<憑依>手段を択ばないコーチ①~教え子を勝たせるため~

熱心に卓球を教えるコーチ。

しかしやがて彼は、
”教え子の対戦相手に憑依してわざと負ける”
という行為に走り始めるー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そう!そうだ!いいぞ!」

卓球の練習をしている生徒たちに向かって
そう叫ぶコーチ。

彼は、元々プロの卓球選手を目指していたこともあり、
その指導には人一倍熱意を持っていたー。

「ーーーよし!その調子だ」

とある高校の卓球部ー。

外部からの指導者としてやってきていたコーチの
丸藤 誠太(まるふじ せいた)は、
その中でも特に注目している女子生徒がいたー。

川森 瑞穂(かわもり みずほ)ー。

最初はお世辞にも”上手”とは言えない子だったもののー
コーチである誠太の指導により、
みるみるうちに上達し、
今ではこの高校の卓球部の中でもエース級の実力を持っているー。

そんな瑞穂のことを、誠太は心の底から応援していたし、
とにかく”勝たせてやりたい”とそう思っていたー

だがー
彼女は”不運”だったー。

県の大会や、他校との試合ー
そういった重要な局面になると本来の実力を発揮することが
出来なかったり、運の悪い出来事に見舞われてー
大会でも、他校との試合でも、負けが続いていてー
すっかりと自信を無くしてしまっていたー

「ーー川森!君は誰よりも強い!
 僕は色々な子を見て来たけど、君は誰よりもセンスがある!

 だから、自信を持つんだ!」

自信を無くしてしまった瑞穂に、必死にそう声を掛ける誠太ー。

だが、瑞穂は
「ー勝てなければ、それがわたしの実力ということですからー」と
ため息をついたー。

「ーそんなことない!君なら絶対に次の市の大会で優勝できる!
 諦めちゃだめだ!」

コーチの熱意溢れる言葉に、
瑞穂はようやく「分かりました…頑張って見ます」と、立ち上がるー。

だがー

「ー次も負けたらわたしー…
 卓球部をやめようと思いますー」

と、少しだけ悲しそうに瑞穂はそう呟いたー

その言葉に、誠太は衝撃を受けるー。

「ーー……これ以上、コーチの期待に応えられないのも辛いですしー
 次で最後にするー…
 そんな気持ちでもう1回頑張ってみようと思いますー」

そんな瑞穂の言葉に、
誠太は戸惑いながらも頷きー

「大丈夫。大丈夫だ。必ずお前を勝たせてやるー」
と、力強く呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した誠太ー。

誠太はすぐにパソコンを起動して、
何やら色々な情報を確認したり、データを見つめたりしているー

対戦相手の高校のデータや
その高校の卓球部のメンバーのデータ。

瑞穂の卓球のスタイルの戦略の分析ー
色々なことをしていくー。

帰宅してからも、
ずっと、瑞穂をー、他の卓球部のメンバーを
勝たせることだけを考え続けるー。

だがー、
誠太は現在独身で一人暮らしであるために、
帰宅後もずっと仕事をしていても、
それに対して文句を言う人間はいないー

棚の上に置かれたホコリが被った写真にはー
”離婚した妻”と、”離婚した妻と暮らす子供”の姿ー。

どうしても、卓球の指導のことばかりになってしまった彼は、
もう5年以上も前になるが、
妻と子供にも愛想を尽かされてしまい、
現在に至っているー。

「ーーお前のこと、絶対に勝たせてやるからなー」
瑞穂のことを思いしながらそう呟く誠太ー。

がーーー
そんな時だったー

”卓球で絶対に勝たせる方法”などと
検索していた誠太の目に^

”コーチ必見!教え子を絶対に勝たせる”
と、書かれたサイトが目に入ったー

「ーーー…」
少し表情を歪めながら
”期待せずに”そのサイトを開く誠太ー。

教え子を絶対に勝たせる方法、
なんてものがあるのであれば苦労はしないー。

そんな風に呆れ顔で思いながら
そのサイトを開いた誠太ー。

”どんなことが書いてあるのかー”

”どうせくだらないことが書いてあるのだろうー”

”それをあざ笑ってやるー”

そのようなことを考えながら
そのサイトを見つめる誠太ー

だがー
そこに記述されていたのはー
”憑依薬”

”教え子の対戦相手に憑依してわざと敗北する”という
狂気に満ちた手段だったー

ゴクリ、と唾を飲み込んだ誠太ー。

自分の指導に自信がないわけではないー
だが、瑞穂が万が一”今度の大会”で敗北してしまえば
彼女は恐らく、本当に卓球部をやめてしまうー。

瑞穂はそういう子だー。
一度言ったことを簡単に翻したりする子ではないー。

もしもー
もしも、そんなことになってしまったら、
誠太は”また”失うことになってしまうー

誠太はしばらくそのサイトを見つめていたものの、
やがて、”禁断のモノ”に手を伸ばしてしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

市で行われる大会までの2週間ー
誠太は瑞穂に持てる全てを教えたー。

そして、大会が始まるー

第1回戦は、同じ市の高校の
”サーブの魔女”の異名を持つ女子生徒ー。

「ーー川森ー、君なら大丈夫、自信を持つんだ」

「ーーはい…!頑張ります!」

瑞穂と
”サーブの魔女”こと、安西 莉桜子(あんざい りおこ)の
対決が始まるー

”彼女は、サーブから始まる怒涛の攻撃さえ凌げば
 なんとかなるー”

そんな風に思いながら、誠太はその戦いの行方を見つめるー。

序盤でこそ、莉桜子のサーブから繋がる攻撃に苦戦していたものの、
1-3になったあたりから、莉桜子の攻略方法を自分なりに見つけたのだろうー。

瑞穂があっという間に莉桜子を逆転し、
11-6で、安西莉桜子を下したー。

「ーーよし!」
コーチの誠太も嬉しそうに教え子の勝利を見つめるー。

その後も、2ゲーム、3ゲームと勝利していき、
瑞穂は、安西莉桜子を3ー0のパーフェクトに下したー。

「ーー素晴らしい試合だったよ」
拍手しながら瑞穂を出迎える誠太ー。

瑞穂は「コーチのおかげです!」と嬉しそうに微笑んだー。

他に2名、瑞穂と共に出場した生徒も無事に
1回戦を突破しー、
続けて第2回戦が始まったー

第2回戦の対戦相手は胡桃沢 拓郎(くるみざわ たくろう)という名の
男子生徒ー。
市の中でも強豪校の男子だー。

「男子が相手でも、コートの上では関係ないー
 大丈夫だー
 君なら勝てるー」

そう言い放ちながら、胡桃沢との試合に送り出す誠太ー。

「ーーー」

そしてー
その試合も、瑞穂は勝利で終えたー。

瑞穂以外の二人は2回戦でそれぞれ対戦相手に
敗れてしまったものの、
瑞穂は無事に準決勝進出を果たしたのだー。

準決勝の対戦相手はー
後藤 蘭(ごとう らん)ー

お嬢様たちが通う女子高の卓球部のエースだー。

「ーーあらー…あなたはー」
蘭が対戦相手が瑞穂だということを知ると
クスッと笑うー

以前、練習試合や別の大会で、
瑞穂は蘭と2度、試合をしたことがあるー

だが、いずれも蘭に負けているのだー。

「ーよろしくお願いしますー」
瑞穂が礼儀正しく頭を下げるー

対する蘭は余裕の表情で
「実力差というものを、脳裏に刻んであげますわ」と、
笑みを浮かべたー。

試合が始まるー。

プレッシャー…だろうかー。
瑞穂は蘭に押されていき、
5-11であっという間に初戦を落としてしまうー

「ー大丈夫だ!いつも自分がやってることを出し切るだけでいい!」
誠太はすぐにそう叫ぶー。

しかし、6-11で2戦目も敗れてしまうー。

5ゲーム制のこの大会ー。
次の第3ゲームで敗れれば、瑞穂は終わりだー

そうなれば、瑞穂は引退ー…

「ーーー」
ぐっと、ポケットを握りしめる誠太ー。

そのポケットの中にはー
”小瓶に入った憑依薬”が潜んでいるー

身体を震わせるー。

”教え子を勝たせるために、対戦相手に憑依する”
そんなこと、許されるはずがないー

しかしー

「ーおほほほほほほ!全く相手になりませんわね!」
蘭が、嬉しそうに笑うー。

0-4

瑞穂は泣きそうな顔になりながら
それでも蘭を真っすぐと見つめて立ち向かっていくー

「ー”だめだーこのままじゃ負けるー!”」
そう思ったコーチの誠太は、慌てて体育館の外に出ると
人目のつかない場所で、憑依薬を飲み干したー

そしてーーー

「ーーーわたしのーー」
蘭が、サーブをしようとしていたそのタイミングでー

「はぅっ…」
誠太はついにー
やってしまったーー。

教え子の対戦相手に憑依してしまったー

「ーーー…後藤さんー…?」
サーブをしようとしていたタイミングでビクンと震えて
サーブミスをした蘭を見て、心配そうに瑞穂が声を掛けるー

”本当に…本当に憑依できるなんてー”

自分の視線の先にはー
蘭の身体ー

蘭の髪ー
蘭の胸ー
そういったものが主観視点で見えるー。

一瞬、ドキッとしてしまうものの、
誠太が憑依したのは
別にこの子の身体を弄ぶためではないしー、
誠太自身、”教え子や、同年齢の子たちをそんな目”で
見たことはないつもりだー。

あくまでも自分は卓球のコーチであり、
そのような煩悩には負けないつもりだー。

近付いてきた煩悩はスマッシュで吹き飛ばしてやるー。

「ーーー…あ、え、えっと、なんでも…なんでもありませんわ!
 ほほ、あは、あほほほほほほ」

お嬢様笑いを真似しようとしたら、
奇妙すぎる笑い方になってしまいー、
ぽかんとした表情でこちらを見てみる瑞穂のほうを見て
気まずそうに首を横に振るー

(こんなことしてる場合じゃないー
 川森に気付かれないように、程よく負けなくてはー

 っていうかこの子ー、こんな邪魔な髪で、
 よくあんなに実力を発揮できるなー…)

蘭の”いかにもお嬢様”というような髪を
触りながら、ふわりといい香りがして、
少し顔を赤らめてから、
”いやいやいや、とにかく、とにかく川森を
 勝たせることから始めなくては!”
と、自分のドキドキを振り払って、
そのまま卓球の試合を再開したー。

11ー8

”あえて”
負けることに成功したー

だがー
瑞穂は少し不満そうな表情を浮かべているー

「ーーあの…後藤さんー…
 わざと、手を抜いてない?」

とー。

「ー…ぎくぅ!」
変な声を出してしまった蘭ー

「そ、そ、そんなこと、ありませんよぉ~
 おふぉ…ほほほほほ」

やはりー
瑞穂には分かるのだろうかー。

そんなことを思いながら慌てて
次の試合に進むー。

11-9
11-6

わざと”2連敗”し、
結果的に瑞穂は準決勝に勝利したー。

「ーーーありがとうございましたー」
蘭は、少し腑に落ちない、という表情を浮かべたままの
瑞穂を見て、表情を歪めるー

”いや、後は俺が”お前は勝ったんだ!自信を持て!”って
 声を掛けてやればいいんだー”

そう思いながら、蘭の身体に憑依したまま、
少し離れた場所までいき、
「いや、待てよー…?」と、困惑した表情を浮かべるー。

今、この場で蘭から抜け出した場合ー、
蘭は確実に”負けた記憶がありませんわ!!”とか
騒ぎ出すはずー。

いやー、
しかしー

「ーーあれ?コーチは?」
瑞穂が卓球部のメンバーにそう質問している姿が見えるー

「ー(いつまでも俺がいないままじゃ、それはそれで
 怪しいしー 次は決勝戦もーー…)」

蘭の身体のまま、そわそわした様子を見せるー。

準決勝のもう1試合が終わるー
”プリンス”の異名を持つ男子と”卓球魔女”の異名を持つ女子の試合は
卓球魔女の方が勝利したー。

体育館の床に手をつき、
「俺の戦略は完璧だった…っ!」と、悔しそうにしている
プリンスを見つめながらー
コーチは、”川森ー…”と、卓球魔女との試合に勝てるのかどうか、
不安そうな表情を浮かべたー。

そしてーー
ついに蘭の身体のまま体育館を飛び出しー
そのまま蘭の身体から抜け出すとー
急いで体育館に戻っていくー。

「ーーー!!!!」
蘭から抜け出したコーチ・誠太が体育館に戻った時にはー
既に”卓球魔女”こと、南雲 美姫(なぐも みき)との
試合が始まっていたー。

11-8。

最初のゲームで既に瑞穂の方が勝利しているー

「ー(やった!すごいぞ!)」
誠太はコーチとして、教え子の活躍を嬉しそうに見つめるー。

そしてー
決勝戦は、苦戦をしつつも、誠太が憑依を使う必要がないままー
瑞穂は卓球魔女・南雲美姫を下して、
そのまま市の大会に優勝を果たしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーおめでとうー」

瑞穂を祝福する誠太ー。

だがー

「ーコーチ…ひとつ、聞きたいことがありますー」
瑞穂は優勝しても浮かない表情のままー、
誠太に向かって、そう言葉を口にしたー

「き、聞きたいことー?」
少しドキッとしながらも誠太は
「あ、あぁ…いいよ。表彰が終わったらゆっくり聞くよ」と、
動揺を悟られないように、そう答えたー

②へ続く

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教え子を勝たせるために
対戦相手に憑依…!

そんな憑依の使い方をしているコーチのお話ですネ~!

続きはまた明日デス~!

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