<皮>彼女の後頭部にチャックのようなものが見える

”彼女の後頭部にチャックのようなものが見えた”ー

彼はその日から
”アレが何なのか”が気になって気になって
仕方がなくなってしまいー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーえっーー…?」

台風並みの暴風が吹いていたある日ーー
彼女の並木 友美恵(なみき ゆみえ)と
一緒に下校していた
彼氏の野々口 昭(ののぐち あきら)は
表情を歪めたー。

あまりに強い風で揺れる彼女の髪ー

その隙間からー
”チャック”のようなものが見えたからだー

”えっ…い、今のはなんだー…!?”
昭は、心の中で戸惑うー

確かに今、彼女の髪の中に
まるで”着ぐるみ”についているような、チャックが見えたのだー。

普通、あんなものが頭にあるはずがないー。

昭は戸惑いながらも
「ゆ、友美恵ー…あ、頭になんかついてた気がするけどー」
と、前を歩く友美恵にそんな言葉を口にしたー。

「え~~~??」
友美恵は困惑した表情を浮かべながら
自分の頭を触り始めるー。

「あ、ちがう、えっと、もうちょっと後ろのほうー」
昭がそう言うと、
友美恵は、”さっきチャックが見えたあたり”にも手を触れたー。

だがーーー

「ーーう~ん…何もないけど?」
友美恵がそう言葉を口にすると、
昭は「え…そ、そうかなぁ…確かに見えた気がするんだけど」と、
少し誤魔化すような口調で、
言葉を口にするー

”今、確かにチャックみたいなものが見えた気がするけどー…”
昭はそう思いながら、
「こ、このあたり」と、
自分の頭を触って、友美恵の後頭部に見えたチャックのあたりの場所を
示してみせたー。

しかしー…
友美恵はやはり”何もないけどなぁ~”とだけ言葉を口にしたー。

”ーーーお、俺の見間違いかなー?”
昭は戸惑いながらも、
”あまりしつこくして、嫌われちゃってもアレだしー”と、
心の中でそう呟くと、
「わ、悪いー見間違いだったかも」と、
そう言葉を口にしたー。

昭は、決してイケメンではないー。
どちらかと言うと、”微妙”な方だー。

今までモテない人生を送って来たし、
恋愛経験もなかったー。

そんな昭にとって、”はじめての彼女”でもあるのが、
この友美恵だー。
何故だか自分のような男子に告白してきて、
飛びつくようにして、それを受け入れたー。

今でも毎日が夢のようで、
奇跡のように感じるー。
そんな状態ー。

だからこそ”友美恵に嫌われたくない”という気持ちで
いっぱいだったー。

「じゃあ、また明日~!
 風が強いから、昭も気を付けてね」

友美恵の言葉に、昭は顔を少し赤らめながら
「友美恵も気を付けてー」と、そんな挨拶を交わして、
家へと帰っていくー。

がーーー
帰宅したあとも、昭は友美恵の後頭部のあたりに見えた
チャックのようなものが気になって気になって
仕方がなかったー…。

「ーーー…あれは、何だったんだー…?
 いや、友美恵が何もないって言ってたんだし、
 ってことは、俺の見間違えだよなー」

昭は自分で自分に言い聞かせるようにして
何度も何度も「そうだーあれは見間違えに違いない」と、
そう言葉を口にしたー。

がー…友美恵が実は友美恵ではなくてー、
友美恵の中から宇宙人が出て来るのではないか、だとか
そんな変なことまで考え始めてしまうー。

「あ~~~…!くそっ!漫画の読みすぎだー」
昭は自虐的にそう言葉を口にすると、
”そんなこと、あるわけないじゃないかー”と、
そう心の中で呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーそれで~うんー
 え~?ホントに~?」

翌日ー
友美恵が友達と話している後ろを通った昭は、
さりげなく友美恵の後頭部を確認するー。

もちろん、直接髪に手を触れてー…
なんてことは、昭には出来ないー。

目視で友美恵の後頭部を確認したものの、
特にチャックのようなものを確認することはできなかったー。

そもそも、昨日も強風でたまたま見えただけで、
普段は髪の中に隠れているー。

「ーーー友美恵~!彼氏くんが用があるみたいだよ」
友美恵と話していた友達が、昭に気付いて
友美恵にそう言葉をかけるー。

「えっ?」
友美恵が振り返り、昭と目が合うー。

昭は気まずそうに「あ、いや」と、そう言葉を口にすると、
友美恵は笑いながら
「え~?どうしたの?何か用なら全然大丈夫だよ?」と、
そう言葉を口にしたー。

しかし、まさか”後頭部のチャックを見ようとしていた”などとは言えずに
「いや、本当に何でもないんだー」と、誤魔化してその場から
立ち去っていく昭ー。

そんな昭の後ろ姿を見つめながら
友美恵は少しだけ首を傾げると、
そのまま友達の方を見て、再び雑談を始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”友美恵の後頭部にチャック”

どうしても、昭はそのことが
頭から離れなくなってしまったー。

ただでさえ、恋愛とは無縁だった自分ー。

友美恵の前で変な言動を取って
嫌われることだけは避けたいー、という想いから、
素直に友美恵に聞くこともできないまま
モヤモヤとした時間を過ごしていくー。

がーー
あれから2週間が経過した今日ー

昭は”たまたま”見ていた映画で、
”宇宙人が人間を皮にしていて人間に化けている”という
内容のシーンを見てしまったー。

それを見た昭は、また、友美恵の後頭部に見えた
チャックのようなものが気になって気になって
仕方がなくなってしまうー。

そんな気持ちのままー、昭は友美恵との
デートの日を迎えてしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

デート当日ー。

かねてから遊園地に行く約束をしていた二人は、
遊園地へとやってきていたー。

「ーーー」

二人とも、”1回は遊園地デートをしてみたい”ということで、
今日、この遊園地に遊びに来ていたー。

しかしー、楽しみにしていたはずの昭は
どことなく浮かない顔をしているー。

「ーどうかした?」
それに気づいた友美恵が、少し心配そうな表情を浮かべると、
「ーーあ、いやー…大丈夫」と、昭は誤魔化すような返事をして、
そのまま遊園地内を友美恵と一緒に歩き始めたー。

だがーー…
”見て”しまったー。

観覧車に乗り、コーヒーカップに乗ったその時だったー。

友美恵が楽しそうに
コーヒーカップを回している最中ー、
揺れる髪の隙間に”チャック”のようなものが一瞬見えたのだー

”や、やっぱり、友美恵の頭にはチャックがあるー”
昭は改めてそう確信すると、
この前と同じように、少し気まずそうにしながら
「友美恵ー」と、コーヒーカップを降りたタイミングで
言葉を口にしたー。

「ー頭に、なんかー…
 ”チャック”みたいなものがついてる気がするんだけどー」

今度は、”単刀直入に”
そう伝えたー。

「ーーえ?チャック?」
友美恵は笑いながら、自分の後頭部を触るー。

がーー

やはりー「ーーあ~~~…何もないけど?」と、
そう言葉を口にすると、友美恵は
「それよりさ、次は何に乗る?」と、
すぐに話題を変えたー。

モヤモヤがさらに膨らんでいく昭ー。
あの”チャック”みたいなものは一体何なのだろうかー。

もしかしたらー、テレビのように、
”友美恵”の中に宇宙人がいてー、宇宙人に友美恵は”皮”にされていてー…

と、そんなあまりにも非現実的なことを考えてしまうー。

そしてーーー
意を決した昭は、咄嗟にある行動に出たー。

友美恵の”頭”を勝手に触り、2度チャックが見えた場所に手を触れたのだー

するとーー

「き、急にどうしたの?!」
少し驚いた様子の友美恵ー。

そんな友美恵に対して「ほら!ここにチャックみたいなものが!」と、
友美恵の後頭部についているそれを触りながらそう言い放ったー。

「ーーー!」
友美恵が表情を歪めるー。

「ーーーー!」
昭も、そんな友美恵の表情の変化を悟り、
不安そうな表情を浮かべるー。

がーー…

「ーあはははは…な~んだ、これのこと言ってたんだー」
友美恵はそう言い放つと、笑いながら自分の後頭部に触れたー。

「ーーーーー…」
昭は、震えるー。

友美恵の中から”宇宙人”でも出て来るのではないか、とー。

しかしー…
そんな心配など、必要なかったー。

友美恵はクスクス笑いながら、”チャックのようなもの”を外して見せると、
「これね~…面白系の髪飾りだよー」と、
そう言葉を口にしたー。

”頭にチャックがついているように見せる”
ドッキリ系の髪飾りで、
後頭部にチャックがついていたわけではなく、
どうやら、髪飾りだったようだー。

「ーーーぁ…… あ…そ、そうだったんだー」
昭はホッとしたような、勘違いしたことが恥ずかしいようなー、
そんな不思議な気持ちになってしまいながら
苦笑いすると、
「ーーお、俺、てっきり、友美恵の”中”に何か潜んでるのかとー」と、
そう言葉を口にしたー。

「ーーあはははー…ないないないー」
友美恵は笑いながら手を振ると、
その”チャックのような形をした”髪飾りを再び身に着けて、
笑みを浮かべたー。

「ーー昭のそういう、ドジなところもなんかいいよねぇ~」
揶揄うようにして呟く友美恵ー。

その言葉に、昭は安堵のため息を吐き出しながら
「ド、ドジなのは昔からだから仕方ないし!」と、
そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」
帰宅した友美恵は、鏡の方を見つめてクスッと笑うー。

「間抜けで助かったぜー」
友美恵はそう言葉を口にすると、
後頭部についている”チャック”に手を触れたー。

これは、髪飾りなどではないー。
正真正銘の”チャック”ー

”この女”は、”俺”の”着ぐるみ”だー。

だがーー
この力の唯一の欠点は、
”乗っ取った人間の後頭部にチャック”が見えてしまうことー。

それをカモフラージュするために、
元々髪がそんなに長くなかった友美恵を乗っ取ったあと、
髪を伸ばしてそれを隠しているものの、
時々、見えてしまうことがあるー。

「ーーーーーーー」
友美恵はニヤリとしながら、手に持った”もう一つのチャック”を手にするー。

さっき、昭に見せたのは”これ”だー。
人から万が一チャックが頭の後ろにあることを指摘された際に、
”髪飾りだよ~”と言い訳をするために、常に持ち歩いている”偽物”ー。

「ーーこの女の身体は気に入ってるんでなー
 大学を卒業するぐらいまではたっぷり有効活用させてもらうぜー」
ニヤニヤとしながら、友美恵は自分の身体の
あちらこちらをイヤらしい手つきで触ると、
「あぁ~~…最高だー…」と、不気味な笑みを浮かべたー。

♪~~

ふと、スマホが鳴ったのに気づき、
友美恵はスマホの方に視線を移すー。

”さっきは急に変なこと言ってごめんー
 そんな髪飾りがあるなんて知らなかったし、
 ちょうどーー
 ついこの間、エイリアンに人間が乗っ取られる映画
 見ちゃったから、ついー”

昭からのそんなメッセージが届くー。

「ぷっー…」
友美恵は、そんな昭のメッセージを見つめると、
邪悪な笑みー…ではなく、
友美恵としての穏やかな笑みを浮かべながら、
”そんなことあるわけないでしょ~”と、
そう返事を送ったー。

スマホを置く友美恵ー。

「ーーーまぁ、でもーー…」
友美恵はそれだけ言葉を口にすると
静かに立ち上がるー。

「ー俺は別にお前のことを傷つけるつもりはないしー、
 ”女になって、誰かの彼女になってみたい”ってのも
 俺のやりたいことの一つだからー

 これからも、お前の前ではいい彼女でいてやるぜ」

友美恵はそう言葉を口にすると
自分の後頭部を改めてチェックするー。

”昭”と付き合い始めたのはー、
別に悪意からではないー。

単に”誰かの彼女になってみたかった”というだけのことー。

それにー、昭は
”昔の自分”にそれなりに似ているー。

ああいう、お人好しだけどモテないようなやつに、
”彼女がいる”という夢を見させてやるのもいいだろうー。

友美恵の中に潜む男はそんなことを
心の中で思いながら、
「ーまぁ、当分、”わたし”が彼女でいてあげるからー
 思い出、作ろうね?」と、
昭の写真を見つめながら、静かに笑みを浮かべたー…。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

意外と1話完結の皮モノが少なかったことに気付いて
考えた作品でした~!☆

あまり、乗っ取っている人に周囲への悪意はないみたいなので、
昭くんはこれからもしばらくは彼女との楽しい時間を
過ごすことができそうですネ~!

お読み下さりありがとうございました~~!

PR
小説

コメント

  1. 匿名 より:

    当分ということは、いつかは捨てられてしまうんですかね?

    一緒に過ごす内に本気で好きになって、精神的にも女性化したら、違う展開にもなりそうですが。

    • 無名 より:

      感想ありがとうございます~!☆

      今の時点では、いつかは捨てるつもりみたいですネ~!

      でも、確かに気が変わる可能性もあるのデス…!