近未来ー。
憑依薬が開発され、市販されたその世界では、
憑依が社会問題になっていた。
もしも憑依薬が開発されて市販されたらー?
そんな近未来を描く異色の憑依小説です。
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2064年ー。
御室博士が、
”飲んだ人間を霊体化させ、他の人間に憑依できる”効能を持った薬を開発した。
その薬は”憑依薬”として、
医学界を震撼させた。
他人の体を乗っ取り、思うがままにできてしまうのだ。
そしてー3年の時を経て、
御室博士はその薬の量産に成功、
憑依薬は、一般のドラッグストアや薬局にも並ぶ薬として、
世の中に出回ることになった。
だがー、
すぐに問題が起きた。
全国で、女性を中心に、突然奇行に走り出し、
逮捕者や犠牲者が続出した。
真面目だった女子高生が突然、コンビニ強盗に走ったり、
美人OLが突然、オフィスで服を脱ぎ始めたり、
売れっ子アイドルが突然窓から笑いながら飛び降りたりー。
そう、憑依薬は悪用されたのだ。
それだけではない。
憑依薬で自分の人生を捨て、他人の人生を奪うものまで現れた。
ある日から、娘の様子が変わったことに気付いたとある父親が
長い年月をかけて調べたところ、
娘は2年間、ずっと憑依されていたのだ。
人権団体をはじめ、
多くの人達が憑依薬に抗議の声をあげた。
だがー。
”誰が憑依された人間”で”誰が憑依されていない人間”か、
識別することが出来ず、取り締まることもできなかった。
憑依薬などというものは想定できておらず、
法律上”違法”ではないのだ。
が、薬局やドラッグストアは販売を自粛。
憑依薬による騒動は落ち着いたかに思えた。
しかしーー
御室博士は”栄養ドリンク 憑E-”を開発、
”薬”ではなく、飲み物として全世界に広がった。
もう止めることはできなかった。
憑依の波をー
法律で取り締まることもできない。
憑依反対派はそれでもあきらめなかった。
2072年、憑依に対する”予防接種”が始まった。
子供のころに接種することが推奨された
予防接種は、絶大な効果を発揮、
予防接種の普及により、憑依される人間は大幅に減少した。
赤ん坊に憑依する人間はめったに居ない。
赤ん坊の脳と交じり合い、今までの自分の思考が
かき消される”副作用”があったからだ。
だが…。
予防接種を受けない人間も居た。
御室博士は、
それを見破る為の方法を書いた著書を発売、
憑依したい人間と、そうでない人間のイタチごっごが始まっていた。
とある女子高生がスマホでニュースを見ていた
「ふ~ん、憑依の予防接種が今年は不足かぁ…」
女子高生、宮川 松美(みやかわ まつみ)がつぶやく。
隣に居た女子高生、森本 香代(もりもと かよ)が笑う。
「憑依の予防接種はしないとヤバイよね?
他の人にからだ奪われちゃうんでしょ?
こわすぎでしょ!?」
この世では”憑依”が身近なものだった。
そして憑依の予防接種を受けることも常識だった。
「ふふっ、そうね」
松美がほほ笑む。
クラスでも優等生の部類に入る松美は
人気者だった。容姿も申し分ない。
綺麗でサラサラしたロングヘアーが特徴的だ。
「---そういえば松美さ、、
去年、クラスにいた、春子って子、覚えてる?」
香代が言う。
「---あ、覚えてる覚えてる!
最初は大人しい子だったのにね…?」
松美が言う。
「---そうだよね…。
2学期に入ってから突然ギャルみたくなって
結局、不登校⇒退学になっちゃったし…」
香代がそう言って、続ける。
「わたし、思うんだけどさ、あれが”憑依”ってやつじゃないかな!」
笑う香代。
憑依の予防接種は常識となっているこの世では、
憑依薬が出回っているとは言え、
憑依された人を見ることはまれになっていた。
もちろん、予防接種が出来る時代になる前に
憑依された人間は多数いるけれど…。
「---そうかなぁ…予防接種してたでしょ?あの子も」
松美が複雑な表情で言う。
「--ふ~ん、ま、そうだよね」
香代がそう言うと、
チャイムが鳴った。
下校の時間だ。
「---ゲコウ、シテクダサイ!」
この時代では、
教師の半分は”ロボット”になっていた。
人の仕事は徐々に奪われている。
「---」
廊下を歩きながら思う。
松美はーーーーー
”予防接種”をしていないーーー。
「・・・したくても、、、出来ない子だっているの…」
松美は、予防接種を受けたかったー。
けれど、母親が猛反対するため、
できないのだ。
松美はこう考えていた。
”母はきっと誰かに憑依されている人間だ”
とー。
この世界では10年、20年と憑依した体で暮らす
人間も少なくない。
欲望のために憑依し、狂った行動をする人もいれば
本人に成りすまして、その人生を奪う人もいるのだ。
「---…わたし…憑依されたくないよ」
松美は、悲しそうにそう呟いた。
同年ー
瀬川総理大臣が、
一つの法案を、通そうとしていた。
それが”尊厳保護法”
憑依の撲滅を謳う瀬川総理が打ち出した法律で、
憑依薬や憑E-を持っている人間を逮捕できる法案、
つまり、憑依薬を全面的に取り締まる法案だ。
世論も、憑依薬に反発している。
だがー、
この法案は軽々しく通らなかった。
野党第1党を率いる、
30にして党の代表になった
美人議員、角野 詠美(すみの えいみ)が
猛反発しているのだった。
角野議員は、10年以上前、
女子高生だったころに男に憑依されている。
今も、その男に体を乗っ取られており、
それ故、憑依薬の取り締まりに反発しているのだ。
女の体を使って、異例の若さで出世した
角野議員にとっては、憑依薬の禁止は言語道断だった。
がーーーー、
瀬川総理大臣は、法案を押し通した。
法案は成立し、
2090年ー、
ついに、尊厳保護法が施行された。
憑依薬やそれに関連する者は所持しているだけで、
罪に問われる。
そして、その罪は重罪だった。
「---ようやくか」
瀬川総理大臣は、官邸で夕日を見ながら呟いた。
瀬川総理は、
30年前、娘が憑依されてしまい、
娘は交差点で大笑いしながら服を脱ぎ捨てて、
最後には車に跳ね飛ばされて亡くなった。
そして、妻も憑依された。
妻は目の前で自分の体を傷めつけながら笑っていた。
最後まで、笑顔を浮かべて、喘ぎながら妻は逝ってしまった。
「--わたしは、憑依を撲滅する」
瀬川総理が強い意思でそう呟いた。
「-----!!」
瀬川総理の体に違和感が走った。
「総理?」
横に居た秘書の男がつぶやく。
次の瞬間、瀬川総理は走り出した。
「--!?」
そして・・・
街中のデパートの屋上で突然叫んだ。
「私は重罪を犯した!
憑依という自由を国民の皆さんから奪ってしまった!
私の罪はーー万死に値する!」
そう叫ぶと、瀬川総理は、デパートの屋上から
笑いながら飛び降りてーーー
この世を去ってしまったー。
憑依推進派により、報復として憑依された
瀬川総理大臣は命を奪われてしまったのだーー。
”尊厳保護法”など意味がなかった。
憑依薬を手に入れた瞬間に、それを使い、
誰かに憑依してしまえば、罪に問いようがない。
憑依された体ごと逮捕しても、
その体は、救えないー。
憑依はーー
もう、止められない。
とある機関は、全人口の2割が憑依されているとの
予測を出した。
それだけ、この世界には憑依が広がっていたのだ。
「---ただいま」
松美が帰宅すると、
母親が蹲って泣いていた。
「--お、おかあさん?」
松美が不思議そうに声をかける。
母は、涙で顔をゆがめながら娘の方を見た。
「---お、、、おかあさん??
あ、、あなたは…誰?」
母は意味も分からない様子で言う。
「----!!」
松美は直感的に気づいた。
”やっぱり、お母さんは遠い昔に誰かに憑依されていたんだ” とー。
「--わ、、わたし…
教室に居たはずなのに…
な、、なにこれ・・・
いやっ…いやああ!」
泣き叫ぶ母。
彼女の時間はーー20年前に止まったままだったーー
授業中に憑依された彼女はーーー
今までずっと…
「---だ、、、大丈夫?」
松美が、声をかける。
その時だった。
「------ひっ!?」
松美の背中に”これまで感じたことのない感触”が走った。
そしてーーー
「---くく…くくくくっ♡」
松美が笑い始める。
「---そろそろ乗り換えの時だったんでな…!
あははは、自分で生んで、育てた娘に憑依する!
ふふふ、はははははははははっ♡」
泣きじゃくる母親。
狂気の笑みを浮かべる娘ー。
近未来世界で、悲劇が起ころうとしていた。
②へ続く
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世界観の説明に時間を食いました…。
憑依薬が市販されている近未来を描いていきます!
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