ネットカフェに通う男子大学生ー。
ふと、彼は、あることに気づいた。
”いつも同じ女性が寝泊まりしている”
ことにー
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大学に通う、下園 大輝(しもぞの たいき)は、
ネットカフェをよく利用していたー
大学近くのネットカフェー。
正直、自宅よりも落ち着くし、
このネットカフェの”落ち着いた雰囲気”が
何よりも好きだったー。
大学のレポートづくりも捗るし、
少し休みたいときには漫画も読めるー。
一人暮らしの大輝が暮らすアパートは
隣人が騒音を立てるタイプだし、
決して家具なども充実しているわけではないために
ここにいたほうが、のんびりできるのだー。
今日もー
大輝は、このネットカフェで
大学の課題を進めていたー。
「--ふぅ…」
課題を終わらせた大輝は、時計を見つめて
”まだ帰るには早いか”と、思いながら
この前読んだ漫画の続きを読もうと立ち上がるー。
本棚のある場所に向かい、
ちょっとおしゃれな本棚を見つめると、
少し離れた場所で本を選んでいる女性に目が行ったー。
「あ…」
大輝は、その女性と目が合って、会釈をするー。
”あの人…ずっとここにいるのかな?”
大輝はそんな風に思うー
とても綺麗で可愛らしい感じの女性ー
だがー
いつこのネットカフェに来ても、
必ず見かけるー。
もしかしたら、ネットカフェに住み着いているのかもしれないー
と、思ってしまうほどにー。
けれどー
「---俺より、年下だよな?」
大輝はそう呟くー。
見た目だけで、本人から直接聞いたわけではないから、
何歳なのかは分からないが
見た感じ、大輝よりも年下に見えるー。
ギリギリ女子大生かー、
あるいはー…
「----あの」
「--!」
大輝が、我に返ると、その女性が大輝の目の前にいたー
「え…?」
大輝がビクッとするー。
なんとなく見つめてしまっていたことに
気づかれたのだろうかー、
とー。
「---あの…何か御用ですか?」
穏やかな感じの声ー
だが、声の質的には、
明るく元気そうな感じ…も受ける。
声と実際の喋り方に妙な違和感を感じるー。
「---…え、、、あ、、いや」
大輝は困惑しながらも
”素直”に打ち明けることにしたー
不審者と思われてしまっては、たまらないー
「あ、、いえ、あの、いつもいらっしゃる気がしたので
不思議に思って…
別に変な意味で見てたわけじゃないんです。
すみません」
大輝がそう言うと、
女性はほほ笑んだー。
「---確かに、そうですね」
とー。
「--良ければ、少しお話しませんか?」
女性が、本棚の近くのテーブルが置かれているスペースを
指さすと、静かにそう微笑んだー
「あ、はい…」
大輝は、少し戸惑いながらも、
女性と共に同じ座席に座るー。
かなり若く見えるが、
”妙に”落ち着いているー。
「---……あ、、近くの大学に通う
下園といいます」
大輝は、学生証を見せながらそう呟いたー。
不審者ではない、ということを理解してもらうために
早いところ素性を明かしたほうがいい、と
そう判断したのだー。
「---……あ、、わたしは、、わたしは、美桜(みお)です」
その女性は、美桜と名乗ったー
ネットカフェの店長が本棚を整理しにやってくるー
そして、美桜と大輝の方を見つめると、
少しだけ何かを考えるような表情を浮かべるー。
そのことに、大輝は気づかないー。
「え、、えっと、、あ、よろしくお願いします」
大輝は、”何がよろしくなんだ?”と頭の中で
苦笑いしながら、美桜の方を見つめるー。
美桜は口を開いたー
「--下園さんに言う通り、わたしは
このネットカフェで寝泊まりしています。」
「--あ、そ、そうなんですね」
大輝がうなずくと、
美桜は「下園さんがよく見かけると感じたのは
そのせいだと思います」と、呟くー。
「---…あ、、あの…」
大輝は少しだけ心配になって、
”失礼かもしれないんですけど”と、
言葉を続けたー
「ご家族とかは…?」
「---」
美桜は口を閉ざしたー
「あ、、い、、いえ、ごめんなさい!
俺と同じぐらいの年齢に見えるので、ついー…
大学…生ですか?」
大輝がそう聞くと、
美桜は首を振ったー
「大学には通っていません」
とー。
「---…こ、、、高校生…じゃないですよね…?」
大輝が不安そうに聞くー
もしかすると家出少女なのではないか、と
思いながらー。
だが、その問いには答えず、美桜は続けたー。
「---昼間は、アルバイトをして、お金を稼いでいます」
とー。
「---そ、そうですか」
大輝はそれだけ答えると、
口を閉ざしたー
何て言っていいか分からない-ー
見た目的に、大学生か高校生に見えるー。
だが、その落ち着きぶりは、
自分よりも何倍も生きているような、
そんな印象さえ、感じさせる振る舞いだー。
「---あ、長々とすみません」
美桜が頭を下げるー
大輝も「あ、いえ」と頭を下げると、
美桜はそのまま、自分の個室の方に戻っていったー
しばらく漫画を読み、
チェックアウトする際に、ネットカフェの店長が呟いたー
「---彼女は…」
「--え」
大輝が店長の方を見る。
だが、店長はすぐに「いえ、ご利用ありがとうございました」と
接客モードに戻り、そのまま大輝は店を後にしたー。
大輝は不思議そうにしながら
ネットカフェの外へと足を踏み出したー
・・・・・・・・・・・・・・
夜ーーーー
寝静まった利用客も多い中、
美桜はネットカフェの廊下を歩いていたー。
「----”美桜”
仮名ですか?」
背後から店長が声を掛けるー
「----ええ」
美桜は、ふふっと笑いながら、
悲しそうな瞳を輝かせるー。
「----……しかし…まぁ、誰も信じないでしょうからね」
店長は壁に寄り掛かりながら美桜の方を見ると、
美桜は、苦笑いしたー。
「そうですね…
”名前も分からない”なんてー」
美桜は、それだけ呟くと、目を閉じたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
1年前ーーー
ホームレスの男が、ホームレスのたまり場となっている
廃墟地帯を歩いていたー
ここは、行政の管理も行きわたらず、
身寄りを失った人間たちが、たまり場として利用している場所ー
そこにー
可愛らしい少女がいたのだー
「--え」
ホームレスの男は唖然とするー。
しかも、その子は廃墟地帯の高台から
飛び降りようとしているー
偶然それを見かけたホームレスの男が叫ぶー
「危ない!」
とー。
今、まさに飛び降りようとしているその子をー
ホームレスの男は咄嗟に助けたーー
だが-
その時ーーー
ホームレスの男は反動で、自分が転落してしまいー
そのまま落下ー
気づいたときには、自分がその少女の身体に憑依していてーーー
自分の身体は、死んでいたのだー。
「---え……」
死んだ自分が、助けた少女に憑依してしまったー
”名前”もー
”どこから来た子なのかもー”
分からないー
やがて、少女に憑依してしまった
ホームレスのおじさんは、
その廃墟地帯から外に出たー。
周囲のホームレス仲間が、
少女の身体を弄ぼうとしたためだー。
名前もー
住所もー
何も分からないー
絶望的な状況の中、公園で寝泊まりしていたが、
ついに力尽きてしまいー
そしてーーー
その時に出会ったのが、
偶然、公園を通りがかった
ネットカフェの店長だったー。
少女に憑依してしまったホームレスの男は
全てを泣きながら店長に打ち明けたー。
”警察に行きたいけれど、憑依なんて信じてもらえないだろうから、
警察に行くこともできない”
とー。
店長は、そんな少女の言葉をー
信じたのだったー。
そして、その日から、ホームレスの男は、少女の身体で
ネットカフェに寝泊まりしているー
「--あの時、正直、あなたの”憑依”の話を信じたわけじゃなかったんですよ。
でも、なんとなく死んだ私の娘に似ていたー。
だから、こうしてここに匿ったんです」
店長が言うー。
「ーーいえ、本当に、ありがとうございます」
美桜を名乗る女性は、当初無料でこのネットカフェに
寝泊まりさせてもらっていたー。
今はお昼にバイトをすることで、
お金を稼ぎ、ネットカフェに、通常料金以上の料金を支払い、
恩返しをしているー。
「---…その子の…
その身体の名前や身元、いつか分かるといいですね」
店長の言葉に、
美桜は「えぇ…」と悲しそうに微笑んだー
大輝が”違和感”を感じていたのはー
身体は女子高生か女子大生ー…なのに、
中身は、40、50代のホームレスの男だったからー…
大輝はまだ、そのことを知らないー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大輝は、それからもネットカフェを利用していたー
「--あ、こんにちは」
大輝と美桜の目が合い、大輝が頭を下げる。
「--こんにちは」
美桜がにっこりとほほ笑むー。
大学生の大輝から見ても、美桜は同じぐらいか
年下に見える。
その美桜が、ネットカフェに寝泊まりしている、
というのが、やはり、大輝には気になったー。
しかも、美桜はなんとなく儚げー、というか
時折”見た目と中身が合っていない”ような、
そんな雰囲気を見せるー。
「---少年漫画、お好きなんですね」
大輝が漫画を指さしながら笑うと、
「--え、あぁ、はい、小さいころよく読んでいたので」
と、美桜はほほ笑んだー。
美桜が読んでいる漫画はー
”古い”漫画が多いー。
最近の少年漫画ではなく、
まるで懐かしむかのようなー
そうー
大輝の父親が、懐かしんでいるような、
そんな漫画ばかり読んでいるー
「--変、ですか?」
美桜が呟くー。
「あ、いえ、そうではなくて、
俺の父親と同じような漫画読んでるなぁって」
と、大輝が慌てて言うと、
美桜は少しだけ戸惑った様子で
「あ、そっか…この身体だと…」と意味深な言葉を
呟いたー。
「え?」
大輝が聞き返そうとすると、
美桜は「なんでもないですよ」とだけ呟いて
そのまま立ち去って行ったー。
「-------……」
大輝は、美桜の後ろ姿を心配そうに見つめたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「---早く、この子の名前とか、家族とか見つけてあげないとな」
固執に戻った美桜は足をだらしなく垂らしながら
そう呟くー。
「---家族も、名前も分からないー
とは言え……」
美桜は難しい表情を浮かべるー。
”自分がこの子に憑依してしまった”以上、
警察に保護を求めるのも色々とトラブルになりそうだし、
ネットでこの子の写真を載せて「知りませんか?」と情報収集するのもリスクがあるー。
「---」
ネット上で、美桜を探している人のツイートなどがないか探すー。
だが、美桜の捜索願のようなものは
出されていない様子だったー。
「------」
美桜はため息をつくー
”美桜”と言うのも咄嗟に思いついた偽名だー。
本名は、知らないー。
「--この子を、家族のところに、早く届けてあげなくちゃな…」
美桜はそう呟くと、静かにため息をついたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--きみ」
大輝がネットカフェから出ようとすると、
ネットカフェの店長が大輝を呼び止めたー
「--え?あ、はい」
大輝が立ち止まると、
店長は言うー。
「--彼女は色々大変なんだー。
あんまり、彼女のこと、詮索しないでもらえるかな?」
店長が悲しそうな目で言うー。
「え…それは…どういう…」
大輝が戸惑っていると
店長は
「--難しい事情があるんだ…」
と、だけ呟いて、
「--彼女のこと、あまり深堀しないでほしい」
と、だけ付け加えて、そのまま立ち去って行ったー
「----」
大輝は心配そうに、ネットカフェの美桜がいる個室の方を見つめたー
②へ続く
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ネットカフェでの謎の出会い…
ここから物語はどう進んでいくのでしょうか~?
続きはまた明日デス!
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