ひとりの不良によって歪められたカップルの幸せ。
彼氏の春樹は、無気力な男に変えられてしまい、
彼女の友香は、不良・和樹のために全てをささげる女にされてしまった。
そしてー友香に飽きた和樹は、友香を捨てた。
無気力なまま、日々を送る春樹。
和樹に捨てられて、自暴自棄になる友香。
引き裂かれた2人の愛、最後のものがたり…。
(本来、もう続きは無かったのですが、
リクエストを頂きましたので、完結編を書きました!)
夏空に消える花(こちら)の完結作です!
—————————-
あの花火大会の日が、
全ての始まりだった。
春樹と友香ー。
二人の初々しいカップルは、
そのまま幸せな日々を送るはずだった。
だがー、
憑依能力を持つ不良グループに目を付けられたあげく、
その不良のひとり、和樹によって、
友香は憑依され、思考を塗りつぶされてしまった。
一生、和樹を愛する、忠実な和樹のしもべとして…。
そして、彼氏の春樹も思考を塗り替えられてしまう。
無気力で、何もする気の起きない、無気力男にー。
冬ー。
友香に”飽きた”不良の和樹は、友香に別れを告げて、
友香を捨てた。
和樹こそ全て。
そう、思考を塗り替えられていた友香は、
”絶望”を味わい、失意のどん底に落とされた。
春樹と友香。
幸せだった2人は、
形は違えど、2人とも、失意のどん底に突き落とされていた・・・
時は流れ…
再び夏がやってきた。
部屋にオルゴールの音色が響き渡る。
”誕生日、おめでとうー”
友香から、送られた手作りのオルゴール。
春樹と友香を模した、オブジェが、くるくると幸せそうに回っている。
「-----」
春樹は、何もする気が起きず、
大学も辞めてしまった。
もう、自分には何もない。
朝、起きて死んだ目で、一日中ぼーっとして過ごして
また、寝る。
ある程度の貯金はあった。
けれど、それももうじき尽きる。
そしたら、そのときはーー。
「-----…友香…」
オルゴールを見つめながら春樹はそう呟いた。
何故か、このオルゴールを見ていると、
胸に熱いものがこみ上げてくる。
大切な”なにかー”
記憶をいじられ、もう、それが”何か”も思い出せない。
けれどー
オルゴールを見ていると
”友香”という名前を思い出す。
「---友香…」
春樹は目から涙を流す。
もう思い出せない大切な”何か”
「----はぁ」
春樹はため息をついて、久しぶりに外へと出かけるのだった。
あの日見た、あの光をもう一度、見るために。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
会場は賑わっていた。
そう、今日は花火大会だった。
ちょうど、1年前、
春樹と友香はこの場所で、二人で花火を楽しんだ。
付き合い出して1ヶ月…、
とても幸せだった。
”あの日”まではー。
友香が不良に憑依されるまでは。
春樹はその、花火大会の会場に、
なんとなく戻ってきていた。
「---花火…か」
春樹はつまらなそうな表情で呟く。
「俺、何でここに来たんだろうな…」
自分は花火を見たかったのだろうか?
いや、別に花火が大好き、ってわけでもない。
では、何故ここに来たのか?
自分でも、よく分からない。
「ーーーまた来年も来ようね?」
可愛らしい声が頭によぎる。
そうだ、”約束”したからー。
1年前、ここで。
”また、来年も花火を見に来る”って…。
でも、誰と?
「----はは、俺、何か大事なこと、
忘れてるのかもな…」
春樹は目に涙を貯めながら呟いた。
ーー和樹によって、記憶をいじられた春樹は
何事にも無気力に、
そして大切な友香のことも忘れさせられてしまっていた。
空に花火があがり始めた。
周囲のカップルや、友達同士で来ている人たち、
家族連れが盛り上がる。
楽しそうに見ている周囲の人間を
冷ややかに見つめつつ、春樹は、ふと目をやった。
端の方で、着物姿で、花火を見つめる
可愛らしい女性の姿があった。
どこか見覚えのあるその姿。
「-----和樹・・・和樹・・・
わたし・・・一人じゃ…生きられないよ…」
不良・和樹によって、
染め上げられてしまった友香だった。
目から涙を流しながら花火を見つめている友香。
和樹に憑依され、思考を歪められ、
人生の全てを和樹のために捧げる女に変えられてしまった友香。
しかし、和樹は身勝手にも、その友香を捨てた。
友香は半年間、
廃人のような状態で過ごしていた。
けれどー。
何故だろう。
この花火大会には来なければいけない気がした。
「--どうか、しましたか?」
気になった春樹が声をかけた。
「---・・・あなたは?」
友香が不思議そうに首をかしげた。
不良・和樹は、別れ際に、友香の春樹の記憶を
封印した。
特に理由はなかった。
けれど、なんとなく、
”心の拠り所”を全て奪ってやりたかった。
不良の和樹は、そうして人が壊れていくのを見るのも大好きだった。
「---いえ、涙流してたので、どうしたのかと」
春樹が笑う。
友香が恥ずかしそうに笑う。
友香は、、和樹に捨てられてから半年、一度も笑うことすらなかった。
けれどー。
なんだか、春樹を前にすると、自然と笑みがこぼれた。
「---ごめんなさい、
私も、よく分からないんです
・・・変ですよね?」
友香が言うと、
春樹は「いや、そんなことないですよ」と言って
花火のほうを見つめた。
春樹と友香。
1年前、この場所で二人は最高の時間を送っていたー。
けれど、今の二人には、もうその記憶がない。
憑依薬で憑依され、歪められ、思い出を奪われた…。
「俺・・・1年前まで、真面目に色々やってたんです。
けど、なんだか急に全てにやる気がなくなって…
大学も辞めてしまった」
春樹が花火を見つめながら続ける。
「----最近はずっと、家に引きこもってた…
でも、、、どうしてかな…。
なんか、今日、ここに来なければいけない気がして…」
春樹が切なく微笑みながら言うと、
友香が言った。
「---奇遇ですね。私もです」
友香が微笑む。
その微笑にはーー
見覚えがあるような気がした。
「私…去年のクリスマスにとっても大事な人に
振られたんです。
わたし、、その人のためなら、何でもしようと思ってました。
たとえどんなことでも…
でも・・・わたし、捨てられちゃった」
友香が涙を流す。
”和樹のために命を捧げる”
そう、不良の和樹に思考を歪められていた彼女は、
和樹に捨てられてからも、ずっと和樹のことを思っていた。
「---ー」
友香の涙を見て、春樹が表情を歪めた。
「---ど、どうかしましたか?」
友香が不安そうに尋ねると、
春樹が「いえ」と答えた。
花火を見ながら思うー
”自分は、大切な何かを忘れているー”
その、何かが、すぐ側にある気がする。
けれどーー
それを思い出すことが、出来ない。
「---あ、すみません。
急に話しかけたりしてーー」
春樹が笑うと、
友香も微笑んだ。
「いいえ。心配してくれてありがとうございます」
春樹が会釈をして立ち去ろうとする。
その時だったー。
かつて友香が去年の春樹の誕生日に送った
オルゴールが、春樹の鞄から、転がり落ちた。
2人の、思い出ーーー。
それが、地面に。
友香がそれを見て、目を見開く。
「---あ、ごめんなさい」
春樹が苦笑いしながらそれを拾う。
「大切な人から、貰ったものなんです
…でも、誰から貰ったのか思い出せなくて」
春樹が言う。
友香はそれを見て思う。
”これ、、、見たことある” とー。
そう、
それは友香が去年、自分で作ったオルゴール。
彼氏である、春樹に送るために作った…。
小さな花火が連続して音を立てている。
春樹が友香のほうを見て微笑む。
「--誰から貰ったか分からない大切なもの、
なんて、変ですよね」
ーーーこの笑顔…
「------!!」
友香は、その笑顔を見て、はっとする…。
この笑顔はーー。
いつも、、、いつまでも一緒に居たいと思える笑顔…。
これはーーー
「---じゃ、お互い花火大会、楽しみましょう」
春樹はそう言って今一度、背を向けて立ち去ろうとした。
「---待って…」
友香が声を出した。
大きな花火の音で、その声はかき消された。
「---待って……行かないで…」
目から涙が溢れる…。
どうして…
どうして、こんな大切なことを忘れていたのだろう…。
どうして…?
友香は、全てを思いだした。
そう、春樹はーーー
自分の大切にするべき人間は不良の和樹なんかじゃない。
自分は、あの男に憑依され、
記憶を塗り替えられて、弄ばれたー。
そして、春樹との大事な絆を、奪われた…。
「---春樹!!!!!!」
友香が叫んだ。
花火にも、負けない声で。
「・・・・え?」
春樹が振り返る。
友香が駆け寄ってきて、
突然、春樹に抱きついた。
春樹は驚いて、慌てた様子で言う。
「ど、、、どうしたんですか急に!?」
ーーーその言葉に、友香は
涙を浮かべながら言った。
「---春樹、、わたし、、
友香よ!」
その言葉に春樹は、混乱する。
”友香”
オルゴールを見るたびに、よぎった名だ。
この子はーーー
「----す、、すみません、
俺、、記憶が曖昧で…」
春樹が言うと、友香が叫んだ
「来年もまた見に来ようねって
約束したじゃない!!!!
思い出して!!!春樹!!」
友香が泣きながら叫んだ。
春樹もーー
あの不良男に、憑依されて記憶をいじられている。
そんなことは分かってる。
けれど、
思い出して欲しかった。
「----来年…も」
花火が大きく爆発音を立てる。
周囲から歓声が聞こえてくる。
「こんな瞬間がずっと続けばいいのになー」
春樹はハッとした。
去年のーーーーーー
去年の花火大会、俺は友香とーーー。
そしてーー
「…と、、、友香…」
春樹も、全てを思い出した。
優しく笑いながら、
春樹は、友香をそのまま抱きしめた。
「そっか…
そうだよな…。
…ごめん、友香。
大切なこと、忘れてたよ…」
春樹が涙を流すー。
そうだー
1年前のあの日、二人で花火大会を見に来て…
”また来年も”って約束したんだー。
春樹は、不良グループに友香が憑依されたことを
思い出したー。
そうだ…
不良の和樹に、無気力な人間に変えられてーー
それでーーー
春樹は”思い出した”
全てをー。
「---春樹…ごめんね…
わたし、、大切にする”樹”を間違えちゃった…」
友香の彼氏は、”和樹”ではなく”春樹”ー。
和樹に憑依されて、和樹に忠実な女に染め上げられてー
そしてーーー自分勝手にも被きは友香を捨てたー。
和樹のことしか考えられなくなっていた友香はーー
”絶望の淵”に居た。
けれどーー
”来年も、また来よう”
その約束だけ、
強く、友香の記憶に残っていた。
だから、春樹のことを忘れていたのにも関わらず、
今日、ここに来た。
それは、春樹にとっても同じこと。
「-----」
春樹が友香の方を見つめる。
1年前よりーー、
随分体つきがいやらしくなってしまった。
あの不良の和樹が好き勝手やっていたのだろう。
視線に気づいた友香が恥ずかしそうに目をそらす。
「--ごめんね…
こんなわたし、イヤだよね…。。。
わたし…あの不良と…」
悲しそうに言う友香。
だが、春樹は微笑んで優しく言った。
「---そんなことないよ。
友香は、どんなになっても、友香だからーーー」
春樹にとって、そんな些細なことはどうでもよかった。
”友香が戻ってきてくれた”
それだけでーー。
花火が空に打ち上がる。
あの時と同じようにー。
綺麗にー。
「----今度はもう、離さないから…」
春樹が涙を流しながら言う。
「--うん、、、ずっと、一緒だよー」
友香も、涙を流しながら、微笑んだー。
そうーーーーー
ずっとーーーー
ずっと、、、一緒だからーーーーーー。
2人はーーー
1年間のときを超えてーー
今、ようやく絆を取り戻したーーー。
花火の輝きが
1年前よりも、綺麗に見えたーーー。
2人の再会を祝福するかのように。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
不良の和樹は・・・。
”ボロ雑巾”のように、
道端に横たわっていた。
クリスマスの日、
友香を捨てた和樹は、
次のターゲットの女子に、憑依した。
けれど、彼はやりすぎてしまった。
憑依した子の父親はーー
裏世界に生きる人間だった。
娘が憑依されたことで、和樹はその男から、
報復を受け、
徹底的に叩きのめされた。
因果応報ー。
今まで、人を傷つけてきた和樹ー。
ついに、その報いを受けるときがきたのだ。
「---く…そ…」
意識が遠のいていくーーーー
自分のしてきたことを反省はしていない。
だが…
手を出す相手を間違えたと…
和樹は心の底から後悔した。
けれど、、
もう遅い。
今更、後悔してもー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
花は散るものー。
けれども、散った花は、また新しい芽となり、
新しい花を咲かせるー。
一度は散った友香という花もまた、
新しい花として咲くことができたー。
多くのものを失った春樹と友香。
それでも、
2人は、一番大切なものを取り戻せたのだったー。
オルゴールを見ながら微笑む二人。
「---お礼言うのに1年もかかっちゃったよ…
ありがとう」
春樹が言う。
これは、去年の誕生日プレゼント。
あれから1年間、2人は地獄の日々を過ごした。
でも、いつかはその1年間も
笑って話せる思い出になるのかもしれない。
「--ふふっ、ありがとう。」
友香は、嬉しそうに春樹を見て微笑んだ…。
2人ならきっと、
つらい1年間の記憶を克服して、
幸せな人生を歩んでいけるだろう…。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
え?ホワイトなまま終わり?何これ?
と思われそうですネ(笑)
・・・実はバットエンド(それもかなり酷い)案もあったのですが、
後味の悪い終わり、というのもなんだかすっきりしない
気がしたので、こんな感じになりました!
春樹と友香は幸せになれると思いますよ!
ありがとうございました~~!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
バッドエンドバージョンもみたいです
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> バッドエンドバージョンもみたいです
バッドエンドバージョン?
実は一度書いたのですが、デリートして
書き直しちゃいました(笑)
直前までどちらにするか迷っていたので…
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> バッドエンドバージョンもみたいです
次の記念アクセス(43万)のときに
バットエンド版を公開することにしました!
楽しみに待っててください!