いじめられていた気弱な男子生徒。
彼にとっては仲の良い妹だけが
癒しだった。
妹がいるから、いじめにも立ち向かえる。
しかし…
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「お~い!!
今日もつまんなそ~な面してんな!」
クラスメイトのいじめっ子、井畑 美智男(いばた みちお)が
声をかけてきた
「--そ、そんなことないよ」
気弱な男子高校生、菊川 守(きくかわ まもる)は
いじめられていた。
「--そうだ!ちょうどいいや、俺のジュース
買ってきてくれよ」
俗に言うパシリ。
しかも、お金も払わない。
美智男にいじめられる日々を送る守。
しかしながら、いじめを受けながらも、
守は特にそのことで悩んでいなかった。
「--はい、買ってきたよ」
守が言うと、
美智男が言う。
「--ちげ~よ!カルピスソーダだって
言っただろ~!
俺はフツーのカルピスは飲まないんだよ!」
美智男の言葉に
「え?でも、さっきカルピスって…!」と反論するも
「俺にとって”カルピス”は”カルピスソーダ”なんだよ!」と叫ぶ美智男。
仕方が無く、もう一度買いに行く守。
カルピスも取られた挙句、
カルピスソーダも守の自腹だ。
美智男や、その取り巻きからいじめをうけていながらも、
守にはある心の支えがあった。
それが
”妹”の存在だ。
妹の優那(ゆな)が居るから、
守はどんないじめにも立ち向かえた。
帰れば、優那と会える。
だからー
放課後。
「--お兄ちゃん!」
中2の優那と、下校中に鉢合わせした守は、
優那に呼ばれて、笑顔を見せた。
「あ!優那!
優那も今、帰るところ?」
守が言うと、優那は「うん!」と答えた。
「へ~僕もだよ!偶然だなぁ!」
まるでカップルかのように二人で肩を並べて
下校する兄と妹。
二人は、とても仲良しだった。
特に、兄の守は優那を溺愛していたし、
優那が心の支えになっているからこそ、
美智男たちからのいじめにも屈することなく、
高校に通えている。
「・・・・・・」
そんな二人の様子を、偶然、同じく下校途中だった
美智男が見つめていた。
「--優那がいるから、僕は頑張れるんだよ!」
笑いながら妹に言う守
それを後ろで聞いていた美智男は
ニヤリと笑った。
「---なるほど…
アイツがどんなにいじめても屈しないのは、
あの妹がいるからか。
しかも可愛いじゃねぇか」
そう言うと、美智男はあることを思いついた。
「--その”心のあり所”も奪っちまったらー
どうなるかな?アイツ?」
美智男は、
あるものを知っていたー。
それは、ネットオークションで出品されている
”憑依薬”なる薬。
バイトしてお金を貯めて、いつか買ってやろうと
思っていたその憑依薬を、
守の妹に使ってやることにした。
ちょうど来週、3日間、親が旅行でいないタイミングがある。
その間、自分の身体を部屋に放置しておいても
誰にもばれない。
学校は休めばいい。
「---くくく、お前の妹になってやるぜ
兄を嫌悪する、妹にーな、」
美智男はそう言いながら
オークションで憑依薬を購入した。
出品者の愛染という男は、とても高い評価のついている出品者で、
事実、入金の翌日には憑依薬を発送してくれた。
半信半疑だったが、おそらくは本物なのだろう。
「--よっしゃ、来たぜ!」
美智男はそう言いながら、不気味にほほ笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
「--あれ?」
守は登校して、しばらくした頃に
ふと気づいた。
今日は、いじめっ子の美智男が登校していない。
「---珍しいな~」
守はそう呟いた。
美智男は厄介なことに風邪とかを引くタイプじゃないから
いつも学校に来ているのだった。
いじめられている守からしてみれば、
休んでくれていた方が、むしろ好都合な存在ー。
「---ま、ちょうどいいや」
守はそう呟くと、いつものように1時間目の準備を始めた。
放課後。
今日も、いじめは受けた。
美智男が居なくても、
美智男の取り巻きの二人がいじめてくるからだ。
けれどー
今日も乗り越えた。
帰れば、妹と会える。
それだけが、心の支えだった。
「ただいま~!」
守はいつも、帰宅すると、妹の部屋にお邪魔する。
優那も、イヤそうにはしなかったし、
反対に守が先に帰宅しているときは、
優那が守の部屋にやってくる。
それほどまでに仲良しなのだ。
「あっ…♡ …あぁっ♡ あ・・・!」
優那の部屋の中から変な声がした。
「---優那?」
守は疑問に思いながらも、
優那の部屋をノックする。
「あっ…♡ あぁああ♡ あっ♡ いひぃん♡」
女の甘い声ー。
しかし、守るにそんな経験はないし、
エッチなことに関する知識も皆無だったから
優那の声の意味も、よく分からなかった。
ガチャ…
扉を開けると、
そこには、自分の発展途上の胸を弄ぶ
優那の姿があった
「---あぁ…♡
おにーちゃん、おかえり~♡」
優那が、今までに見せたこともないような
甘い表情と声でほほ笑んだ。
「--え、あ、、お、た、ただいま」
戸惑った様子で言う守。
「--やだ~お兄ちゃんったら
そんなに顔を赤くして」
優那が笑いながら
イスに座る。
そして、腕と足を組んで、ほほ笑むと、
変な事を口にした。
「--今日、いじめられた?」
優那の言葉に、
守は首をかしげる。
そして、口を開いた。
「いじめ?そ、そんなことされてないよ」
まさか、妹にいじめの相談なんかしたことないし、
いじめられていることも言っていない。
心配をかけたくないという思いと、
兄としてのプライド―。
「--いじめられてるでしょ?」
妹の優那は問いとめる様な口調で言う。
「い、いや、そんなことないって…」
守は必死に反論したが、
優那は言う。
「--お兄ちゃん、だっさ~い!」
優那がバカにしたようにして笑う。
「----・・・・・・」
守は心の支えにしていた妹に
辛辣な言葉を投げかけられて
心底落ち込んでしまった。
「--なに?やっぱりいじめられてるんだ?
はは、ウケる~!
お兄ちゃんだなんて言って、損しちゃった!」
優那の悪魔のような笑みに、
守は涙目になっていた。
守は、妹の前ではお兄ちゃんとして
立派に振る舞おうとしていたが、
いざ、こういうことを言われてしまうと、
とても落ち込んでしまう。
「---だ、、、だってさ」
守が口を開く
「悪いのはあいつらなんだよ!
僕は何もしてないのに、
あいつら、僕のこと…」
守が悔しそうに歯を食いしばり、
涙を流す。
悔しくてたまらなかった。
「--そういうところが、むかつくんだよ!」
優那が声を荒げて
守に向かってきた。
「ゆ…優那、ごめん…ごめん!」
いじめっ子の美智男が、まさか優那に
憑依しているだなんて夢にも思わない守は、
大切な優那が怒っていると思い、
必死に謝った。
自分の心の支えは優那だけだ。
その優那に嫌われてしまったら、もう…
「-おい、お兄ちゃん、
いや、クソ兄貴!
今まで可愛い妹でいようと、頑張ってたけど
もうおわり!」
優那がうんざりした様子で叫ぶ。
「---弱弱しくて、
情けなくて、大っ嫌い!」
そう叫びながら
優那の中に憑依している美智男は微笑んだ。
”心の支えにもなっている妹に
罵倒されて、絶望しろ…”
と。
「--ーーーーー」
守は泣きじゃくっていた。
本当にみっともないやつだ。
ま、美智男も悪魔ではない。
親が旅行から帰ってくる3日後には、
優那の身体から抜け出すし、
この優那とかいう子の人生を
壊す様なことはしない。
ただ、守のことをからかってやりたいだけだ。
「---うふふふふふ・・・
だっさ~!まだ泣いてるの~?
マジありえな~い!きっも~~い!」
女っぽく意識して言葉を発する優那。
やがて、守るは泣くこともやめてしまった。
そのまま蹲っている。
”ショックでおかしくなったのかな?”
優那はそんな風に思いながら、
ため息をついて、スマホをいじりはじめた。
年頃の女の子のLINEのやりとりを
読んでいるだけでも優那は、
優那に憑依している美智男は興奮した。
「---わかったよ」
「--!?」
守が突然口を開いた。
「--わ、分かったって、何が?」
優那が言うと、
守は強いまなざしで優那を見た。
「---僕、優那にとって
恥ずかしくない様な兄になる。
優那がそんな風に僕にのことを思っているなら、
僕は、優那にふさわしい兄貴になってみせる」
泣き止んだ守の表情は、とても
強い決心に満ち溢れていた
「----!!」
守の強いまなざしを見た優那は
一瞬きゅんとしてしまった。
「------」
顔を少し赤らめてぼーっとしたあとに
優那は首を振る。
「ーーだから、見ていてくれ」
そう言うと、守は部屋の外へと立ち去って行った。
「--ーーい、、今、、俺…」
優那は呟いた。
不覚にも、守のやつにきゅんとしてしまった。
女に憑依しているからか、
それとも…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日
美智男の取り巻きだったクラスメイト二人に
パンを買ってこいと言われた守は、
それを拒否した。
守は、
ノーと言える高校生になったのだ。
「なんだとぉ!?」
いじめっ子が怒る。
しかし、守は、強いまなざしで言った。
「---自分のパンぐらい、自分で買えよ!」
そのあまりの迫力に、
いじめっ子、二人は言葉を詰まらせた。
そしてー
「でも、一緒にパンを買いに行くなら、いいよ」
守は微笑んだ。
いじめっ子二人は、しぶしぶうなずいて、
いじめっ子といじめられっ子ではなく、
クラスメイトとして、一緒にパンを買いに行った。
もちろん、自分たちのお金で、だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ただいま」
守は、帰宅すると、妹の部屋に入った。
そしてー
「もう、ボクはパシリにはならない。
今日、はっきりとNoと言ってやった」
守の言葉に、優那は驚く。
今、自分(美智男)は学校にいない。
優那の身体に憑依しているから当然だ。
とは言え、美智男の友人であるあの二人の
パシリを断れるとは思ってもみなかった。
「そ、、そっか」
動揺しながら優那がそう答えると、
守は、力強くうなずいて、部屋に戻って行った。
一人残された優那は呟いた。
「やべぇ…きゅんきゅんする…」
と。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
いじめられっ子に憑依されてしまった妹。
その運命はどうなるのでしょうか?
なんだか違う方向に美智男君は進んでしまいそうですが…笑
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