無敵の人が憑依薬を手にしてしまったー。
”すべて無くなってしまえ”
本気でそう思っている人間が一人、
憑依薬を手にしただけで、
世界は脆くも崩れていく…。
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「--ひゃはははははははははは!」
とあるオフィスー
刃物を持ったOLが次々と同僚を刺していくー。
”凶悪犯罪”
数日前から、各地で数えきれないほど、
それが発生していたー
「ーーお、、おい!一体どうしたんだ!?」
同僚の男が、暴れているOLから距離を取りながら叫ぶー
「--どうって?
こんな世界、壊れちまえ!
ひゃはははははははははは!」
狂気的な表情を浮かべながら叫ぶOL-
まるで、普段の彼女からは想像が出来ない状況ー。
以前、同僚が怪我をして、少し血を流しただけで、
パニックを起こしていた彼女が、
人を刺し、返り血を浴びて、鬼のような形相を浮かべて
笑っているー
そしてーーーー
「--ふふふふふ!あはははははは ぁ」
彼女は自分の首を勢いよく斬りつけてー
そのまま糸が切れたかのように倒れたー
「くそっ!またか!」
”凶悪事件 各地で続く”
ニュースの見出しを見て、刑事・曾我部が机を叩いたー。
若手刑事・新崎も唖然としているー
「もう、何十件と事件が発生していますー。
犠牲者の数は数え切れませんし、
世の中がパニックに…」
新崎の言葉に、曾我部は「んなこた分かってるよ!」と
叫びながら机を叩くー
まるで意味が分からないー
四日前ー
女子高生の美鈴が大量の犠牲者を出し、
最後には自らも命を絶った凶悪事件が発生したー
それが”合図”だったかのように
各地で凶悪事件が続出ー。
しかも、決まって”そういう事件を起こしそうなタイプではない人間”が
事件を起こし、
最後には、一人残らず、自ら命を絶っているー
「--新崎!」
曾我部が叫ぶー
「これだけ続くとなりゃ、絶対に扇動してるやつがいるはずだ。
ネット関係、宗教関係、有名人ー
”凶悪事件”を扇動してるやつを探せ!」
「は、、はいっ!」
曾我部は、パソコンを見つめるー。
”まるで、同じ人間”かのように、
犯行のパターンが同じだ。
なりふり構わず他人の命を奪い、
最後には、自らも命を絶つー。
「-ーーくそが…」
曾我部は呟くー
”誰かが”
扇動しているとしか思えないー
各地で続く事件ー。
なんとしても、これを食い止めなくてはならないー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからさらに数日が経過したー
凶悪事件の発生は止まらず、
ニュース番組は連日それを報道しているー。
さらには、続出する凶悪犯罪について
大臣が会見を開いたものの、
会見の最中に記者のひとりが、暴れ出しー
最後には、建物から飛び降りて命を絶つ、
という事件も起きたー
世間は、1週間で、いとも簡単に
”崩壊”した-
世の中は”原因不明の凶悪事件の続出”に
大混乱に陥ったー
ネット上ではあらゆる憶測が広がるー
中には
”悪の秘密組織が、人々を洗脳して暴れさせているんだ”
なんて説まであったー。
「---ヒーローものの見すぎだろ」
曾我部が、その情報を見つめながら呟くー
いやー?
待てよ…?
「まさかとは思うが…」
曾我部が呟くー
まさかとは思うがー
他人を操って、”暴れさせている”のだとすればー?
全員が命を絶っているのも説明がつくし、
犯人が”直前までそういう素振りがなかった”のも説明がつくー。
「--他人の身体を操る… そんなこと、できるはずがねぇ」
曾我部は険しい表情で呟くー
だが、現在の不可解な状況にー
一番説明がつくのも、事実ではあった。
実際にはー
”無敵の人”大五郎が、憑依薬を受け取り
あらゆる人間に憑依して暴れまわっているー
のだが、
普通の人間には、そんなこと、想像も出来ないー
曾我部自身も
”宗教による洗脳か…?”などと考えていたー
「--曾我部さん!
若手刑事の新崎がやって来るー。
「---新崎か。扇動してるやつは見つかったか?」
曾我部の言葉に、新崎は首を振るー。
「--それが、ネット上にも、宗教団体にも、有名人にも
扇動してるようなものは見つかりませんー
最初の被疑者である女子高生のアクセス履歴や行動歴も
調べましたが
”何かに扇動された”という感じはありませんでした」
新崎の言葉に、
曾我部は「それじゃいったい…」と呟くー。
「--……なぁ新崎よ」
曾我部は、ふと口にしたー
「--他人を自由に操る…なんてこと、現実に出来ると思うか?」
曾我部の言葉に、新崎は「え?」と戸惑うー
その時だったー
若い婦人警官が慌てて駆け込んでくるー
「曾我部さん!!
二日前の凶悪事件の容疑者が、目を覚ましました!」
ーー!!!
二日前ー
スーパーで包丁を手に、8名の命を奪い、最後に
自分の首を切った主婦が奇跡的に助かり、
意識を取り戻したというのだー。
「--なんだって? 今すぐ行く」
曾我部はすぐに立ち上がったー。
続発している凶悪事件の容疑者は全員自殺しているー。
だが、この主婦が、唯一、助かった人間だー。
話を聞くことができれば、何か見えて来るかもしれないー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--ひ~~ははははははははははっ!」
車のアクセルを全開に踏むー。
次々と人が跳ね飛ばされていく中ー
運転席に乗る女は狂ったように笑っていたー
「お、、おい、、綾!!」
叫ぶ夫ー。
家族で買い物に行った帰りー
突然、妻が、暴走し始めたのだー
「-死ね死ね死ねぇ~~~~!」
大声で叫ぶ妻ー
なんとか止めようとする夫ー
この妻も、”無敵の憑依人”と化した
大五郎に憑依されてしまったー
大五郎は、憑依の力を手に入れてから
絶え間なく、あらゆる人間に憑依して、
罪を犯し続けているー
”自分の身体”でないが故に、いくらでも
罪を犯せる状態でー
誰も大五郎を止めることが出来ないー
世の中に強い不満を抱いていた大五郎にとっては
最高の瞬間だったー
「--人間なんて、消えちまえ!ははっ!ははははははっ!」
乗っ取った人妻の身体でげらげら笑う大五郎ー
息子らしき子供が、「お母さん!やめて!」と
叫んでいるー
”くくく、今はもうお母さんじゃねぇんだよ!”
そう心の中で叫びながらー
”顔芸”とも言えるぐらいに狂気的な笑みを浮かべてー
さらにアクセスを踏み込むー
「---あっ!?」
彼女は叫ぶー
ハンドル操作を誤りー
マンションに激突したーーー
激しい衝撃と共に、
”乗っ取っていた身体”は、即死したー
だがーー
”へへへへ”
霊体になった大五郎は笑うー
乗っ取った身体が死のうが、彼には影響がないー
「はははははは!
憑依…
最高だぜ…!
ははははははははっ!」
大五郎の霊は”次のターゲット”を目指して飛び去って行くー
動かなくなった人妻の身体のことなど、
まるで気にせずにー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---では、記憶が一切ない、ということですか?」
刑事・曾我部が呟くー。
「---はい……」
苦しそうに呟く女性ー
二日前に、スーパーで暴れた女だー。
たまたま、最後の”自害”の傷が致命傷にならず、
他の憑依された被害者とは違い
”助かった”のだったー。
「----そんな言い訳、通用すると思いますか?」
若手刑事の新崎が怒りの形相で言う。
「---でも、、、でも…」
女は泣き出してしまうー
「--誰かに頼まれたのか?
それともー」
「おい」
曾我部が新崎を止めるー。
「--少し落ち着け、新崎」
曾我部が新崎の肩を叩くと、新崎はため息をついて
「すみません」と呟くー。
「---俺…お茶を買ってきます」
その言葉に、曾我部は「俺はコーヒーで頼む」と呟くー。
新崎が病室から出ていくー。
曾我部はため息をつくと
「すみません。あなたもご存じだと思いますがー
数日前から凶悪事件が続発しています」
と、女に対して言い放ったー
女が暴れたのは二日前ー
既に何件か、凶悪事件が起きていたタイミングだー
「はい…」
女が不安そうに呟くー
「--あなたも、その一人です。
ですが、あなたにその時の記憶がない、ということはーー
色々な可能性が考えられます」
曾我部は”あなた以外は全員死にました”と、続けるー。
「--どうか。覚えていることを出来る限りー…
分からない部分は分からないで構いませんー
これ以上、被害者を出さないためにも
教えて頂けますか?」
曾我部はそう言って頭を下げたー
女は、不安そうにしながらも
”憑依されるまで”のこと、
”意識を取り戻したとき”のことを
思い出しながら、話し始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ…」
病院の廊下を歩いていた新崎は困惑していたー
”いつ”誰が暴走するか分からないー
ここ1週間ちょっとで、世界はまるで変ってしまったー
相次ぐ凶悪事件。
もしも仮にーー
もしも仮に、
先輩である曾我部の言う通り、
”誰かが扇動”しているのだとしたら
”たった一人の人間の扇動行為”により、
世界はここまで恐怖に陥れられてしまうー。
「---大丈夫ですか?」
自販機の前でため息をついていた新崎が
振り返ると、そこには病院の女性看護師がいたー。
「--あ、はい、大丈夫でs
女性看護師が凶悪な笑みを浮かべたと同時に、
新崎の首筋に、注射器を打ち込んだー。
「--くくく」
動かなくなった新崎を見つめる女性看護師は
凶悪な笑みを浮かべながら
がに股で歩き出すー
「こんな世界腐ってしまえ
こんな世界、滅んでしまえ!」
彼女もまたーーー
無敵の憑依人と化した大五郎に憑依されてしまっていたー
既に病院内の患者数名と同僚の看護師が犠牲になっているー
「---なるほど…分かりました」
病室で、数日前に憑依されてスーパーで暴れた女性から
話を聞き終えた曾我部は立ち上がるー
”この人の話が本当なのであれば…
やはり…”
曾我部は
一連の凶悪事件が
”誰か”が、事件を起こした人間を
何らかの方法で操っているのではないかー
そんな考えにたどり着くー
確証はないー
しかしー
それ以外に考えられないー
「--また、お話を聞かせてください」
曾我部はそれだけ告げると
「新崎のやつ、遅いな」と呟きながら
病室の扉を開いたー
病室の扉を開くと、
そこには女性看護師がーー
「---!」
曾我部がハッとした時には、
もう手遅れだったー
注射器を打ち込まれて、その場に崩れ落ちる曾我部ー
「ひっ…!?」
スーパーで数日前に暴れた女性が、悲鳴を上げるー。
「---あっれぇ?お前、確かこの前憑依したよなぁ…!?
生きてたのか~?」
笑う女性看護師ー
その表情に、優しさなど、微塵も存在していないー
「まぁ、いいや、死ね」
女性看護師が、女性の寝ているベッドに馬乗りになって、
もがく彼女に注射器を打ち込もうとするー
「はははははは♡ 人間なんてクソ食らえだ!」
叫ぶ女性看護師ー
パァン!!!
「--!?」
女性看護師が驚いた表情で身体を見つめるー
身体にぽっかりと穴が開いていたー
「う、、、おおおおおおおおおおおお!!!」
死の間際の曾我部が怒りの形相で、
女性看護師の身体を撃ち抜いたー。
もちろん、この人は乗っ取られているだけー。
今の会話を聞いて、それは分かったー
けれどー
最後の力を振り絞った曾我部に出来ることは
これだけだったー。
入院中の女性を助けーー
そして、”憑依”-
他人の身体に憑依して凶悪犯罪を繰り返していた悪魔を
葬り去るー
曾我部に出来るのは、それだけーー
「ひひ、、、あは、、あははははは」
笑う女性看護師に向かって
最後の力で、さらに数発の銃弾を撃ち込むとー
曾我部も乗っ取られた看護師も、そのまま動かなくなったーーーー
「---無駄なんだよ」
入院中だった女性患者が笑いながら立ち上がるー。
「--身体が死んでも、俺はいくらでも乗り換えることが
できるんだから」
そう言うと、数日前、スーパーで暴れた女性の身体で、
今度は曾我部の持っていた銃を奪うと、
病院内で銃を放ち始めたー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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こういう人が憑依薬を手に入れてしまったら…
世の中が大変なことになってしまうのデス…
恐ろしいですネ~…!
結末は、明日のお楽しみデス!
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