”ずっと一緒にはいられない”
事故により、彼氏が命を落としてから半年ー。
彼氏の霊が彼女に宿る形で、
二人は生活を続けて来たー。
けれど、その”奇跡の時間”も間もなく終わりを
迎えようとしていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー希海ー」
俊哉の父・竜司の病院にやってきた
希海に憑依している俊哉は、
そう言葉を口にすると、
「ーー今までありがとうー」と、
改めてそんな感謝の言葉を口にしたー
”ーー俊哉ー”
希海の意識は、心底悲しそうにそう言葉を口にするー。
「ーー俺が伝えたいこと、全部伝えることができてよかったー」
希海の身体で、改めて俊哉は満足そうに呟くー。
”ーーうんー…俊哉を不安にさせないようにー…
わたし、頑張るから…”
俊哉が消えてしまうー。
そのことを知らされて、最初は激しく動揺していた希海ー。
けれど、何とか今はその運命を受け入れて、
”俊哉を心配させないように、送り出してあげなくちゃ”と、
そんな風に思っていたー。
「ーーははーありがとうー
これで、今度こそ安心してあの世に行けそうだなー
ーーどんなところかは分からないけど」
希海の身体で、俊哉は少しだけ寂しそうに笑うと、
「意外と設備が整ってたりしてな?」と、冗談めいた口調で言う。
そして、改めて真剣な表情を浮かべると、
「希海ー。ありがとう。この先も元気でな」と、希海の身体で
そう言葉を口にするー。
”ーうんー…頑張るー。
俊哉も、頑張って”
希海の意識が意を決したように、
内側からそう言葉を口にすると、
希海の身体で俊哉は「自分の身体で別れを言えないのは
ちょっと複雑だけど」と、そう言葉を口にしたー。
その上で、父・竜司の方を見つめると、
「ー父さんも色々大変だったよなー?
ありがとう」と、希海の身体でそう言葉を口にするー。
「ーーはははー…身体は変わっても、
お前は、お前だなー俊哉」
父・竜司はそう笑うー。
「ー…父さんより先に死んじゃってごめんなー
こういうの、親不孝って言うんだよなー?」
希海の身体で、なおも悲しそうにそう言葉を口にすると、
「ーーいいやー。お前は立派な息子だ。私の誇りだ」と、
父・竜司はそう言葉を口にした。
「ーーありがとうー父さん。元気で」
希海の身体のまま、俊哉はそう呟くと、
父・竜司と別れの抱擁を交わそうとしたー。
がー、父・竜司は苦笑いしながら
「おいおい、希海さんの身体だろう?」と、そう指摘すると、
希海に憑依している俊哉は
「あ、そうだったー、ごめん!希海!」と、
思い出したかのようにして慌てて言葉を口にしたー。
内側からそれを見ていた希海は、思わず笑うと、
「ーいいよ」と、自分の口でそう伝えるー。
最後の親子の別れぐらい、しっかりさせてあげたいー。
希海のそんな気持ちを受け取った俊哉は、
希海の身体で、父・竜司と最後の抱擁を交わすと、
父・竜司は少し戸惑いながらも、
「お前なら、”あっち”でも上手くやれるさ」と、
そう力強く言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
希海、そして父・竜司と最後の別れを済ませた
俊哉は、
「よし、じゃあ、行くよ。希海。父さんー。元気で」と、
希海の身体でそう言葉を吐き出すと、
深呼吸をしたー
希海の身体から抜け出すイメージをして、
そのまま希海の身体から出ようとする俊哉ー。
最初に希海に憑依してしまった日に、
希海に呼び止められるまで”半分ぐらい”希海から
出た感触があったために、この方法で希海の身体から
外に出ることができるはずだったー。
もちろん、今日を迎えるまでに”試そう”という話し合いも
父・竜司としてはいたものの、
”一度外に出れば、希海さんの身体の中に戻れる保証はない”と、
父・竜司から言われていたために、
今日まで”希海の身体から出ようとする”ことは
試していなかったー。
確かに、希海に憑依することができてしまったのも
”奇跡”と表現するべきような、
そんな状況だったのかもしれないー。
だからこそ、その奇跡を大事に”残りの半月間”を楽しんで来た。
後悔のないように。
”ーーよし、希海の身体から外に出れそうだー”
俊哉は、そんなことを考えながら
順調に希海の身体から”離脱”しようとしていたー。
言葉には言い表しがたい感覚であるものの、
順調に”希海の身体から外に出ている”そんな感触を覚えていた。
”半分ぐらい”出たところだろうかー。
そう思いつつ、俊哉は”自分の残り半分”も、
希海の外に出そうと、そう気持ちを整えていくー。
がー、その時、”それ”は起きたー。
”ーーー!?!?!?”
突然、希海の身体から抜け出そうとしていた
俊哉の霊体が、”謎の力”によって引っ張られ始めたのだー。
”ーーー!!!”
俊哉の霊体が、希海の外に出ていくどころか、
再び希海の中に引っ張られていくー。
その状況に、俊哉は”俺はー…俺はいつまでもここにいちゃいけないんだ”と
何とか外に飛び出そうとすると同時に、
父・竜司から事前に言われていた言葉を思い出すー。
”ーもしかしたら、だが…”
3日前ー。
父・竜司と最後の打ち合わせをしていた際に
父・竜司は希海に憑依している俊哉のほうを見て、険しい表情を
浮かべながら言葉を口にしたー。
”そのまますんなりと、希海さんの身体から出ることができればいいがー、
そう上手くはいかないかもしれない”
その言葉に、
”どうしてー?”と、希海の身体で俊哉はそう返すー。
”ー強い未練や想いがあると成仏できずにそのまま留まってしまうー。
ーー私は医師だから、そういう心霊的な現象には詳しくはないが、
そういうこともあるのだとすればー
身体から出ようとしても、身体に引きずり込まれるかもしれない”
父・竜司のそんな言葉に、希海に憑依している俊哉は思わず笑ったー。
”ははー、父さんー。もう俺は覚悟はできてるー。
希海に伝えたいことも伝えて、分かって貰えたし、
この半年で、また希海とたくさん思い出を作ることができたー。
もう、未練なんてないさー”
俊哉は、”俺は覚悟はできている”と、そう言葉を口にするー。
しかし、父・竜司は首を横に振ると
険しい表情を浮かべながら言葉を続けたー。
”いや、そうではないー”
とー。
”え?”
希海の身体で俊哉が首を傾げると、
父・竜司は”ー希海さんの方だー”と、そう言葉を口にするー。
”希海さんは、確かにお前を送り出す決意を決めてくれている。
だがー、潜在意識のどこかで”行かないで”という思いが残っている場合ー…
お前のことを”縛る”かもしれないー。
希海さん本人は望んでいなくても、無意識のうちに
まだ”行かないで”という気持ちが残っていた場合ー
お前が抜け出そうとしたときに、何か”想定外の出来事”が
起きる可能性があるー”
父・竜司はそう言ったー。
”ーーーーー”
希海に憑依している俊哉は少しだけ考え込むと、
少ししてから、言葉を口にしたー。
ーーその時のことを思い出しながら
再び、”希海の身体”に引っ張られ始めた俊哉の霊体ー。
希海本人も「えっ…!?と、俊哉ー!?どうして!?」と、
そう言葉を口にするー。
が、希海の潜在意識に残っている俊哉への未練が、
俊哉を希海の身体に引きずりこみー、”憑依”から抜け出せないように
しようとするー。
もちろん、このまま俊哉が希海の身体に戻り、
希海の中で過ごすようなことがあれば、父・竜司の言う通り、
希海の精神は衰弱し、最後には消滅してしまうー。
”俺は、希海の身体から出るんだー”
俊哉は”希海のために”と、心の中で強くそう思うと
もう一度希海の身体から抜け出そうとするー。
けれど、やはり”希海の潜在意識”がそれを拒むー。
希海本人が、俊哉の成仏を受け入れようとしていたー。
けれど、どこかで、無意識のうちに
それを拒む意思も残っていて、
それが俊哉の離脱を邪魔していた。
”ーーーーダメだー”
俊哉は心の中でそう呟く。
どんなに希海の身体から離脱をしようとしても
抜け出すことができないー。
抜け出そうとすればするほど、
希海の方に引っ張られていく。
そして、その時だったー。
「ーーいかん」
父・竜司が希海のほうを見つめながらそう言葉を口にしたー。
希海の周囲に煙のようなものが現れ始めるー。
「ーー俊哉が”悪霊”になりかけているー。
早く、早く、俊哉を外へ!」
竜司がそう叫ぶと、
希海は「ど、どういうことですかー!?」と、困惑の表情を浮かべるー。
「成仏する直前ー、恐怖心やわずかに残った未練から
悪意に飲み込まれてしまうことがあると、そう聞いたことがあるー。
このままの状況が続けば、
希海さんー。君の身体も壊れて、俊哉も俊哉ではいられなくなるかもしれない」
父・竜司のその言葉に、
希海は「そ、そんなー」と、表情を歪めるー。
それと同時に「俺はーー…俺はーーーぐぐぐぐぐぐ」と、
希海の口で、勝手にそんな言葉が発されたー。
「と、俊哉ーーー」
希海は恐怖を感じると同時に、”何とかしなくちゃ”と、そう思うー。
父・竜司も「俊哉!希海さんから出るんだ!」と、
そう言葉を口にするー。
それと同時に、希海は”自分の身体の自由”が消えていく気配を感じたー。
どんどん手や足、身体の部分部分の自由が効かなくなっていくー。
今まで希海は、俊哉が自分に憑依して”恐怖”を感じたことはなかったー。
けれど、希海は今、初めて恐怖を感じたー。
自分がこのまま消えてしまうかもしれない恐怖ー。
そして、俊哉が俊哉でなくなってしまうかもしれない恐怖ー。
「俊哉ーダメーー…」
希海は自由を奪われる中、そう言葉を口にしたー。
「俊哉ーーー…わたしの身体から出てってー!」
”一緒にいたくない”わけではないー。
でも、このまま俊哉が”悪霊”になって、
俊哉が俊哉でなくなってしまうー、というのは
我慢できなかったー。
例え死んでも、俊哉には俊哉でいて欲しかったー。
希海は、それだけをただひたすらに、
強く強く願ったー。
そしてー…
「ーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
希海の強い願いが、俊哉の霊体を弾き飛ばしたー。
希海の身体から追い出された俊哉ー。
自分の身体の危機に、俊哉の危機に、
希海の潜在意識が、俊哉を拒んだことで、
俊哉の霊体を囚えていたものがなくなり、
俊哉は外に出ることができたのだー。
”希海ー。ありがとうー”
俊哉の霊は、穏やかに笑っていたー。
霊は見えないはずなのに、
希海にも、竜司にも、確かにその姿が見えたー
「俊哉!!」
希海がそう言葉を口にすると、
”ーいつも見守ってるー。幸せになー”と、
俊哉はそう言葉を口にして、
それから、父・竜司のほうを見つめると、
言葉は発さずに、静かに頷いて、
父・竜司もそれを返した。
俊哉はそのまま光の雫のようになって、消滅した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
希海は、前とは違い、俊哉がいなくなっても
後ろ向きになることはなく、
前向きに歩み始めていたー。
全ては、俊哉との約束を守るためー。
この日も、俊哉の父・竜司の診察を受けて
”憑依状態が解消されたあと”に体調に異変が起きていないことを
確認すると、
前とは違い、穏やかな表情で色々なことを話していたー。
希海が帰っていくと、
俊哉の父・竜司は俊哉の写真を見つめるー。
”父さんーお願いがあるんだー。
もしも、希海から抜け出そうとしたとき、
想定外の出来事が起きたらーーー
俺、”悪霊”になるから、上手く話を合わせてほしいー”
希海に憑依していた俊哉は、直前に
”二人きり”で話したいと、希海の意識を眠らせた状態で
話している際に、希海の潜在意識に縛られて
抜け出せないかもしれないとそう言われた際に
そんな風に答えていたー
”悪霊にー?”
竜司が言うと、希海の身体で俊哉は笑うー。
”ちょっと強引なやり方かもだけどー、
そうすれば、希海の潜在意識っていうのが
俺が出ていくのを拒んでも、出ていけるんじゃないかなーってさ”
俊哉のそんな言葉に、
父・竜司は静かに頷くと”わかったー。もしもの時はーそうしよう”と、
そう言葉を口にしたー。
俊哉が成仏したあの日ー
わざわざ診察室の椅子に無害な煙を発生させる装置まで用意して、
”俊哉の悪霊化”を演出したー。
結果、見事に俊哉と竜司の演技は成功して、
俊哉は無事に成仏できたー。
「ーーーー」
竜司はそんなことを思い出しながら、
俊哉の写真を見つめると、
「希海さんは、ちゃんと前に進み始めたぞー」と、
そんな言葉を口にするのだったー。
おわり
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コメント
無事に成仏することができる結末でした~!★
大好きな彼といっしょに…は、無理でしたケド、
前向きに進むことはできそうですネ~!
お読み下さり、ありがとうございました★!
★作品一覧★

コメント
俊哉は無事に成仏できて良かったですネ☆
1つのカラダに2つの魂、同居は難しいですネ!★
自分の場合は
自分好みのレースクイーンの娘に憑依して成仏する気もないのでレースクイーンの娘に成りすまして第2の人生のスタートなのデス~(^_-)☆笑
感想ありがとうございます~~!☆
わわわっ!
身体をそのまま奪っちゃうTSマニアさま~~!!
今までに何度か、この話の類似タイプの話が他にありましたが、この話みたいに彼氏が悪役ぶって彼女の身体を奪う演技をするような善良な性格で、一応、ハッピーエンドな物ばかりだったので、彼氏が彼女の身体を奪って第2の人生を始めちゃうような本当にダークな展開の物もたまには見てみたいですね☆
あと、今までは死んだ彼氏→彼女ばっかりなので、逆に死んだ彼女→彼氏に憑依みたいな物を見てみたい気もします。確か、そういう話は今までなかったと思うので。
感想ありがとうございます~~!☆
確かに乗っ取っちゃうタイプも
いいかもですネ~!!
(ちょっと違うタイプのお話ではあったかもしれません~笑)
彼女⇒彼氏…!
それも面白そうですネ~!!
アイデア感謝デス~!!