<入れ替わり>カラスになっても構わない

”わたしが彼女なの!”

そう思い込んでいる執念深い女ー。

ついに、”本当の彼女”を襲撃した彼女は、
自分の不注意で高所から転落してしまい、重傷を負ったー

”この身体はもうダメだー…”

しかしー、執念深い彼女は”最後の切り札”を
使おうとしー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーこの泥棒猫…!」

大人しそうな雰囲気のツインテールの女子大生が
怒りの形相で叫ぶー

「ーや、谷中(やなか)さんー…
 い、いい加減にしてよ!」

ツインテールの女子大生の前で困惑した表情を
浮かべているのはー、
同じ大学に通う女子生徒、藍沢 梨穂(あいざわ りほ)ー

梨穂は、最近、
このツインテールの女、谷中 美空(やなか みそら)に
一方的に敵視されていたー。

その理由はー
”彼氏”ー

梨穂には、大切な人がいるー。
同じ大学に通う幼馴染で、
久保田 俊平(くぼた しゅんぺい)という男子だー。

しかしー、目の前にいる美空は”わたしが俊平の彼女”と思い込んでいてー
梨穂のことを一方的に敵視しているのだー

「ー俊平のまわりをいつまでもウロチョロしてー…!
 絶対に、許さないー!」

美空はそう言うと、笑みを浮かべながら
何かを取り出したー。

それはー
ネットで手に入れたー
”入れ替わり”薬ー。

「ーーこれをお互いの身体に吹きかければー
 わたしと、あんたの身体が入れ替わるー…!」

美空はそう叫ぶー。

表情を歪める梨穂ー。

”友達のいない”美空はー、
ある日、コンタクトレンズを失くして困っていたところ、
偶然通りがかった俊平が一緒に探してくれたことからー
”俊平のこと”が好きになったー

いいやー、
”たったそれだけで”、
俊平と”わたし”は恋人同士になったと思い込んでしまったー。

しかし、俊平が美空に親切にしたのは、
”元々そういう性格だった”からー。

コンタクトレンズを失くして困っていたのが
美空であろうと、男子生徒であろうと、教授であろうと、怪しいおじさんであろうと、
俊平は同じように助けたはずだー。

がー、美空にとっては俊平が親切にしてくれたことが
よほどうれしかったのかもしれないー。
俊平を彼氏だと思い込みー、
次第に、梨穂に一方的な恨みを抱き始めたー。

「ーー落ち着いてってば…!
 わたしと俊平は、元々付き合ってるのー…!
 谷中さん、俊平から”彼女”だって言われたわけじゃないでしょー!?」

梨穂がそう言うと、美空は「うるさい!」と叫んだー

「ー俊平を惑わす魔女め!
 わたしが、あんたの身体を奪って、わたしが俊平を守るのよ!」

そう言い放つと、美空はツインテールを揺らしながら
梨穂に迫って来たー。

咄嗟に逃げ出す梨穂ー

”入れ替わり”なんてありえないー。
そうは思いつつも、”何をされるか”分からないのも事実ー。
美空から慌てて逃げつつ、
彼氏である俊平に助けを求める電話を入れるー。

がー、俊平とは繋がらず、梨穂は
なんとか美空から逃げようと、必死に走り続けるー。

しかしー
その時だったー。

背後から悲鳴が聞こえたー。

複数の人間の悲鳴ー
”救急車を!早く!”と叫ぶ男の声ー

いったい、何が起こったのだろうー。
そう思いつつ、梨穂が振り返るとー、
後方の少し離れた場所ーー
今、梨穂がいる高台の下に位置する道路にーー
”美空”が落下していたー。

ちょうど、昨日は雨だったー。
高台にある公園に逃げようとしていた梨穂を
追いかけていた美空は、
濡れている階段で足を滑らせて、そのまま下の道路に転落ー
頭を強く打ち付けて、血を流している状態だったー

「ーーー…!」
梨穂は、正直、こう思ったー

”助かったー”
とー。

”俊平につき纏うあんたに、ふさわしい最後”だと、
そんな黒い感情が芽生えて来たー。

梨穂は、そんな自分がイヤになりながらも首を横に振るとー、
そのまま高台の公園のほうを経由して、その場から立ち去ったー

「ーーーー…ぐ…」
激痛に歯を食いしばりながら、美空が腕を動かすーーー

片腕しか動かないー。

「ーーー…くそっ…この身体はーもう…ダメー」
美空が怒りの形相で言葉を口にするー。

まさか、自分がこんなところで死ぬなんてー
そんな、恐怖がこみあげて来るー。

だがーーー
”奇跡”が起きたー。

美空が倒れている場所のすぐ横にー
”カラス”がやってきたのだー

後頭部から、かなりの量が流れ出ている血に
寄せつけられたのだろうかー。

美空の真横に、カラスがいるー。

「ーーーーーー!!!」
薄れゆく意識の中、美空は思ったー。

周囲に人もいるが、
美空からは少し離れた場所で騒いでいて、
役に立たないー。

けれどー
美空は、転落して頭を打ち付けても、
”入れ替わり薬”を大事に握りしめていたー。

”吹きかけたもの同士”が入れ替わるー

身体がもう動かなくてもー
この距離にいればー、カラスとならー

美空は血走った目で「ーーうあああああああ!」と叫ぶと、
入れ替わり薬の容器を自分とカラスの隙間に叩きつけてー
それを割りー、
そして、”自分”と”カラス”に入れ替わり薬がかかるのを見てー
ニヤリと笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

”昨日は大変だったよー…
 でも、とりあえず大丈夫だったからー…”

美空の件を俊平に報告する梨穂ー。
俊平からの返事を待つ間、
梨穂はため息をつきながら、
ふと、あることに気付くー。

「ーーー?」

さっきから妙に”近く”でカラスが鳴いているー。
家のすぐ側に止まっているのだろうかー。

「なんかうるさいなぁ…」
梨穂がそんなことを思いながら
”カラスって家の近くに巣を作ったりするのかな?”だとか
”巣を作られたりしたら嫌だなぁ”だとか
そんなことを思いながら、
外の様子を覗きに行こうと、
玄関の扉を開けるー。

だが、玄関の扉を開けた瞬間ー、
すぐに”鳴き声”がうるさい理由が分かったー。

カラスは、梨穂の家の玄関の目の前に立って
ガァガァの鳴いていたのだー

「え…」
玄関の扉を開けると同時にカラスと目が合い、
流石に少し驚いた様子の梨穂ー。

カラスと言えば木の上に止まっていたり、
何か高いところに止まっているか、
ゴミを漁っているか、そんなイメージがある。

こんな風に、人間の家を真っすぐ見つめて地面に
堂々と立っているカラスは、あまり見たことがないー

「ーーーガァ!」
カラスは嬉しそうに笑ったー

そんな、気がしたー

そうー、
そのカラスはー

美空が転落した後、入れ替わり薬を使って入れ替わったカラスー。

つまりはーー
”美空”本人だったー

「ガァッ!ガアアアアア!」
今まで聞いたこともないような声を出し、カラス(美空)が
梨穂めがけて突進してくるー

「ひっ!?」
梨穂が慌てて扉を閉めようとするもー、
カラス(美空)は、梨穂の家の中に入り込みー、
びゅんびゅんと飛び回るー。

”ふふふふふー
 空を飛ぶってこんなに気持ちいいのねー”

カラス(美空)はそんなことを思いながら、
怯えた様子の梨穂を”上から”見つめるー

”ふふふー泥棒猫のアンタをこうして
 高いところから見つめられるなんてー
 本当に最高ー”

カラス(美空)は梨穂めがけて突進するー

「いたっ!?ちょ、ちょっと!?何なの!?」
梨穂は戸惑うー。

カラスは人間のことを覚えるだとか何だとか
聞いたことがあるような気がするー。

しかし、”カラスに恨まれるようなことをした覚えがあるか?と
聞かれれば、そんなことをした覚えはないー。

どうしてこのカラスは、こんなにも殺意を持っているのか、
梨穂には理解できなかったー

「ーーーちょ、ちょっと!やめてってば!」
カラス(美空)に向かって叫ぶ梨穂ー。

しかし、カラス(美空)の攻撃は止まらないー。

「ガァッ!!!がぁっ!」
梨穂の頭めがけて攻撃を仕掛けるカラス(美空)ー

たまらず梨穂は逃げるようにして家の外に飛び出したー。

そのあとを追ってくるカラス(美空)ー

「ちょ!?なんでー…!?なんで追いかけて来るのー!?」

悲鳴を上げる梨穂ー。
頭がずきずきするー。

致命傷というワケではないが、つつかれた時に
怪我をしてしまったようだー。

”ふふふふふふー
 あんたに復讐するためならー…
 カラスになったって構わないー”

人間よりも、早いー。
”羽”は便利だー。

そう思いながら、カラス(美空)は憎しみだけで
梨穂に突進していくー。

梨穂が悲鳴を上げながらしゃがむー。

”ふふふふー…
 何とか、避けたようねー
 でも、だんだんカラスの身体にも慣れて来たー”

人間の身体とは全然違う”動かし方”ー。
言葉では言い表すことは難しいけれど、
実際に”カラス”になってみるとよく分かるー。

羽を揺らす時のこの感覚がー
とても、気持ちイイー。

”ーカラスの身体ならー、あんたの命を奪ってもー
 罪に問われないわ!”

カラス(美空)は心の中でそう叫びながら、
再び梨穂に襲い掛かるー。

梨穂は、何もできずに悲鳴を上げるー。

手でガードするのがやっとな梨穂の
頭をつつこうと、梨穂の頭上で
ガァガァ叫びながら攻撃を続けるカラス(美空)ー

”わたしが俊平の彼女なのよー!
 カラスと人間だって、愛し合うことは、できるわー!”

カラス(美空)がそんなことを「ガァ!!!!」と叫びながらー、
さらに攻撃を加えようとしたーーー

その時だったー

「ーーおい!大丈夫か!」

偶然通りがかったおじさんが、
梨穂を襲っているカラス(美空)を掴むとー、
そのままカラス(美空)を梨穂から遠ざけるようにして
投げ飛ばしたー

「あ…あ、ありがとうございますー」
目に涙を浮かべたまま、顔に出来た傷を押さえる梨穂ー。

そんな光景を見つめながら、
投げ飛ばされたカラス(美空)は
”おっさんー…!邪魔よ!”と、内心で叫ぶー。

がーーー

「ーー!!!!!!!」
路上に投げ飛ばされたカラス(美空)のすぐ側にー
大型のトラックが迫っていたー

そしてそれがー、
”美空”がこの世で見た最後の光景となったー

「ーーー……」
カラスが美空だったと気付かぬまま、梨穂は
周囲の通行人に助けられて、
そのまま”念のため”病院に行った方がいいということで、
病院で診察を受けることになったー

「ーーーもしもしー?
 あ、やっと繋がったー」

梨穂は、病院での診察を終えると、
”無事”を彼氏の俊平に伝えるー。

「ーわたし、とにかく無事だったからー、
 心配しないでねー」

梨穂がそう言うと、
俊平は”いい加減にしてくれ”と、言葉を口にしたー

「え」
梨穂が表情を歪めるー

”ー確かに梨穂は幼馴染だけど、
 一度も俺、付き合うなんて言ってないしー
 これ以上、一方的にLINEを送って来るのはやめてくれー。

 それを伝えるために電話に出ただけだからー
 変な解釈はしないでくれよ?
 じゃー。”

俊平は、それだけ言うとそのまま電話を切ってしまったー

「ーーーーー」
梨穂は放心状態でスマホを見つめるー

「ーーーーーも~~~~~~
 俊平ったら、また照れちゃって~!」

笑う梨穂ー。

梨穂”も”彼女などではないー。
梨穂は、俊平の幼馴染に過ぎないー。
”美空”と同じく、自分を俊平の彼女だと思い込んだ、危険人物ー。

だから、俊平に連絡しても、返事がなかなか帰って来ないのだー

危険人物と危険人物の争いは、幕を閉じたー。
しかしー、”2人の女”につき纏われている俊平の苦難は終わらないー…

そしてーーーー

「ーーガァッ!!!!」

”美空”が運び込まれた病院では
昏睡状態に陥った美空が目を覚ましていたー。

「ーーあ、お目覚めですかー?」

高台から転落して頭を強く打ち付けた美空はー
その場で”わたしはもうダメ”と判断してカラスと入れ替わったー

しかしー、美空の身体はその後、病院に搬送されて
一命を取り留めていたー。

けれどーーー

「ーーーガァッ!ガァッ!ガァッ!」
カラスのような鳴き声を上げる美空(カラス)ー

もう”美空”の中身はこの世にはいないー。
カラスの身体で、死んでしまったのだからー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

カラスが家の近くでガァガァ鳴いていて怖いな~…と思った時に
浮かんだ入れ替わりモノデス~!

私はカラスと入れ替わった誰かに襲われるようなことはしていないので、
きっと、大丈夫デス…笑

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