<憑依>ネットカフェの女~未来編~

ネットカフェで出会った不思議な女性ー

”憑依”が絡む騒動から、5年ー。

ネットカフェで出会った女と再会した、彼が選ぶ道はー?
そして、その先の未来に待ち受ける結末は…?

※ネットカフェの女 完結編デス!
本編①~③と「再会編」を先にお読み下さい~!


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下園 大輝(しもぞの たいき)は、
自宅であることを決意していたー。

5年前、ネットカフェで出会った謎の女性・美桜(みお)ー。
本当の名前は、倉田 佳純(くらた かすみ)でー、
彼女には、とある事故でホームレスの男が憑依してしまっている
状態だったー。

佳純は、ある男に家族を殺され、失意のうちに自殺しようとしていたところ
ホームレスの男によって助けられー
その際に、ホームレスの男が、佳純に憑依した状態になってしまいー
今に至るー。

佳純本人の意識は家族を殺されたショックからか、
未だに表に出てこないー。

ホームレスの男は、佳純として生きつつー
”いつか、佳純が意識を取り戻したら、身体を佳純に返したい”と、
そう言っていたー。

そしてー
あれから5年後ー
大輝は偶然にも、居酒屋でバイトをしていた佳純と再会したー。

久しぶりの再会ー。
けれど、佳純本人の意識はまだ、眠ったままで
ホームレスの男が、佳純に憑依した状態のまま、
佳純として生きているー
そんな状態が続いたままだった。

佳純は言ったー。

”5年以上もこの身体で生きていると、自分が最初から佳純であったかのような
 錯覚を覚えてしまう”

”もし佳純の意識が戻った時、自分はどうなるんだろう?”

”佳純が正気を取り戻したときー、
 佳純に誰が今までのことを伝えてあげるのだろう”

色々な不安を口にした佳純ー。

大輝は、帰宅してからもずっとそのことを
考えていたー

そして、決意したのだった。

翌日ー
大輝は、佳純の働いている居酒屋へと向かったー。

お店から佳純が出て来るのを待つー。

本名は”倉田 佳純”なのだがー
大輝は今でも、ネットカフェで出会った時に
彼女が名乗った偽名・美桜で彼女のことを
呼んでいるー。

あの頃は、佳純に憑依しているホームレスの男も
佳純の名前を知らなかったため、
咄嗟に大輝に「美桜」という偽名を名乗ったのだったー

「----あ…下園さん」
佳純が店から出て来たー

大輝は「--すみません。少しお話が…」とほほ笑んだー。

昨日に続き、
近くのファミレスに入る二人ー。

佳純の仕草はすっかり”女性”らしい仕草になっているー。

ネットカフェで出会った当時、身体は”高校生”だったから
5年が経過した今はー
大学生…あるいは新社会人ぐらいの年齢だろうか。

”大人の女性”の振る舞いをすっかり身に着けている佳純は、
着席すると
「それで、お話って何でしょうか?」と、口を開いたー

「---俺、昨日、美桜さんと再会してずっと
 真剣に考えていたんです」

大輝が言うと、
佳純は少しだけ笑ったー

「---ふふ…変わらないですね。下園さんは…」

5年前のネットカフェでもそうだったー。
大輝は、見ず知らずの女性であるはずの佳純に
親切にしー
そして、最終的には、事件に関与していた
”ネットカフェの店長”から助けてくれたのだー。

「--ははは…昔からよく、
 他人のことに首を突っ込んで、って呆れられてますよ」
大輝は、笑いながらそう言うと、
真剣な表情になって、佳純の方を見たー。

「---俺とーー結婚しませんか?」

「---」
「---」

真顔の大輝と
唖然としている佳純ー。

「--はっ!?!?えっ!?」
少しして意味を理解したのか、顔を赤らめる佳純ー

「--あ、、えへ…いや、、え… あは…
 え…どうしよう…」
佳純は頬に手を当てて恥ずかしそうにしているー。

「---あ…!いや…その…!」
大輝も急に恥ずかしくなって顔を赤らめるー。

「---あ、、ご、ごめんなさい…
 とっても嬉しいんですけど、その、、、
 この子に憑依する前も、そんな経験なくって…
 人にプロポーズされるとか…

 その…」

恥ずかしそうにしている佳純に向かって
大輝は「ご、ごめんなさい 急に…!」と、
謝りながら”考え”を口にしたー。

「--美桜さんの事情を詳しく知っているのは
 たぶん、逮捕されたネットカフェの店長と、
 俺だけです」

大輝の言葉に、佳純は頷くー。

「--昨日、美桜さんは言いましたよね?

 ”この子が意識を取り戻したとき、
 この子に事情を説明できる人がいなくて
 この子が途方に暮れてしまうかもしれない”ってー。」

昨日、佳純はそう言っていたー。

もし、”佳純本人”の意識が戻った時、
佳純に憑依しているホームレスの男は
その瞬間に消えるかもしれないー。

そうしたらー
佳純本人は、”急に5年以上も経過した状態”で
意識を取り戻してパニックになってしまうだろうー、

とー。

「--でも、俺が一緒にいればー
 もし…もし、その子が意識を取り戻しても、
 俺がその子に、全てを伝えてあげることができると思うんです」

大輝の言葉に、佳純は「確かにそうですね」と、呟くー。

「ーーだから、俺が美桜さんと一緒になってーー
 美桜さんのことを支えたいんですー

 その子がいつか、意識を取り戻した時もー
 そのあともー
 それまでも、全部ー」

大輝はそこまで言うと、
少しだけ照れ臭そうにー

「もちろん…美桜さんが好きってのも、ありますけど…」
と、恥ずかしそうに言ったー

「--ふふふふ……ありがとうございます」
佳純はそれだけ言うと、おかしそうに笑ったー

「---あ、もちろん、ダメならー」
大輝がそう言いかけると、

「--まさか、男の人にプロポーズされるなんて…
 思わなかったなぁ…」
と、佳純はほほ笑んだー

「--…ははは…俺もまさか、
 中身が男の人に、人生初の告白をするなんて
 思いませんでしたよ」

大輝も笑うー。

「--…いつまで一緒にいられるか分かりませんけど…
 よろしくお願いしますー」

佳純が頭を下げるー。

「こちらこそ」
大輝は、そんな佳純の方を見て、嬉しそうに微笑んだー。

”自分は、佳純本人じゃないー”
そんな、引け目から、佳純は、あれから5年ー
誰とも深く関わらず、生きて来たー

けれどもー
ようやく、大輝という心の支えになる存在を
彼女は見つけたのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”結婚”はしなかったー
婚姻届けは、出さなかったのだー。

大輝と佳純が、二人で”合意”の上で
事実婚状態にとどめたー。

それは、何故かー。

いつかー
”佳純本人”が意識を取り戻すかもしれないからー。

佳純本人が意識を取り戻したら
ホームレスの男は、佳純の身体から去るつもりだったー。
もう、自分の身体はないがー
男は、佳純に身体を返すつもりだったー。

そうなったときーーー
”結婚”していると、
佳純本人は”知らない間に結婚していた”という状態に
なってしまうし、
別れるにしても、バツイチになってしまうー

そうならないようー
大輝と佳純は、法律上の結婚をしなかったー。

事実婚状態ならー
佳純本人の意識が戻らなかった場合は、
いつまでも一緒にいればいいし、

戻った場合で、大輝と別の道を進む場合ー、
バツイチにならず、そのまますぐに別れることが出来るー。

佳純本人のためー。

二人は”結婚”はしなかったのだー。

大輝と佳純は同居を始めるー。
ホームレスの男が憑依している佳純の身体の両親は
既に、ネットカフェの店長に命を奪われてしまっており、
この世にはいないー。
親族とも、佳純が姿を消したことで、疎遠になっているし
友人たちもそうー。

佳純は誰にも言うことなく、
大輝の家族に祝福される形で、
大輝と”事実上の結婚生活”を始めたー

大輝がどのように、両親を説得したのかは
分からなかったがー
大輝の家族は、佳純のことを詮索せず、
祝福してくれたー

”どうして事実婚なのか”
”どうして誰も知り合いが来ないのか”

そういう疑問も一切口にしなかったー。
きっと、優しい大輝が上手くやったのだろうー。

佳純は、そう思っていたー。

二人の幸せは続くー
人前では”佳純”と呼ぶもー
二人きりだけの時は、大樹は、本名ではなく
ネットカフェで出会った際に、ホームレスの男がとっさに名乗った
「美桜」で呼んでいたー

佳純自身も、それが心地よかったー

”自分は、佳純ではないー”

でも、美桜と呼ばれればー
自分自身が呼ばれているー
そんな、気がしたからー。

「----……」

それからさらに3年が経過したー。

佳純本人の意識は、まだ戻っていないー
合計で9年ー。

ホームレスの男が憑依してから、
大輝とネットカフェに出会うまで1年ー。

あの事件から再会するまで5年ー

そして、結婚してから3年ー。

9年間も意識が戻らない佳純本人の意識は、
もう、とうの昔に消えてしまっているのかもしれないー

ベランダで星空を見つめている佳純を
室内から見つめてほほ笑む大輝ー。

佳純と大輝は、幸せな日々を送っているー
正直、大輝も、”このままこんな日が続けばいい”などと
たまに思ってしまうー。
きっと、佳純に憑依しているホームレスも同じ気持ちなのだろうー。

佳純本人のためにー
そうは思っていても、
どこかで複雑な気持ちになってしまうー。

時間が経過すればー
経過するほどー。

”佳純が目覚める”ことは二人にとっての
幸せのおわりを意味しているー

ホームレスの男の意識は、佳純の身体から
追い出されて消えてしまうかもしれないしー

大輝は、正気を取り戻した佳純と、
そのまま一緒に暮らすことは難しいかもしれないー。
佳純本人からすれば”大輝は知らない男”でしかないー
急に一緒に暮らしたいと言っても無理だろうー。

だからー
二人は、佳純の意識が戻ることを願いながらもー
複雑だったー

けれどーーーー

そんな心配は無用だったー。

あれから、何十年も経過したー。
結局、佳純本人の意識が戻ることはなかったのだー。

30歳になったタイミングで、二人は、結婚したー。

佳純が意識を取り戻す可能性はあったがー
年齢的にも、二人が結婚し、子供を授かるには
タイムリミットもあったー。

「-その子が意識を取り戻した時は、俺が全部責任を取るから」
大輝は、そう言って、
佳純と結婚したー

佳純に憑依しているホームレスの男が
ずっとそうしたがっているのを大輝は分かっていたからだー。

そしてー
子供を授かりー
二人は幸せな人生を送ったー。

「----」

やがてー
高齢になった大輝は、病に倒れー
余命あとわずかとなっていたー。

十分、幸せな人生を送った大輝ー

けれどー

「----ー」
佳純がお見舞いにやって来るー

すっかり”おばあちゃん”になった佳純ー

子供たちが生まれたことをきっかけにー
佳純のことを
大輝は”美桜さん”ではなく”佳純”と呼ぶようにしたー

子供の前で違う名前を呼べば混乱するからだー

そしてーー

「----」
佳純が寂しそうに大輝の方を見つめるー。

「---ありがとう」
大輝が微笑むー。

佳純は「こちらこそ」と、寂しそうに微笑み、
大輝の手を握ったー。

「--わたしもーーあの人も、幸せだったよ」
佳純がにっこりとほほ笑むー

「そっかー」
大輝は、満足そうに微笑むと、
長い長い生涯に、幕を下ろしたのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大輝の墓参りにやってきた佳純ー

「---気づいてたのかな?」
すっかりおばあちゃんになった佳純は呟くー

大輝と同居してから3年ー。
ホームレスの男が憑依している状態の佳純の身体は
”幸せ”の感情でいっぱいになっていたー。

その”幸せ”が、完全に心を閉ざしていた佳純本人の意識を呼び戻したー

ベランダで、星空を見上げていたあの日ー

ホームレスの男は、佳純の意識が目覚めたことに気づいたー

「----…」
ホームレスの男は、全てを佳純に伝えようとしたー

けれどー
佳純本人の意識はほほ笑んだー。

”全部、分ってますー
 本当に、ありがとうございます”

とー。

佳純の身体ー
佳純の”脳”には、
ホームレスの男が憑依してからの9年間の記憶も刻まれているー

目覚めた佳純の意識は、ホームレスの男が語らずとも
全てを理解していたー。

「---ーー」
ホームレスの男は、”自分が消える時が来た”と理解したー

佳純本人の意識は、ホームレスの男に感謝していたー
ふさぎ込んだ自分の代わりに9年間ー
大事に、佳純として生きてきてくれていた、彼にー

けれどー
ホームレスの男は「--あとは、、君の人生だ」と
だけ呟いてー
そのまますぐにー
佳純の身体の中から消滅したー

”夢をーーありがとうー”

佳純の身体に憑依しなければ、この9年間味わった幸せは
絶対に味わえなかった気がするー

だからこそー
ホームレスの男は、最後にありがとうと伝えたー

佳純を困らせないようにー
多くを語らずー
また、佳純に引き留められたりしないようにー
ホームレスの男は、全てのみ込んで、そのまま、消滅したーー

「-----」
佳純の中から、ホームレスの男が、消えたー。

「------」
佳純はベランダから家の中を振り返るー。

大輝と目が合いー、
大輝が微笑むー

佳純も微笑み返したー

「-----」
佳純は、この時、決めたー。

”ホームレスの人が消えたことを伝えずに、
 ずっとこのまま生きて行こうー”

とー。

眠っていた9年間の記憶ー

ホームレスの男も、
大輝も、本当にいい人だということは佳純にも良く伝わって来たー

それにー
佳純自身も”この人を悲しませたくない”と、
そう思ったー

だからーー
佳純は、この時から何十年もー
大輝に本当のことは伝えなかったー

伝えればー絶対に、
大輝は、どこかで気を遣うしー
大輝はどこかで、ホームレスの男が消えたことを悲しむだろうからー。

そしてー
彼も、それを望まないだろうからー

昔を思い出しながら墓参りを終えた佳純は静かに微笑んだー

「-わたしも…すぐ…あと数年かな?
 大輝のところに行くから…
 待っててね

 それとーー
 あのおじさんにも、お礼を言わないといけないからー」

佳純は”9年間”自分に憑依していたホームレスの男のことを
思い出しながら、大輝の墓の前から
静かに立ち去っていくのだったー

「---ありがとう」

「こちらこそ」

「--わたしもーーあの人も、幸せだったよ」

「そっかー」

大輝との最後の会話ー

大輝もー
もしかしたら、
とっくにホームレスの男が消えて
本来の佳純に戻っていることを知っていたのかもしれないー

「--そっちに行ったらーー
 気づいていたかどうか、聞くからね?」

佳純は墓の方を振り返って、静かにそう呟いたー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ネットカフェの女の完結編でした~!
大輝くんの人生の最後まで描き切ってしまったので
もう続きはないですネ~(きっと笑)

お読み下さりありがとうございました!!

コメント

  1. TSマニア より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    続き楽しみに待ってました(^^)

    いい幸せな結末で安心しましたヽ(´▽`)/

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます~!

    お楽しみ頂けて何よりデス!

    ハッピーエンドになりましたネ~!