ネットカフェに寝泊まりする謎の女ー
彼女の正体は…?
そして、憑依された子が、飛び降りようとしていた理由とは…?
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「----!!!」
美桜は身を震わせたー
ガムを噛んでいる男・江頭に金を渡していたのはー
「---店長…」
美桜が震えながら呟くー
ネットカフェの店長が、江頭に金を渡していたのだー
「ーーっかし、あんたも昔から、悪い奴だよなぁ、
涼しい顔してさ」
江頭が言うと、店長は笑ったー
「ーーーこれで、あの大学生はここにはもう来ないだろうー。
お客さんとしては感謝していたんだけどね。
あの女に絡まれちゃ、困るのさ」
店長の言葉に、江頭は「--あんたの”罪”がバレちまうかもしれないからな」
と、ニヤニヤと笑ったー
「--ま、また何かあったらいつでも電話をくれや」
江頭がそう言うと、店長は「あぁ」と呟いたー。
江頭が店の外に出ていくー。
店長がカウンターの方に戻っていくー。
美桜は、その会話を聞き終えて、しばらく震えていたー
”あんたの罪がばれちまう”
”あの女に絡まれたら困る”
ーーどういうことだ?
美桜は、翌日、店長に確認してみようと決意するのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--話とは、なんでしょうか?」
お昼の時間帯ー
店長を呼び出した美桜ー。
店長は、他のバイトスタッフにカウンターを任せると、
ネットカフェの奥の、事務室のような場所で
美桜との会話に応じたー。
「---……最近、柄の悪い男がよく来るようになりましたよね…?」
美桜が不安そうに言うと、
店長は、いつものように優しい笑みを浮かべたー。
「あぁ、あの人ね。迷惑しちゃうよ。
まぁ、何か問題を起こすようなら通報するから
心配はいりませんよ」
店長がそう言ったのを確認するとー
美桜は続けたー。
「---でも店長…
あの人に、昨夜、お金…渡してましたよね?」
「---!!」
店長の表情が歪んだー
笑顔が一瞬にして、消えるー。
「--店長…もしかしてこの身体のこと、
しってるんですか?」
美桜がそう聞いてもー
店長は答えないー
「--あの男子大学生を追い払うように
柄の悪い男に依頼したのは店長なんですよね!?
それにー
昨日、その男に”あんたの罪がばれる”って言われてましたけど、
店長…いったい…」
「--」
ドン!
店長が机を無言で叩いたー
「--知らないほうがいいことも、」
ドン!
ドン!
ドン!ドン!ドン!
机を何度もたたく店長ー
「この世にはあるーー
ってこと、知ってますか?」
ドン!
店長は笑っているー
だが、怒りのオーラを感じるー
「え……」
「---ホームレス如きが、ごちゃごちゃうるせぇってことですよ」
店長がそう言うと、
美桜は、「--私の…この身体のこと、知ってるんですか!?」と叫んだー。
「--倉田 佳純(くらた かすみ)-」
店長が呟いたー
「---佳純ちゃん、ですよ」
とー。
「--倉田…佳純、、、それがこの子のー?」
ホームレスの男が憑依していた子の本名ー
それが、佳純ー。
「美桜」は勝手に考えた偽名だったから、
当然、本名と一致しないのは当たり前だが、
「佳純」という名前が店長の口から出てきたことに、驚いたー。
「---…なんで…店長が…この子のこと…」
佳純が言うと、店長は笑みを浮かべたー。
「---ー佳純ちゃんは、修学旅行でこの辺りに
やってきていたんだー。
自由行動中にさ、たまたま私のネットカフェに
グループと一緒に立ち寄ってくれたんですよ」
店長が淡々と説明するー
「--そして、私は佳純ちゃんの可憐な振る舞いにー
恋に落ちました」
店長が、ホームレスの男が憑依している佳純の方を見て、笑うー。
「--恋…?」
佳純が震えながら言うと、店長は、ドン!と机を叩きながら「えぇ」と
笑みを浮かべたー。
「--修学旅行で私の店に立ち寄った佳純ちゃんは、
当たり前ですが、それきり、私の前に姿を現さなくなりましたー。
でもねー
私は佳純ちゃんを忘れることができなかったー。
私は佳純ちゃんが着ていた制服と修学旅行の時期から逆算して
佳純ちゃんの学校を調べ上げー
そして、学校から、佳純ちゃんの住んでいる場所も調べ上げましたー
それがちょうど、1年ちょっと前ー」
店長が淡々と告げるー
1年ちょっと前ー。
それはちょうど、佳純がホームレスの男のいた廃墟地帯で
自殺しようとしていたタイミングだー。
「---私はね…
この子の住んでいる九州まで足を運んでー
プロポーズしたんですよ」
店長が笑いながら言うー。
そしてー
「でも!!!!!!!!!!」
店長が机を叩いた。
「この子は!!私のことを!!!拒んだんですよ!
毎日毎日私は佳純ちゃんのことを思っていたのにー!」
店長の言葉に、
佳純は狂気を感じたー
”たった一度お客さんとして見かけただけの佳純に勝手に
一目ぼれし、住所まで調べてプロポーズした”
明らかにおかしいー
拒まれて当然だー。
「--だから、私は正義(ジャスティス)を実行しましたー」
「---!?」
佳純が表情を歪めるー
「--私は正義の王子様として、佳純ちゃんを捕えていた
佳純ちゃんの両親をやっつけてーー
それを自殺に見せかけましたー」
店長がスマホを見せて来るー
1年前ー
九州で発生した”一家心中事件”
家に火がついて、一家の住人が死亡ー
損傷が激しく、家族全員が行方不明なことから
死亡で処理されていた事件だー
「--これは、私がやりました。
正義のためにー
佳純ちゃんの両親をやっつけて、
私は佳純ちゃんの指に婚約指輪をつけー
九州から車で、都内まで佳純ちゃんを運び込みましたー」
”狂ってる”
ホームレスの男はそう思ったー
「でもー
佳純ちゃんは、私の好きをついて、逃げ出しましたー
そしてー
あなたのいた、廃墟地帯に逃げ込みー
家族も何もかも失った失意の佳純ちゃんは、自殺しようとしたー」
店長の話を聞き終えると、
佳純は口を開いたー
「--それを俺が見かけてー…
この子に憑依してしまった…?」
「--そうです」
店長は頷いたー
「公園で途方に暮れている佳純ちゃんを見つけて
”憑依”を聞いたときには驚きましたがー
同時にチャンスだと思いましたー」
店長はにっこり微笑むー
「”協力者”として、あなたを私のネットカフェに匿えばー
私は常に佳純ちゃんの側にいることが出来るー
ふふ、そうーー
今、私はこのネットカフェで佳純ちゃんと同居しているんですよ!!!
ふはははははは!」
店長が狂った笑みを浮かべたー
「--ふ、、ふ、、ふざけるな…!じゃあ!俺は…」
佳純が声を荒げるー
”佳純の知り合いが誰もいない”のはー
佳純はこの地方の人間ではないからー
だったのか、
と、ホームレスの男が怒りの形相で
店長を見つめるとー
店長はー
「ーーー佳純ちゃんらしく振舞え!
ホームレスのクズ野郎が!」
と、佳純を殴りつけたー
「ひっ!」
怯える佳純ー
「--あなたなど、何の価値もないー
私が欲しいのは、佳純ちゃんのー
か・ら・だ、だーーー」
店長が邪悪な笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
笑みを浮かべながら、店長が、近くにあった鎖を手に、
佳純を拘束しようとするー
「--へへへへへ…ついに、、佳純ちゃんとヤレる日が来た…
興奮しちゃいますねぇ」
店長が笑みを浮かべながら佳純を追い詰めようとするー。
だがー
その時だったー。
「----あ?」
店長が振り返ると、事務室の扉が開いていたー
そしてー
そこには、男子大学生の大輝がいたー
「な…お前…追い払ったはず!?」
店長が叫ぶー。
「---やっぱ…美桜さんが心配になって
店に来てみたらー
カウンターにいたアルバイトさんが
店長とこの部屋にいるって聞いたのでー」
大輝の言葉に、
店長は「ぜんぶ…聞いたのか…?」と唖然としているー
大輝は無言でうなずいたー
「美桜さん…いいえ、倉田さんー
あなたが、妙に大人っぽく感じたのはー
そういうことだったんですね」
大輝が佳純の方を見るー
佳純が大輝の方を複雑そうな表情で見つめるー。
「--はははっ!
気づかれたからには、仕方がないー
二人とも、佳純ちゃんの両親と同じように、消えてもらうー
私は正義だー!」
店長が叫ぶー
しかしー
「--!」
大輝の背後から、警察手帳を持った警官ふたりが入って来たー
話を聞きながら、大輝は既に警察に通報していたのだー
「----話は聞かせてもらったー」
刑事の言葉に、店長が佳純の方を見るー
「--貴様ぁぁぁ!ホームレスの分際で、
私が1年間、このネットカフェで匿ってやったのを忘れたのか!?
薄汚いホームレス野郎め!
女の身体に憑依した変態野郎め!」
店長が怒りの形相で佳純の方を見つめながら叫ぶー
「おい!いい加減にしろ!」
刑事が店長を取り押さえるー
「--…」
大輝が憐みの目で店長を見つめるー
「--貴様みたいな社会のごみは…!
これから行く場所を失って
その身体で野垂れ死ぬんだ!!!
お前なんかに、何ができる!!!
この、、ホームレス野郎が!」
店長が叫び終えると、
佳純が悲しそうな顔をして
店長の方に近づいたー。
「-ーーー1年間、ありがとうございました」
佳純は、淡々とお礼を述べたー。
店長の挑発的な言葉に、怒ることもせずー、
店長の悪事を罵ることもしなかったー。
佳純という子を傷つけた
ロクでもない、この男に”掛ける言葉など、もはやない”という
佳純に憑依したホームレスの意思の表れだったー
”お前のような男に何を言われようと、俺の心には響かない”
そういう、意思の表れー
「うぅぅぅううううう…ああああぁああああああ!」
店長が怒り狂った表情で叫ぶー。
店長は、そのまま、ネットカフェの外に連行されたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ネットカフェは閉鎖が決定したー。
店長は、1年前の、佳純の家族の命を奪った放火事件の犯人として
逮捕されたー。
また、店長の仲間のガムを噛んでいた男・江頭も後日別件で
逮捕されたようだー。
しかしー
”憑依”のことを証明する手立てはなくー
警察は、”家族を失った佳純が、ショックのあまり、別人格を作り出して
ふさぎ込んでしまっている”と結論付けたー。
「--…病院に入院することになりました」
佳純が微笑むー。
「---そうですか」
大輝が少しだけ寂しそうに呟くー。
「---…さすがに、ホームレスの私が、この子に憑依してしまったー
なんて、誰も信じてはくれませんからねー。
私は家族を失ったショックで、別人格を作り出して
心を守ってる少女ー…
そんな扱いみたいです」
少しだけ、自虐的に微笑む佳純ー。
でもー、と続けるー。
「--…この子に身体を返すことができるのかどうかも含めてー…
頑張って生きていこうと思いますー」
ホームレスの男は決めたー
佳純に身体を返すことができるその日までー…
そんな日が来るかは分からないけれど、
その日まで、佳純として生きていくー、と。
「---…そうですか…」
大輝は、それだけ呟くと、
佳純は「じゃあ…そろそろ行きますね」と、微笑んだー。
「---あの」
大輝が、立ち去って行こうとする佳純を呼び止めるー
「--あなたの、本当の名前はー?」
大輝が言うー。
「---え?」
佳純が振り返るー。
「倉田…佳純ですよね?」
佳純に憑依しているホームレスの男が、身体の本当の名前を言うー。
「--いえ、…”あなた”の名前です」
大輝が言う。
「---」
大輝は佳純ではなく”ホームレスの男”の名前を聞いているのだー。
「---」
佳純は大輝の方を、しばらく見つめたあとに微笑んだー。
「---美桜ですー」
にこっ、と笑って、そのまま立ち去っていく佳純ー
ホームレスの男は、ネットカフェで大輝に名乗った
偽名ー
それを、名乗ったー
自分の名前は名乗らずにー
何故、名乗らなかったのかー
それは、佳純に憑依しているホームレスの男にしか、分からないー
けれど、大輝は、少しだけ微笑むと、
立ち去っていく佳純に向かって声を掛けたー。
「--美桜さん!お元気で!」
ーと。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
ネットカフェの女の最終回でした~!
今回はダーク成分はなしで…!笑
お読み下さりありがとうございました!!!
コメント
SECRET: 0
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2話の後半で店長が犯人だと予想してました。
久々にダークな結末じゃなかったですね。
大輝と佳純(元ホームレスの人)も勇気ある行動でしたね!
大輝と佳純も正義感強いし何年後か再会して結婚して幸せな家庭築くってのはどうですか(^^)??
SECRET: 0
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コメントありがとうございます~!
予想的中★ですネ~!
確かに、再会して幸せに…というお話も面白そうデス~!
後日談として、書くことも検討してみますネ~!