対戦相手のコーチに憑依されてしまい、
そこから転落の道を歩んだお嬢様ー。
真相を知らないまま、彼女は当時の対戦相手に原因があるのではないかと
考え、戦いを挑む…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(この子ー…こんなに強くなかったはずー)
蘭は、瑞穂に押されながらそんな風に思うー。
瑞穂とは、あの試合開始直後に意識を失って
気付いたら負けていた試合2回よりも前にも、
何度か対戦しているー。
しかし、瑞穂はこんなに強くなかったはずー。
しかも、その戦術も全く過去の瑞穂とは違うー。
「ーークククク…1ゲーム目はわたしの勝ちー」
瑞穂がそう言いながら笑みを浮かべると、
蘭は「あなたー…本当に川森瑞穂ー?」と、
言葉を口にしたー。
「ーーーー由紀って呼びなさいって言ったでしょ」
瑞穂は、何故だかさっきから”由紀”と呼ぶように
繰り返し強要してくるー。
「ー…ーーーーー」
蘭は、そんな瑞穂のほうを見つめながら
「まぁいいわー。わたしが勝ったら全部教えてもらいますわ」
と、敵意を剥き出しにして言うと、
2ゲーム目の試合に臨んだー。
「ーーほらほらほらほら!その程度でわたしに挑むなんて、身の程知らず!」
瑞穂が嬉しそうに声を上げながら、蘭に対して
力任せの攻撃を繰り返すー。
一瞬ー、”男の対戦相手”と戦っているかのような、
そんな錯覚を覚えるー。
蘭の経験上ではー、
男子の方が力任せな戦い方が多いー、
そんな風に思っているー。
実際、全体的にそうなのかどうかは、蘭は知らないけれどー、
それでも、”蘭の経験上”ではそうだったー。
「ーーーーー…」
蘭は、失点を重ねながらも、
”川森さんのパターンはワンパターン…”と、心の中で呟くー。
確かに、瑞穂のスマッシュは強力だー。
しかし、打ち返しの時の反応などー、
”パターン”は決まっているー。
良くも悪くも”パワー”で押すタイプー。
そのパワーに驚かされてここまで失点を重ねて来たけれどー、
一度見破ってさえしまえばー…
「ーーー今よ!」
蘭は目をカッと見開いて、瑞穂の持ち手と反対側に、ボールを
弾き返したー。
「ー!?」
瑞穂がバランスを崩してそのままボールを跳ね返すことが出来ず、
ボールは後ろへと転がっていくー
「ーーーーー…チッ」
舌打ちをする瑞穂ー。
そこから、蘭の猛反撃が始まったー。
あっという間に瑞穂は逆転されて、2ゲーム目は蘭が勝利したー。
そして、次が最後のゲームー。
「ーーチッー…」
露骨に不機嫌そうな瑞穂ー。
やはり、”蘭の知る川森瑞穂”ではない気がするー。
もちろん、大学生になって”変わった”可能性もあるー。
元々こういう性格で、あの時大人しく振る舞っていた可能性もあるー。
けれどー
そうではない気がするー。
「ーーー」
瑞穂が表情を歪めながらー、
密かに”ポケット”に隠し持っている”憑依薬”入りの小瓶を
取り出そうとしたー
だがー
「ーーーそこ!」
蘭が、そんな瑞穂の動きに気付いて、瑞穂を指差したー。
「ーまた、何か”イカサマ”をしようとしているようだけどー
そうはいきませんわ」
蘭がそう言い放つと、
瑞穂は歯ぎしりをしながら「わたしはー…イカサマなんてー」と、
そう呟くー。
憑依薬を使い、どうするかまでは決めていなかったが、
とにかく蘭を黙らせようとした瑞穂ー。
しかし、その目論見は見破られてしまったー。
「そこに何か入っているようねー」
蘭が、ポケットを指差すと、瑞穂は蘭を睨み返すー
「ー怖い顔ー…可愛い顔なのにー…台無しよー」
蘭は呆れ顔でそう言うと、
「とにかく、あなたを倒して、全部白状してもらいますわー」
と、勝利を宣言するー。
瑞穂も観念したのか、そのまま最終ゲームが開始されるー。
だがー、既に瑞穂のパターンを見破った蘭に、
手も足も出ず、瑞穂は追い詰められていくー。
そしてーーー
「ーーー…くっ…」
瑞穂は、そのまま蘭に”敗北”したー。
その場に膝をつく瑞穂ー。
「ーわたしの勝ちですわ」
蘭がそう言いながら、高飛車な笑い声をあげるー。
「チッー」
舌打ちする瑞穂ー
「さぁ、高校時代、わたしに何をしたのか、白状なさいー」
蘭がそう言うと、
瑞穂は突然、狂ったように笑いだしたー。
「ーーー………~~~」
蘭は、そんな瑞穂を見つめながら表情を歪めるー。
あまりにも”不気味”だったからだー。
ようやく笑いが収まって来た瑞穂はふらふらと立ち上がりながらー、
「ーー仕方ないー。教えてやるよー」と、
笑みを浮かべたー。
「ーーー!!」
蘭は、瑞穂の口調が変わったことに驚くー。
そしてーーー
次の瞬間ー、瑞穂が突然その場に倒れ込むー。
「ー!?か、川森さん?」
呆然とする蘭ー。
しかし、瑞穂は倒れ込んだまま痙攣して
ピクピクと震えながらうめき声を上げているー。
”数年間”ー
ずっと、瑞穂のコーチである誠太に憑依されていた
瑞穂の身体には、想像以上に強い負担がかかっていたー。
泡を吹く瑞穂ー
蘭は「き、救急車ー…」と、困惑しながらスマホを
手にしようとすると、
背後に気配を感じたー。
「ー!?」
思わずビクッとする蘭ー。
だがー、その直後ー
蘭の意識は再び消し飛んだー。
数年ぶりのー
”3度目の”憑依される体験だったー。
「ーーーー…」
目を覚ます蘭ー。
目の前では、
瑞穂がニヤニヤしながら蘭を見つめているー。
「ーふふふー
”数分”だと目を覚ますまでも早いよねー」
そんな瑞穂の言葉に、蘭は「い…一体ー…」と、怯えた表情を見せるー。
「ーーんふふふふ…
約束通りー、”あの時したこと”を教えてあげたんだけどー」
瑞穂のそんな言葉に、蘭は困惑するー。
「ーーーー……」
自分の意識が再び飛んでいたことを自覚した蘭は、
瑞穂のほうを見つめながら「は、ハッキリと言いなさい!」と、叫ぶー。
「ーーーまだ分からない?」
瑞穂はそう言うと、”また”その場に倒れ込むー
「ーー!?!?!?!?」
その直後、蘭がビクッと震えると、
蘭はニヤリと笑みを浮かべるー
「ーわたし、バカだから分かりませんわ♡ うふっ」
ふざけた口調で、蘭に憑依した誠太がそう言うと、
その場に座って、”瑞穂が目を覚ますまで”待つことにしたー。
瑞穂は数年間、憑依されていたせいか、なかなか目を覚まさなかったが、
30分ほどでようやく目を覚ましたー。
「ーーーぁ…」
瑞穂が、寝ぼけているー… いや、それ以上に意識が
ハッキリしない様子で目を覚ますとー、
その直後、誠太は蘭の身体から離脱したー。
「ーー!!!」
蘭が、”また”意識が飛んだことを自覚しー、
「ど、どういうことなの!?あなたはわたしに何をしてるの!」と、
蘭が瑞穂に詰め寄るー。
がー、数年ぶりに意識を取り戻したばかりの瑞穂からすれば
蘭の言葉は”意味不明”ー
「え…ご、後藤…さん?
こ、ここ、どこー…?
えーー…?」
瑞穂が怯えた表情で周囲を見渡すー。
「ーーな、何を言ってるの!?」
蘭は焦りと恐怖から、瑞穂にそう言い放つと、
瑞穂は「あれ…?わたしー」と、頭を押さえるような仕草をするー
その直後ー、瑞穂がビクッと震えて
笑みを浮かべたー
「ーそろそろ分かった?後藤さんー」
瑞穂の態度が目の前で急に変わったことに、強い違和感を覚える蘭ー。
「ーーー…ーーーー…」
蘭は、険しい表情で考え込むー。
まだ答えにたどり着いていないと感じた瑞穂は、
笑みを浮かべると、再びよろめいてー、瑞穂に憑依していた誠太は蘭に移動ー、
今度は蘭の身体で瑞穂にキスをし始めるー。
「ー!?!?!?!?」
訳が分からないまま、蘭にキスをされる瑞穂ー。
さらに蘭から瑞穂に移動して、
正気を取り戻した蘭が、”自分が瑞穂にキスをしている”状態に驚きー、
振り払おうとするー。
けれど、瑞穂に抱きしめられて、そのままされるがままの状態が続くー
瑞穂から蘭に、
蘭から瑞穂に、
瑞穂から蘭に、
何度も何度も身体を移動して、二人は滅茶苦茶にされていくー。
乱れ切った蘭が意識を取り戻し、
瑞穂にキスをされながら、自分の興奮している身体に戸惑いー
抵抗する気力も失ってしまうー。
”な…なに…これ…”
蘭はニヤニヤした瑞穂に気持ちよくされながら、
自分が喘いでいることにも気付けないぐらいに、
放心状態で、それだけ呟くー
やがてー…
それがどれだけ繰り返されただろうかー。
床に倒れ込んだ蘭が意識を取り戻すと、
瑞穂が笑いながら言葉を口にしたー。
「ーこれで、わかったー?」
とー。
「ーーー……ぁ…」
蘭は乱れ切った状態で言葉を口にするー。
「ーーあなた……な、何者ー…?」
”身体を意のままに操られているー”
そんなことをようやく理解した蘭は、
それだけ言うと、瑞穂は笑みを浮かべたー
「ーーーさぁ?」
とぼけながら立ち去る瑞穂ー。
「ーーー………」
蘭は、そんな瑞穂を追いかけることもできずに
放心状態で天井を見上げたー。
”ーちゃんと、処理しておくかー”
立ち去る瑞穂は、にやりと笑みを浮かべると、
蘭のほうを振り返って、再び、蘭に憑依するべく、
瑞穂の身体から抜け出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー…え」
次に、蘭が目を覚ました時には
繁華街のど真ん中に下着姿で放り出されていたー
近くには”何か”に使ったのだろうかー
汚れた卓球のラケットも落ちていたー。
「ーあいつ、やべぇよ」
「ー頭イカレちまったんだなー」
「あの子、人生終わったねー」
そんな言葉を口にする人々ー
蘭は悲鳴を上げながらその場から逃げ出そうとするもー、
既に誰かが通報していたのか、警察が駆け付けて、
蘭に話を聞くー。
蘭は必死に”身体を操られてー!”と叫ぶー。
しかしー、
仮に”憑依”という単語を使ったとしても、
そうでなかったとしても、
世間はそんなこと、信じてはくれないー。
蘭は発狂しながら悲鳴を上げるー。
しかしー、
今度こそ、プライドの高いお嬢様は立ち直ることが出来ずー、
完全に精神的におかしくなってしまいー、
大学にも姿を現さなくなり、その人生は
完全に狂わされてしまったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーーーなるほどー」
”瑞穂との試合”ー
高校時代、”自分”が瑞穂と戦った時の試合の動画を
何度も何度も繰り返し見つめるー。
”コーチ、ですよねー?”
対戦相手の瑞穂がそう言葉を口にするー
当時のやり取りが記録された映像を
彼女は見つめるー。
「ーーな、な、何を言ってー…?」
「ーーーー…最近、わたしと対戦する子ー
みんなー”コーチの戦い方”なんですー」
「ーーー……そ、そんなことー」
「ーーーーー……コーチ…どういうことなんですか!」
「ーーそ…それは…そ、それはー」
「ーわ、わ、わたしは、何も知らないもん!」
そんな、映像をー。
彼女は”あの時”何で意識が飛んだのかー、
ずっとその理由を探っていたー。
そして、あの時、会場で
”動画”を撮影していた人間がいないかどうか、
彼女はずっと探し続けていたー。
そしてー
同じく参加者である南雲美姫という子の父親が、
娘の活躍を見守ろうと、動画を撮影していたことを突き止め、
その動画を見せてもらったー。
そこに、この映像が残されていたのだー
”音声”を拾うのに苦労したが、それも何とか取り出せたー。
”対戦相手に憑依して、わざと負けさせる”
そんな行為の犠牲になったのは、後藤 蘭だけではないー。
当時”サーブの魔女”の異名を持っていて、
瑞穂とも何度か対戦したー
安西 莉桜子(あんざい りおこ)は今、
”憑依の真相”を突き止めて、笑みを浮かべていたー
「ーわたしーー”人を恨む”と、ず~~~~~っと
忘れない性格だからー
覚悟しててね、コーチさんー」
莉桜子は不気味な笑みを浮かべながら、
静かにそう、呟いたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
”手段を択ばないコーチ”の後日談でした~★
当時の蘭視点の物語と、その後の両方を
描いてみました!!
ここまでお読み下さりありがとうございました~~!
コメント
下手に真相を知ろうとしたばかりに、蘭の人生は完全に崩壊してしまいましたね。
でも、やりたい放題のコーチはいずれ、莉桜子から、何らかの報復で報いを受けそうな感じなので、蘭は仇をうってもらえそうなのが、せめてもの救いですかね?
コメントありがとうございます~!
探ろうとしなければ…何とか普通の人生は送れたかもしれなかったですネ~!
今度こそ、コーチの命運も尽きちゃうかもデス…!