<憑依>俺の身体を燃やさないで~新たな人生編~(後編)

”手違い”によって
他人の身体で生きていくことになってしまった
”元”男子大学生ー。

彼は久しぶりに”実家”に帰ることになりー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーお兄ちゃんは、わたしの友達ーー
 って、”設定”だからね?
 いい?」

妹の詠美がそう言い放つー。

「ーーわ、分かってるよー」
女子高生・里香に憑依してしまった状態の悠太は
困惑しながらそう呟いたー。

どことなく寂しそうにしていた”里香になった兄”を見て、
妹の詠美が”実家にたまには帰って来れるように”と考えた結果ー
”詠美の友達”という設定にして家に来るーというアイデアが浮かんできたー。

そして、今日、それを実行に移したー

「ただいま~!」
詠美がそう言いながら家の中に入るー
里香は”ただいま”と言ってしまいそうな気持ちを
なんとか抑えながら、
「ーーお、お邪魔しますー」と、声を発したー

「あら、いらっしゃいー
 のんびりしていってね」

母親が、笑いながら出迎える。

既に詠美は、親にも”友達を連れて来る”と
伝えてあったようだー。

「ーーー…」
悠太が”里香”に憑依してから
母親と直接会って話をするのは
これが初めてだったー。

別に母親に依存しているような男子大学生ではなかったものの、
こうして、久しぶりに自分の親に会えるとなると
なんだかこみあげてくるものがあるー。

しかしー…
”俺は悠太なんだ!”と、言うことはできないー。

”知る人間が増えれば増えるほど”混乱は
広がっていくだろうし、
色々なトラブルの火種になるー。

里香に憑依した悠太は、もう里香として生きていくと決めたのだー。

「ーーーありがとうございますー」
”自分の親に敬語を使う”
なんだか、すごく変な感じだな、と思いつつも
里香は頭を下げて、詠美に連れられて
2階へと向かうー。

「ほら!久しぶりに自分の部屋に入ったら?」
詠美の言葉に、里香は「じ、じゃあー」と、
言いながら自分の部屋に入室したー。

「ーーーーー」
自分の部屋は、実家を出た後も、
時々帰ってくる悠太のために、そのままになっていたー

掃除は母親や、妹の詠美が時々してくれているらしく
今すぐにでも、ここで過ごすことができるぐらいのー、
そんな状態だー。

「ーー…」
”なんか少しニオイが気になるなー”と、感じる里香。

別に臭いわけではないのだが
自分が女子高生になったことで、感じ方も変わったのかもしれないー

「どう?懐かしいでしょ?」
詠美が笑うー。

「ーはは、懐かしいよー。
 でもー…まさかこの部屋に連れて来る”最初の女の子”が
 自分だなんてなぁ」

里香がそう呟くー。

「ーーあはは…そういえば、お兄ちゃん、彼女いなかったよね」
詠美がそう言うと、
里香は「あ、そうそうー、不思議なんだけどさ~」と、笑いながら
詠美のほうを向くー。

少し寂しい気持ちはあるが、
もう、悠太もある程度吹っ切れてはいるため、
悲観するような状態に戻ることはなかったー。

「ーこの身体に憑依してから、だんだん男子のことが
 気になるようになったりしてさー
 不思議だよな」

里香が言うと、詠美は「え~?ホントに?」と、
興味深そうに反応を示すー。

「ーやっぱ、身体に何かそういうの染みついてるのかな?」

「さぁー…こんな経験してるの俺ぐらいだろうし、分かんないだろ」
里香はそう返すー。

だが、詠美は少し悪戯っぽく笑いながら
「じゃあ、もしかしたらお兄ちゃんに憑依した死神さんは
 お兄ちゃんのこと、好きになっちゃったりしてー…」
と、呟くー。

「ーーんん?」
里香は頭の中で少し考えるー

恋愛対象が女性だった悠太が”里香”に憑依した結果ー
最初は恋愛対象が女性な女性となったー

女死神はどうだったか知らないが、仮に恋愛対象が男性だった場合、
悠太の身体に憑依した状態では、
男性が恋愛対象の男性となるー。

その場合、”里香になった悠太”は少なくとも身体は女性であるため、
悠太になった女死神の恋愛対象になることはないー。

けど、今の悠太のように”恋愛対象が身体に合わせて変わっているとしたらー”

悠太になった女死神は
”女性”である里香になった悠太に恋愛感情を抱くかもしれないー

「ーーーー」
そのまま、里香は、頭の中で
”自分”に告白されて承諾する場面を浮かべてしまうー。

さらには、自分にプロポーズされて、
”里香として元自分の身体”と結婚する場面を想像してしまうー

「オェッー」
流石に”自分と結婚する”なんて冗談じゃないぞ、と思いながら
ふと気づくとーー

「うぉおおおおおおお!?!?!?!?!?」
里香は思わず大声をあげて、飛び上がったー

「ーーいらっしゃいー」
目の前に、”悠太”がいたのだー。

”悠太”は一人暮らしをしているー。
女死神が憑依したあとも、悠太になった女死神は
その家で暮らしているため
”実家”では暮らしていないはずなのにー

「な、な、な、なんでお前がここにいるんだよ!?!?」
里香が叫ぶと、
悠太になった女死神は「ここは実家だし~」と、笑うー。

「お前の実家じゃねぇ!」
里香は思わずそうツッコミながらも、
「どうせ俺を驚かそうとして、日程合わせてきたんだろ?」と、
不満そうに呟くー。

「ぎくっ!」

「ぎくっ!じゃねぇ!」
里香はそう言いながら「全くー」と呟くー。

一応、隠れていたわけではなく、たまたまトイレにいて、
こうして驚かせる結果になってしまったらしいー

「それにしても、私服かわいいじゃん」
悠太が揶揄うようにして言うと、
里香は顔を赤らめながら
「い、いいだろ別にー!?もう俺の身体に戻れないんだし」と、叫ぶー

「ダメとは一言も言ってないし」
悠太になった女死神が笑いながら言うー。

「ーーくっ」
里香が、悔しそうな表情を浮かべていると、
妹の詠美も「でも、お兄ちゃんがスカート履くとは思わなかったなぁ」と
笑いながら呟くー。

「ーーだ、だってーほらー、男の時は履けなかったしー…
 せっかくならって思ってー」
恥ずかしそうに言う里香ー。
落ち着かない雰囲気でもじもじとしている里香を見て
「ー悪いって意味じゃないから、そんな気にしないで!」と、詠美が笑うー。

最初にスカートを履いた時には、違和感まみれだったー。
けれど、だんだんと”今の自分”には似合っているような気がしてー、
学校でもスカートだし、どうせ履く機会もたくさんあるから
”慣れていこう”と、私生活でもスカートを履くうちに、
だんだんと”この方が落ち着く”ようになりつつあったー。

「ーーーーー」
詠美が、”里香になったお兄ちゃん”のほうをじーっと見回すと、
「ーお兄ちゃん、わたしより可愛くて何だか負けた気分!」と、
少しだけ頬を膨らませるー。

「ーーえ、えぇっ!?」
里香は少し戸惑いの表情を見せていると、
「あ、そうだ!今度一緒に洋服買いに行こうよ!
 なんだか”姉妹で買い物”みたいな感じで、憧れるし」と、
詠美が突然、そんな提案をしてきたー

「えっ…えぇぇ…?」
さらに戸惑う里香ー。

”妹と女の子同士で買い物”ーー
みたいな感じになるのは何だかとっても照れくさいー

まさか、こんなことになるとはー。
そう思いながらも「ま…まぁ…いいけど」と、頷くー

「ーふふふんー
 ”女子”としては”先輩”のわたしが色々教えてあげるからね!」
詠美が少し調子に乗った口調で言うー。

”なんか、とんでもない服を着せられそうだなぁ”と
イヤな予感を覚えていると、
悠太に憑依している女死神が「仲良し姉妹!」と、
茶化すように拍手したー

「あ~~!相変わらずうるさい奴だなホント!」
里香がうんざりした様子でそう叫ぶと、
悠太は「あ、また胡坐をかいてる!胡坐をかくJK!」と、
前と同じように里香に指摘したー

「う、うるさいなぁ…」
里香がそう言いながら、あぐらをやめると、
詠美は「スカートであぐらってやりにくくない?」と、
不思議そうにしながら言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー久しぶりに、”実家”に帰れて良かったよー」
里香が帰り道で、見送りに来た詠美に対して言うと、
詠美は「ううんー。これからもお兄ちゃんが来たい時はいつでも言ってー」と、
笑顔で言葉を返したー。

「もちろんー…”お兄ちゃんとして”は無理だけどー、
 わたしの”友達”としてならー、誰も疑問に思わないだろうからー」

詠美がそう言うと、里香は「ありがとな」と、優しく笑うー。

「ーーー…じゃあ、また」
駅までお見送りに来た詠美がそう呟くー。

里香と悠太ー
二人とも、詠美のほうを見つめながら
手を振ると、詠美も手を振り返して
そのまま家の方に歩いていくー。

「ーーはぁ~…やっぱ久々の実家はよかったなぁ」
里香がそんなため息をつきながら、改札の方に向かうー。

里香に憑依している悠太は、里香の家に、
悠太の憑依している女死神は、悠太が一人暮らしをしている家に
それぞれ帰るためだー。

「ーーーねぇねぇ、そういえば他人の身体で”実家”に帰るってどんな感じー?」
楽しそうに聞いてくる悠太ー。

女死神は、死神だった頃も、
悠太の身体が燃やされないようにするために、
悠太の身体に憑依したあともー、
相変わらず、楽しそうだー。

「ーーったくー、お前のせいでこんなことになってるんだぞ」
駅のホームまでやってくると、里香は不満そうにそんなことを呟くー。

「ーーあはははーまぁ、それもそうだねー」
悠太が笑うー。

「ーくそっ…相変わらず調子のいいやつー…!」
里香はそれだけ言うと、「身体は変わっても、実家は実家だし、
落ち着くよー」と先程の質問の答えを口にしてから、
”里香”の家がある駅に向かうための
電車が近付いてきたのを見て、「じゃ、俺は行くから」と、
電車に乗り込むために、ホームの端の方に向かっていくー。

「ーーーまぁまぁー
 ほら、前も言ったケド、その子も成長するからー
 ずっと、女子高生の身体って心配はないよー」

悠太が軽い調子で言うー。

「そう言う問題じゃねぇ!」
反論しながらも、里香は呆れ顔で少しだけ笑うと、
そのまま電車に乗り込んだー。

「ーーーははー」
扉が閉まるまでの間、里香は反対側のホームの
電光掲示板を見つめると、少し意地悪な気持ちになって
思わず笑みを浮かべたー。

「ーーー…へへへへーお前の方の電車、遅れてやんのー」

信号機トラブルで電車が遅れている、という表示を見て
揶揄うような口調でそう言い放つ里香ー。

「ーーも~~!…
 いつから人の不幸を笑うような子になったのかなぁ~???」
と、悠太は少しだけ不満そうに言葉を口にしながら笑ったー。

「ーーーーまぁ、でも、ありがとな」
里香が、急にそんな言葉を口にしたー

「へ?」
悠太に憑依している女死神は、ずっと軽い調子だが、
ずっと責任は感じていたー。

だからこそ、悠太の身体を助けるため、
死神としての自分を捨てて、悠太に憑依したのだー。

そしてーーー
”人間に憑依”してしまった以上、彼女はもう死神には戻れないー。

”悠太の身体で死んだら”
おわりーーー。

本当だったら人間をはるかに超える長い寿命を彼女は持っていたのに、
それを、捨てたのだー。

「ーー俺の父さんと母さんのこともちゃんと考えてくれてるみたいだしー、
 詠美も世話になってるみたいだしー、
 ちゃんと大学にも通ってくれてるし、
 ちゃんと”俺”をやってくれてるー。

 だから、色々な意味で、ありがとなー」

里香がそこまで言うと、

「最初はいきなりミスで殺されて「なんだこいつ」って思ったし、
 …この子には、毎日毎日本当に、悪いと思ってるけどさー」

と、言葉を付け加えたー。

”悠太”に憑依されたままになってしまっている里香に対しては
死んでも詫びきれないし、
毎日毎日、”悪い”と思っているー。

けれど、もうどうすることもできないー。
”死を以て償う”なんてことをしても、里香の身体も死んでしまうし、
それをやれば、里香の家族や友達を悲しませることになってしまうだけでー
余計に悲しみが増えるだけー。

だからこそ、里香に憑依した悠太は、
里香として前向きに生きていくことを決めているー。

そうしているうちに、電車の出発の時間になりー、
電車の扉が閉じるー。

「ーーあ~あ…まさか、俺が女子高生になって、
 こんな風にスカート履いて、おしゃれをしてーーなんて…
 去年の俺に言ったら、絶対信じないだろうなぁ…」

電車の中で一人そう呟くと、里香になった悠太は、
少しだけ寂しそうに、けれども前向きな表情を浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「も~~~~~!急に褒められると、
 なんか調子狂うなぁ~~~~!

 まぁ、ほら、これからも困ったことがあれば
 何でもアタシに相談してくれれば
 死神さんが力になってあげるから、ねー!」

”里香に憑依した悠太”にお礼を言われて
照れくさそうに一人、そんな言葉を口にしていた
”悠太に憑依した女死神”は、
笑顔でそう言いながら振り返ると、
「あ」と、真顔に戻ったー。

とっくに電車はもう出発していてー、
一人で喋ってた悠太ー

「ーーーーー…あはっ…
 やっぱアタシってば、ドジ!テヘッ」

悠太の身体でそんなことを呟くと、
周囲の視線を感じて、
”やばっ”と、思い直して
慌てて男子大学生らしく堂々と歩き始めたー。

”責任を持って”悠太として”生きるー”
それが、死神としての力を失った彼女に出来る
唯一の償いだからー。

そう思いながら彼女は今日も”悠太”として
自分の家に向かうのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

”俺の身体を燃やさないで”のその後の日常を描くお話でした~!☆

本編では”この先”どうなっていくのか、あまり分からない感じの
終わり方だったので、大体の雰囲気が分かるような
お話にしてみました!☆

憑依された里香ちゃんは災難でしかないですケド…笑

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    オシャレを楽しんだり、男を異性として意識したり、悠太は何だか、精神的にも徐々に女性化しつつある感じですね〜。

    それにしても、まだなんか話が続いていきそうな終わり方ですね。

    ふたりとも、前向きに生きてるのは結構なんですけど、やっぱり、身体を乗っ取られたままになってる本物の里香が不憫です。

    この先も里香はずっと乗っ取られたままなんですかね?
    もし憑依された里香の意識が目覚めたらどうなるんでしょう?

    またこの続きがあるなら、里香にも救いがあるといいですね。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      悠太も、憑依したままになっていることは
      大分気にしている様子ですネ~!

      この先どうなるのか、
      もしも書く機会があれば(まだ未定デス!)
      書いてみることもあるかもしれません~☆

    • TSマニア より:

      妹と繋がりあるのが救いですねっ!

      悠太の気持ちよくわかりますっ!

      前向きになってオシャレや女の子であることを楽しみながら生きるのが里香のカラダにとってもいいでしょう☆

      自分も女の子のカラダに憑依したらミニスカ履いてオシャレしたりヘアアレンジしたりメイクにもこだわりたいデスっ!笑

      悠太も自分も女色にカラダや考え方に飲み込まれていくでしょう\(^o^)/☆

      • 無名 より:

        ありがとうございます~!☆

        こうなってしまった以上、
        方法がないなら悩んでいても仕方が無さそうですからネ~…!

        この先は、身体に飲み込まれていくかもデス笑

  2. TSマニア より:

    人間にも手違いや失敗ありますけど

    冗談抜きで

    死神も神様も手違いや失敗あるかもですネっ!

    知り合いの知り合いの人が健康だったけど突然亡くなったり過去に何人かいました( ;∀;)

    • 無名 より:

      わわわっ…
      それは残念だったのデス…。

      もし手違いがあるのだとしたら…
      手違いは良い方向の手違いだけにしてほしいですネ~…!