<憑依>あざ笑う妹①~いじめ~

いじめられていた気弱な男子生徒。

彼にとっては仲の良い妹だけが
癒しだった。

妹がいるから、いじめにも立ち向かえる。
しかし…

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「お~い!!
 今日もつまんなそ~な面してんな!」

クラスメイトのいじめっ子、井畑 美智男(いばた みちお)が
声をかけてきた

「--そ、そんなことないよ」
気弱な男子高校生、菊川 守(きくかわ まもる)は
いじめられていた。

「--そうだ!ちょうどいいや、俺のジュース
 買ってきてくれよ」

俗に言うパシリ。
しかも、お金も払わない。
美智男にいじめられる日々を送る守。

しかしながら、いじめを受けながらも、
守は特にそのことで悩んでいなかった。

「--はい、買ってきたよ」
守が言うと、
美智男が言う。

「--ちげ~よ!カルピスソーダだって
 言っただろ~!
 俺はフツーのカルピスは飲まないんだよ!」

美智男の言葉に
「え?でも、さっきカルピスって…!」と反論するも
「俺にとって”カルピス”は”カルピスソーダ”なんだよ!」と叫ぶ美智男。

仕方が無く、もう一度買いに行く守。
カルピスも取られた挙句、
カルピスソーダも守の自腹だ。

美智男や、その取り巻きからいじめをうけていながらも、
守にはある心の支えがあった。

それが
”妹”の存在だ。

妹の優那(ゆな)が居るから、
守はどんないじめにも立ち向かえた。

帰れば、優那と会える。

だからー

放課後。

「--お兄ちゃん!」
中2の優那と、下校中に鉢合わせした守は、
優那に呼ばれて、笑顔を見せた。

「あ!優那!
 優那も今、帰るところ?」

守が言うと、優那は「うん!」と答えた。

「へ~僕もだよ!偶然だなぁ!」

まるでカップルかのように二人で肩を並べて
下校する兄と妹。
二人は、とても仲良しだった。

特に、兄の守は優那を溺愛していたし、
優那が心の支えになっているからこそ、
美智男たちからのいじめにも屈することなく、
高校に通えている。

「・・・・・・」
そんな二人の様子を、偶然、同じく下校途中だった
美智男が見つめていた。

「--優那がいるから、僕は頑張れるんだよ!」
笑いながら妹に言う守

それを後ろで聞いていた美智男は
ニヤリと笑った。

「---なるほど…
 アイツがどんなにいじめても屈しないのは、
 あの妹がいるからか。
 しかも可愛いじゃねぇか」

そう言うと、美智男はあることを思いついた。

「--その”心のあり所”も奪っちまったらー
 どうなるかな?アイツ?」

美智男は、
あるものを知っていたー。
それは、ネットオークションで出品されている
”憑依薬”なる薬。

バイトしてお金を貯めて、いつか買ってやろうと
思っていたその憑依薬を、
守の妹に使ってやることにした。

ちょうど来週、3日間、親が旅行でいないタイミングがある。
その間、自分の身体を部屋に放置しておいても
誰にもばれない。
学校は休めばいい。

「---くくく、お前の妹になってやるぜ
 兄を嫌悪する、妹にーな、」

美智男はそう言いながら
オークションで憑依薬を購入した。

出品者の愛染という男は、とても高い評価のついている出品者で、
事実、入金の翌日には憑依薬を発送してくれた。
半信半疑だったが、おそらくは本物なのだろう。

「--よっしゃ、来たぜ!」
美智男はそう言いながら、不気味にほほ笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

「--あれ?」
守は登校して、しばらくした頃に
ふと気づいた。

今日は、いじめっ子の美智男が登校していない。

「---珍しいな~」
守はそう呟いた。
美智男は厄介なことに風邪とかを引くタイプじゃないから
いつも学校に来ているのだった。
いじめられている守からしてみれば、
休んでくれていた方が、むしろ好都合な存在ー。

「---ま、ちょうどいいや」
守はそう呟くと、いつものように1時間目の準備を始めた。

放課後。

今日も、いじめは受けた。
美智男が居なくても、
美智男の取り巻きの二人がいじめてくるからだ。

けれどー
今日も乗り越えた。

帰れば、妹と会える。

それだけが、心の支えだった。

「ただいま~!」
守はいつも、帰宅すると、妹の部屋にお邪魔する。
優那も、イヤそうにはしなかったし、
反対に守が先に帰宅しているときは、
優那が守の部屋にやってくる。

それほどまでに仲良しなのだ。

「あっ…♡ …あぁっ♡ あ・・・!」
優那の部屋の中から変な声がした。

「---優那?」
守は疑問に思いながらも、
優那の部屋をノックする。

「あっ…♡ あぁああ♡ あっ♡ いひぃん♡」
女の甘い声ー。

しかし、守るにそんな経験はないし、
エッチなことに関する知識も皆無だったから
優那の声の意味も、よく分からなかった。

ガチャ…

扉を開けると、
そこには、自分の発展途上の胸を弄ぶ
優那の姿があった

「---あぁ…♡
 おにーちゃん、おかえり~♡」

優那が、今までに見せたこともないような
甘い表情と声でほほ笑んだ。

「--え、あ、、お、た、ただいま」
戸惑った様子で言う守。

「--やだ~お兄ちゃんったら
 そんなに顔を赤くして」

優那が笑いながら
イスに座る。

そして、腕と足を組んで、ほほ笑むと、
変な事を口にした。

「--今日、いじめられた?」
優那の言葉に、
守は首をかしげる。

そして、口を開いた。

「いじめ?そ、そんなことされてないよ」

まさか、妹にいじめの相談なんかしたことないし、
いじめられていることも言っていない。
心配をかけたくないという思いと、
兄としてのプライド―。

「--いじめられてるでしょ?」
妹の優那は問いとめる様な口調で言う。

「い、いや、そんなことないって…」
守は必死に反論したが、
優那は言う。

「--お兄ちゃん、だっさ~い!」
優那がバカにしたようにして笑う。

「----・・・・・・」
守は心の支えにしていた妹に
辛辣な言葉を投げかけられて
心底落ち込んでしまった。

「--なに?やっぱりいじめられてるんだ?
 はは、ウケる~!
 お兄ちゃんだなんて言って、損しちゃった!」

優那の悪魔のような笑みに、
守は涙目になっていた。

守は、妹の前ではお兄ちゃんとして
立派に振る舞おうとしていたが、
いざ、こういうことを言われてしまうと、
とても落ち込んでしまう。

「---だ、、、だってさ」
守が口を開く

「悪いのはあいつらなんだよ!
 僕は何もしてないのに、
 あいつら、僕のこと…」

守が悔しそうに歯を食いしばり、
涙を流す。

悔しくてたまらなかった。

「--そういうところが、むかつくんだよ!」

優那が声を荒げて
守に向かってきた。

「ゆ…優那、ごめん…ごめん!」
いじめっ子の美智男が、まさか優那に
憑依しているだなんて夢にも思わない守は、
大切な優那が怒っていると思い、
必死に謝った。

自分の心の支えは優那だけだ。
その優那に嫌われてしまったら、もう…

「-おい、お兄ちゃん、
 いや、クソ兄貴!
 今まで可愛い妹でいようと、頑張ってたけど
 もうおわり!」

優那がうんざりした様子で叫ぶ。

「---弱弱しくて、
 情けなくて、大っ嫌い!」

そう叫びながら
優那の中に憑依している美智男は微笑んだ。

”心の支えにもなっている妹に
 罵倒されて、絶望しろ…”

と。

「--ーーーーー」
守は泣きじゃくっていた。

本当にみっともないやつだ。

ま、美智男も悪魔ではない。
親が旅行から帰ってくる3日後には、
優那の身体から抜け出すし、
この優那とかいう子の人生を
壊す様なことはしない。

ただ、守のことをからかってやりたいだけだ。

「---うふふふふふ・・・
 だっさ~!まだ泣いてるの~?
 マジありえな~い!きっも~~い!」

女っぽく意識して言葉を発する優那。

やがて、守るは泣くこともやめてしまった。
そのまま蹲っている。

”ショックでおかしくなったのかな?”
優那はそんな風に思いながら、
ため息をついて、スマホをいじりはじめた。

年頃の女の子のLINEのやりとりを
読んでいるだけでも優那は、
優那に憑依している美智男は興奮した。

「---わかったよ」

「--!?」

守が突然口を開いた。

「--わ、分かったって、何が?」
優那が言うと、
守は強いまなざしで優那を見た。

「---僕、優那にとって
 恥ずかしくない様な兄になる。
 優那がそんな風に僕にのことを思っているなら、
 僕は、優那にふさわしい兄貴になってみせる」

泣き止んだ守の表情は、とても
強い決心に満ち溢れていた

「----!!」
守の強いまなざしを見た優那は
一瞬きゅんとしてしまった。

「------」
顔を少し赤らめてぼーっとしたあとに
優那は首を振る。

「ーーだから、見ていてくれ」
そう言うと、守は部屋の外へと立ち去って行った。

「--ーーい、、今、、俺…」
優那は呟いた。
不覚にも、守のやつにきゅんとしてしまった。
女に憑依しているからか、
それとも…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日

美智男の取り巻きだったクラスメイト二人に
パンを買ってこいと言われた守は、
それを拒否した。

守は、
ノーと言える高校生になったのだ。

「なんだとぉ!?」
いじめっ子が怒る。

しかし、守は、強いまなざしで言った。

「---自分のパンぐらい、自分で買えよ!」

そのあまりの迫力に、
いじめっ子、二人は言葉を詰まらせた。

そしてー

「でも、一緒にパンを買いに行くなら、いいよ」
守は微笑んだ。

いじめっ子二人は、しぶしぶうなずいて、
いじめっ子といじめられっ子ではなく、
クラスメイトとして、一緒にパンを買いに行った。
もちろん、自分たちのお金で、だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただいま」
守は、帰宅すると、妹の部屋に入った。

そしてー

「もう、ボクはパシリにはならない。
 今日、はっきりとNoと言ってやった」

守の言葉に、優那は驚く。

今、自分(美智男)は学校にいない。
優那の身体に憑依しているから当然だ。

とは言え、美智男の友人であるあの二人の
パシリを断れるとは思ってもみなかった。

「そ、、そっか」
動揺しながら優那がそう答えると、
守は、力強くうなずいて、部屋に戻って行った。

一人残された優那は呟いた。

「やべぇ…きゅんきゅんする…」
と。

②へ続く

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コメント

いじめられっ子に憑依されてしまった妹。
その運命はどうなるのでしょうか?

なんだか違う方向に美智男君は進んでしまいそうですが…笑

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