<憑依>お姉ちゃんの様子がおかしい②~自白~

”お姉ちゃんの様子がおかしい”

そんな違和感を抱いた妹は
姉の同級生から話を聞き、
ある不安を抱くー。

そして、それをお姉ちゃんに問いただしたところ…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「だますつもりはー…なかったんだ!」
土下座しながら、姉の菜々花はそんな言葉を口にするー。

「ーーえ…??? え…
 そ、それじゃあ…」

妹の千里は戸惑いながら瞳を震わせるー。

目の前にいるのはー
”お姉ちゃん”じゃなくて、
お姉ちゃんと同じ大学に通う、”柿沼”という男子ー?

「ーーお、お、お姉ちゃんから…で、出て行って!」
千里が叫ぶー。

「ーち、違う!ま、待ってくれ!話を…話を聞いてくれ!」
菜々花がそんな言葉を口にすると、
千里は「お姉ちゃんを返して!」と、涙目で叫ぶー。

姉の菜々花が、他の人に取り憑かれているような状態ー
そうだと知って、冷静でいることは、千里にはできなかったー

「お姉ちゃんの身体を、勝手に使わないで!!」
千里のそんな言葉に、菜々花は「ごめん!本当にごめんなさい!」と、
謝罪を繰り返しながら、
「ぜ、全部説明するからー」と、そんな言葉を口にしたー。

千里は涙目のまま、
”お姉ちゃん”の姿をした別人のほうを睨みつけるー。

「ーーー…ーーーここで話すのもアレだから、部屋でー」
菜々花はそう言うと、自分の部屋の扉を開けて、
そのまま部屋に入るー。

部屋に入ると、菜々花は部屋の一番奥まで歩いて行って、
千里には、部屋の入口の付近に置いたイスに座るように、
優しく言葉を口にしたー。

”部屋に連れ込んで何かされるかもしれないー”
そんな警戒をしていた千里ー。

だが、千里がそう思っていることを察したのだろうかー。
菜々花は、自分が部屋の一番奥に行き、
千里を部屋の出入り口付近に座らせることでー
”いつでも千里が逃げられるような”状況を作り、
千里の警戒を和らげようとしているー…

そんな、行動にも思えたー。

「ーーー俺は、何もしないー
 危険を感じたら、すぐに逃げてもらっても構わないー
 だから、話を聞いてほしいー」

菜々花のそんな言葉に、
千里は、自分の安全性を確認しつつ、静かに頷いたー。

確かにー
この位置関係なら、”お姉ちゃん”が何かしようとしてきても
すぐに逃げることはできるー。

そう、思いながらー。

「ーーー…俺は確かに、千里ー、いいや、君の言う通り
 柿沼 紀彦だー。」

菜々花は、自分の身体に手を触れながら言葉を口にするー。

自分のことを”俺”と言っているお姉ちゃんを見て、
本当に”今のお姉ちゃんはお姉ちゃんじゃない”ということを
確信する千里ー。

「ーー君の言ってた通り、俺は学園祭の準備の最中に脚立から落ちて、
 君のお姉さんにぶつかったー

 それでー…お互いに気を失ったみたいなんだけどー
 目を覚ましたら、俺が君のお姉さんになってたんだー」

菜々花が、悲しそうにそんな言葉を口にするー。

「ーー別に、こうなることを望んでたわけじゃないし、
 俺だって自分の身体に戻りたいー。
 でも、その方法が分からないー」

そう言い放つ菜々花に対して、
千里は「ー何で、お姉ちゃんのフリなんかしたんですか」と、
不満そうに言葉を口にするー。

「ーこうなることを望んでなかったならー、
 元の身体に戻りたいならー
 相談してくれたらよかったじゃないですかー。

 それなのに何でお姉ちゃんのフリなんかするんですか?
 大体、何でお姉ちゃんしか知らないようなことまで
 知ってるんですか?」

千里のそんな言葉に、
菜々花は戸惑いの表情を浮かべるー。

「ーーー…ごめん。
 君のお姉ちゃんの身体になってからー
 君のお姉ちゃんの記憶も俺の中に流れ込んで来たからー」

”菜々花”として振る舞える理由をそう説明する紀彦ー。

「ーーーたぶん、君のお姉ちゃんの身体を使ってるからー
 ここに、お姉ちゃんの記憶もあるんだと思うー」

菜々花は、自分の頭を指差しながらそう呟くー。

「ーーーーーー」
千里は不満そうに菜々花を見つめるー。

「ーー相談しなかったのはー…
 そのー
 こんなこと言っても信じてもらえないと思ったしー、
 記憶があるから、周囲に気付かれないようにすることもできると思ったしー、
 それにー…なるべく他の人に迷惑を掛けずに、身体を返す方法を見つけようと思ってたからー…」

菜々花が申し訳なさそうにそう言い放つー

「ーーーーーだったら何で、柿沼さんの好きなことを、
 お姉ちゃんの身体で勝手にするんですか?
 ギターとか、音楽とか!」

不満そうな千里ー

菜々花は「ーーだってーーー…俺だって…」と、悔しそうに言葉を口にするー

「俺だって大学生だからー…好きなことぐらい、やりたいしー」

そう言いながら、部屋のギターを見つめるー。

「ーーーーー」
千里は不満を感じながらも、
その気持ちはある程度は理解はできたー。

”他人の身体になっちゃったから”ずっと自分の好きなことを我慢しないといけないー
となれば、当然疲れるだろうし、ストレスも貯まるだろうー。

それは、分かりつつもー、
でも、”お姉ちゃんの身体を奪われた”側としては
そのことに何も文句を言わずに”はいそうですか”とは言えなかったー。

「ーーでも…柿沼さんのせいで、お姉ちゃんが変に思われてる!
 わたしもそう思ってたし!
 柿沼さんがお姉ちゃんの身体ですることは、
 お姉ちゃんのイメージとか、評判にそのまま繋がるんですよ!」

千里が不満そうに叫ぶー。

「ーーー……それは…そうだけどー」
菜々花はそこまで言うと「ーーだから、変なことは絶対にしないようにしてるからー」と、
申し訳なさそうに言葉を口にしたー。

「ーーーーー」

「ーーーーー」

沈黙する二人ー。

話をする限り、”お姉ちゃん”に憑依してしまった、この柿沼紀彦という大学生に
悪意があるようには思えないー。

それは、幸いだったのかもしれないー。
お姉ちゃんになってしまった相手が”変態”だったり、”悪党”だったりしたら
それこそお姉ちゃんは玩具にされていたかもしれないのだからー。

「ーーー本当に、元に戻る気はあるんですか?」
千里が言うと、「も、も、もちろんだよ!」と、
部屋のパソコンを起動して、
色々な文章やスクリーンショット、難しそうな文献のようなものを
次々に表示したー。

どれも、”他人に憑依してしまった状態から抜け出すため”の
調べ事の結果や、関連するデータのように見えたー。

「ーーー…高峰さんに憑依してしまってから、
 1日たりとも、元に戻る方法を調べなかった日はないー。

 ー俺は、ちゃんと身体を返したいんだー
 信じてくれー」

菜々花のそんな言葉に、
千里は不満を感じながらもー
「信じて、いいんですか?」と言葉を口にするー。

「ーーー…もちろんー。だから、力を貸してほしいー」
菜々花が頭を下げるー。

”他人行儀のお姉ちゃん”と喋っているだけでつらいー。
お姉ちゃんが、身体を勝手に動かされているという現実は
とても、辛いー。

けど、話が本当なら、この”柿沼”という人も
つらい状況に置かれているのだろうー。

「ーーーー分かりました」
千里は不満そうにしながらもため息をつくー。

「ーでも、お姉ちゃんの身体で変なことを少しでもしたら
 わたし、絶対に許しませんから」
千里が、鋭い口調でそう言い放つと、
菜々花は「し、し、しないよー。分かってるー」と、言葉を口にするー。

「ーーーーー」
千里は、少し不満そうな目をしながら
「でも…お姉ちゃんの身体で過ごしてるってことはー…
 お姉ちゃんの身体で着替えたり、お風呂に入ったりしてますよね?」
と、低い声で言葉を口にするー

「ぎ…ぎくぅ…!」
菜々花が青ざめながらそんなリアクションをすると、
「ー変態!」と、言い放つ千里に対して
「ーーだ、だ、だ、だって!
 ずっと同じ服着てたり、ずっとお風呂に入らないお姉ちゃんなんて
 嫌だろ!?」
と、菜々花は必死に反論してくるー。

「ーーそ、そ、それはー…」
千里は表情を歪めるー。

ずっと同じ服を着ている”お姉ちゃん”を頭の中に思い浮かべるー。
ずっとお風呂に入らない”お姉ちゃん”を頭の中に思い浮かべるー。

「た、た、確かに…それは嫌だけど…」
千里がそう言うと、
菜々花は「な?な?そうだろ?」と、笑うー。

「ーそれに、トイレだって、お姉ちゃんがここで漏らしてもいいのか?」
と、菜々花が慌てた様子で言うと、
千里は”部屋で赤ちゃんのようにお漏らしするお姉ちゃん”を想像して
顔を赤らめながら「ダメ!ダメ!絶対にダメ!」と叫んだー。

「ーー分かってくれてよかったー」
菜々花はそう言うと、
千里は「許したくはないけど、理解はしましたー」と、不満そうに呟くー。

「ーははは…改めて思うけどー、お姉さんと違って、君は明るい感じなんだなー」
菜々花のそんな言葉に、
千里は「なんか文句あります?」と、不満げに顔を背けるー。

「いやいやいやー、ほら…”逆”だったら、
 怖がらせちゃって話も進まない気がするけどー、
 妹の君がそういう性格でよかったー」

と、菜々花が笑うー。

確かに、千里自身は明るい性格で、
姉の菜々花は正反対の大人しい性格だ。
だからこそ、最近の異変がより目立っているー…とも言えるー。

菜々花に憑依している紀彦が言う通り、
憑依されたのが明るい性格の千里で、
正気なのが、大人しい性格の姉・菜々花のほうだったら
よりややこしいことになったかもしれないしー、
むしろ、”憑依されていること”にも、姉は気付かないー、
あるいは違和感を感じても具体的な行動を実行に移せない可能性もあったー。

「ーーー…でも、お姉ちゃんの前髪、何で赤く染めたんですか!」
千里が不満そうに叫ぶー。

「さっき言ってたー、他人の身体になったから趣味を楽しめない、ってなると
 ストレスが溜まっちゃうっていう理由は分かりました!

 でも、お姉ちゃんの髪を赤くする必要はありませんよね!?」

千里がそう言うと、
菜々花は「うっ…」と、赤く染めた前髪の一部分を触るー。

「こ、こ、こ、これはー…そのー」
挙動不審な動きをする菜々花ー

「す…好きなバンドグループの女の人がこういう髪色でー
 せっかく女になったんだからー
 ど、どうしても真似したくなってー」

気まずそうな菜々花ー。

「ーそれはお姉ちゃんの身体!!勝手なことしないで!」
千里が怒りを込めてそう言うと、
菜々花は「は、はいっ!」と、申し訳なさそうに言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今後について色々と話し合う二人ー。

聞けば、自分の趣味を楽しんだり、
振る舞いが完全に菜々花に成り切れなかったりした部分は
あったとは言え、
ちゃんと”菜々花”として過ごしてくれてはいたようでー、
大学、バイト先、家、どの場所でも
菜々花の人生を大きく変えてしまうようなことは
一切、していなかったー。

”返す方法を探している”というのも本当のようで、
スマホやパソコンの記録から、”毎日”色々努力をしていたことは
見えて来たー。

「ーーギター買ったお金は、元に戻ったらちゃんと返すからー」
菜々花がそう言うと、
千里は「当たり前です!」と、不満そうに再び叫ぶー。

「ーーでもよかったー」
菜々花はそう言うと、
「ーこれで千里にも協力して貰えるしー、
 このまま一人だったら、元に戻る方法見つかるか分からなかったからー」
と、お姉ちゃん口調で言葉を口にしたー。

「ーーー…」
千里は”馴れ馴れしく妹扱いしないで”と言いたげに冷たい視線を向けるー

「えっ!?なにその冷たい視線!?
 だ、だって、お父さんとお母さんに聞こえてたりしたらよくないし、
 この喋り方の方がいいでしょ!?

 お姉ちゃんが「俺」って言ったり、男言葉で喋ってるのみたいの?」

菜々花はそう呟くー。

一通り説明を終えた今、いつも通り”菜々花”として喋っていた方が
いいのでは?という意見のようだー

「ー確かにそれもそうだしー、
 一人称が俺のお姉ちゃんなんて見たくないけどー…

 でも、他人がお姉ちゃんのフリをしてるっていうのも複雑なんで」

千里がため息をつきながら言うー。

「ーま、まぁ…それもそうよねー」
菜々花は、そう呟くと、
「と、とにかく、早く元に戻れるように頑張る!」
とー、これからの決意を口にしたー。

”様子のおかしいお姉ちゃん”の真相にたどり着いた千里ー。

この日から、”わたし”と”憑依されたお姉ちゃん”の
元に戻るための日々が始まるのだったー。

③へ続く

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コメント

今のところ、悪意は無さそうなタイプの
憑依者ですネ~☆

今のところ…☆

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