<入れ替わり>人生最後の告白

余命宣告を受けた祖母ー。

その祖母の元に孫娘が足を運ぶと、
祖母は、とんでもない言葉を口にし始めたー。

それは、今から60年以上も前の”入れ替わり”のお話ー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おばあちゃんー」
孫娘の宮里 美姫(みやざと みき)が、
心配そうにその病室にやってくるとー、
既に80歳を超えて、ある病気で余命宣告を受けている
祖母の幸恵(ゆきえ)が、「おやー…美姫ー」と、
そう言葉を口にして微笑んだー。

「ーーまた、会いに来ちゃったー」
小さい頃、祖母にはよく遊んでもらった記憶があるー。
最近でこそ、小さい頃のようにたくさん会うことは
できなくなってしまっていたけれど、
今でも美姫は祖母・幸恵の身を案じていて、
”余命宣告”のことも知ってからは、
時間の許す限り、こうして祖母の元に足を運んでいたー。

「ーーありがとねー」
幸恵はそう言葉を口にすると、
美姫は穏やかな様子で微笑むー。

もうすぐ、”おばあちゃん”とは会えなくなるー。
そう思うと、涙が溢れそうになるー。

年齢的にも、抱えている病気の病状的にも
もう”限界”であることは明らかで、
奇跡が起きて、また元気になって欲しいとは願っているけれど
その一方で、”そんな奇跡はもう起こらない”ということも
心のどこかで分かってしまっているー…

そんな、辛い状況だったー。

「ーーーー」
けれど、辛い気持ちにならないように、
しんみりとした空気が流れてしまわないようにと、
美姫は、何か話題はないかな?と、病室を見渡すー。

すると、祖母・幸恵のベッドの近くに
”知らない男の人”とのツーショット写真があるのが見えたー。

かなり古い写真に見えるー。
確か、女の人の方は”祖母の若い頃の姿”だったはずで、
前にアルバムか何かで見せてもらったことがあるー。

それを見た美姫は”これを話題にしよう”と、
「ーおばあちゃんー、この写真はー?」と、
そう言葉を口にするー。

祖母・幸恵は弱々しく笑いながら、写真の方を見つめると、
「ーーあぁ、これはねー…ーー」と、考えた後に、
少しだけ間を置いてから、
「ーー雅美(まさみ)には、言わないで貰えるかいー?」と、
そう言葉を口にするー。

”雅美”とは、美姫からすると母親にあたる人物で、
祖母・幸恵の娘にあたる人物だー。

「ーう、うん。わかったー」
美姫がそう言葉を口にすると、
幸恵はその写真を見つめながら笑うー。

「ーこの写真はねー、”わたし”が何者かを忘れないようにするための写真ー。
 ずっと、大事に大事に持っていたのー」

幸恵がそう言葉を口にしながら、その写真をどこか懐かしそうな表情を
浮かべながら見つめるー。

「ーーーーーそれは、おじいちゃんー?」
美姫がそう言葉を口にすると、
幸恵は「ーーこの人は、おじいちゃんじゃないよ」と、
少し苦笑いしながら言うー。

美姫にとってのおじいちゃんー…
幸恵にとっての”夫”である祖父は、
既にこの世にはいないー。

5年ほど前に、先に命を落としているー。

ただ、この写真に若い頃の幸恵と共に写っている男は、
”おじいちゃん”ではないのだと言うー。

「ーーえ~~…じゃあー、初恋の人とか?」
美姫が少し笑いながら、
少しでも明るい空気にしようと、そう言葉を口にするー。

「ふふふふーそうねぇー…
 でもー、そうじゃないのー

 それよりももっと、大事な存在ーかな」

幸恵はそこまで言葉を口にすると、
「この人は、風間 泰樹(かざま やすき)って言うのー」
と、若い頃の美姫と一緒に写真に写っている若い男を指差しながら笑うー。

どこか、恥ずかしそうにしている二人ー。

そんな二人を、美姫は「ーーもっと大事な存在ってー…?」と、
そう言葉を口にしながら見つめると、
幸恵は「ーその人は、”わたし”だったのー」と、
そう言葉を返して来たー。

「ーーー…!?」
美姫は思わず首を傾げるー。

「ーーえ?どういうことー?この風間さんって人が
 わたしだったって…???」

幸恵の言葉の意味が分からず、思わず首を傾げるー。
無理もない反応だ。

すると、幸恵は笑いながら、
「ーー高校生の時まで、わたしは”風間 泰樹”だったの」
と、そう言い放ったー

「ーーーえ…???え…?????」
美姫は頭の上にたくさん「?」を浮かべるー。

「ーーふふふふーごめんね。急にこんな話をしてー」
幸恵は穏やかな口調で言うと、
「ーーおばあちゃんの中身は、この風間 泰樹だってことなのー」と、
若い頃の”泰樹”の写真を指差しながら言うー。

「ーーー…ーー…ご、ごめんおばあちゃんー
 ど、どういうことー?
 わ、わたしにも分かるように説明してほしいな~~…」
美姫は困惑しながらも笑うと、
「ーーーーーあれは何だったかねぇ」と、幸恵はそう言葉を口にしてから、
少し考えると思い出したかのように「あっ!」と、言葉を口にするー。

「ーー”あなたの名は”って知ってる???」
幸恵の言葉に、
美姫は「あ、うん!知ってる!!結構前に流行ってた映画だよね!」と、
笑いながら答えるー。

”あなたの名は”とは、この世界でヒットした
少年と少女が入れ替わってしまう映画のことだー。

「ーーそれがどうかしたの?」
美姫がそう言うと、
幸恵は弱々しく笑いながら言ったー

「あの映画みたいなことを、おばあちゃんは経験してきたの」
とー。

「ーーーえ… えっ…!? えっ!?!?!?」
ようやく、祖母・幸恵が何を言おうとしているのかを理解した美姫は
思わず変な声を出してしまうと、
「えっ!?えっ!?じ、じゃあ、おばあちゃんは元々はー
 こ、こっちの男の子だったってこと!?」と、
そう声を上げるー。

「そういうことになるわねー…」
幸恵は懐かしそうにそう言葉を口にすると、
「わたしと、風間くんは、高校生の時にぶつかって
 入れ替わってしまってー…それきりなの」と、
そう言葉を続ける幸恵。

「もちろん、最初は元に戻る方法をたくさん探したわー
 わたしだって、16年間、男として生きて来たんだから、
 最初はず~っと、”俺は男だ!”って思ってたし、
 女として生きるなんてごめんだーって、そう思ってたから」

幸恵はそこまで言うと、
少しだけ懐かしそうに笑うー

「けどー。わたしも、風間くんもーーーー」
そこまで言いかけて、幸恵は
「”元自分”のことを、他人みたいに呼ぶのって変よねー」と、
そう言葉を口にしながら、美姫の方を見ると、
美姫は少し驚いたような表情を浮かべながらも、
「変じゃないよー。もう少し聞きたい」と、
話の先を促すー。

「ーー…ふふーーー」
幸恵は少しだけ笑うと、話を続けるー。

「わたしも、風間くんも、
 時間が経つにつれてだんだんと入れ替わった状態のままー
 ーー要するに、今の状態のまま生きることに
 慣れて来てしまってねー。

 大学生に通ってる頃には
 もうすっかりわたしは女子大生で、風間くんは男子大学生になってたー。

 最初はお互いに、あんなに”絶対に元に戻るんだから”ってそう言ったのにー。

 不思議よねー。
 人間って、その環境にずーっといると、すぐにそれに慣れて来ちゃうー」

幸恵はそこまで言うと、「それからは、おじいちゃんと出会って結婚してー、
それであなたのお母さんが生まれて、あなたが生まれてー、ってことねー」と、
入れ替わった後の、今に至るまでの人生を簡潔に振り返り終えると、
穏やかな口調でそう言葉を口にしたー。

「ーーーーーーー」
全ての話を聞き終えた美姫は、戸惑いの表情を浮かべながら、
沈黙しているー。

そんな様子を見て、幸恵は「ごめんね。こんな話をしてしまって」と、
申し訳なさそうに笑うー。

「ーーーう、ううんー…別に全然大丈夫だよ」
美姫はそう言葉を口にすると、
幸恵はかつての自分ー…”風間 泰樹”が写っている写真の方を
どこか寂し気な表情で見つめるー。

「ーーどうして、その話をしようと思ったの?」
ふと、美姫が不思議そうに呟くー。

その言葉を聞いて、幸恵は少しだけ笑うと、
「どうしてかしらねー」と、苦笑いする。

今まで60年以上も、入れ替わったことを
誰にも話してこなかったー。

それなのに、なぜ?と幸恵自身も不思議に思いながら
自分の中で答えを見つけると、少しだけ微笑む。

「誰かにこのことを知っておいて貰いたかったのかもねー。」
そう言葉を口にする幸恵。

自分が自分であることを忘れないようにと、
ずっと大切に持ち続けて来たこの写真。

どこかで、幸恵自身、まだ”風間 泰樹”としての自分にも
何か未練があって、
自分がこのまま”風間 泰樹”であることを誰も知らないまま
死ぬことを、寂しく思ったのかもしれない。

「ー…そっかー」
美姫は、納得したような様子で頷くと、
幸恵は「こんな話だけど、信じてくれるのかい?」と、
少しだけ笑いながら呟く。

「ーーーうん。信じる、だってー」
美姫はそう言うと、祖母・幸恵の方を見つめながら微笑んだー

「だって、おばあちゃん、わたしに嘘なんてつかないもんー」
とー。

その言葉を聞くと幸恵は少しだけ嬉しそうに笑いながら
「ーーでも、わたしは今まで美姫にもこのことを黙って来たんだからー、
 嘘つきよ」と、そう呟く。

すると、美姫は優しく首を横に振ったー。

「今まで一度もそんなことわたしから聞いたことないもんー
 だから、嘘つきじゃないよ」
とー。

美姫が”おばあちゃん、中身は違う人だよね?”と聞いて、
幸恵が”そんなことないわよ~”と、返事をしたことがあるなら
確かにそれは”嘘つき”だー。

けれど、美姫はおばあちゃんにそんな質問をしたことがないし、
会話に出たこともなかったから、それは”嘘つき”ではない。

「ーーふふ、そうねー」
幸恵は満足した表情でそう呟くと、
美姫に対して「今日は来てくれてありがとう」と、
穏やかな口調で言葉を口にする。

そんな言葉に、美姫も少しだけ嬉しそうにしながら
「また来るからねー。おばあちゃん」と、
そう言葉を口にした。

そしてー…
それから1週間ちょっとが経過したある日ー、
祖母・幸恵は穏やかに息を引き取ったー。

自分が本当は”風間 泰樹”という人間であることを
最後に”誰か”に知ってもらいたかったー。

美姫の祖母・幸恵は、そんな思いで、
美姫を混乱させてしまうことはには申し訳ないと思いつつ、
60年以上も前の入れ替わりのことを打ち明けたのだったー。

「ーーおばあちゃんー」
美姫は、祖母・幸恵の葬式の最中に
静かにそう言葉を口にすると、
「ーーおばあちゃんとの秘密は、ちゃんと守るからねー」と、
祖母が60年以上も前に入れ替わっていることは
”わたしだけの秘密”にしておくことを改めて誓うと、
穏やかな表情で微笑んだー。

そしてーー

「ーでも、びっくりしたなぁ~…」
美姫はそこまで呟くと、思わず苦笑いするー。

「ーーまさか”わたし”と同じだったなんてー」
とー。

「ーー…わたしも、山岡(やまおか)くんと、
 ずっとこのままなのかなー?」

祖母・幸恵は知らないー。
孫娘の美姫も、”5年前”に同じクラスの男子と入れ替わっていて
誰にも言わずに生きていることをー。

既に美姫も、”中身”は山岡という男子なのに、
元自分のことを”山岡くん”と呼ぶぐらいには
今の身体に馴染んでいるー。

”「ーーーうん。信じる、だってー」”
あの日ー、祖母・幸恵から打ち明けられた日、
つい、”わたしもー”と、口走りそうになったことを
美姫は思い出すー。

けれど、思い留まったー。
そんなことを言ったら、”おばあちゃん”を心配させてしまうだけだからー。

「ーーーわたしもこの先、どうなるか分からないけど、頑張るねー」
美姫はそう言葉を口にすると、
祖母・幸恵のことを思いながら、
穏やかな表情を浮かべるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーやっと、元に戻れたねー」

「ーーーあぁー」

死後の世界ーー

そこで、祖母・幸恵と、入れ替わり相手の泰樹は
ようやく”自分の姿”に戻ることが出来ていたー。

二人は、懐かしいような、不思議なような、
色々な気持ちになりながらも、
久しぶりに自分の姿になって、嬉しそうに微笑んだー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

入れ替わりから60年以上も経過している
おばあちゃんの物語でした~!★

ここまで長く入れ替わっていると、
もう、入れ替わり後が自分になっちゃいますよネ~!★

お読み下さり、ありがとうございました~~!

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コメント

  1. ひろ より:

    入れ替わって60年ってなかなか無いので素敵な作品でした。
    お孫さんの年齢は何歳なんでしょう?
    もうすぐ入れ替わって15年の某映画が公開されるのでそれを楽しみにしてます

    • 無名 より:

      ひろ様~!☆
      感想ありがとうございます~~!!
      入れ替わり映画も楽しみですネ~!!

      孫の年齢は高校生~大学生ぐらいのイメージデス~!!
      おばあちゃん80代⇒母50前後⇒娘
      いずれも母親が30ちょっとぐらいの子供な感じデス~!!

  2. 匿名 より:

    孫娘の方も実は祖母と同じ状況なのは意表を突かれましたね!

    もしかしたら、娘の雅美も、ずっと前の少女時代にでも、実は誰かと入れ替わったままという可能性もありそうですよね☆

    • 無名 より:

      感想ありがとうございます~~~!☆☆!

      間の娘(お母さん)も確かに入れ替わっちゃってるかもですネ~笑