<憑依>俺の身体を燃やさないで~新たな人生編~(前編)

”手違い”により命を落としてしまった男ー。

あの世で、すぐに間違いが認められて
生き返ったものの、”他人の身体”に間違えて魂を
入れられてしまい、彼は女子高生になってしまうー。

そんな彼の、その後の物語ー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

男子大学生の
松坂 悠太(まつざか ゆうた)は、ある日、
突然”心臓発作”によって死んでしまったー。

しかし、あの世で目を覚ました悠太は死神を名乗る
妙に軽い調子の女から
”心臓発作で死んだのは手違いだった”ことを告げられたー。

聞けば
”近くを歩いていたおっさんが本当は死ぬ予定だったのに
 間違えて悠太の命を取ってしまった”のだと言うー。

女死神は軽い調子で詫びながら、
悠太をすぐに生き返らせる、と、
悠太の魂を現世へと戻してくれた…

けれどーーー
そこでもこの女死神はドジをしたー。
わざとなのか、天然なのか分からないがー、
偶然、貧血で病院に運び込まれていた無関係の女子高生、
川野 里香(かわの さとか)に魂を入れられてしまい、
その子に憑依した状態になってしまったのだー。

女死神が魂を回収、元の身体に戻すには
1週間、エネルギーを蓄える必要がある、とのことで
悠太はその子の身体で1週間過ごすことになってしまうー。

がー、そんな中で”自分の身体が火葬される”危機に直面ー
なんとかそれを阻止しようとしたもののー
上手く行かずに”間もなく火葬されてしまう”状況にー。

流石にその状況に、女死神も責任を感じたのか、
自分の力を強引に発揮ー、悠太の身体に女死神自身が
憑依することによって
”里香から悠太の魂を引き出す”時を待たずー、
火葬から悠太の身体を救ったー。

けれどー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー…………」

正門前に姿を現した悠太を見て、
里香は、悠太の前に向かうー

”あれー、川野さんの彼氏?”
”いいなぁー”

そんな言葉が周囲から聞こえてくるー

「ーおい、ここに姿を現すなよー
 勘違いされてるぞ!」

里香が、里香の見た目とは全然違う雰囲気で叫ぶー。

「ーーえへへへへ~つい」
悠太が、笑いながらそう呟くー。

あの時ー
悠太の身体が火葬されてしまうのを阻止するべく、
悠太の身体に憑依した女死神は、
無理に力を使ったことで、悠太の身体から抜け出せなくなってしまい、
死神としての力も使えなくなってしまったー。

そのせいで、悠太も里香から抜け出すことはできなくなってしまい、
こうして、仕方がなく里香として過ごしているー。

「ーーってか、マジで俺、一生このまま?」
里香がため息を継ぎながら言うと、
悠太になった女死神は「まぁ、そうなるかもー」と、頷くー

「ーは~~~~…災難すぎるだろ、俺ー」
里香が髪を掻きむしりながら呟くと、
「とか言いつつ、楽しそうじゃん」と、
ニヤニヤしながら悠太が髪を指さしてくるー

「ーー…あ?」
里香は、思わず変な声を出しながら
表情を歪めるー

「ーほらほら、そんな髪型にしちゃってー
 ぷぷぷぷー」

ニヤニヤしながら言う雄太ー

”雄太の身体”になって少しは
この人を小馬鹿にしたような性格が変わるかとも思ったが
相変わらず鬱陶しい女死神だー。

死神の世界のことは詳しくは知らないが、
みんな、こんな感じの死神なのだろうかー。

「ーーーこ、こ、これはー…」
里香が顔を赤らめるー。

里香は元々、ストレートの長い髪が特徴的な子だったがー、
今はずっと、ツインテールにしているー。

元々の里香は一度もツインテールにしたことがなかったため、
ツインテールにしているのは、完全に、
里香に憑依した悠太の判断だー

「ーーい、い、いいだろ別にっ…!
 この身体で生きていくしかないんだからー…!

 自分の身体の髪型を、自分の好きに変えて何が悪いんだよ!」

顔を真っ赤にしながらそう言うと、
悠太になった死神は「ーあんたはツインテールが好き、とー」と、
手帳のようなものにメモをし始めたー

「んなこと書かなくていい!!!!」
里香がそう叫ぶと、
”川野さん、なんかあの人といると楽しそう”
”やっぱり彼氏?”と、
そんな言葉が聞こえて来たー

ぶんぶんぶんぶん、と首を横に振る里香ー。
別に、少し離れた場所で会話をしていた同級生たちに
向かって首を振ったわけではないのだが、
首を振らずにはいられなかったー。

「ーこんなドジな死神と付き合うなんてありえね~!
 しかも、身体は俺のだしー」

里香はそう呟くと、ため息をついて、
「で、用件は?」と、悠太になった女死神に言葉を口にするー。

「用件?」
悠太になった死神はそう呟くと、
「用があるから、わざわざ学校の前に来たんだろ?」
と、里香は言うー。

しかしー、
悠太になった女死神は笑いながら答えたー。

「ーんーと…特に用事はないんだけど、何となく来ちゃった!」
とー。

「ーーーはぁ~~~~…?」
そう言葉を呟きながら大きくため息を吐きだす里香ー

相変わらず意味が分からないー。
こんな訳の分からないノリの女死神に
間違って命を取られた挙句、他人の身体に憑依させられて、
しかも自分の身体を奪われたような状況になっているのだからー
やっぱり、災難すぎるー。

そんなことを思いながらー
”っていうか、この子、可哀想すぎるだろー…”と、
自分が使っている身体の元の持ち主ー

”里香”のことを心配しながらも、
どうすることもできず、大きくため息をついたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した里香は「ただいま~」と母親に挨拶をして、
手洗いやうがいをするために洗面台へと向かうー

「ーーーー…」
”ツインテール”になった里香を見つめるー。

確かに、これは自分の趣味だー。
どうせなら、可愛くなりたい、と思ったから、
自分の好きな髪型に変えたー。

でも、もうこの身体で生きていくしかないのであればー
”自分の好きな髪型”にしたっていいはずだー。

別に、女の子の身体になったから
髪型を変えたわけではないー。

自分の身体の髪型や、服装、おしゃれを考えるのは、
当たり前のことだー。

”この身体で生きていくしかない”のであればー、
髪型も、服装も、おしゃれも、いつまでも里香のものを
なぞっているわけにはいかないー。

里香と悠太は、同じ人間ではないのだからー、
当然、好みも違うー。
それだけのことだー

でもー

「ーーごめんなー…
 俺だって、君に身体を返してあげたいけどー…」

里香は、鏡に映る自分の姿を見つめながら思うー。

あの女死神は”もう元には戻れない”と言っていたー。
つまり、悠太がどう思ったとしても、
どうすることもできないのだー。

それであれば、自分が里香として前を向いて生きていくしかないー。

ずっと、”身体を返す方法は…”なんて悩み続けていたって、
里香が戻って来るわけではないのだからー。

「ーふ~~~…」
部屋に戻った里香は、”女子も色々大変だよな”と、ため息をつくー

男の頃には体験することもできないようなことを
色々と経験したー。

”髪”に関してもそうー。
男の時より、はるかに色々と手間がかかるー。
ツインテールにするのもそうだし、お風呂で洗う際にも時間が掛かるし、
乾かすのも男の時より面倒臭いー。

トイレだって、やっぱり何だか慣れないし、
スカートもまた慣れないー。
おしゃれをするにしても、男の時より時間がかかるー。

それとーー…
”前の力加減”の感覚がまだ抜けずー、
里香の身体では持てない量の物を持ってしまおうとしたり、
”悠太が悠太であったころ”と同じようなペース配分で
走ってしまったりして、ぜぇぜぇと息を切らしたりー、
細かい部分も含めて、とにかく大変だー。

男と女で、こんなに違うのか、ということを
イヤというほど、体験したー。

ただー
”次第に慣れつつ”あったのも事実だったー

良くも悪くも、新鮮味がだんだんと失われていて
これが”普通”になりつつあるー。

自分が女の子であることが、”当たり前”になりつつあって
だんだんと”男”としての自分が薄れていくー
そんな、気がしたー。

「ーーまぁ、元に戻れないなら、それでもいいけどさー」
里香はそう呟くと、
「俺は何も悪くないのにーこれからも一生、
 この子の人生を奪った罪悪感を背負いながら生きていくなんて
 理不尽だよなー」と、悲しそうに呟いたー。

”この子の人生を奪ってしまったー”

その想いが、里香になってから今まで、ずっと抜けないー。

里香に憑依してから”里香”として楽しいこともそれなりにあるー。
友達と話していても楽しいし、
ツインテールにした時に”かわいい”と周囲に言われた時は
本当に嬉しかったー。

でも、事あるごとに思い出してしまうー

”もしも、俺がこんなことにならなかったらー
 この子は今頃どんな風に生活していたんだろうなー?”

とー。

「あぁ、くそー、考えるのはやめだ」

そう呟くと、里香は首を横に振って、大きなため息をついたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー久しぶり~」

妹の詠美(えいみ)が、やってくるー。

「ー久しぶりー」
少し恥ずかしそうに里香が言うと、
「なんか、会うたびに可愛くなるよね~」と、
笑いながら詠美は、ファミレスの座席に着席したー。

「ーーい、いいだろ別にー
 この身体で生きていくしかないんだしー
 おしゃれぐらい楽しんだって」
顔を赤らめながら、里香に憑依している悠太が言うと、
詠美は「うんうん。いいと思うよー」と、頷くー。

「ーでもー、やっぱ変な気分ー
 お兄ちゃんの方が年上だったのに、
 今じゃわたしの方が一つ年上だもんねー」

笑う詠美ー。

詠美も高校生だが、”里香”より1学年年上で
来年からは大学生になるー。
それ故に、”お兄ちゃん”から、一気に”妹”に
なってしまったような感じだー。

「ーわたしのこと、”お姉ちゃん”って呼んでもいいんだよ?」
揶揄うようにして言う詠美ー。

「ー誰が呼ぶかっ!」
里香がそう声を発すると、詠美は笑いながら
「ー冗談だってば~」と、首を横に振ったー。

「ーーー…そういえばさー”俺”は上手くやってるー?
 アイツ、滅茶苦茶ドジだし、自由奔放すぎるし」

里香が、ソフトドリンクを口に運びながらそう呟くと、
詠美は「あ~うん、死神さんのこと?」と聞き返してから、
少し間を置いて「ー死神さん、すっごく頑張ってるよ」と、
詠美は微笑んだー

「ーお兄ちゃんの前ではそういう態度見せないのかもしれないけど
 お兄ちゃんがこんなになっちゃったこと、本当に申し訳なく思ってるみたいで、
 わたしにもすごく良くしてくれるし、
 お父さんとお母さんと会う時は、”カンペキにお兄ちゃんのフリ”してるしー、
 大学もちゃんと通ってるみたいだしー」

詠美がそう言うと、里香は「ははー…そっかー」と、少し寂しそうな
表情を浮かべたー。

”悠太”になった女死神は、悠太が悠太であった時と同じように
一人暮らしをしている。
だが、悠太の家族とも親しくしていて、
よく実家に遊びに行っているようだー。

恐らく、詠美の言う通り、”悠太に申し訳ない”という
そんな気持ちがあるのだろうー。
両親にも、詠美にもとても良くしてくれているらしいー。

しかしー、
”里香”になった悠太は、実家にそうそう頻繁には
遊びに行けないー。

何故なら”両親”は、悠太に起きたことを知らないからだー。

そのことを今更告げても、大混乱するだけだし、
悠太に憑依した女死神、詠美、里香に憑依した悠太
三人だけの間でしかこのことは共有されていないー。

「ーーー」

里香が少しだけ悲しそうな表情を浮かべると、
詠美は「どうしたのー…?」と、心配そうに里香を見つめるー

「ーいや、ほらー……
 なんか、こうー
 ”家族を取られちゃったみたいで”
 ちょっと、複雑っていうかー」

そんな言葉を呟く里香ー。

詠美は「あ~~~…確かにそんな気持ちになるのかもね」
と、言うと、少しだけ考えてから
「あ!いいこと思いついた!」と、笑みを浮かべたー

「えー…」
里香に憑依している悠太は
妹・詠美の性格をよく知っているー。

なんだか、イヤな予感がするー。

そんな風に思っていると
詠美が言葉を続けたー。

「ー今は”同じ女子高生”なんだしさ、
 ”わたしの友達”の設定で、家に遊びに来ればいいんじゃない?」

詠美の言葉に、
里香は「え…?い、いやぁー、そこまでしなくてもー」と、笑うも
「よし!決まりね!」と、勝手に詠美の独断で決定しー、
悠太は”妹の詠美の友達の女子高生”の設定で、
久しぶりに実家に帰ることになるのだったー

<後編>へ続く

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コメント

「俺の身体を燃やさないで!」の後日談デス~!

”どうしても見たい!”というコメントを頂いたので、
物語も丁度浮かびましたし、こうして実際に
書いてみることにしました~!
(※コメントを頂いても、100%書けるわけではないデス~…!)

土曜日枠の作品は、
続きはまた次の土曜日になりますが、
ぜひ、来週も楽しんでくださいネ~!

コメント

  1. 匿名 より:

    本来の身体の持ち主への罪悪感を感じつつも、女の子ライフをしっかり楽しんでる感じですね~。
    続きがどうなるか、とても楽しみです!

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      どのみち、身体を返すことができないので、
      満喫するしかないですからネ~笑

      次回もぜひ楽しんでくださいネ~!