「もしも、”無敵の人”が憑依薬を手にしてしまったらー?」
男は、絶望していたー。
失うものなど、何も、ない。
社会に強い恨みを抱き、守るべきものは、何も存在しない。
そんな彼が、
憑依薬を手に入れてしまったー。
※過激な描写が強いので、苦手な方はご注意下さい~!
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彼には、失うものなど、何もなかったー。
人生なんてクソだー。
彼は、そう思っていたー
両親からは虐待を受け、現在は疎遠ー
学校ではいじめを受けて、友達はいないー。
そんな中でも血のにじむような努力を繰り返し、
彼は一流企業の内定を勝ち取りー
就職したー
しかし、不況により、会社は人員削減を開始ー
会社上層部のごたごたに巻き込まれた挙句、
上司のミスを無理やり被せられて、
それを理由にリストラされてしまったー。
絶望の中、役所に助けを求めるもー
”若いんだから働けよ”と、役所の人間に言われて
彼の心は折れたー
「死んでやる」
彼はそう思ったー
彼は、世の中を強く、憎んでいたー
「--暴れるだけ暴れてから、死んでやるー」
”無敵の人”
彼は、俗に言うそんな存在になってしまっていたー。
失うモノも、守るモノも、何もないー
”何も守るものがない”
そんな状態は、
彼に”死”すら恐れさせないー。
逮捕されることもー
死刑になることもー
何もかも、彼にとっては抑止力にならないのだー。
何故なら彼はー
何も守る必要がないからー。
そして、それは、世の中にとって、とても恐ろしいことだったー。
彼は、見ず知らずの人を出来る限り大勢道連れにしてから
最後に自分も命を絶つー
そんな”恐ろしいこと”を考えて、
アパートに戻ったー
既に家賃も払えないー
じきに、ここを追い出されるー。
そして、誰も助けてくれないー
もう、おしまいだ。
バイトを探してここから立ち直る道ももちろん考えたー
けれど、大五郎は思う。
”この先生きていて、何があるのだ?”
とー。
何もないー
家族も、恋人も、友達もいない。
そう、何もないのだ。
ただ、漠然と、この地獄のような世の中で生きているだけならばー
こんな、愚かな人間たちの社会で生きているだけならばー
もうーー
終わりにしようー
彼はそんな風に思いながら
コンビニで”最後の晩餐”を購入したー。
いつも買わない500円の弁当を購入し、
最後の贅沢を味わおうと、家に向かって歩いていたー。
その時だったー
「---!」
大五郎が立ち止まると、
目の前に、怪しい風貌の男がいたー
「なんだ、お前は…!」
大五郎は一瞬”警察”かと思ったー。
誰にもばらしていないが
”明日”
暴れようとしていることを事前に突き止められたのではないか、と
そう思ったー
それならばー
今、ここで用意していたナイフで自分のクビを掻き切り、
人生を終えるつもりだったー
しかしー
その怪しげな男は、警察官などではなかった。
「--お前に、力をやろう」
男が言うー
「---はぁ?」
大五郎が首をかしげる。
何を言っているのか分からないー。
「---”他人の身体を乗っ取って好き放題”できたらー?」
怪しげな風貌の男が、そう呟いたー。
「--そ、そ、そんなこと、できるわけねぇだろ!」
大五郎が叫ぶー。
しかし、男はそんな大五郎の言葉を無視して
怪しげな液体の入った小さな小瓶を大五郎に手渡したー。
「--な、なんだこれは?!」
大五郎が驚くー。
「--憑依薬」
怪しげな風貌の男はそう呟いたー
「ひ、ひ、憑依…薬?」
大五郎が戸惑いながら返事をすると、
「そうだ」と男は即答したー。
「--これを飲むと、お前は幽体離脱をするー。
そして、好きな人間の身体を、好きな時に乗っ取り、
好きなように使うことが出来るー
誰を乗っ取るのも、誰の身体から抜け出すのも、
全ては、お前の自由だー」
「--な、なんだって?」
大五郎は思うー
”そんなこと、あるわけがねぇ”
とー。
「--そ、そんな訳の分からねぇこと言って
俺に毒でも飲ませるつもりか!?」
大五郎が叫ぶと、
男は、大五郎を見下すかのように、ふっ、と笑ったー
「--どうせ、”明日”死ぬつもりだったんだろう?」
男が笑うー
「--なっ!」
大五郎は”どうしてこいつがそれを知っている?”と
表情を歪めるー。
確かに大五郎は、明日、街中で暴れて
出来る限り多くの人間を道連れにしたうえで、
最後に自分も死ぬつもりだー
だが、ネットで事前にそんなことを口にするほど馬鹿ではないし、
誰にも話していないー
いや、そもそも話す相手もいないー。
誰も知らないはずなのだー。
「---どうせ明日死ぬつもりなら、
仮に今、私が渡したその液体が毒だったとしても…
大した問題ではあるまい?」
男の言葉に、大五郎は「い、、いや」と、言葉に詰まるー。
「--もしも本物だったら…?
お前は、”真の無敵”になるー。
誰の身体をどうしようが、お前の自由ー
誰もお前を止めることはできないー。
”世界が変わる”ぞー?」
男の言葉に、大五郎は、怪しげな緑色の液体を見つめるー
「ゴクリー」
”憑依”
もしも、そんなことが本当に出来るのであればー
次から次へと、他人の身体をまるでごみのように乗っ取り、
使い捨てに出来るのだとすればー
そんな夢のような話は、ないー
「--お前は、童貞か?」
怪しげな男のいきなりの質問に、
大五郎は「はぁ!?」と声を上げるも
すぐに「わ、悪いかよ!」と叫んだー
大五郎は容姿にも恵まれていないー
強いコンプレックスがあり、
学生時代は女子からもいじめを受けていたー。
「---憑依があれば、なんだって出来るー。
女に憑依しようが
男に憑依しようがー
アイドルだろうが、スポーツ選手だろうがー
誰にだってなれるー
そしてー
そいつらの人生をどうするかも、お前の自由だー
乗っ取った身体で自殺しようがー
乗っ取った身体で暴れようがー
乗っ取った身体でエッチ三昧の日々過ごそうがー
全てはーー
お前の自由だー」
男の言葉に、大五郎は今一度「ゴクリ」と唾を飲み込むー
もしも、
もしも本当にそんなことができるのならー
”この腐った世界に復讐することが出来るー”
大五郎の口元には、いつの間にか笑顔が浮かんでいたー
「---代償は?タダじゃねぇんだろ?」
大五郎が言うと、
男は指をさしたー。
大五郎の持っていた500円の豪華なコンビニ弁当ー
「へ?これ?」
大五郎が言うと、
怪しげな男は頷いたー
「--”タダ”では怖いだろうからなー
”対価”は貰おうー」
それだけ言うと、男は、大五郎から弁当を受け取ると、
そのまま大五郎に背を向けたー
「--……(どうせ毒なんだろ?)」
大五郎はそう思いながらもー
「まぁいいさ、
どうせ明日死ぬつもりだったんだー。
やってやるぜ」
大五郎は、それだけ言うと、迷わず、家に帰ることすらせず、
その場で憑依薬を飲み干したー
それがーーーー
”無敵の人”がーーー
”無敵の憑依人”になってしまった瞬間だったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
駅前の繁華街が騒然としていたー。
突然ーー
可愛らしい女子高生が刃物を手に、暴れ始めたのだー
「うひひひひひひひ!マジだ!!!マジだ!!!
ひゃはははあああああああああああ♡♡」
可愛らしい声ー
しかし、狂った声で
笑い続ける女子高生ー
「--ちょ、、美鈴!?え、、、何やってーー」
偶然、下校中だった別のクラスメイトが
その少女ー美鈴に声を掛けるー。
だがー
美鈴は目を血走らせて笑いながらー
そのクラスメイトの首筋にナイフを突き刺したー
悲鳴が上がるー
既に、その子以外の人間も数名、苦しそうに倒れているー
「ひゃははははははははははっ!」
美鈴が笑いながらクラスメイトを赤く染めていくー
スカートと髪を乱しながら笑う美鈴ー
自分の両手が真っ赤に染まったのを見てー
ゾクゾクしながら美鈴は、自分の綺麗な顔に
両手を押し付けて、血を塗り付けるー。
「---警察だ!」
警察が駆け付けたー
既に、何人ものけが人、犠牲者が出ていて
現場は騒然ー
至上最悪レベルの凶悪犯罪になりかけていたー
「--へへへへへ!すげぇだろ!!
こんなかわいいやつが、、こんな事件を起こしてるっ」
美鈴が声を裏返しながら狂ったように笑うー
そして、警察官めがけてナイフを振り回し始めたー
「っらぁぁ!!!」
美鈴を無力化しようとする警察官ー
だが、美鈴は完全に”狂人”と化していたー
警察官に全く恐れをなさずー
一人目の警察官にナイフを突き立てるー
”相手が女子高生”だからだろうかー。
警察官は、銃の発砲を躊躇しー
その間に2人目も犠牲になってしまうー。
「--ははははははぁああああああ~~~♡」
美鈴が興奮しきっておかしくなったかのような表情を浮かべるとー
「これが…憑依♡」
と、ボソッと呟きー
最後はーー
笑いながら自分の首を掻き切ったーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・
絶句ー。
まさに、世間の反応はそれだった。
美鈴のようなごく普通の女子高生が
突然、街中で暴れ始めてー
「凶悪事件」を起こしたのだー
稀に、凶悪事件が起きることはあるー。
だが、女子高生がその犯人であり、
最後には自分自身も命を絶ってしまうー
などという事件は前代未聞で、
社会は大混乱に陥ったー。
ネット上でも、美鈴についてあらゆる
憶測がなされているー。
「--いったい何考えてんだこのJKは」
警察官の曾我部(そかべ)が呟くー。
「--聞き込みの結果、特に悩んでいる様子も、
不満を抱えている様子もなく
学校では明るく真面目な優等生だったようです」
曾我部の部下である刑事・新崎(しんざき)が困り果てた様子で言う。
「---家族は?」
曾我部が言うと、新崎は首を振る。
「母親と妹は、ショックで話すことも出来ない状態でしたがー
父親から話は聞けました。
ただー
家庭でも家族仲にも問題なく
悩んでいる様子も何もなかった…と」
新崎の言葉に、
曾我部は「ますます訳が分かんねぇな」と呟いたー。
何も悩んでいる様子もー
何も不満を抱いている様子もなくー
いじめを受けたりもしておらずー
まさに”充実”した高校生活を送っていたー
そんな子が、何故ー?
「----大変です!」
他の刑事が駆け込んでくるー
「--ん?」
曾我部が、その刑事の方を見ると、
刑事がスマホを手に、曾我部にそれを見せたー
”真桜ちゃんの惨殺事件ライブ♡”
「--なんだこれは?」
曾我部が表情を歪めるー。
今、人気のアイドル・真桜がやっている
”真桜チャンネル”のライブ配信ー
しかしー
そのタイトルはーー
「--やばいっすよ!これ!」
刑事が叫ぶー。
”はぁ~い! 真桜でぇ~す♡ 次は、お父さんをやっちゃいま~す!”
真桜が笑いながら手を振るー。
テレビでも見たことのある顔だー
だがー
その真桜の顔や手には血がついていて、
真桜の目つきは狂っていたー
視聴者のコメントも表示されていて、
大混乱に陥っているー
「おい…なんだこれは?この血は?」
曾我部が言うと、
若手刑事が叫ぶー
「--母親を刺したんですよ!この子!」
とー。
「なんだって!?」
人気アイドル・真桜がー
父親を狂ったように笑いながら刺すー。
駆け付けた近所の住民にも襲い掛かるー
その映像が、ネットに流れるー
”真桜ちゃんがこんなことを…?”
”ショックすぎる!”
”1日に2件、女の子の凶悪事件とかやばくね”
世間は、大混乱を起こしていたー
「あ……」
真桜は、最後に自分を突き刺して、
その場に倒れるー
真桜が白目を剥いて震えるー
「---ははははは!はははははははははは!
みんなみんな、壊れてしまえーーーー!!!
無敵の人ー
いや、無敵の憑依人となってしまった大五郎ー。
たった”一人”の人間が憑依能力を手にしてしまったー
それだけでーーーー
もし、力の持ち主が、”何もかも失っている人間”だったらー?
それだけでー
世の中は、”絶望”に向かうー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
失うモノも何もない、世の中に絶望した人間が
憑依薬を手にしてしまったら…?
を、お話にしてみました~!
続きはまた明日デス~!
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