彼氏が事故で命を落としてしまったー。
しかし、その彼氏の魂は彼女に宿り、
互いに同意の上で共同生活を送っていた。
が、それから半年後、
”このままの状態ではいられない”ということを
二人は知りー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今度の休みはどうする?
あの映画見に行く?」
女子大生の井浦 希海(いうら のぞみ)が、
楽しそうにそう言葉を口にするー。
「え?あ~、そっか~
上映初日だと混んでるよね~」
希海は続けてそんな言葉を口にするー。
しかし、希海の家には
希海以外誰かがいる様子はない。
彼女は実家を離れて一人暮らしをしているために、
家の中には彼女以外、誰もいないのだ。
「じゃあ、映画は来週にする?」
それでも、一人で喋り続ける希海。
その手にはスマホが握られているわけでもなく、
パソコンを使ってチャットを楽しんでいたりするわけでもない。
それでも、誰かと喋っているような言葉を
一人で呟き続けている希海。
その光景は事情を知らない人間が見たら
”異常”にしか見えない不気味な光景だった。
けれどー、希海は頭がおかしくなってしまったわけではないし、
人には見えない幻覚が見えているわけでもない。
希海の”中”には、
希海と同じ大学に通っていた男子大学生で、
希海の彼氏である宇喜田 俊哉(うきた としや)という男の魂が
”憑依”する形で同居していたー。
今、希海はその俊哉と会話をしているのだー。
”ーーあ、そうだー。そろそろ洗濯物取り込んだ方がいいんじゃないか?
今日はこのあと、雨の予報だったし、
そろそろ振りそうな感じしてきたしー”
俊哉が希海の内側でそう言葉を口にすると、
希海も窓の外に広がる空模様を見つめながら
「あ、ホントだー」と、俊哉の言葉に頷くー
”俺がやっとくよー。希海は休んで”
俊哉が内側からそう言葉を口にすると、
希海も”日常茶飯事”かのように
「うん、ありがとう!よろしくねー」と、
そう言葉を口にしてから、ビクッと震えたー。
「ーーさて、とー」
”表”に出て来て、希海の身体を自由に
動かすことができるようになった俊哉は、
洗濯物をしまうために立ち上がるー。
希海は大学帰りであるために、
俊哉が、希海を少しでも楽させてあげようと、
代わりに洗濯物をしまい始めるー。
”ごめんねー。色々手伝って貰っちゃってー”
今度は逆に、希海の意識が”内側”に戻って
そう言葉を口にすると、
希海の身体を動かしている俊哉は、
「ははー、いいさいいさ。最近、体調もあまり優れないみたいだし」と、
そう言葉を口にするー。
”ーーふふー。ありがとうー
早くわたしも元気にならないとねー”
希海の意識がそんな風に答えると、俊哉は希海の身体で
「あぁー。でも、焦らずになー」と、そう笑うー。
”じゃあ、わたし、少し休んでるね”
希海の意識のそんな言葉に、俊哉は「あぁ」と、
希海の声で答えるー。
希海の意識の気配が消えて、
希海の意識が内側で眠りについたことを悟ると、
俊哉は、希海の身体でしっかりと洗濯物を取り込んで、
畳んでいくー。
俊哉は、彼女である”希海”に憑依しているー。
がー、
別に下心から希海に憑依したわけではないし、
そもそも俊哉自身が”こうなること”を望んだわけでもない。
”こうなって”しまったのだー。
半年前ー。
俊哉は彼女の希海が体調不良で高熱を出した際に、
”希海のために”と、色々な食料や、体調不良の際にいいものを
購入して、希海の家に持って行ったー。
しかし、その帰りに
俊哉は居眠り運転で暴走した車によって
追突されて、あっけなく命を落としてしまったー。
追突されて、重体となって
意識が途切れるまでのわずかな間、
俊哉はひたすらに”希海”のことを想い続けたー。
彼氏である彼は、希海の性格をよく知っていたー。
”看病のために”
希海の家に足を運んだ帰りに巻き込まれた事故。
希海がそれを知れば
希海は必ず自分を責めるー。
”わたしのせい”だと、希海は
自分のことを責めて、責めて、責めてしまうー。
「くそっー………」
俊哉は、希海のことをひたすらに心配して、
苦しそうに言葉を吐き出すー。
このままじゃ、希海が自分を責めてしまうー。
だから、死ぬわけには行かないー。
希海のためにも、絶対に…。
俊哉は、ボロボロの身体で
最後の瞬間まで、そんなことをずっと考えていた。
けれど、その想いは届かずに、
俊哉は救急車が到着する前に息絶えてしまい、
救急隊員の到着直後に、その場で死亡が確認されたー。
そして、俊哉の”イヤな予感”は、
やはりと言うべきなのだろうかー
的中してしまっていた。
希海のために色々なものを買ってきてくれて、
色々手伝ってもくれた俊哉が帰宅する最中に
”事故”に巻き込まれて死亡したということを知った希海は、
俊哉自身の死にも当然悲しみつつ、
それ以上に、”わたしのせいでー”と、酷く落ち込んでしまったー。
希海が高熱を出したりしていなければ
あの日、俊哉は希海の家に来る予定はなかった。
つまり、希海が高熱を出しさえしてなければ
少なくともあの日、居眠り運転で車が暴走したあの現場には、
俊哉は”いなかった”はずなのだー。
だからこそ、彼女は
自分を責めたー。
彼氏を失ったショックも合わさって、
必要以上にショックを受けてしまった彼女は
塞ぎ込んでしまいー…
やがてー…
「ーーーごめんねー。わたしも、責任を取るからー」
希海は、自ら命を絶とうとまでしてしまっていたー。
が、そんな希海の状況に
”俊哉”の霊が引き寄せられたのか、
俊哉は気づいた時には、
自ら飛び降りようとしている希海のすぐ側を
幽霊の状態で漂っていたー。
”ーー!?!?!?!?”
死んだあと、意識が途切れていた俊哉は、
状況も理解できぬまま、
飛び降りようとしている希海を目の当たりにして、
咄嗟に「お、おい!希海!やめろ!」と叫ぶー。
けれど、俊哉は幽霊ー。
希海にその言葉は届かずー、
希海は目から涙をこぼしながら呟くー。
「俊哉ー。わたしのせいでごめんなさいー。
わたしも今、責任を取ってそっちに行くからー」
とー。
その呟きを聞いた俊哉は
「そ、そんなこと俺は望んでないし、
希海が悪いとも思ってない!」と叫ぶー。
けれど、やっぱりその言葉は届かず、
俊哉は戸惑った末に、何とか希海を止めようと
希海の身体に突進したー。
そしてーー
俊哉の”幽霊”は希海の身体に吸い込まれるようにして
吸収され、
希海に”憑依”してしまったー。
「ーーーえっ…あ、あれ!?」
希海に憑依してしまった俊哉が、
身体の感覚が復活して戸惑いの表情を浮かべつつ、
”希海の口”でそう言葉を発すると、
希海の意識が”えっ…わ、わたしー…?あ、あれ?”と、
自分の身体の自由が効かなくなったことに
逆に驚くような言葉を口にするー。
「ーお、俺が希海にー…?」
希海に憑依してしまった俊哉は、驚きながら
希海のー…いや、今は”自分”の両手を見つめると、
すぐに言葉を続けたー。
「ーの、希海ー…聞こえるかー?」
希海の口でそう言葉を口にする俊哉ー。
希海に”憑依”できてしまった後も、
希海の声が聞こえたー。
きっと、こちらの言葉も届くに違いない、と、
そう思いつつ、希海の返事を待つー。
すると、希海は
”ーーえ……だ、誰…?”と、
自分の身体を動かしている”誰か”に対して
確認の言葉を口にする。
「ーー希海ー落ち着いて聞いてくれー。
俺だ。俊哉だー」
希海の身体で、俊哉は慌ててそう説明すると、
”意識を取り戻したら希海の側にいて、
希海が死のうとしているのが見えたから
慌てて止めようとしたらこうなった”
と、そのことを簡単に説明したー。
その上で
「ー死ぬなんて…、2度と考えないでほしいー」
と、そう言葉を続けるー。
”ーーと、俊哉ー…ご、ごめんー…でも、わたしー…”
希海の意識が、自由にならない身体の中で
申し訳なさそうにそう言葉を口にすると、
「ー希海なら、絶対に自分のこと責めると思ってたー」と、
苦笑いしながら言うー。
事故に巻き込まれて、死ぬ瞬間まで
”希海が自分を責めるんじゃないか”と、
そのことばかり心配していたー、とー。
”ーーーー…あははー……
俊哉に心配された通りの行動をしちゃってたってことだねー…”
希海の意識は思わず自虐的に笑う。
「ーー…ーーははー希海のことはよく分かってるからー…
でもー…さっきも言った通り、
もう、こんなこと考えないでほしいー」
希海の身体で、俊哉がそう言葉を口にすると、
「俺は、希海が俺のあとを追って死んだりしたら、
それが一番悲しいし、
そんなこと絶対にしないでほしい」と、
素直に、その本音を伝える。
”ーーーーー…”
本音を伝えられた希海は
”ーーーわかったー…ごめんなさいー”と、
そう言葉を口にするー。
どこかで”俊哉が生きていたならー”
今のわたしの状況を悲しむだろうし、怒るだろうと、
希海もそうは思っていたー。
そして、実際に俊哉にそう言われると
その言葉には何よりも強い説得力を感じたー。
「ーーあ、ごめんなー。
こんな風に希海に入り込むつもりじゃなかったんだけどー
希海を止めようと必死でー」
俊哉は、希海に憑依してしまったことを詫びると、
希海の意識は”ううんー。会えて嬉しいー”と、そう言葉を口にしたー。
「ーはは、俺もだよー。
ーー…じゃーー…希海、頑張れよー俺は見守ってるから」
希海の身体で俊哉はそれだけ言葉を口にすると、
希海の中から抜け出そうとするー。
”方法は分からない”けど、きっとどうにか希海の身体から
”外”に出ることはできるはずだー。
がー
”待って!”
希海の意識がそう叫ぶと、
”ーわたしの身体で、一緒に過ごすことはできないー?
人生、半分ずつにする感じでー”
と、希海の意識は立ち去ろうとしているであろう俊哉の意識を呼び止めたー。
「ー!?」
希海に憑依している俊哉は、
希海の思わぬ提案に驚くー。
そして、それがーー…
”今”に至るまでの”希海”と、”死んだ彼氏”が、
お互いに希海の身体を使っているー、
そんな生活の始まりだったー。
「ーーー」
半年前のことを思いながら、洗濯物を片付け終えた希海に
憑依している俊哉は、少しだけ溜息を吐き出すー。
”希海と俊哉”がこの状態であることを知っている人間が
”一人”だけいるー。
「ーーーー」
それはー、俊哉の父親であり、医師でもある宇喜田 竜司(うきた りゅうじ)ー。
竜司は、俊哉に対して医師を継ぐ必要はない、といつも言っていて
”医師になりたければ目指せばいいし、なりたくなければ他の道に進め”と、
あくまでも息子である俊哉の意思を尊重、
その上で色々支えてくれている、穏やかな雰囲気の父親だったー。
俊哉が、希海に憑依してしまったあとも、
”父さんなら力になってくれるはずだから”と、希海の同意を得た上で
事情を説明、
父・竜司は希海に対して”申し訳ない”としつつも、
希海本人が”わたしが望んだことですのでー”と、そう説明し、
それ以降は”定期的に診察”を受けつつ、
経過観察をしていたー。
”幽霊”の状態となった俊哉が、ずっと希海に留まることで、
俊哉、あるいは希海に何か異常が起きないかどうか、
それを確認するためだー。
”希海の身体に負担を掛けたくない”
そう思っている俊哉自身が望んだことで、
希海や、俊哉の父・竜司もその考えに賛成するような形で
経過観察を行っていたー。
しかし、幸いなことに半年が経過しても異常は起きず、
二人は”普通ではあり得ないけれど”円満な生活を送っていたー。
がー…
その幸せは、壊されたー。
翌日ー。
ちょうど、”診察”を受ける日だった希海は、
俊哉の父・竜司の診察室で、ある言葉を投げつけられていたー。
「ー今、何て?」
希海の身体で、俊哉がそう確認するー。
「このままでは、井浦 希海さんの精神は消えるー
そう言ったんだー」
俊哉の父・竜司はそう言葉を口にするー。
「ーーえ……」
呆然とする俊哉ー。
そうー、”ずっとこのままではいられない”ー。
いつかはそうなるとは思っていたけれどー、
この半年、何事もなかったから、
つい、”このままずっと一緒にいられるのではないか”と、
希海と俊哉の二人はそう思い始めてしまっていたー
けれどこの日、二人は
”どちらかが消えないといけない”ー
そんな、過酷な現実を知ることになってしまったのだったー
②へ続く
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コメント
いつまでも一緒に……★
…とはいかない憑依モノデス~!!
難しい選択を迫られそうですネ~…!!!
続きはまた明日デス~!!

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