対戦相手の”コーチ”に憑依されて、
わざと”敗北”させられたお嬢様・蘭ー。
そんな彼女の狂わされた人生の行く末はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大学に進学した蘭は、
卓球からはすっかり身を引き、
普通の大学生としての生活を続けていたー。
だがー、
高校時代、高飛車な”いかにもお嬢様”という感じの
振る舞いをしていた蘭は、
今では人が変わったかのように、人見知りで、物静かな
性格になってしまっていたー。
高校時代ー、
2度にわたり、憑依された経験は、
どちらの憑依も短時間だったとは言え、
蘭の心に深い傷を残していたー
”自分の意識が飛んで、勝手に時間が進んでいるー”
それほど、恐ろしい経験はないー。
しかも、周囲にもそれを信じてもらうことが出来ず、
白い目で見られて、卓球部まで追放された蘭からしてみれば、
そんな風になってしまうのも、無理はなかったー。
「ーー!」
物音がして、蘭がビクッと振り返るー。
「ーーあ、後藤さんー。ごめんなさいー」
同じ大学に通う塚山 芙美(つかやま ふみ)の、そんな言葉に、
蘭は「ううんー。大丈夫」と、だけ答えるとー、
芙美は、心配そうに蘭のほうを見つめるー。
この、塚山芙美という子は、妙に蘭のことを
何かと気遣ってくれる子で、
蘭にもその理由は分からなかったが、
すっかり”常に怯えているような状態”になってしまった蘭にとっては、
支えとも言える存在だったー
「ーーーーーーー…」
ちょうど、今は昼休みー。
芙美は、そんな蘭のいる座席で一緒に食事を食べながら
色々な雑談を交わすー。
「ーーあのー」
蘭は、ふと、そんな芙美に言葉を掛けるー。
「ーどうして、わたしなんかに
そんな優しくしてくれるの?」
蘭が不思議そうに言うと、
芙美は少し戸惑ったような表情を浮かべるー。
「ーーーう~ん…いつも一人でいるから、何となく心配でー」
芙美がそう言うと、
蘭は少し怯えたような表情を浮かべながら
「理由になってないー」と、言葉を口にするー。
「ーーーー…わたし、人が怖いのー。
あなたのこともー」
蘭がそう言うと、芙美は躊躇う様子を見せながら、
「わたしは何もー、後藤さんを傷つけるつもりで近付いてるんじゃないからー」と、
”あくまでも”理由を口にせず、笑顔で誤魔化そうとしてくるー。
「ーーー…だったら、もうわたしに関わらないで」
完全に心を閉ざしている蘭が、そう言いながら座席を移動しようとすると、
芙美は「待ってー」と、声を上げたー。
立ち止まる蘭ー。
「ーわたし、見たからー」
芙美がそう言うと、蘭は首を傾げるー。
「ーーーあなたが、”大会”でおかしかったのを、見たからー」
芙美のそんな言葉に、蘭は「どういうこと?」と、
聞き返すー。
「ーーー…わたしー…その、あの時、大会にいたからー」
芙美が、少し恥ずかしそうに言うー。
聞けば、2度目に蘭が憑依されてしまった時の大会に、
芙美も、蘭や瑞穂とは別の高校のメンバーとして参加していたのだと言うー。
しかし、芙美自身、元々参加予定だった別の部員が
体調を崩したことによって、補欠で参加した参加者で、
あっという間には敗退したことから、瑞穂や蘭とは関わることなく、
そのまま、大会の行く末を見つめるだけー…と、そんな状態になっていて、
蘭は彼女のことを全くと言って覚えていなかったー。
特に当時の蘭は”高飛車なお嬢様”全開な振る舞いをしていたこともあって
”弱い子”のことなど、全く眼中にない、そんな状態で、
芙美のことはまるで視界に入っていなかったー。
「ーーそれで、後藤さんが、対戦相手の川森さんに負けるところも見てたからー」
芙美はそう言うと、
蘭に対して言い放ったー。
「ーわたしは、後藤さんの”意識が飛んだって話”信じるー」
芙美の言葉に、蘭は「ーーえ」と、戸惑いすら覚えるー。
今まで、誰一人として信じてくれなかったー。
けれど、この芙美は、蘭のことを信じるのだと言うー。
「ーーーわたし、川森さんと後藤さんが試合をする前に、見てたのー
あなたのことー」
芙美はそう言うと、言葉を付け足したー
「ーー後藤さん、急に試合前にピクッって震えて
急に笑顔になってー気になってみてたんだけどー
試合後にも、同じようにピクッてしてからー、
今後は急に騒ぎ出してー
まるでーー…
何かに取り憑かれてるみたいだったー」
それを聞いて、蘭は「取り憑かれてー…?」と、戸惑うー。
「ーーうんー。
わたし、心霊現象とか、そういうの好きなんだけどー…
ーーー…なんかー、そういうー…霊に取り憑かれたみたいな
そんな感じに見えてー」
芙美の突拍子もない話に、蘭は困惑しながらも、
「ーわたしが、幽霊に取り憑かれてたってこと?」と、
言葉を吐き出すー。
芙美は「そこまでは言ってないけどー…でも、様子がおかしかったのは確かー。
試合前と、試合後に、後藤さん、変な震え方してたからー」
と、言葉を口にしたー。
「ーーーーー」
呆然とする蘭ー。
しかし、そんな話を聞いて、蘭の中に怒りが湧き上がって来たー。
ずっとずっと”原因不明の意識消失”に怯えて来たー。
けれどー…
芙美から話を聞いて”やっぱり対戦相手のあの子が何か仕組んだんじゃないか”という
気持ちが膨れ上がって来たー。
蘭は怒りの形相で「ありがとうー」と、言葉を口にすると、
立ち上がるー
”川森 瑞穂”
「ーーー許しませんわー…」
ずっと、怯えて過ごして来たこの数年間ー
けれどー、やっぱりあの子が犯人だとすればー。
蘭は、この数年間失っていたお嬢様としてのプライドが
自分の中に蘇って来るのを感じながら、
瑞穂のことを思い出し、怒りの形相でそう呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
半月後ー。
蘭は、”瑞穂”が現在どうしているのかを突き止めて、
瑞穂の通う大学で、瑞穂が出て来るのを待ち構えていたー。
「ーーー!」
待つこと数分ー。
大学の正門から、瑞穂が友達と一緒に出て来るー。
「じゃあ、また明日ねー、由紀(ゆき)ちゃんー」
瑞穂と一緒に歩いていた友達がそう言い放つと、
瑞穂が「うん」と、返事をして手を振ったー。
「(由紀ー…?)」
首を傾げる蘭ー。
”あの子の名前は川森瑞穂だったはずー。”
そう思いつつも、その容姿から、そこに立っているのは
川森瑞穂本人であると確信を持っていた蘭は、
物陰から外に出て、瑞穂の前に姿を現したー。
少し派手になったような気もするがー、
それは大学生になって、おしゃれになったー…
と、いうことだろうー。
そう思いながら、蘭が「ー川森さんーわたしのこと、覚えてらっしゃる?」と、
笑みを浮かべながら、瑞穂のほうを見つめるー。
「ーーー……ーーどちら様ですか?」
瑞穂がうすら笑みを浮かべながらそう返してくるー。
蘭は「ー卓球の大会で、よく対戦していた、後藤 蘭ですわー
お忘れ?」と、不愉快そうな表情を浮かべながらそう言い放つと、
瑞穂は「あぁー…後藤さんー」と、クスッと笑ったー。
前は真面目そうなイメージだったが、
何だか今の瑞穂は、人を小馬鹿にしたような、
そんな雰囲気を漂わせているー。
そんな雰囲気に、少し違和感を感じながらも、
蘭は言葉を続けるー。
「ーあなたに少し聞きたいことがあるのー。
お時間、よろしいかしら?」
蘭は、そう言い放つと、
瑞穂はスマホで時計を確認するー。
「ーーえぇー。別に。少しならいいですよ」
瑞穂はうすら笑みを浮かべながらそう応じると、
蘭と共に場所を移動するー。
一応、瑞穂に配慮してか、少し大学から
離れた場所に移動すると、
蘭は言葉を口にしたー。
「ーー単刀直入に申し上げますわ」
蘭がそう言うと、瑞穂は表情を歪めるー。
「高校時代、わたしに何をしたのかー
答えなさいー」
蘭の言葉に、瑞穂はさらに表情を歪めるー。
”この女ー”
瑞穂は、険しい表情を浮かべたー。
蘭は知らないことだが、瑞穂は既に、
高校時代の卓球のコーチ・誠太に憑依されて
その身体を乗っ取られているー。
そのため、今の瑞穂は瑞穂であって、瑞穂ではないー。
「ーーーー…知りたいの?」
瑞穂がクスッと笑うー。
「ーーーえぇ、知りたいですわ」
蘭が邪悪な笑みを浮かべながら、瑞穂のほうを見つめるー。
”あなたの化けの皮、剥いでやるからー”
蘭は、そんな風に思いながら、瑞穂を真っすぐ見つめると、
瑞穂は「じゃあー」と、言葉を口にするー。
「ー久しぶりに”卓球”で勝負して、
わたしに勝てたら、教えてあげるー」
瑞穂のそんな言葉に、蘭はクスッと笑うー
「あなたー、まだわたしに勝てるつもりでいるの?」
蘭は、卓球から離れて数年が経過しているー。
しかし、それでも瑞穂になど、負けないという自信があったー。
「ーーーもちろん」
瑞穂が自身に満ち溢れた表情で言い返してくるー
”この子ー…こんな子だったかしらー…?”
蘭は、少し目の前にいる瑞穂に違和感を感じるー。
あの意識が飛んだ大会の日も、
瑞穂は真面目な感じの雰囲気で、
今の瑞穂のように、自信満々な子ではなかったし、
人を見下すような感じを出すような子ではなかったー。
やはり、何かがおかしいー。
「ーーー…それと」
蘭は、瑞穂と卓球で勝負することを承諾すると、
言葉を付け加えたー。
「ーーイカサマはなしですわ」
蘭の言葉に、瑞穂は「イカサマ?」と、聞き返してくるー。
「ーあなたとの試合で、わたしは2度、意識が飛んだー。
その様子を見てた子が、”わたしの様子が変だった”って
教えてくれたのー
あなたが、何かしたんでしょう?」
蘭の言葉に、瑞穂は答えないー
「あくまでも勝たないと教えないってことねー。
まぁいいわー。
なら、川森さんー、あなたをぶっ潰して差し上げますわ」
蘭がそう言い放つと、
瑞穂はニヤッと笑みを浮かべるー。
そしてー
二人は、近くの卓球スペースを貸し出している市民会館に移動すると、
そこで、試合の準備を始めたー
「ーー方法は勝ってから聞くから、言わなくていいけどー、
”イカサマ”は使用禁止ー
よろしいかしら?」
蘭がそう言い放つと、瑞穂は「ーわかった」と、頷くー。
「それとー…わたしのことは、川森さんじゃなくて、
”由紀”って呼んでー」
瑞穂のそんな言葉に、蘭は意味が全く分からずに首を傾げるー。
「由紀ー…?どういうことー?」
蘭が困惑しながら、瑞穂のほうを見ると、
「ーいいから、わたしは”由紀”なの」
と、言葉を口にするー。
確かー
大学でも、一緒に出て来た友達が瑞穂のことを
”由紀”と呼んでいた。
その意味は、蘭には分からないー。
しかしー…
蘭は得体の知れない不気味さを感じて
「お断りしますわ」と、首を横に振るー。
「ーわたしが相手を”あだ名”で呼ぶのは
仲の良い相手だけー。
あなたと、わたしは仲良しなんかじゃないものー」
蘭がそう言うと、
瑞穂はチッ、と舌打ちをするー
その様子にも、蘭は得体の知れない不安を感じながら
「とにかく、試合を始めましょう」と言い放つー
瑞穂は余裕の笑みを浮かべながら、蘭のほうを見つめるー
”この子ー、前と全然雰囲気が違うー”
蘭は、瑞穂のほうを今一度見つめるー
前は、もっとまじめそうな感じだったー
高校時代、2回、記憶が飛んでいる際もそうだー。
もっと、真面目で大人しそうな印象だったー
なのにー
”単に時の流れで性格が変わった”のかー。
それともー。
蘭が、そう考えながらスマッシュを叩きこむと、
瑞穂は表情を歪めるー。
「ーふふふ…
イカサマを使わずに、わたしに勝つなんて、
不可能だということを今日、この場で証明してあげますわ」
蘭が高飛車な笑みを浮かべながらそう言い放つと、
瑞穂は、蘭に見下すような目線を返しつつ、クスッと笑うー。
”不愉快”
蘭は、そう思ったー。
がーー
次のサーブから、瑞穂の動きが変わったー。
前の瑞穂とはまるで別人ー
自信に満ち溢れた表情で、攻撃的なスマッシュを連続して
叩きこんでくるー。
あっという間に逆転された蘭は、呆然としながら瑞穂のほうを見つめるー
瑞穂は、そんな蘭を見つめ返しながらー
「ーあら?さっきまでの威勢は、もうおしまい?」と、
蘭を見下しながら、不気味な笑みを浮かべたー
<後編>へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!
(土曜日枠なので、続きは来週デス)
ちなみに、瑞穂が”由紀”って呼んで欲しがってる理由は、
本編のほうを見ると分かります~★!
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