<入れ替わり>わたしの身体はどこ?~未来編~

入れ替わってしまった
晴彦と、愛優ー。

未来に、待ち受けている運命はー?

※「わたしの身体はどこ?」の後日談、完結編デス!

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晴彦の友人・磯野の家に
居候するようになって、時が流れたー

晴彦になった愛優は、
当初”絶望”していたー

愛優と入れ替わって、愛優の身体になっていた
晴彦が、死んでしまったことでー
もう、二度と、自分の身体には戻れない状態になってしまったからだー。

いつまでも、廃人のように落ち込み続ける晴彦(愛優)-

そんな晴彦(愛優)を見かねて、晴彦の悪友でもある磯野は、
晴彦に言葉をかけたー

「--辛いことがあったのは分かるけどよ…
 でも、いつまでもそうしてたら、ダメだろ?
 そうしてたら、失ったものを取り戻せるのか?

 違うだろ?
 それに、相手もそんなこと、望んじゃいないはずだー。

 分かってるー。
 すぐに立ち直ろうったって、そうはいかないことぐらいー

 でも、少しずつでもいいから、
 ”今、自分が置かれた状況”の中でも、
 明るくなっていこうぜ?な?」

磯野は、そう声を掛けたー

「--磯野…」
晴彦(愛優)は、
その言葉を”入れ替わってしまった自分への励まし”と
受け取ったー

晴彦(愛優)は思うー
もう、自分の…”愛優”の身体に戻ることはできないー
だったらー
この身体で生きていくしかないー

「でも、少しずつでもいいから、
 ”今、自分が置かれた状況”の中でも、
 明るくなっていこうぜ?な?」

この、磯野とかいう人のことは良く知らないー
でも、晴彦になってしまった愛優は、確かに
その通りだとも思ったー

”自分の身体”を失ってしまった挙句ー
”自分の心”までも、失ってしまったらー…
”本当に、死んでいるようなもの”になってしまうー

(自分の身体じゃないけどー
 わたしには、動かせる身体と、わたしの記憶と心があるー)
愛優はそう思ったー

愛優の身体になってしまった晴彦は、
もう、何も感じることができないー
それに比べたら、自分はー

「ありがとう」
晴彦(愛優)は、磯野の言葉をきっかけに、立ち直ったー

(ほっ…)
磯野は内心ほっとしたー

磯野は、晴彦の中身が愛優だとは、知らないー。
晴彦が、彼女と紹介してきた愛優の死に悲しみ、
ふさぎ込んでいると勘違いしていたー

そして、その愛優を殺してしまった磯野自身はー
うしろめたさから、晴彦(愛優)に親切にしているだけだったー。

だがー
それでも、何も知らない磯野の言葉が、
まさか、目の前にいる男が、愛優になった晴彦を殺した張本人だと知らない
晴彦(愛優)の心を救うことになったのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・

戸惑いながらもー
磯野の家で、晴彦になった愛優は、徐々に立ち直っていくー

「---しかし良かったよ、お前が仕事見つけて」
磯野が笑いながら言うー。

磯野は、社会人で、日中は家を空けているー
晴彦(愛優)に対しては”落ち着くまで、俺の家にいていいから”と
親切にしてくれたー

「---うん。バイトだけど、まずは第1歩」
晴彦(愛優)がほほ笑むー

髪を整えて、
小ぎれいな感じにしているー。

「---しかし、お前、なんかちょっと柔らかくなった感じがするよな~」
磯野が晴彦(愛優)の方を見つめるー

「え?そ、そうかなぁ…?ははは」
晴彦(愛優)はなるべく男っぽく振舞うようには
しているのだが、
やはり約20年、女として生きてきた癖は
急には抜けないー
それに、元々の晴彦がどう振舞っていたのかもわからないー。

だからー
完全に晴彦を演じるのは”不可能”だったー。

「--それにしても、お菓子屋のバイトとは、意外だよなぁ」
磯野が笑うー

晴彦は、甘い物が苦手だったー
その晴彦が、お菓子屋でバイトするとはー

「え??あ、、ほ、ほら、見るのは好きだから!」
晴彦(愛優)はそう言うと、
”行ってきます”と呟いて、磯野の家から外に出たー

「------」
一人残された磯野は表情を歪めるー

”愛優を殺した”

だがー
事件の犯人は見つかっていないー

磯野は”このまま逃げ切れるのではないか”と、
そう思い始めていたー
だが、同時に罪悪感に押しつぶされそうにもなっていたー

・・・・・・・・・・・

「いらっしゃいませ~!」
晴彦(愛優)が楽しそうにお菓子屋でバイトをしているー

「-ーーほんと、なんか女子って感じですよね~」
バイト仲間の女子の一人が言うー

「え?そ、そうかなぁ~」
晴彦(愛優)が苦笑いするー

”女子のように繊細で、反応も女子みたい”
だと、周囲の女子バイト達は言うー

晴彦(愛優)は、ある決意をしていたー

それはー
”この身体で前向きに生きていくしかない”という決意ー。

”自分が愛優”と、家族や知り合いに伝えて
なんとか信じてもらおうとも考えたー

でもー

それはーーー
”叶わぬ、夢ー”

恐らくー
変態扱いされるだけー。
愛優の家族や、友達を、余計に苦しませてしまうだけー。

両親にー
友達にー
会いたいー
話もしたいー

でもー
そんなことをすれば、
親も、友達も、みんなみんな苦しめてしまうことになるからー。

だから、このままー

”愛優としてのわたしは死んだ”

そう思ってー
晴彦としての人生を、前向きに生きていくことに決めたー

「---どんな形であっても、生きていれば楽しいこともあるよね」
とー。

やがてー
晴彦(愛優)は、スイーツ男子として
バイト先のお菓子屋で重宝されるようになりー
仲良しな女子バイトもできたー

身体は晴彦だけど、中身は愛優だから、
女の子の気持ちは、よくわかったし、
どんな接し方をしたら「嫌な気持ち」になるかも
晴彦(愛優)はよく理解していたー

「--まるで、本当に女の子みたいですよね~」
女子バイトの一人が言うー

「え~~~??そうかなぁ?」
優しい笑みを浮かべる晴彦(愛優)-

”本当に女の子だったんだけどね…”
と、愛優は心の中で苦笑いするー

色々なものを失ってしまったけれどー
色々な発見もあったー

悲しいけれど、
楽しいこともあるー。

「---ねぇ、ここで、ずっと働いてみる気はない?」
ある日、店長にそう言われたー

「え…?」
晴彦(愛優)は、小さいころからスイーツが大好きだったー

お菓子に関係する仕事に就きたいと思いつつも、
愛優の通っていた大学はそういうジャンルではなく、
諦めかけていた”夢”-

でも、今、形は違えど、
それが叶おうとしているー

大好きなスイーツに関係する仕事をすることが、できるー

「---よろしくお願いします!」
晴彦(愛優)は、正社員となりー
やがて、バイト時代から仲良しな女子大生から告白されー
店長公認で、付き合うことになったー。

「---……よかったよ」
磯野が呟くー

晴彦(愛優)は、収入が安定し、
精神的にも安定したことから、
一人暮らしを始めることを磯野に告げたー
既に、物件も見つけてあるー

「-----」
磯野が表情を曇らせるー

「--なぁ、晴彦」
磯野は、”自分が愛優を殺した”罪悪感に
押しつぶされそうになっていたー

どうして、警察は俺にたどり着かないー?
どうして、晴彦は俺に何も言わないー?

警察はー、単純に”磯野”にたどり着けておらず、
晴彦の中身は愛優のため、そもそも磯野を知らなかったー

だから、何も、言われないまま
中身が晴彦の愛優を殺しても、
その罪を償うこともないまま、
ここまで来てしまった-

「---俺から…言わなきゃならないことがある」
磯野はため息をついたー

もう、限界だー
あの日のことが忘れられないー
もう、疲れたー
罪を償いたいー

「---じゃあ…先に俺からひとつ」
晴彦(愛優)は呟いたー

「今まで、ずっと騙していて、ごめん」
とー

「-え?」
磯野が驚いた表情で、晴彦(愛優)を見るー

「---俺は…晴彦であって…晴彦じゃないんだ」
晴彦(愛優)は、”自分の正体”を打ち明けることにしたー。

言わない方が良いのかもしれないー

そうは、思いながらもー
打ち明けることにしたー。

晴彦と入れ替わって、
愛優の身体になった晴彦が死んでしまってー
失意のどん底にいた自分を救ってくれたのが、磯野だったー

磯野は、晴彦のことを一生懸命、立ち直れるように
励ましてくれたー

”何か、後ろめたいことがあるのだろう”
と、いうことは晴彦(愛優)にもわかったー

けれど、
それでも、磯野が自分を地獄から救い出してくれたことも事実だったー

磯野と出会わなければ、
自分は、晴彦の身体になって、自分の身体を失った絶望で
そのまま路上生活をして、野垂れ死んでいたかもしれないー。

「---わたしは、あなたのおかげで今、こうして
 未来に向かって歩いて行けるー…」

全てを語り終えた晴彦(愛優)ー

自分は、愛優という女子大生であることー
晴彦とぶつかって、入れ替わってしまったことー
二人で元に戻る方法を探す約束をしていたのに、愛優になった晴彦が死んでしまったことー

「---今まで騙していて、申し訳ありませんでし…」
晴彦(愛優)が頭を下げようとすると、
磯野が突然、土下座したー

「俺の方こそ、本当に申し訳なかったー」

とー。

磯野は震えて土下座をしながらー
全てを打ち明けたー

”愛優になった晴彦を殺したのは自分”だということー
中身が入れ替わっているなんて知らなかったことー
晴彦(愛優)を家に泊めていたのは、愛優を殺したうしろめたさから、であることー。

「--晴彦のやつ、俺に見栄を張って、
 ”彼女を紹介してやる”って言ってきてー…
 俺、中身があいつだとも知らずに、
 会いに行ったんだー

 そしたら…なんかこう、滅茶苦茶可愛くてー
 つい…勢いで…」

愛優(晴彦)を殺してしまったときのことを語るー

そしてー
磯野は「申し訳ありませんでした!」と
大声で泣き叫ぶようにして土下座したー

「-------」
晴彦(愛優)は唇を噛みしめるー

”この人が、わたしの身体を殺した人ー?”

「-----」
晴彦(愛優)は拳を作って震わせるー

「----…」
そして、怒りの形相で、深呼吸をすると、
ようやく言葉を吐き出したー

「---絶対に、、許さない」
とー。

「----俺、、、俺、自首するから…
 本当に…本当に…」

磯野は頭を下げたままー

「---許さないけどー…
 でも、ありがとうー」

晴彦(愛優)は呟いたー

「---…!」
磯野が顔を上げて晴彦(愛優)を見るー

「--あなたがわたしの身体を殺したならー
 わたしはあなたを許さない…

 でも…
 あなたがいなければ、わたしは入れ替わったまま
 生きていくことを受け入れることができないままー
 きっと…死んでたと思うー

 だからー
 あなたはわたしにとって、命の恩人でもあるのー」

晴彦(愛優)はそう言うと、
少しだけ苦笑いしたー

「-あなたに殺されてー
 あなたに救われるー…
 なんか、変な話だね」

それだけ言うと、晴彦(愛優)は背を向けたー

「---磯野…ありがとな」
ここ数か月”晴彦”として磯野と一緒にいたー

”晴彦”として、礼を言うー。

そしてー
最後に付け加えた。

「--お前のしたことは、人殺しだー。
 しっかり、償えよ」

とー

そして、晴彦(愛優)はそのままー
磯野の家の外に出たー

まさかー
磯野が自分の身体を殺した人物だったなんてー

当然、怒りはあるし絶対に許せないー

でも、それでも、
磯野がいなければ自分は入れ替わった絶望を
受け入れられず、きっとあのまま死んでいたー

仇であり、恩人でもあるー

そんな磯野に対して抱く感情はー
言葉では言い表せない複雑なものだったー

でもー

もう、愛優は決めたー
振り返らないー、と。

晴彦として、
新しい人生を生きていくと
決めたからー

もがいても、あがいても元に戻れないのならー
前向きに生きていくしかないからー

・・・・・・・・・・・・・・・

「--------あの」

後日ー

磯野は、自首をしたー。
愛優の身体を殺したことを打ち明けてー
そのまま彼は逮捕されたー

己の、罪を償うためにー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー

晴彦(愛優)は、
愛優の墓を訪れていたー

愛優の墓なのにー
眠っているのは、晴彦ー

「--まさか、自分で自分のお墓まいりを
 することになるなんてー」

晴彦(愛優)はほほ笑むと、
晴彦に報告したー

”犯人”が捕まったことをー

そしてー
”この身体”を大切に、生きていくと決めたことをー

「--わたしがそっちに行ったらー
 ちゃんと、わたしの身体、返してもらいますからね!」

晴彦(愛優)はそう呟くと、
少しだけほほ笑んだー

晴彦(愛優)は歩き出すー

自分の身体で生きる未来は、消えてしまったー
でも、愛優にはまだ、晴彦の身体で生きる未来が残っているー

未来に進みたくても、進むことのできない人間が
この世にはたくさんいるー

愛優になってしまった晴彦だってそうだ。

晴彦としての未来もー
愛優の身体で生きる未来もー

両方、消えてしまったー

彼はもう、未来に進もうと思っても、
進むことができないー

だからー
例え、自分の身体に戻れないのだとしてもー
進むことのできる未来があるのであればー

”あっち”に行ったら
身体を返してもらうー

晴彦になった愛優は、そう心に誓いー、
”この世”では、晴彦として生きていく決意を固めるのだったー

おわり

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コメント

「わたしの身体はどこ!?」の後日談でした~!

本編のところで終わりでも良かったのですが、
続きが気になるというようなお言葉も頂いたので、
書いてみました!
(※リクエストの受付はしてません!すみません!)

後日談も含めると、綺麗な感じで終わった…気がするので、
書いてよかったデス!

ここまでお読み下さり、ありがとうございました!!

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