<憑依>あざ笑う妹②~お兄ちゃん~(完)

いじめられっ子の妹に憑依して、
妹として兄をあざ笑ういじめっ子。

しかし、事態は予測外の方向に
進もうとしていた。
その、結末とは…?

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いじめっ子の美智男は、
優那に憑依した時のことを思い出していた。

「--やめて!わたしから出て行って…!!」
彼女はそう叫んだ。

美智男にとって”人間に憑依する”という経験は
これが初めてだった。

当たり前だ。
なかなか経験するようなことではない。

もちろん、憑依される側の彼女にとっても、
それは、同じことだっただろう。

”憑依された経験のある人間”などいない。

美智男は、優那の肉体や精神を
無理やり押さえつけて支配した。

だんだんと、女の子の身体が
自分のものになっていく感覚。
元々の優那の意識が、強引に
押さえつけられて、身体が自らに
馴染んでくる感覚。

憑依を経験したものでしか言い表せない、
不思議な感覚だった。

無理やり身体を奪うという経験は、
とてもゾクゾクする。

その子の全てが、一瞬にして溶け込んでくるような、
そんな、不思議な感覚。
なんとも言えない感覚だった。

少しずつ、ゆっくり溶け込むかのように。
肉体と意識を少しずつ奪い、
そして、支配する。

支配を完了したときに、
なんとも言えない、ゾクゾクを感じた。
優那の記憶の一部と感情が流れ込んできたのだ、
人の人生が一瞬にして、自分のものになる。

何とも言えない、感覚だった。
美智男が、これまでに味わったことのない、
ある意味、異様な感覚だった。

「-----」
優那は、兄の部屋から聞こえる物音に気付き、
我に返った。

「--っかし、こんなもの穿いて…
 よく落ち着いてられるよな」

スカート姿の優那は呟く。

美智男は、ズボンを穿いていようと思ったが
優那の私服はスカートしかなかったのだ。
だから、しぶしぶスカートを穿いた。

なんだか、足がスースーして
とても頼りない。

カレーライスにジャガイモが入っていない感覚、
とでもいうのだろうか。
何かが足りない感じがする

「あぁぁ~気持ち悪いなぁ」
足を触りながら優那は呟く。

そして、口から出る声にも違和感が拭えない。
こんなに明るくて、可愛い声が自分の口から
出るなんて…。

こんな天使のような声…
ついつい、卑猥な言葉を言わせたくなってしまう。

優那は、顔を赤らめながら鏡を見つめると、
卑猥な言葉を口にしようとした…

しかし…

「---えいっ!」

隣から大声が聞こえて、優那はビクッとした。

そして、兄の部屋を覗くと、
兄がなんと、筋トレをしていたのだ。

「--!?」
優那は表情を歪める。

いじめられてひ弱な守が、
筋トレをしている。

腕立て伏せに腹筋、
そして、パンチの練習まで。

「--僕は、優那のために、
 頼れる兄貴になるんだ!」

一人、熱い表情で呟く守。

「---…ばかじゃねぇの」
優那はそう呟いて、
部屋へと戻った。

優那はため息をつく。
妹に罵倒されれば、
あいつは、心が折れると思っていたが、
逆に何かに火をつけてしまったかのようだ。
妹の前では、良い兄貴で居たいと思う、意地だろうか。

「----」
不満に思いながらも、何故か優那は
ドキドキを止められなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

今日の夜には、両親が帰ってくる。
美智男は優那から夜には抜け出して
自分の身体に戻らなくてはならない。

結局、守のやつの
心をへし折ってやろうと思ったが、
妹に罵倒された守は、変にやる気を出してしまって、
強くなってしまった。

今日も筋トレばかりしている。

「ーーーったく、うぜぇやつだ」
髪の毛をかきむしりながら、
イライラした様子で優那は言う。

「--さて、最後にひともみするか!」
そう言って、優那は自分の胸を嬉しそうに
触ると「ごちそうさま」とつぶやいて、
そのまま優那の身体から離脱した。

「--ちっ!たいしたことできなかったな…」
美智男はそう呟き、霊体となって、
自分の家に戻った。

「----!!」
美智男は、恐ろしいものを目にしたー。

それはーー

予定より少し早く帰宅して、
泣きじゃくる両親の姿だった。

「--な、何で泣いてるんだ?」

両親の目の前には、
動かない美智男の身体。

美智男は、苦笑いする。

「あ~、俺が死んだように見えるわけね」
そう呟いて、自分の身体に
霊体を近づける美智男。

しかしー
美智男は、自分の身体に戻れなかった。

「---!?」
しかも、よく見ると自分の身体が
呼吸をしていない。

「--な、う、、嘘だろ…?」
美智男は唖然とする。
自分の身体から幽体離脱している間に、
自分の身体が死んでしまったとでも言うのだろうか。

いや、
そんなはずはない。

出品者の愛染は、
10日は自分の身体に戻らなくても大丈夫だと言っていたー

「--ザンネンだったね」
背後から、声がして、美智男は振り向く。

そこには、見知らぬ青年が居たー

「--出品者の愛染だ。
 きみに一つ言わなくちゃいけないことがある」

愛染はそう言うと、
ニヤリと笑みを浮かべた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---そんな…そんな…」

優那は、一人、部屋で泣きじゃくっていた。

「くそっ!くそっ!くそっ!」
優那は髪の毛を振り乱しながら
部屋中のものを蹴り飛ばしたり
殴りつけたり、していた。

「--うあああああああああ!
 ああああああああああ!」

優那はただひたすらに
暴れた。
手に痣ができるまで、壁を殴り続けた。
何度も何度も何度も、
壁を殴り続けた。

「--はぁ…はぁ…」
優那はその場に蹲って泣き出してしまう。

「どうして…どうして…」

憑依薬を出品していた男・愛染は言った。
”君はもう、元の身体には戻れないー。
 見ての通り、君の身体は、死んだ” とー。

彼は嘘をついていた。
元の身体に戻れると言っていたのにー、
美智男は騙されてしまった。

美智男の身体は死んだ。

そして、愛染は言った

”きみは、まもなく、
 憑依した子の身体に固定される。
 もう、身体を移動することはできない”

とー。

そして、愛染に文句を言おうとした直後、
優那の身体に引き戻されてしまったー。

「--くそっ…くそっ…」
美智男は、守に嫌がらせをするために
優那に憑依した。
だが、別に優那を乗っ取るつもりはないし、
彼には、女になりたいという願望もない。

「--うあああああああああ!」
その場で泣き叫ぶ優那。

その時だった。
背後から、ふいに、抱きしめられた。

その腕は暖かく、
頼れるものだった。

「--優那…
 どうしたの?」

兄の守だった。

「--悩みがあるなら、ボクが聞くから」

学校でいじめていた時の守とは違う、
頼れる”兄”の姿がそこにはあった。

「--お…」
優那はそう言いかけた。

だが、今の優那には、
守に悪口を言う気にはなれなかった。

なんだろうー
とても、暖かいー
目から涙があふれてくる。

お兄ちゃんの腕がー
暖かい。

どうして、そう思うのかー
優那に憑依したことで、
優那の意識に影響されたのか。

美智男は、気持ちわりぃ、と
一瞬思ったが、
叫ばずにはいられなかった。

「おにいちゃぁあああああああん!」

とー

泣きながら抱き着く妹を、
兄の守は、優しく抱きしめた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日

「よぉ、守!パン買いに行こうぜ!」
美智男の取り巻きだった元いじめっ子たちが、
守に声をかける

「え?あ、うん、行こう!」
守は微笑んだ。

彼らは、今や友達となっていた。

「--しかし、守、お前、最近なんだか立派になったよな」
一人の生徒が言うと、
守がほほ笑んだ。

「妹に情けないって言われたからさ…
 頼れる兄貴になろうって決めたんだ」

守は、そう言いながら微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日も、守は、帰宅して、
真っ先に妹のところに向かった。

いじめっ子、美智男は、守に嫌がらせを
するために、守の妹の優那に憑依した。
けれどー
それは、守を強くする結果になった。

そしてー

「--ただいま、優那!」
守が言うと、優那は振り返って、
嬉しそうに微笑んだ

「おかえり!お兄ちゃん!」

とー。

元々は、ウザかった。
ストレス発散のためにいじめる対象だったー

でも、今は違うー

今は”大切なおにいちゃん”

だー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

いじめっ子が嫌がらせのために憑依しましたが
結局、妹になってしまうお話でした。

お兄ちゃんの強い愛は
ちょっと今後が心配な気もしますが…

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コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    くだらないいじめ目的のために自分の本来の身体を失うのってかなりアホらしい話ですよね。
    しかも自分が今までいじめていた相手の妹そのものになっちゃうなんて、実に倒錯的です。
    こういう本来の目的とかけ離れた結末になるような話は好きですけど。

    ところでこの話、妹じゃなくて姉でもできそうですね。まあ、大きく展開変えない限り差分程度の違いしか出なさそうですけども。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    ありがとうございます~~!

    確かに姉でもできそうですネ…!
    たまには以前書いたお話の差分みたいなものを
    あえて書いてみるのもいいかもしれません★!

  3. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    妹の前では、良い兄貴で居たいと思う、維持だろうかとありますが維持ではなく意地ではないでしょうか?

  4. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます~!

    ご指摘の通り「意地」ですネ~!
    修正しておきました!

    ありがとうございます!!

  5. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    誤字です。
    だが、今の優那には、
    守に悪口を言う着にはなれなかった。
    になってますが、守に悪口を言う気にはなれなかった。が正しいのでは?

  6. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます~!

    ご指摘の通りですネ!
    早速修正しておきました!

    ご報告ありがとうございました!!

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