事故で命を落とした彼が、
霊となって帰って来たー。
”憑依”で、一つの身体を二人で使いながら
生活を続けていた二人ー。
しかし、その生活はいつまでも続くものではなくー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「このままでは、井浦 希海さんの精神は消えるー
そう言ったんだー」
希海に憑依している俊哉の父親・竜司が
険しい表情でそう言葉を口にするー。
「ーーそ、それはー…こ、言葉通りの意味ってことでいいのかー?」
希海に憑依している俊哉は
動揺しながらも、まずはしっかりと聞いておかないといけない、と、
そう思い、そんな風に言葉を口にする。
「ーあぁ。そうだー。言葉の通りだ」
竜司はそう返した。
「ー優しく包み込んで伝えても良かったがー、
時間もそんなにないー。
だから、すまないが単刀直入に伝えさせてもらったー。」
竜司のそんな言葉に、
希海の身体で、俊哉はグッと自分の手を握りしめると、
悲しそうな表情を浮かべるー。
「ひとつの身体に、二つの魂は共存できないー。
本人同士の意思が望まなくても、
やがて、身体が拒否反応を起こし、
そして、どちらかの魂が相手の魂を飲み込む形で、
片方が消滅するー
消滅するのは”立場上、弱いほう”
つまり、憑依された側の希海さんの方ということだー」
父・竜司はそこまで言うと、
「既に、希海さんの体調、”少し前から”悪いと聞いているがー?」と、
そう続けたー。
父・竜司も最初は単なる風邪や、何となく体調が優れないだけだと
そう希海の状況を判断していたー。
が、体調不良は同じ身体を使っているはずなのにも
関わらず、”希海が表に出ているとき”しか感じず、
俊哉が表に出ているときは”いつも通り”であるということを
前回の診察の際に聞いて、竜司は必死に調べを進めて来たー。
そして、突き止めたー。
このままだと、最終的に希海の魂が、俊哉の魂に飲み込まれて
消滅してしまうということをー。
つまりは、希海の身体が俊哉一人のものになってしまうということになるー。
希海が感じていた体調不良はー、
”身体”ではなく、”希海の魂”が徐々に弱っている証ー。
そのため、俊哉の魂が表に出ている時に、
俊哉はそれを自覚できないー。
身体は健康なのだからー。
「ーーー」
希海の顔で、表情を曇らせながら
俊哉は数秒間、その現実を受け止めるために沈黙していたものの、
やがて、口を開いたー。
「ーー”俺が消えれば”希海は助かるー。
そう思っていいかー?父さん」
とー。
「ーーーあぁ」
父・竜司は深々と頷いたー。
息子であれば、それを聞くと思っていたー。
と、同時に複雑な感情も抱いたー。
事故で死んだ息子と”また”こうして会えたー。
この半年間は、父・竜司にとっても
夢のような時間でもあったー。
もちろん、希海に申し訳ないとは思うし、
希海の身体を息子に完全に支配してほしいなどと
思ったことは一度もないー。
ただー……
”俺が消えれば希海は助かる”
という俊哉の言葉は、
彼が、”そうする”ことを確信する言葉だったし、
それは、せっかく再会した息子と、
今度こそ本当に別れることになるということを意味していたー。
「ーーー…そっかーー
それで、その方法はー?」
希海の身体で、俊哉はそう言葉を口にするー。
最初に希海に憑依してしまった時に、
俊哉は希海の身体から出ようとしたー。
が、それ以降はそれを試しておらず、
”希海の身体から抜け出すことができる”のかどうかは
分からなかったー。
「ー残念だが、そこまでは分からないー
ーーお前に消えてほしくないからこう言ってるんじゃないからなー?」
父・竜司は少し冗談めいた口調でそこまで言うと、
希海に憑依している俊哉は「分かってるよー父さんはそんな人じゃない」と、
少しだけ笑ったー。
”ーーーーーー”
希海の意識も、当然その話を聞いていたー。
が、希海は沈黙したままー。
「ー希海ー。聞こえてただろ?
ーーごめんな。俺、ずっと一緒にはいられないみたいだー」
希海の身体で、俊哉は少し寂しそうにそう言葉を口にすると、
希海は”いやだー…”とだけ呟くー。
「ーー俺も嫌だよー。
でも、このまま希海の身体に居座ったら、
希海が消えちゃうだろー?
そんなのはもっと嫌だー。
だからーー分かって欲しいー
本当は”なかったはずの半年”だったんだし、
その間に希海とたくさん思い出を作ることができてよかったー」
希海に憑依している俊哉が、優しく希海の身体で呟くー
”いやだー……いやだー”
「ー!」
希海の目から涙がこぼれるー。
内側にいるはずの希海の意識の影響で、
自然と目から涙がこぼれ始めたのだー。
その状況に、心底戸惑ったような表情を浮かべる
希海に憑依している俊哉ー。
父・竜司も、”希海さんはー、お前のこと、本当に大事に想ってくれてるんだな”と、
それだけ言葉を口にしつつも、
「希海さんー。このままでは君が消えてしまうー」と、
内側にいるであろう希海に語り掛けるー。
するとー、希海の身体がビクッと震えて、
「ーだったらー、わたしが消えますー」と、
そう言葉を口にしたー。
「ーーー!!」
俊哉の父・竜司は少し驚いたような表情を浮かべると同時に
「そんなこと言っちゃいけないー」と、言い聞かせるように
言葉を続けるー。
「ーーそんなことをしたら、君が消えてしまうー。
その身体は君の身体なのだから、君の人生だー。
もしも、息子をー俊哉を思ってそうしようとしてくれているのであっても、
俊哉はそれを望んでいないー。
俊哉のために、君が消える道を選んだりしたら、
俊哉は一生苦しむことになってしまうー。
ーー俊哉のことは君も良く知ってくれているはずだー。
ーー俊哉が、喜ばないと言うことは分かるだろう?」
竜司がそこまで言うと、
希海は目に涙を浮かべながら「ー分かってますーでもー」と、
そう言葉を口にするー。
竜司も、そんな希海の言葉に理解を示すと、
「ーもちろん、君の気持ちはわかるよー」と、
そう言葉を口にすると、
「ー私だって息子に身体をあげることができるのであれば、あげたいし、
君の中にいるまでも息子がいてくれるのであれば、
そうあってほしい」と、そこまで続けるー。
がーー…
竜司はため息を吐き出すと続けるー。
「二人が”今のまま”でいることは現実的に無理だー。
君か、息子ー、どちらかが消えなくてはいけないー。
そして、その身体は君のものだー
息子の俊哉も、君の身体を奪うことなんて望んでいないー。
だからーー…せめて、息子をー…俊哉を明るく見送って欲しいー」
目に涙を浮かべる希海ー。
そんな希海に対して”ごめんなー”と、俊哉は内側から口にすると、
”ー”また”苦しめることになってしまってー”
と、そう呟くー。
俊哉がこうして希海の中に宿ったことで、
希海に”もう1回”お別れをする辛さを
味合わせることになってしまったー。
そのことを申し訳なく思い、謝罪する俊哉ー。
しかし、希海は涙を拭きながら、
「それはーー…気にしないでー」と、無理に笑うー。
「ーだってー
”あのまま”だったらわたしー…」
希海は、俊哉がこうして憑依してくれなかったら
あの時、あのままあそこで飛び降りて死んでいたと、
そう言葉を口にするーー。
「ーだから、気にしないで」
希海がそう言うと、俊哉は”ーははー…分かったー”と、
明るくそう返事をしながら、
”少し、父さんに聞きたいことがあるー”と、
そう言葉を口にすると、
再び身体の主導権を握ってから、
「父さんー。あと”時間”はどのぐらいあるー?
”確実に大丈夫な残り時間”を教えてほしい」と、
そう言葉を口にしたー。
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”確実に大丈夫な時間”ー。
俊哉の父・竜司が割り出したその時間は”あと半月”だったー。
俊哉の父・竜司からしてみても
現在の二人の状況は未知の状況ー。
しかし、今まで半年間二人を見て来た状況や、
今までに身に着けた色々な医学的な知識、
そして希海本人の意識の体調不良の状況から
”半月は大丈夫だろう”と、そう言葉を口にしたー。
ただ、それ以上はどうなるか分からない、とも竜司は言ったー。
意外と1年ぐらい大丈夫な可能性もあれば、
すぐにダメになる可能性もある、とー。
また、大丈夫そうに見えても、
俊哉が抜けたあと、重大な後遺症が出る可能性も
否定はできないと、そうも告げたー。
だから”与えることのできる猶予は半月”だとー。
それ以降は、憑依している側の俊哉の魂が
希海の魂を消滅させてしまい、
希海の身体が完全に俊哉のものになってしまうか、
あるいは、俊哉が希海の身体から抜け出して
成仏することで、希海の身体を、本来の希海の手に返すかー。
選択肢は、その二つに一つしかない、と、
竜司はそう説明したー。
「ーーーーー」
希海の身体で、今日は隣町の海にやってきていた二人ー。
「ーーーーいきなり、余命宣告された気分だけどー
まぁ、覚悟はしてたからなー」
希海の身体で、俊哉はそう言葉を口にすると、
すぐに言葉を付け加えるー。
「ーずっと言って来たけど、希海は心配しなくていいし、
自分を責めなくていい。
俺は幸せだったし、しかも、半年間も”延長”できたんだー。
本当だったら、あの日人生が終わりだったはずなのに、
希海のおかげで半年間も人生が増えたー。
そう思えばどうってことないさー」
希海の身体で、俊哉はそこまで呟くー。
けれど、希海がなかなかそう割り切れないことも理解しているー
”ーまた、一人になっちゃうー”
希海の意識がそう言うと、
「そんなことはないー。また出会いがあるかもしれないし、
それに、希海には家族も友達もいるだろ?
俺はいなくなっちゃうけど、一人じゃない」
と、そう言葉を返すー。
「この先、もしもまた好きな人が出来たりしたら
俺に気遣わなくていいからな?
ほら、俺のせいで、希海が生涯独身だったりしたら
俺が気にするし、申し訳なく思っちゃうからー。
俺としてはそういう機会があれば遠慮せずに付き合ったり
してくれた方が嬉しいー。
あ、もちろん本当に相手がいなくて
生涯独身だったりしたなら、それはそれでいいんだけど、
俺のことを気にして…だったら悲しいからさー」
希海の身体で俊哉がそこまで言うと、
希海の意識が少しだけ笑うー。
”ーーーそういう言葉をゆっくり聞けるって変な気持ちだねー…
普通は、そういうことも聞けずに、いなくなっちゃうんだもんねー…”
とー。
希海の身体で俊哉は笑うと、
「ははーそうだなー」と、穏やかに頷くー。
病気で余命宣告されて、調子がゆっくりと悪くなっていく…
そんな感じであれば、今のようなことを先に伝えておくことは
できるかもしれないー。
けれど、俊哉のように事故でいきなり死んでしまった人間は
どんなに伝えたいことがあったとしても、
それを伝えることができないまま、世を去ることになってしまう。
しかし、俊哉は今、それが出来ているー。
こうして、希海に想いをしっかりと伝えることが出来ている。
「ーもう、死ぬとか考えないでくれよー?
俺は希海に生きていて欲しいんだからー
それに、この身体もちゃんと希海に返させてほしいー。
ほら、もしも希海が俺にこの身体を譲って
消えちゃうなんてことになったらさ、
俺、身体泥棒になっちまうだろー?」
希海の身体で自虐的に笑う俊哉ー。
「彼女の身体を盗みましたーなんて、仮に誰にも
言わなかったとしても、すごくダサいしー
だから、ちゃんと返させてほしい」
そこまで言うと、
”その代わり”と、そう言葉を口にしてから、
「俺も希海も、未練が無いようにこの半月でたくさん思い出を作ろう」と、
そう言葉を続けるのだったー。
遊園地ー、
映画館ー、
水族館ー、
一緒に家でダラダラー、
大学内で色々な思い出作りー
思いつくことは何でもした。
とても充実した半月間を過ごした。
そしてー…
楽しかった時間は過ぎ、
俊哉はついに”希海の身体から抜け出す”当日を迎えた。
父・竜司の立ち合いのもと、
希海に憑依している俊哉は静かに頷くと、
「ーー希海ー」と、緊張した様子で言葉を口にしたー。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!!☆
二人の未来に明るい未来は待っているのかどうか、
それとも暗い未来になっちゃうのか、
ぜひ見届けて下さいネ~!!
今日もありがとうございました!!!☆

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