僕は、手に入れた
”わるもの”をやっつける力を。
僕が、お前たちを懲らしめてやるー。
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”わるもの”はやっつけるー。
3年生の辻田 牧夫(つじた まきお)は、
正義感の強い少年だったー
小さいころからヒーロー番組を見て育ったことも
影響しているのだろうか。
人一倍、悪を憎み、そして、自分は正義のヒーローのように
なりたい、とそう思っていたー
悪の怪人を倒すヒーローを一生懸命応援する牧夫。
彼は、そんな純粋な少年だった。
だが、ある日、彼は思う。
”どうして、僕たちの前に、ヒーローは来てくれないんだろう?”
とー。
1年生の頃から一緒の女子・光本 千佐江(みつもと ちさえ)が
男子たちからばい菌扱いされて、悲しんでいるー
でも、ヒーローは助けに来てくれない。
どうして?
千佐江ちゃんがあんなに苦しんでいるのにー。
牧夫は、そう思わずにはいられなかった。
ヒーローが助けに来てくれないー
いじめっ子の合田(ごうだ)と細河(ほそかわ)は
千佐江のことを、今日もいじめているー
”ヒーローがいないなら、僕がヒーローになる”
牧夫はそんな風に思いながら
「千佐江ちゃんをいじめるな!」と叫んだー。
だが、合田と細河はニヤニヤと笑いながらー
牧夫のことを叩いたー。
合田と仲良しな、女子生徒・皆本(みなもと)も、
そんな様子を笑いながら見ているー
”わるものだ”
殴られた牧夫は、怒りの形相で呟くー
わるものは、やっつけないといけないー。
牧夫の脳裏にヒーロー番組の光景が浮かび上がるー
街で悪いことをしていた悪の怪人は、
ヒーローによって吹き飛ばされて、
そして、倒されるー。
そう、合田も細河も皆本も、
やっつけなくてはいけない。
絶対にー。
どうして、ヒーローは僕たちを助けに来てくれないんだろうー。
そんな風に思いながら帰宅した牧夫は、
ヒーローのソフビを手に持ちながら
「千佐江ちゃんを助けてよ…」と呟く。
けれど、ヒーローはそれに答えてくれないー
”ガシャン”
1階から音が聞こえて来るー
”まただ”
お母さんとお父さんが喧嘩しているー
どっちも悪いのに、
いつもお母さんとお父さんは、喧嘩するのを止めない
二人が謝れば、喧嘩なんて終わるのに、
どっちも謝ろうとしない。
ふたりとも、わるものだ。
そんな風に思いながら、牧夫は
ヒーローのソフビをじーっと見つめたー
・・・・・・・・・・・・・
ある日ー。
牧夫が、登校しようと、部屋で準備をしていると、
ヒーローのソフビ人形が、光ったー
…気がした。
”そんなことあるわけないか”
そんな風に思いながら牧夫がさらに
学校に向かう準備を進めているとー
”牧夫くん”
と、いう声が聞こえたー
「え…?」
牧夫が慌てて部屋を見回す。
だが、部屋には誰もいないー。
”牧夫くん、ここだよ”
「え……
御面ライダー!?」
ソフビ人形の方に向かって
嬉しそうな笑みを浮かべながら叫ぶ牧夫。
”そうだよ。君の助けを求める声に呼ばれてきたんだ”
御面ライダーのソフビ人形から声が聞こえて来るー
「ほんと!?!?ありがとう御面ライダー!」
嬉しそうに叫ぶ牧夫。
”でも、ごめんな。
俺は今、助けを求めるたくさんの声に呼ばれていて
牧夫君のところに行くのに時間がかかってしまうんだ”
御面ライダーのソフビ人形から声が聞こえるー。
「え…そんなぁ…」
牧夫が悲しそうな表情を浮かべる。
早く、千佐江を助けてあげたい。
それなのにーー。
”代わりに、牧夫くんがヒーローになるんだ”
「--え?」
牧夫が首をかしげると、
御面ライダーのソフビ人形はさらに続けた。
”牧夫くんに、わるものをやっつける力を、あげよう。
それで、牧夫くんが、ヒーローになるんだ”
御面ライダーのソフビ人形は、そう呟いたー
”人を操る力”
御面ライダーが牧夫に授けた力は
”洗脳”の力だったー
まだ純粋で幼い牧夫は、
それこそが、ヒーローの力だと信じ込んだー
”わるものはやっつけるべきもの”であると
思い込んだー。
「--------!!!」
牧夫が、ふと意識を取り戻すー
布団の上ー
「あれ…僕!?」
周囲を見渡す。
学校に向かう準備をしていて、
急に御面ライダーのソフビ人形が光って…
そう思いながら、御面ライダーの方を見つめるー
だが、御面ライダーは、
動くことはなかったー。
”夢だったのかな”
そんな風に思う牧夫。
そして、学校に向かうー。
合田と細河と皆本が、今日も千佐江をいじめているー
”千佐江ちゃんをいじめるな”
そう叫びたい。
だがー
合田にまた叩かれるー
ぶたれるー。
だからー
牧夫は、何も言わなかったー。
昼休みー
牧夫は、合田から呼び出された。
校舎裏にびくびくしながら歩いていく牧夫。
合田がニヤニヤしながら、牧夫の方を見る。
「牧夫のくせに、生意気だぞ!」
合田が牧夫の頭を叩くー
この前、牧夫が千佐江のことをいじめるな、と
叫んだ仕返しのようだー
牧夫は、ぶるぶる震えながら
合田の仕返しに耐えるー
ここで、何かを言えば合田は怒って
もっとひどくなるー
だから、牧夫は耐えたー。
けれどーーー
”牧夫くんが、ヒーローになるんだ”
御面ライダーに言われたそんな言葉を思い出した。
「僕が、ヒーローになる?」
”わるものの目を見つめると、牧夫くんは
そのわるものを自由に操ることができるようになるんだ。
この力で、牧夫くんがヒーローになるんだ”
あれは、夢だったのだろうかー
それともーー
牧夫は、そう思いながらも、
合田の目の方をじっと見つめるー
「なんだその目は~~!?」
合田が怒りの形相で叫ぶ。
横にいた細河もニヤニヤしながら笑っているー
「------わるものは、僕がやっつける!」
叫ぶ牧夫。
「なんだとぉ!?」
合田が、牧夫の目を見ながら怒りの形相で叫ぶー
そしてーー
「うっ」
合田が、牧夫を殴ろうとしていた手が止まったー
「合田くん?」
細河が首をかしげる。
「-----…」
合田が虚ろな目になって立ち尽くす。
「---!」
牧夫も、合田の異変に気付くー
これってー?
御面ライダーが言っていた
”わるものをやっつける力”-!?
そう思った牧夫は、叫んだ。
「--わるものは、許さないー!
わるものは、僕がやっつける!」
そう叫ぶと、
合田が突然「わるものは、やっつける」と
呟き始めたー
「--え?」
横にいた細河が異変に気付いた時には、もう遅かったー
「わるものはやっつける!
わるものはやっつける!
わるものはやっつける!」
合田が、突然、細河を殴り始めたのだ。
「いたっ!?えっ!?ちょっ!?!?」
細河が悲鳴をあげて逃げようとする。
合田はそんな細河を無理やりつかんで
さらに殴り続ける。
”洗脳”
牧夫が手に入れた力は本物だったー
合田はまるでロボットかのように
”牧夫が考えるわるもの”をやっつけようとしているー
まだ牧夫は幼く、洗脳の力に慣れていないため、
ぎこちないロボットのように合田が指示に従っているだけだが、
今の牧夫にとってはそれでも十分だった。
「すごい…
合田くんがわるものをやっつけてる…!」
牧夫は興奮したー。
合田が細河を叩いているー
しかも、細河の身体から血が出るほどにー。
ふつうだったら、止めに入るかもしれないー。
でも-
牧夫はまだ小学3年生ー。
”純粋すぎる心”は、
目の前の光景を”わるものをやっつけている”ぐらいにしか
思わなかったー
ヒーロー番組では
悪の怪人を、ヒーローが叩いたり蹴ったりして倒している
悪の怪人は最後には
やっつけられているー
そう。わるものはやっつけないといけない。
「ははっ!すごい!すごい!
がんばれ~~~!」
ヒーロー番組でヒーローを応援するかのように叫ぶ牧夫。
合田が
「わるものはやっつける!わるものはやっつける!」と
悲鳴を上げる細河を手加減なしで殴り続けている。
やがて、細河が校舎裏に倒れ込む。
合田はさらに細河を掴むと、
細河の顔面を思いっきり殴りつけたー
細河がコンクリートに頭を打ち付けるー。
そんな細河の顔をさらに殴り、
力なく細河の頭が、背後のコンクリートにぶつかるー
やがて、細河は動かなくなるー
「わるものをやっつけた!すごい!!」
牧夫が嬉しそうに満面の笑みを浮かべるー
動かなくなった細河は
口をぽかんと開いて、頭の後ろから赤い液体を流しているー。
「---すごい!すごいよ!!」
合田を拍手する牧夫
「きゃああああああああああああ!!!」
他の児童が、血を流してぐったりしている細河を見て
悲鳴を上げる。
「-うわあああああ!」
騒ぎになる児童たち。
合田の手には、細河の血がついている。
牧夫は「正義は必ず勝つ!」と叫んだー
幼い故のーーー”暴走”--
牧夫は、合田を正義のヒーローを見つめるような目で
見つめた。
悪い奴をやっつけたー!
ヒーロー番組で、悪の怪人が
ヒーローにやっつけられる場面を思い浮かべるー
ヒーローが、怪人をパンチしたり、キックしたりー
最後には、怪人はヒーローによって倒されて、
そして、死んでいくー
「あ、、あれ…?俺…」
合田が正気を取り戻す。
「--!」
合田が自分の手に血がついていること、
そして、細河が動かなくなっているのに気づく、
悲鳴を上げる。
「--僕が、ヒーローに…」
牧夫は笑みを浮かべていたー
「ライダー…僕、、僕、、、みんなの平和を守るよ!」
笑みを浮かべる牧夫。
牧夫は、合田の方を見るー
そうだー
合田もわるものだ。
わるものはやっつけないといけない。
先生たちが駆けつける。
合田の手についている血を見て
先生たちは「合田くん!何をしたんだ!」と
叫びながら、合田を職員室に連れていくー
細河は救急車で運ばれたが、
そのまま死んだ。
クラスメイトが死んだことで、
泣いたり、落ち込んだり、
よく理解できずに笑っていたりー
みんなの反応はそれぞれだった。
だがー
牧夫は堂々としていた。
自分は、いいことをした。
人助けをしたー。
そう、信じて疑わないー
「-----千佐江ちゃんは、僕が絶対に助けるから」
隣の座席の千佐江に向かって、牧夫が言う。
「え…?」
千佐江が顔を上げる。
「僕は、正義の味方になるんだ!」
牧夫は嬉しそうにそう叫んだー。
その日は、細河が死んだことで、そのまま下校となった。
下校の最中、合田とすれ違う。
合田は落ち込んだ様子で、疲れ果てた表情をしていたー
急に訳がわからなくなって
細河を殴った気がする。
どうしてそんなことをしたのか、
自分でも分からないー
「わるものはみんなやっつけるんだ」
牧夫が、合田の方を見て笑う。
「あ?」
合田が振り返る。
「--合田くん…!自分をやっつけるんだ!」
目を見つめて牧夫が言うー
合田の目が虚ろな目になる。
「じぶんを…やっつける」
「じぶんを…やっつける」
「じぶんを…やっつける」
合田はそう呟きながらそのまま立ち去っていくー
「すごい!すごいや!」
牧夫が歩き去っていく合田を見つめながら笑うー
この力があれば、
僕はもっともっとわるいやつをやっつけれる。
おじいちゃんも言ってたー。
”わるいことをしちゃいけない”って。
”わるいことをするとやっつけられちゃうんだよ”ってー
「僕、やっつけるよ!悪い人たちを!」
牧夫は嬉しそうにそう呟きながら
学校を後にしたー
②へ続く
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コメント
小さな子が力を手に入れちゃうと、
ぶるぶるですネ~!
お読み下さりありがとうございました!!
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