2090年ー。
憑依が当たり前のように存在する世界。
憑依を禁ずる法律
”尊厳保護法”が制定された。
けれども、もう、この世界は「憑依」に浸食されていたー。
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「お母さん、大丈夫?どうしたの?」
松美がニヤニヤしながら言う。
松美はーー
さっきまで母親に憑依していた男に憑依されてしまい、
からだも心も全て乗っ取られてしまった。
「---わ、、、わたし……
高校で勉強してたはずなのに…」
母が涙目で、娘を見る。
どこか、母には幼さがにじみ出ていた。
当たり前だ。
彼女の時間はー、
高校生のあのときに止まったままだったのだから。
「---お母さん、憑依されてたんじゃない?」
松美がそっけない様子で言う。
「憑…依・・・」
母ももちろん、憑依のことは知っている。
だが、母の時代は予防接種が始まったばかり。
憑依の予防接種などしていなかったのだ。
「いっ・・・いやああああああ!」
母親が泣き叫んで蹲ってしまう。
「やりたいこと、いっぱいあったのに!
いや!いやよ!!どうして!!!
酷い…酷い!!!」
心は高校生のままー。
泣きじゃくる母親を、
立ったまま、残酷な笑みを浮かべて
見下す娘の松美。
「---くくくく…」
松美は笑う。
そして…
「お母さん、病院にいこっ?」
松美が嬉しそうに言う。
ーーー憑依失調症ー。
この世界ではそういう病気がある。
長い間憑依されていた人が発症する精神病で、
憑依されていたことに深くショックを受け、
ふさぎ込んでしまったり、発狂したり、
酷い場合は廃人になってしまうこともある。
憑依失調症は、入院による治療がメインだ。
「---びょういん…」
母親がつぶやく。
「そう。お母さん、憑依失調症になっちゃいそうだもん!
早く病院にいこ!」
松美が言う。
松美はーー
もう”母親”に用はなかった。
だから、入院させることで、家から追い出そうとしていた。
「--わ、、わたしは…」
母がうろたえている。
「うっせぇんだよ!病院いけよ!このクソババアが!」
松美が激しい形相で母親を怒鳴りつけた。
「ひっ…うっ…うぅ……うっ」
母親はその場で泣き出してしまった。
松美は、乱暴に母親の手をつかみ、
そして病院に連れ込んだ。
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病院ーー
「お母さんは…ザンネンながら入院になります。
20年ー。
想像以上に長い憑依でショックだったのでしょうね…」
女性医師が言う。
年齢は20代後半だろうか。
医師のわりに色っぽい着こなしで、
男を誘惑しているかのようだ。
たまに色っぽい息をつくのも気になる。
「---そうですか」
松美はそっけなく返事をした。
”松美の体”も失調症になるのだろうか。
「あらー」
女性医師が色っぽい声を出すと、
松美の顔に手をつけて微笑んだ。
「あなたー、
……ふふっ…”そう”なのね?」
女性医師が言う。
「---え?」
松美が不思議そうな顔をすると、
女性医師は笑った。
「あなた・・・
宮川 松美さんじゃ…ないわね?」
女性医師に指摘されて
松美は邪悪に笑う。
「・・・だったら何だってんだよ」
それまでの大人しそうな雰囲気を投げ捨て、
松美はその場で足を組み、偉そうな態度で返事をした。
「ふふっ……
わかるのよ、私には…
私も”同じだから”-」
女性医師が言う。
松美は笑った
「くふふ・・・なぁんだ、先生も”憑依”されてるんですね。
いつからですか?」
松美の口調に戻し、医師に尋ねる。
「--ふふ、3年前よ。
この病院に患者としてきたときに、この先生に
一目ぼれしてね…。
予防接種もしていなかったみたいだから、
かだら、とっちゃった!うふ♡」
嬉しそうに笑う先生。
「憑依っていいですよね♡」
松美が言うと、先生も微笑んだ。
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診察室から出た松美は思う。
「---憑依の規制なんて、
今更無駄よ…。」
そう呟き、松美は病院から立ち去った。
この世界ではー、
2割が憑依されているのではないかという統計が出ている。
しかしー、
実際には”5割”だ。
5割の人間が、本来の人間ではないー。
そして、年間数十万、数百万規模で”失踪者”が出ている。
これはつまり、憑依薬を飲んで、霊体化した人間が
それだけいることを示している。
「--ー憑依は我々国民の夢です!」
新総理に就任した女性が声高らかに宣言する。
「人類の新しい扉を閉ざしてはならない。
私は、人類の夢を、守ります!」
色っぽい姿で叫ぶ新総理。
野党第1党の党首だった、角野 詠美が、
新総理に就任していた。
彼女も、女子高生だったころに、体を奪われている。
今、彼女の中に居るのはー。
「---国民の皆様の夢を、
私は守ります」
詠美は自信に満ち溢れた表情で、そう高らかに宣言したー。
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翌日。
登校した松美は、
”いつもの自分”を装い微笑む。
「--ふふ、20年ぶりの女子高生かぁ」
机の下で、太ももを触りながら
「若いって最高!」とつぶやく。
憑依した人間は、
憑依された人間の記憶をも奪い取る。
松美は、体だけではなく、
人生そのものを全て奪われてしまったのだ。
昼休みー。
「--今日は楽しそうじゃん!
どうしたの?」
親友の香代が言う。
「ふふっ…知りたい?」
松美が妖艶な笑みを浮かべて微笑む。
今日はいつもより、メイクも濃くしてみた。
スカート丈も少し短く。
「---」
香代が松美の方を見る。
そしてー。
突然、松美の胸を触ってきた。
「やわらかい…」
香代が顔を赤らめながら微笑む。
そして、そのまま松美の胸を揉み始めた。
「え、、、ちょっと、、あん♪ なに、するの?
あぁ♡ あっ♡」
松美が喘ぎながら言うと、
香代は微笑んだ。
「---松美、憑依されちゃったんだね!
実はね、わたしも幼稚園の頃に、
男の人に憑依されちゃってたの♪」
香代が笑いながら言う。
親友の香代もー
とうの昔に憑依された人間だったのだ。
「ふふっ…
松美のからだ、ず~~~っと、こうしたかった」
松美に抱き着いて、キスをする香代。
「--今まで”ナチュラル”でつまらなかったけど、
ようやく”ポゼッション”になれたんだね!
おめでとっ!」
香代が、松美の舌を舐めながら笑う。
ナチュラルとは、憑依されていない人間を示す単語。
ポゼッションとは、憑依されている人間を示す単語。
2070年ごろから使われ始めた言葉だ。
「んふぅ… 松美ちゃん、美味しい♡」
そう言うと、香代は唇を離した。
「---ふふ、みんな案外憑依されてるものね?」
松美が言う。
予防接種など意味がないー。
”予防接種”をした、と思い込んでいる人間は多い。
だがーーー
”予防接種”をする医師が既に憑依されているとしたらー?
その医師が”予防接種”だと偽ってビタミン剤を投与したらー?
統計では、9割が予防接種を受けているとされている。
しかし、実際にはーーー3割だ。
”6割”は既に憑依されている医師たちによって
”偽の予防接種”を打たれている。
もう、この世は手遅れなのだ。
一度拡散した憑依薬を止めることはできない。
憑依は、世の中を浸食している。
開発者の御室博士は、一体何を目的としているのだろう。
この国は”憑依先進国”なのだ。
「---わたし、もう”乗り換え”するから」
香代が笑いながら言う。
「え?その体から出てくってコト?」
松美が尋ねると、香代はうなずいた。
「--わたし、、、いや…僕はさ、
幼稚園の子に憑依して、JKの時に抜けるんだよ!
JK2年のこの時期になるとさぁ~、
僕にとっての”旬”は終わりなんだよね!」
香代が胸を揉みながら言う。
「---ふふ、わたしとは違うのね。
私は女子高生に憑依してそこからスタートよ」
松美が髪をかきあげながら笑う。
「--ふふふ、ま、好みは人それぞれさ」
香代はそう言うと、
可愛らしく手を振った。
「ばいばい!」
松美も、ほほ笑んで、手を振りかえした。
倒れる香代。
周囲のクラスメイト何人かがうろたえている。
すぐに、香代は目を覚ました。
「---あ、、、あれ、、ママは…?」
あどけない表情でつぶやく香代。
「ママ・・・ごはんまだ?おなかすいた!
香代、おなかすいた!」
幼い口調で話す香代。
香代は、幼稚園児の時に、時計が止まったままーーー
「---……この、お姉ちゃん…だれ?」
香代は教室にあった鏡を見て呟く。
不思議そうに自分の体を触っている。
「--くく…」
松美はそんな香代の様子を見ながら香代に話しかけた。
「--ーお姉ちゃんが”女”の快楽を教えてあげる♡」
香代は、意味がわからない、という様子で松美の
方を見つめたー。
放課後、空き教室で、松美と香代は、
激しく体を交わらせた。
放課後の教室に松美の激しい喘ぎ声が響き渡っていたー。
それから、時は流れたー
2102年。
憑依はもはやとどまることを知らなかった。
それを危惧した国連は、
「ポゼッション宣言」を行う。
憑依を全世界で自粛するべし、とした宣言だー。
けれどーーー
国家の代表の7割が憑依されている現状では、
誰も、それを聞き入れることはなかった。
日本でもー。
憑依薬の予防接種は製造中止になっていた。
国会議員のほとんどが、今や憑依されている。
「---お別れね…」
30近くなった松美がほほ笑む。
そしてーー
松美の体が力無く倒れた。
目を覚ます松美。
「----ここは・・・・?」
彼女の時間も、高校時代に止まったまま。
会社のオフィスで突然、我に返った松美は
当然、意味を理解できない。
「---ひっ…な、、、なにここ…
わ、、、わたし一体!?」
動揺する松美を見て、
後輩女性社員が笑う。
「あはは!せんぱ~い、もしかして憑依されてたんですか~?
あははははっ!超ウケる!」
松美は、涙目で困惑するしかーーー
「うっ・・・・」
松美が変な声を出した。
そして、松美はまた別の男に憑依されて、
邪悪な笑みを浮かべたーー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あの子だな」
松美から抜け出した男は、
清楚なメガネ女子高生に憑依しようとした。
しかしーーー
”既に中に、別の男が居た”
「ーーーこの子は、俺のものだ!出て行け!」
先客の男が言う。
だが、松美に憑依していた男は叫んだ。
「----失せろ!雑魚が!」
強大なオーラを発した男は、
先客の男を消し去り、そのメガネ女子を乗っ取った。
「くふふっ… あら、デート中?」
その子は、彼氏とちょうどデート中だった。
「---あは、、ま、いっか」
女子高生は嬉しそうに微笑んだ。
ーーー霊体同士が争うこともある。
そうして、”気力の強さ”で負けた霊体は消滅してしまう。
これが、憑依死と呼ばれる現象だ。
「----この世界、楽しすぎ!」
メガネ女子高生が、路上でスカートをめくりながら叫んだ。
・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
世界は、まだ知らない。
世界は、終わりに向かっていることを。
憑依薬の開発者、御室博士は既に100を超えていた。
だがー、
彼は生きていた。
”その時”をただひたすらに待ち続けてー。
③へ続く
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コメント
何でしょうね?この世紀末世界は(笑)
こうなってしまったらおしまいです!笑
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