<憑依>お姉ちゃんの様子がおかしい③~手段~(完)

”お姉ちゃんの様子がおかしい”

そんな不安な日々は終わりを迎えたー。

しかし、真相を知った千里は、
”憑依されたお姉ちゃん”と協力することにー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」
髪を黒く染め直した菜々花は、
妹の千里と共に病院にやってきていたー。

前髪の一部だけ赤く染めていた菜々花は
散々、妹の千里に怒られて、
すぐに髪の色を元に戻し、今日、こうして病院にやってきていたー。

病院にやってきたのはー
”憑依”のことを診てもらうためー……ではなく、
意識を失ったままの紀彦の身体を見に来るためだったー。

「ーー不思議な感覚だよー。
 俺の身体はここにこうして眠っているのに、
 俺自身は、君のお姉さんの身体でこうしてここにいるなんてー」

菜々花がそう呟くと、
「ーわたしも不思議な気分です」と、千里が頬を膨らませながら言うー。

「目の前にお姉ちゃんがいるのに、
 全然お姉ちゃんじゃないことを喋ってるなんてー
 すっごい不思議です」

不貞腐れた様子で言う千里ー。

「ーはははー…ごめんごめんー。でも、確かに千里ちゃんからしたら
 不愉快な気持ちも分かるよ。
 だから、俺も早く元に戻りたい」

そう言うと、
千里は「ーーーひとつだけ、良かったことはー」と、言葉を口にするー。

「ーー柿沼さんが、”悪い人じゃない人”で良かったです」と、
少しだけ笑いながら言うー。

「ーーお姉ちゃんのこと、髪を赤くした以外は、傷つけたりはしてないから」
千里が少しだけチクッとした言葉を投げかけると、
菜々花に憑依している紀彦は申し訳なさそうにしながら
「じゃあ、早速試してみるよ」と、
眠ったままの自分の紀彦の手を握りながら
”元に戻る”ように念じて見たー。

「ーーどうですか?」
千里が呟くー。

今日、ここに来たのは”紀彦が自分の身体に戻るため”に
色々試すことだったー。

「ーーー…ダメみたいだ」
菜々花は目を開くと、そう呟くー。

元に戻れそうなことを色々と試してみる二人ー。
しかし、菜々花に憑依してしまった紀彦の意識が、
紀彦の身体に戻れることはなく、
そのまま時間ばかりが経過していくー

「ーー…お、俺の身体とキスしたりするのはー…どうかなー…?」
菜々花がそう言うと、
千里は「あ~…確かに自分の身体に戻れそうなイメージもありますね」と、
最初は言葉を口にするも、
すぐに顔を真っ赤にして「あ!って、お姉ちゃんとキスしたいだけでしょ!?!?」と、
声を上げるー。

「えっ!?いや、ちがっー!
 だ、大体この身体でキスしても、俺からすれば
 ”俺とキスしてる”ようにしか感じないし、むしろ気持ち悪いって感情しか
 ないし!」

菜々花が必死に否定するー。

「ーう~ん…」
千里は少しだけ考えるー。

確かに、菜々花に憑依している紀彦からすれば、
”見えるのは自分の顔”だし、
自分自身とキスしているようにしか感じないかもしれないー。
下心からではないー… ような気もするー。

「で、でも、自分の身体とキスして喜ぶ変態さんもいそうですし!」
千里がそう言うと、
菜々花は「お、俺は別に!君のお姉ちゃんの身体でも変なことは一度もしてないし!」と、叫ぶー。

その通りー、
菜々花に憑依してから、紀彦は一度も、自分の身体で楽しんだり、
そういったことはしていないー。

「ーー…でも、服装は柿沼さん好みにイメチェンしてますよね?」

「ぎくっ!」
菜々花はそう叫ぶと、「そ、そ、それはー…」と、言葉を口にするー。

紀彦が憑依してから、確かに菜々花の服装は派手になっているー。

「ーそれは、だって、お、俺が自分の身体の時だって
 自分の好きな服を着るし!
 ーそ、それと同じだからー」

菜々花が必死にそう言うと、
”まぁ、分からなくもないかなー…”と、千里は首を傾げながらも、
「ーじ、じゃあ、キスしちゃってください!それで戻れるなら!」と、
目を背けるー

「な、なんかごめんなー」
そう言いながら、”まさか女として俺自身とキスすることになるとはー”と、
思いながら、顔を”元自分”の抜け殻に近付けるー

「オェッ」
”自分とキスをする”ような感じになって、
正直、吐き気を覚えながらも、なんとかそれをこらえて、
菜々花に憑依している紀彦は、”自分”にキスをしたー

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「それで、どうなったのー?」

後日ー。
姉・菜々花の親友である克枝に憑依のことも含めて
起きていることを全て報告した千里ー。

克枝は驚きながらも、
起きていることを受け入れ、
千里の話を心配そうに聞いていたー

「ーキスでも、元には戻れなかったんですー」
千里が心配そうに言うと、
克枝は少し恥ずかしそうに「そうー」と、頷いたー。

「ーー…菜々花の意識は今、どうなってるんだろうー…?」
心配そうに呟く克枝ー。

「ーーー分かりませんー。
 でも、お姉ちゃんに憑依している柿沼さんって人も
 ”特に声が聞こえたりそういうことはない”って言ってましたー。」

千里の言葉に、克枝は
「ーー…柿沼くんの中にいるとか?」と、首を傾げるも
「それなら、柿沼さんの身体はもう目覚めている気がします」と、
千里は答えるー。

と、なると姉・菜々花の意識は
”菜々花の身体の中で眠らされているような状態”なのか
あるいはーーー

考えたくもないけれど、”もう消えてしまっている”可能性も0ではないー。

「ーーーーー」
険しい表情を浮かべる二人ー。

だが、少し間を置いてから、克枝はポン!と手を叩いたー。

「そうだ!”同じ状況”を作り出すことができればー」

克枝の言葉に、千里は「え?」と、首を傾げるー。

克枝が言うには、”学園祭の準備の時に紀彦が転落したのと同じ状況”を作りだせば、
元に戻れるのではないか、とのことだったー。

「ーーあ~…たしかに元に戻れる可能性はあるかも…?」
千里がそう言うと、
克枝は「あの時、柿沼くんが使ってた脚立と、場所も大体覚えてるからー、
今後は、柿沼くんが憑依している菜々花が脚立の上から落っこちて
その下にいる柿沼くんの身体にぶつかればー…元に戻れるんじゃないかな?」と、
詳しく言葉を口にするー

「ーー…ずっとこのままってわけにもいかないですしー、
 それが、できるならー」

千里がそう言うと、克枝は頷くー。

「ーわたしだって、早く奈々枝と話をしたいしー!
 気にしないで!」

克枝は”そうと決まったら、早速明日にでも!”と、
嬉しそうに言い放つも、
千里は不安そうな表情のままだったー

「あ、あのー…!」

「え?」
克枝が不思議そうに千里のほうを見ると、
「ーー…そ、そのー、”憑依してしまった時と同じ状況”を作り出すためには
 柿沼さんの身体も必要だと思うんですけどー、病院から連れて来ることなんてー
 できませんよねー?」と、不安そうに言葉を口にするー。

克枝は、病室に脚立でも持って行くつもりなのだろうかー。

それともー

「ーあぁ、それなら大丈夫ー」
克枝はそう言うと、笑いながら
「柿沼くんの入院している病院の院長、わたしのパパだから!」
と、得意気な表情で言い放ったー

「えっ!?えぇっ!?」

何気なく話していたこの、”お姉ちゃんの親友”は、
病院の院長の娘ー、
つまりお嬢様的な存在だと知り、千里は驚いた様子で、
克枝のほうを見つめたー

「あ!あ!そんなに気にしないで!わたしはパパの仕事も継がないし、
 ふつーの女子大生だから! ね!」

克枝はそれだけ言うと、
早速スマホを手にして「あ、パパ~?克枝だけど~」と、
甘えた声で何かをお願いし始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

車いすに乗せられた”紀彦”の身体が、
大学の敷地内にやってくるー。

千里、克枝ー、
そして、菜々花に憑依している紀彦がその場に集まると、
克枝が”あの時”の場所とほぼ同じ場所で脚立を立てたー。

車いすを引きずりながら、千里が不安そうに
脚立に上る菜々花の姿を見つめるー。

「これで、本当に元に戻れるんでしょうか…?」
千里がそう言うと、
克枝は「大丈夫ー。きっと戻れるよ」と、
励ましの言葉を口にするー。

もちろん”元に戻れる保証”なんてどこにもないー。
それでも、今まで試した方法の数々よりは
可能性がある気がするし、
同じことがきっかけで、紀彦は千里の姉・菜々花に憑依してしまったのだから、
もう一度同じことをすれば、菜々花の身体にいる紀彦が
今は抜け殻となっている紀彦の身体に”憑依”することで
元の状況に戻る可能性は十分に考えられる。

「ーー……ごめんな。心配ばっかかけてー。
 やっぱカラオケとか行ってもさー、自分の声じゃないと
 しっくりこないしー」

菜々花がそう言うと、
千里は「お、お姉ちゃんの声でカラオケ!?」と、不満そうに声を上げるー。

「ーーーえ…あ、いやー…」
菜々花は戸惑いの表情を浮かべるー。

「柿沼くんー…変なことしてないでしょうね?」
克枝も、不満そうに表情を歪めるー

「し、してないってー。ただ、歌ってただけー
 こ、声は可愛いとは思ったけどー…」

正直者すぎるのか、余計な一言まで言ってしまう菜々花に憑依している紀彦ー。

「ま、まぁ…とにかくー!これで元に戻れるかもしれないんだったら、
 早速試してみよう!」

菜々花はそう言うと、
当時、その場にいた克枝と共に”できる限り学園祭の時と同じ転落状況”を
再現してーー
そしてーーひと思いに転落したー。

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「本当によかったー」
親友の克枝が言葉を口にすると、
菜々花は恥ずかしそうに「色々迷惑かけて…ごめんねー」と、
克枝に頭を下げるー。

自分が憑依されていた間のことを聞かされて、
とても恥ずかしそうにする菜々花ー。

「ーなんか、いつもより明るいというかノリのいい菜々花も
 新鮮だったけどー」

克枝が笑いながら言うと、
顔を赤らめながら「やめてよー…恥ずかしいよー」と、
菜々花が言葉を口にするー。

そんな雑談をしていた二人ー。

だがー、二人の表情は少しだけ暗いー

それもーー
そのはずー。

「ーーーーそれにしても、まさかこんなことになるなんてー」
トイレに行っていた千里が戻ってくると、
そんな言葉を口にするー。

「ーーーわざとやってない?」
克枝がため息をつきながら言うー。

「えー…」
千里が表情を歪めるー。

「いや、だって、車いすに座ってたあんたの身体じゃなくて、
 車いすを支えてた千里ちゃんに憑依しちゃうなんておかしくない!?!?」

克枝がそう叫ぶと、
千里は「い、いやー、お、俺だって自分の身体に戻りたかったんだよー!」と、
困惑の表情で叫ぶー。

最初に、菜々花に憑依してしまった時の状況を再現した克枝たちー。

確かにそれで、紀彦の魂は菜々花から抜けたー…
そこまではよかったー。

がー…
憑依した先は”抜け殻”になっていた紀彦自身の身体ではなく、
紀彦の身体を乗せた車いすを持っていた千里の方だったー

「ーーー…ち、千里が… 俺って言ってるとー…なんかー」
大人しい性格の姉・菜々花は、
千里が”憑依されたお姉ちゃん”と接している時以上に
戸惑いの表情を浮かべながら目を逸らすー

「ご、ご、ご、ごめん!お姉ちゃんー!
 わたし、千里ちゃんのフリするから!」

千里がそう叫ぶと、
菜々花は「千里は…自分のこと千里ちゃんなんて言わないしー」
と、恥ずかしそうに目を背けるー

「あぁぁ…ごめん!」
千里が戸惑いながら叫ぶー。

克枝はそんな二人の様子を見ながらため息をつくと、
「ーとにかく、またパパに頼んでおくからー、
 もう一度、試してみましょう」と、言葉を口にするー。

「ーーう、うんー」
菜々花が戸惑いながら頷くー

”憑依されたお姉ちゃん”を助けようとした妹が
今度は憑依されてしまったー。

そんな状況に、
菜々花も、克枝も、憑依している紀彦自身も
困惑することしかできなかったー

おわり

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コメント

お姉ちゃんは無事に正気に戻りました~!☆

でも、今度は妹の方が憑依されてしまいましたネ~笑

無事に元に戻れることを祈りつつ、
ここまでお読み下さりありがとうございました~★!!

コメント

  1. 匿名 より:

    ハッピーエンドもいいですね〜気の弱い姉と一緒に暮すようになった憑依されてる妹の話もなんか気になります

  2. 匿名 より:

    凄くよかったです!!
    妹になった柿沼と解放された姉の話も見てみたいですね!!!

    • 無名 より:

      わわ★!
      ありがとうございます~!☆

      いつか機会があれば書くこともあるかもしれませんネ~!!