憑依されて、松崎の思考に染め上げられた
町娘、お春。
松崎と同じく”自分の欲望のためなら容赦しない”女に
なってしまう。
そして、悲劇は起きた・・・
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「ねぇ…小西様…」
着物着崩したお春が、甘い声で囁く。
「な…なんだ?」
小西がドキドキしながら言う。
「わたし…
もっともっと贅沢な暮らしをしたいの…」
お春が無茶を言いながら、小西の顔に手を触れる。
お春は、殿である松崎 孝之進に憑依されていた。
当初、小西はお春を助けようとしていたが、
松崎に憑依されたお春に誘惑されて、簡単に落ちてしまった。
その後、松崎はお春の体に飽きて、次の体を支配するべく、
お春を憑依から解放した。
しかし、既にお春は”松崎色”に染まっていた。
松崎をそのまま体現したのではないかと
思えるほどに、
お春は、横暴で、狡猾で、自分勝手な女に成り果てていた。
優しいお春はもう、居ない。
けれどーー
愛くるしいお春ー
誘惑してくるお春に負けた小西は
そのまま夫として、付き合いを続けていた。
「--ー贅沢と言ってもなぁ…
私の立場ではこれが限界なのだ」
小西はまだ若い。
決して、贅沢が出来るほどの収入はない。
「ーーーだったら、、、
奪えばいいじゃない?」
お春が笑う。
「奪う…?」
小西が首をかしげると、
「小西様が新しく任された村…
あそこの者たちから、財産をむしりとるのよ」
お春が笑みを浮かべながら言う。
かつてのお春であれば、必死に
止めたであろうことを、今のお春は、
平然とやってのける。
「---し、しかし…あの村のものたちには罪は…」
そう言いかけると、お春が立ち上がった。
「小西様、わたしと、村、どっちが大切なの?」
立場を超えて、小西に高圧的に接するお春。
「だ…だが…」
小西が言うと、お春は冷たく、低い声で言った。
「けがわらしい村人など、
私たちのために存在しているようなモノ。
蛆虫どもから、財産を搾り取ったところで
何も問題などないでしょう?」
お春は本気だ。
小西にはまだ良心が残っていた。
「---お春……
もう、やめてくれ…。
優しいお前は、どこに行ったんだ?
なぁ…?」
小西が言う。
小西は”優しいお春”が好きだった。
憑依から解放されたとはいえ、
今のお春は、
”お春の姿をした悪魔”だ。
「元のわたし?
うふふふふふふ♡
おかしなこと言うのね?
わたしはいつだってわたしじゃない。
小西様、小西様がやらないなら
わたしが一人残らず下民どもを
斬り捨てるわ」
そう言うと、不機嫌そうにお春が
刀に手をかける。
「お春!やめてくれ!」
小西はたまらずお春につかみかかった。
「どけ!」
お春が声を荒げて、
小西を振り払った。
「---欲しいモノは力で手に入れる。
邪魔なモノは全て、排除するーー」
お春が小西を見下しながら言う。
「お…お春…」
小西はうなだれた。
今の言葉は、殿である松崎がよく言う言葉だ。
「---わかった」
小西が言う。
自分は、取り返しのつかないことをしてしまった。
お春に何と詫びれば良いのか。
あの時、殿に憑依されたお春の体を見て、
小西は興奮を覚えてしまった。
そして、欲望に負けてお春を受け入れてしまった。
もしもあのとき、自分が助けるために動いていたならばー、
お春はこんな風に”変えられて”しまうこともなかったのかもしれない。
「---私がやる」
小西が刀を手にした。
ならばせめてー。
お春にこれ以上の罪を犯させない。
それが、
自分にできる、小さな償いなのではないかー。
「---うふふ♡
嬉しい!」
お春が、からだを小西に押し付けた。
小西は不覚にもまた、興奮してしまう。
「---わたしのために頑張ってくださいね。
小西様♡」
お春が甘い声で囁いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地獄ー。
そう表現するのが正しいのだと思う。
小西は
屍だらけになった村に立っていた。
村人たちの財産を手に。
「----すまぬ」
小西がつぶやく。
「あら…良い眺めじゃない」
お春が嬉しそうに笑いながら背後から姿を現した。
「----た・・・たすけ・・・」
まだ死んでいなかった老人がお春の足をつかんだ。
お春が、ゴミを見る様な目でそれを見下す。
「----あら」
老人は、優しそうな容姿のお春に
希望を抱いて、声をあげた。
「たすけてくれーーーたのむ…」
その老人を見つめて、お春は手を振り払うと、
老人の頭を踏みつけた。
「---汚らわしい!
わたしに触れるな!」
お春が荒い口調で叫んだ。
「---うぎゃあああ!」
老人が叫ぶ。
「お春!やめろ!」
小西も叫ぶが、お春は老人を見下しながら続けた。
「---小汚い村人風情が。
お前たちの暮らしが今まで豊だったのは誰のおかげだ?
わたしたちのおかげではないのか?」
老人が涙を流して悲鳴を上げている。
「--ーその恩を忘れて、
その薄汚い手でわたしに触れるなんて、
死罪に値するわ!」
お春が叫ぶと、刀を手にして、老人に突き立てた。
「あ・・・っ…あ・・・」
老人が手を伸ばす。
その表情はーーーー
お春の育ての親、一之介によく似ていた。
「--------!!」
お春の目が一瞬、輝きを取り戻す。
松崎に染められたとはいえ、
過去を全て失ったわけではない。
潜在意識の中に、お春の両親が残っていたー。
「----わたし…」
一転して怯えた表情になるお春。
血に染まった手を見て、震えはじめる。
「お春ーー?」
小西がお春に近づく。
「わたし…わたし…
どうして・・・・・・」
涙をポタポタを流し始めるお春。
「---お春!大丈夫か!しっかりし・・・」
「うるさい!!!!触れるな!!!」
お春が乱暴に小西を振りはらった。
「はぁ…はぁ…
わたしは…私は、、、これでいいのよ!
ふふふふ、昔なんか関係ない!
これが私よ!」
お春が強引に迷いを打ち消すと、
老人の亡骸に唾を吐き捨てた。
「---ふふふ、欲しいものは力で手に入れるの!
迷う必要なんてないじゃない!
うふふふふふふふ♡」
小西は唖然として、そんなお春の様子を見つめた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お春は次第にエスカレートしていった。
時折、迷いのような表情を見せることもあったが、
確実にお春は、浸食されている雰囲気だった。
松崎が植え付けた闇に。
城中で気に入らない女中を、
お春は毒殺した。
街中でお春にぶつかった子供を、
お春は見せしめとして、その場でビンタし、
撲殺した。
小西に対する要求もエスカレートしている。
「ねぇ…」
裸のお春が小西の頬を触って呟く。
「---わたしのこと、すき?」
お春がささやく。
優しい笑み。
まるで、町娘だったころのお春のようだ。
だがーーー
小西は震えていた。
怖いのだ。
お春がー。
最近は、何か意にそぐわないことをすれば、
小西にですら容赦なく暴力をふるうようになっていた。
もう、小西でも、手に負えなくなっていた。
「あ、、、、あぁ…」
小西は身を震わせながら返事をした。
お春は、そんな小西を見て微笑む。
「わたし、、、
くだらない町娘で終わるところだった。
小西様には感謝してるわ。
侍の妻になれたんだもの。
あんなカビの生えた食事処なんか・・・」
小西は耳を塞ぎたかった。
お春は、あの食事処を、何よりも愛していたはずだ。
それなのにー。
「--次は、、、城よ」
お春が言った。
「---なに?」
小西が驚く。
「--松崎様を殺して、
この城を奪うの。
既に、わたしがからだを使って、
重鎮のみなさまな説得してあるわ。
あとは、わたしたちが松崎様を殺すだけ」
お春が不気味に笑う。
殿である松崎を殺す?
そんな、馬鹿な…。
「----し・・・しかし」
小西はうろたえる。
松崎孝之進は、お春の体から抜けた後、
現在は、とある盗賊の始末にてこずっていて
まだ次の少女に憑依していない。
「---いいから、やるの。
小西様が、この城の殿さまになるの!」
お春は有無を言わさず、
小西に「やれ」と態度で示した。
「くっ・・・」
「---いい?やるのよ」
お春が冷たい声でーー
”拒否すれば命はない”と言わんばかりの声で呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
松崎 孝之進は、
次の憑依対象に憑依する前に、
最近、家臣を襲うことも出てきた盗賊グループを
始末しようとしていた。
「上手くいかぬものよ…」
松崎が盗賊の潜伏している地図を見ながら呟く。
松崎の傍らには、二人の護衛がついている。
「----松崎様」
女の声だ。
「---うん?何用じゃ?」
松崎が言うと、女は有無を言わさずに入ってきた。
お春だ。
自分がこの前まで憑依していて、
”自分色”に染め上げて解放した、あのお春。
「----お春か…
儂は今、忙しい、用なら小西を通して・・・」
松崎はそこまで言いかけて言葉を止めた。
お春の目を見てーーーー
松崎は思ったーー
”自分が、
欲しいモノを奪うときに、している”目”と
同じ目をしているーーーー” と。
「------!!」
松崎は即座に立ち上がって、刀の方に向かう。
だがーー
松崎の体に痛みが走った。
「----がっ・・・・こ、、、小西…!」
部屋の脇から小西が現れて、
松崎を斬りつけた。
護衛二人は、既にお春に誘惑されているのか
何も言わない。
「----くっ・・・くそっ」
松崎は邪悪な笑みを浮かべるお春の方を見る。
”自分色”に染め上げた…
それは、つまり、
お春も”欲しいモノは力で奪い取る”女になったということだー。
自分がお春なら、やはりこうしただろう。
誤算だったー。
まさか、、、自分で染めた女にーーー。
「----ぐ・・・」
松崎が床に倒れる。
そして、最後に思う。
”自分がもし、お春なら、この後にすることはーーー”
それが、松崎のこの世で考えた最後のコトになった・・。
「お見事です。」
そう言うと、お春は微笑んだ。
そして、冷たい声で呟いた。
「----切腹なさい」
と。
「な…なんだって?どういうことだ!」
小西が叫ぶ。
するとお春は笑った。
「城主になるのはあなたじゃない。
このわたし。
あなたは松崎様を殺して、自らも切腹して、
最後を遂げる、裏切り者。
汚名をかぶって、死ぬのよ」
お春はーーー
もう、小西への愛情すらなくしていた。
「---ふ、、ふざけるな!
お春!!私はお前の為にーー」
小西が悔しそうに叫ぶ。
「---死になさい」
お春が無情な言葉を投げかけた。
「----くそっ…お春!!
わたしは、、、お前のことが…」
小西はその場に涙を流しながら
蹲った。
「----」
お春が冷たい表情で松崎の護衛だった二人に合図をした。
そしてーーー
「があっ!」
小西は護衛の男に刺されて、
”切腹”に見せかけられてーーー
最後を遂げた。
殿である松崎を殺し、
自らも命を絶った”裏切り者”の汚名をかぶって…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お春は、城主となった。
城主になったお春は、暴政を敷いた。
民のことなど関係ない。
全て、愚民どもは、わたしのために存在するー
お春の口癖はそれだった。
やがてーー
お春は、農民が起こした一揆によって、襲撃され、最後を遂げた。
わずか26年の人生だったという…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
現代。
「---財布盗まれたなんて、災難だったね」
とある高校。
生徒会長の沢条 春奈(さわじょう はるな)が言う。
声をかけられた友人は、
「うん…ちょっと悲しいな」とつぶやく。
春奈の友人は、昨日、学校に持ってきていた財布を
盗まれていた。
犯人は恐らく、クラス一の不良生徒。
昨日、先生が問い詰めたところ、暴れだし、停学処分となった。
だが、財布は出てこなかった。
「---わたしも見つかったら、教えるね!」
春奈が優しく言うと、友人は嬉しそうにうなずき、
下校していった…。
・・・一人になった春奈が鞄の中を見て微笑む。
「うふふ・・・
財布は…ここよ。
バカ女!」
春奈は友人が出て行った方を見て、そう吐き捨てた。
お春はーー
一揆の2年前に、子供を出産していた。
その血筋は、、
現代にまで続いているー。
そう、春奈はお春の子孫だった。
そしてーー
春奈の中には、あの時、松崎が刻み付けた”闇”が残っていたー。
表の顔はまじめで優しい生徒会長。
しかし、裏の顔は、自分の欲しいものを手段を選ばず手に入れる
あの時代の松崎と同じ冷徹さを持つ少女。
「---どいつここいつもバカばっかりで、助かるわ…
くふふ・・・」
春奈はそう呟いて、教室を後にした…。
闇は、世代を超えて、受け継がれていた…
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
初の時代劇モノでした!
いかがでしたか?
時代背景などは、ある程度気にしないで書いています。
時代劇メインの小説ならちゃんと考えなくてはいけませんけれど、
この小説は憑依メインなので…!
ご覧いただき、ありがとうございました!

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