香は精神的ショックで入院していた。
高校は退学させられ、親からも見放された。
親は、憑依などというのを信じてくれなかった。

「----」
風香は涙目で、窓の外を見つめていた。

その時だった。

母親と父親が病室にやってきた。

「お父さん…
 お母さん…?」

風香が尋ねると、
二人は目に涙を浮かべていた。

「ごめんね…風香…
 風香の苦しみ、知らなくて…気づいてあげられなくて」

母親は言った。
”憑依されていた”
そのことを信じる気になったのだったー。

”同じバイト先に居た我妻”という人物から
風香の家に手紙が届いたー。
そして、USBが。

USBの中にはオタク男の友人、榊山に憑依されていた風香と
我妻が自宅で喋っている映像が収録されていた。

それを見た両親は、風香はこんなことしない…と、
憑依を受け入れざるを得なかった。

「---お母さん…お父さん…」
風香は涙ながらに、両親たちと抱き合い、
涙を流し続けるのだった。

我妻は何故、風香を助けたのだろう。

あの日、憑依された風香を追い払った後に
我妻は考えた。

そして
”なんとなく”風香を助けてやるか、という気分に
なり、風香が憑依されていたことを、風香の両親に
知らせたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「-----」
木藤は、墓参りをしていた。

死んだ尾崎店長の墓ー。

「--店長、みんなは、無事でしたよ」
木藤が寂しそうに言うと、
背後からさくらが姿を現した。

さくらは、電撃を浴びながらも一命を
取り留めていた。

「・・・俺、店長を助けられなかった」
木藤が悔しそうに言うと、
さくらは悲しそうに微笑んだ。

「--でも、みんなを助けてくれたじゃない…
 木藤さんは…悪くなんかない」

さくらが言うと、
木藤は「ありがとう」とほほ笑む。

「---それで…あの時の返事…」
さくらが言う。

オタク男を葬った日、
木藤は病院に駆けつけて、
さくらにこう呼びかけた。

「さくら!死なないでくれ!
 俺、さくらの事が好きなんだ!だからー」

と、重症だったさくらにそう叫んだー。

「---私も、木藤さんのこと、大好きです」
さくらが、涙ぐみながら微笑んだ。

「色々、迷惑かけちゃいますけど、
 こんな私で良ければー」

さくらが頭を下げる。

さくらも大学を退学させられ、
エロ動画をあげられ、これからの人生、
決して楽なモノではないだろう。

けれど…

「---いいさ」
木藤は、さくらの手を取り、そして優しくさくらを抱きしめた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

海辺…。

冬の海辺に、寂しそうに女子高生が佇んでいる。

可愛らしい女子高生。
彼女は、失恋したばかりのようだ。

海辺で一人、涙を流す。

そこに、
カマキリがやってきた。

「あらー?
 こんなに寒いのに、カマキリさん?」

少女は微笑む。
そして、涙を拭きながらカマキリを手にとり、
見つめた。

「あなたも、私と一緒で
 ひとりぼっちなのね?」

少女は微笑んだー

その直後、カマキリは羽を広げて、少女の口元にとびかかった…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

人気のない、夕暮れの道路ー。

物陰に居た、明美は微笑んだ。

ーーポケットから、何かを取り出す。
手元にあったのは”憑依薬”

「じゃあね!梓沙ちゃん!」
”ターゲット”の女子高生が、友達と別れて、
一人になる。

明美は微笑んだ。

「ごめんね。
 私、新しい人生が欲しいの」

明美はそう呟き、
梓沙と呼ばれた女子高生の方に向かって行った・・・

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

1周年記念でリメイクした暴走憑依男、
ようやく完結までたどり着きました!
ここまでお読み下さり、ありがとうございました!

続きは、皆様の空想の中で…!

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憑依<暴走憑依男>

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