<憑依>手段を択ばないコーチ②~全てはお前のため~(完)

教え子を勝たせるために、
対戦相手に憑依して”わざと負ける”という
行為に走った卓球のコーチ。

その行動は次第に…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「聞きたいことってー?」

大会の表彰が終わり、
コーチの誠太が、瑞穂の所にやって来ると、
誠太はそう口を開いたー

「あ、いえー…
 そのー…準決勝の時のことなんですけどー…」

瑞穂が不安そうにそう言葉を口にするー。

準決勝は、お嬢様の蘭との対決ー…
つまり、瑞穂を勝たせるために、誠太が蘭に憑依して
わざと負けた試合のことだー。

「ーーえ…じ、準決勝が、どうかしたのかー?」
誠太がそう言うと、
瑞穂は目に涙を浮かべながら言葉を口にしたー。

「ーコーチ、準決勝の時、体育館にいませんでしたよねー?」

その言葉に、
誠太はギクッと、思いながら、瑞穂の言葉の続きを待つー

”あ、あからさまにわざと負けすぎてー…
 ひ、憑依がバレたのか!?”

いやー
俺が憑依してたなんて分かるはずがないー

そう思いながらも、
”話があります”と呼び出されて
”準決勝の話”を持ちだされて
”目の前にいる瑞穂が目に涙”を浮かべていて、
しかも”準決勝の時に体育館に誠太がいなかったこと”を
指摘してきているー。

誠太は、”バレてはいけないことがバレそうになっている”
そんな感覚を味わいながら
必死に言い訳を考えようとしていたー。

しかしー

「ーーコーチがいない間ー…わたし、本当に負けそうだったんですー
 でも、あの子が急に手を抜いてーーー」

瑞穂は目に涙を浮かべながら呟くー

「コーチは見てなかったと思うので
 知らないと思いますけどー…
 わたし、本当は負けてたんですー
 でも、何故だか分からないけどー
 あの子ー、急にわたしに手加減し始めてー
 それでわたしは”勝たせてもらった”だけなんですー」

瑞穂は涙をこぼしながらそう呟くー

”わざと負けられた”ことが相当悔しかったようで、
そのことを伝えるために、
コーチの誠太を呼び出したようで、
”憑依”に気付いたわけではなかったようだー

「ーーわたし…優勝できなかったら部活をやめるー、なんて
 この大会の前は言いましたけど…
 
 ーーーもう、あんな悔しい思いはしたくないですー…
 
 コーチ…
 ーーわたし、今まで以上に頑張りますからー
 だからー、これからもー」

瑞穂のそんな言葉に、
誠太は”別の意味で”安堵の表情を浮かべるとー

「ーーいいさ。川森、お前は優勝したんだし、
 部活を辞める必要なんて全然ないー。
 お前が強くなるためなら、俺は何だってするー。
 だから、もうそんなに泣くんじゃない」

と、力強く言葉を呟いたー。

瑞穂は、そんな言葉に
泣きながらも嬉しそうに頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

瑞穂との特訓を続ける誠太ー。

誠太はあの日ー
”蘭に途中から憑依したこと”を反省したー。

”反省”と言っても
蘭に憑依したことを反省したわけではないー。

”途中から憑依したことで、
 明らかに手を抜いてわざと負けたのが
 バレバレみたいな状況になってしまったこと”を
反省したのだー

だからー
今度はー

”まだ勝てない可能性が高い”相手には
早めに憑依することにしたー。

そしてーー
地域の学校との交流戦が行われることになったー。

周辺地域の3高校と共に、合計4高校で簡単な
非公式大会を行うー

その第1回戦の相手がー
先日のお嬢様・後藤 蘭だったー

「ーーーー」
蘭が、瑞穂のほうを睨むようにして見つめるー

「ーこの前は、よくもわたしに恥をかかせてくれたわねー」
蘭が怒りの形相で呟くー。

瑞穂が「え…」と、困惑するー。

”後藤さんがわざと負けたんじゃー?”と
心の中で思うー。

「ー今度は”本気”で戦ってもらうからー!」
瑞穂がそう言うと、
今度は蘭が表情を歪めるー。

あの日、正気を取り戻した蘭は
”いつの間にか自分が巻けていた”事に困惑し、
周囲に”ありえない”と、騒ぎ立てたものの、
周囲の誰もが”蘭は負け惜しみを言っている”と判断し、
相手にしなかったー

そんな状況で3位決定戦にも”プリンス”の異名を持つ男子に敗れー、
結果的に4位になってしまったー

「ー今度こそ、この体育館の床に膝をつかせてあげますわ!」
蘭が怒りの形相でそう叫ぶー

「ーーー」
その様子を見ていた誠太は動いたー

”あのお嬢様は強いー…まだ、川森じゃ、勝てないかもしれないー”

そう判断するとー
体育館の外に出てー
憑依薬を使用したー

「ーーひっ!?」
試合中に突然身体を震わせる蘭ー

「ー!?」
その反応に瑞穂は少し違和感を覚えるー

「ーー今回はわたしが必ず勝ちますわよ!」
憑依された蘭はすぐに”いつもの蘭”のような振る舞いをするー

そしてー
今度は”あくまでも自然に戦っているようにー”

2ゲーム目は勝って、
3ゲーム目はデュースまで持ち込んで負けてー
4ゲーム目は勝ってー、
5ゲーム目は負けてー、とギリギリの戦いを演じて見せたー

「ーーー…完敗だわ…」
蘭が膝をついてそう呟くー

この前とは違いー
瑞穂は笑顔だったー。

蘭の身体のまま、そんな瑞穂を見上げると、
蘭は幸せそうに笑みを浮かべたー。

「ーーわたしは、負けてませんわ!
 あいつ、何かイカサマをー!」

正気を取り戻した蘭が再び叫ぶー。

蘭から抜け出していた誠太は”気にするな”と
瑞穂に対してそう言い放ったー。

再び蘭は”負け惜しみ”と判断されー
”意識が飛んでいるうちに負けている”を2度繰り返した蘭は
精神的に病み、その後卓球部を引退したらしいことを
風の噂で瑞穂は聞いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから、瑞穂はあらゆる練習試合や大会で
”無敗”となったー。

自分の高校の卓球部の試合では、
負けることもあったが、
それは”さすがに同じ高校の同じ部室の生徒に憑依したら
バレる可能性が高い”と、誠太が判断し、
憑依を控えていたためだー。

憑依するのは、大会とか、そういうところだけで良いー。

「ーーーぁ…」
対戦相手の男子に憑依した誠太ー。

必要とあれば、男子にも憑依するー。

「ーーぅっ…」
別の大会では、”勝てそうだ”と判断し、
憑依してなかったもののー
逆転負けを喫しそうになっていたため、
咄嗟に対戦相手の”卓球魔女”こと、南雲美姫に憑依して、
”わざと”負けたー

少し強引になってしまったもののー
瑞穂を勝たせることができたー

「(ふ~危ない…この子には何度も勝ってるから
 大丈夫だと思ってたが、油断したなー)」

美姫の身体でそう思いながら、誠太は
”これからはー…”と、心の中で呟いたー。

やがてー、
大事な大会では、
瑞穂の対戦相手には試合前から憑依しー、
確実に負けるように、振る舞うようになっていたー

もちろん、瑞穂に気付かれないようにー、だー。

最初から憑依していればー
”瑞穂が負けることはない”からだー

どうしてー
誠太がここまで瑞穂に入れ込むのかー
それはーー

帰宅した誠太ー。

棚の上にはいつも置かれている
”離婚した妻”と、”娘”の写真が置かれているー

その娘ー…由紀(ゆき)はーーー
瑞穂によく似ていたー。

5年前の写真で、由紀はもう高校生ではないためー
瑞穂が実は由紀だった、なんてことは絶対にないがー、
それにしても、高校時代の由紀と、よく似ているー

だからこそー
誠太は瑞穂に必要以上に入れ込んでいたー

それが、”指導者”としてはあってはならないことだと
理解はしながらもー

だがーー
その数日後ー

「ーーあの!」

県大会の第2回戦ー。
”サーブの魔女”の異名を持つ安西莉桜子との試合中ー

瑞穂が突然口を開いたー。

そして、ラケットを静かに置くと、
「ーーー…」瑞穂は意を決したように言葉を口にしたー

「ーーそんなこと、あり得ないと思って、ずっと黙ってたんですけどー…
 ……コーチ、ですよね?」

瑞穂のその言葉に、
対戦相手・莉桜子に憑依していたコーチ・誠太は混乱の表情を浮かべたー。 

「ーーな、な、何を言ってー…?」

その言葉に、瑞穂は莉桜子のほうを困惑した表情で見つめながら
言葉を言い放つー

「ーーーー…最近、わたしと対戦する子ー
 みんなー”コーチの戦い方”なんですー」

その言葉に、莉桜子は表情を歪めるー。

以前、こんなことを指導したことがあるー

”相手の戦い方、癖を見てよく覚えるんだー
 一見、何もないように見えても、
 必ず、人間一人ひとりに”戦い方”というものがあるー

 それをよく観察して、見極めて、相手を知ることも
 勝利への一歩だー”

とー。

「ーーーー!!!」
瑞穂は、それを実践していたのだー。

「ーーー……そ、そんなことー」
莉桜子の身体のまま、咄嗟に誤魔化そうとする誠太。

”戦い方”や”振る舞い”もある程度は変えたはずだー。

だが、瑞穂はそれをも見破るぐらいに
コーチの教えをしっかりと守り、しっかりと”観察”していたー。

「ーーーーー……コーチ…どういうことなんですか!」
瑞穂が目に涙を浮かべながら言うー

「ーーそ…それは…そ、それはー」
会場の周囲を見渡す莉桜子ー。

周囲には、たくさんの人がいるー。

「ーわ、わ、わたしは、何も知らないもん!」
そう言いながらー莉桜子はそのまま試合を放棄して
その場から逃亡したー。

そしてー、
慌てて会場である体育館から離れてー
人目につかない場所で莉桜子を開放ー、
誠太は自分の身体に戻ると、
何食わぬ顔で体育館に戻ったー。

「ーーーーー」
体育館に戻ると、大会を”棄権”した瑞穂の姿があったー。

「ーー…どうしたんだ川森ー」
”何も知らないフリ”をして誤魔化そうとしたー。

けれどー
ダメだったー。

瑞穂が涙目でコーチである誠太のほうを見つめるー。

「ーわたし、明日学校で部活を辞めることを
 みんなの前で伝えようと思いますー

 どんな方法を使ったのかは分からないですけどー
 コーチが、わたしの対戦相手を”わざと”負けるように
 仕向けてたなんてー

 わたしにはもう卓球を続ける資格はありません」

真面目な瑞穂はそう言うと、
誠太のほうを見て、
心底ガッカリした様子でため息をつくと
何も言わずにそのまま立ち去ってしまったー

妻とー
娘が自分の元から立ち去っていく光景が
脳裏にフラッシュバックするー。

誠太は思わず呟くー

「”また”ー」

「また、俺を置いていくのか、由紀ー」

とー。

その言葉は、既に誠太から離れた場所ー
体育館の出入り口まで歩いていた瑞穂には聞こえなかったのか、
瑞穂はそのまま立ち去っていくー

「ー俺は…俺は、全部お前のためにー
 やってきたのにー

 俺はー…」

目に涙を浮かべながら
ギリギリと歯ぎしりをしている誠太を見て、
少し驚いた様子で、生徒の一人が
「コーチ…?」と、声を掛けるー。

だがー
誠太はその言葉には、目もくれずにー
体育館を飛び出したー

そしてーーー
一人で、大会が行われていた学校の廊下を
歩いていた瑞穂に追いつくとー
背後から乱暴に腕を引っ張ったー

「ーー悪い子だー…!
 コーチの俺の言うことを聞けないなんて、悪い子だ!
 
 俺がどれだけ、川森のために尽くしてきたかー!
 それなのに、退部なんてー許さないー!

 そうだー…
 そうだそうだ!俺が、俺が川森になればいいんだー!

 そうだーー…
 ははっ!」

誠太は狂った目で笑うと、
瑞穂は驚いて悲鳴を上げたー

しかしー
その直後ー
誠太は、瑞穂に憑依してしまったー

「ーー川森さん!?」

悲鳴を聞いた別の部員が、瑞穂のいる場所に駆け付けたー。

「ーーーーー」

がー
もう、コーチに完全に支配されてしまった瑞穂は、
誰かに助けを求めることはできなかったー

「ーーー…悲鳴?
 ふふー…

 気のせいじゃない?」

瑞穂はニヤリと笑みを浮かべるとー
そのまま、ゆらゆらと歩き出したー

「”今度”は俺の前から去っていくなんて許さないー
 川森ー… いいやー由紀、お前は俺のものだー」

瑞穂を勝手に、”自分の元を去った娘の名前”で呼ぶと、
瑞穂はニヤニヤと笑みを浮かべながら
そのまま会場を後にしたー

おわり

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コメント

破滅の道を歩んでしまったコーチ…!
もう後戻りはできそうにないですネ~…!

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    面白かったです。

    よろしければですが、蘭ちゃんが主軸のスピンオフの方を書いていただけませんでしょうか?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      確かに物語が書けそうな気がしますネ~!
      まだ確実に書くとはお約束できませんが、
      前向きに考えてみます~!