<憑依>暗黒城主② ~女の罠~

暴君、松崎に憑依された町娘、お春。

彼女は、自らを拾ってくれた、恩人であるはずの店主に
刃を向けた。

今のお春に、恩など、どうでも良かった。

そして、彼女は堕ちていくー。
どこまでも…。

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食事処に鈍い音が響き渡る。

「ぐはっ…」
店主の一之介が信じられないという表情でお春を見る。

だが、
お春の表情には優しさなど微塵も残されてはいなかった。

浮かび上がっていたのはー、
悪魔のような笑み。

「---お養父さま。。。
 殿に逆らうからこうなるのよ!」

お春が心底見下したような声で言う。

刀を抜くお春。
返り血を浴びても、驚くことなく、
むしろ、今の状況を喜んでいる。

心優しいお春がー
育ての親である一之介を刺した。

集まっていた野次馬たちが騒然としている。

「---いい?
 この男のようになりたくなかったら、
 殿に対して薄汚いマネなやめることね」

お春が、野次馬たちを蔑むような目で見渡して言った。

「---お・・・はる!」
一之介が這いずってお春の足をつかんだ。

お春が足元の一之介を
まるでゴミでも見るかのような目で見下した。

「あら?…お養父様。
 意外としぶといですね?」

冷たい声で言うお春。
その声には、慈悲のかけらもない。

「-----お主…
 お春ではないな…!」

お春が憑依されていることを感じ取ったのか、否か。

それは分からない。

けれど、一之介は違和感を感じて、そう言った。

「---くふふ・・・♡
 お養父様?どこからどうみても、
 お春ですよ。

 ホラ!わたしのこと、お忘れですか?うふふふふ♡」

挑発するように色っぽいポーズをとるお春。
そしてーーー

ズブッ と鈍い音がした。

お春が一之介に”トドメ”を刺した。

刀を振り、血を払うと
そのままお春は、店から出て行こうとした。

「---お春おねえちゃん!」
近所の、お春に懐いていていた少女が悲痛な叫びをあげる。

「-----」
お春はその少女を、薄ら笑みを浮かべながら見つめた。

「--どうして!お姉ちゃん!どうして!」
まだ小学生ぐらいの少女が叫ぶ。

「---どきなさい」
お春が冷たく言った。

「---うっ…うぅ…」
少女は涙を流して、その場で泣き崩れた。

「---逆らえば死よ!
 覚えておきなさい!あはははははははっ♡」

お春は、育ての親をその手にかけて、
笑いながら城へと戻って行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

家臣・小西が怒りの形相で廊下を歩いていた。

お春が、
町で自らの育ての親を斬り捨てた。

その事実を聞いた小西は、
お春に殿である松崎孝之進が憑依していることを
知りながら、死をも覚悟してお春の元へと向かう。

「---どこへいくつもりだ?」
腹心の本多が呼びとめた。

「---本多殿」
小西が振り向くと、本多は笑みを浮かべた。

「やめておけ。
 殿がお使いになられた薬は、
 この儂が作り出したものだ。

 万一にも、お春とかいう町娘を助け出す方法はない」

腹心の本多は言った。
本多は、異国から伝わる秘術の研究をしていた。
その過程で、憑依薬に辿り着いたのだろう。

「----それでも、私は行かねばならぬ」
小西は本多を無視して、廊下を歩き始めた。

本多はその背中を見つめながら言った。

「--死に急ぐとは…愚かな」  と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「…うぅ…私は…なんてことを…
 お養父さま…ごめんなさい・・・ごめんなさい…」

お春が、城内で悲痛な叫びをあげていた。

自分が、この手で、一之介を殺めてしまった。

「---わたし…わたしは…」
涙が止まらない。

自分のしたことの、重大さをお春は
噛みしめていた。

ーー憑依している松崎は、一時的に
お春の意識を解放した。

”自分が育ての親を殺めたという絶望”を
味あわせるために。。

”良いではないか”

脳の中からお春に直接 声をかけた

「ひっ…
 や、、、やめてください・・・!
 もう、、、これ以上わたしを…!」

”お前は高貴な女だ。
 下々のものなど気にする必要はない”

”お前は、優れた存在
 愚民のことを気にするな”

”愚民は搾取される存在”

”お前は、美しい”

”お前は…”

松崎が、脳内で呪いのように呟いた。

「やっ…やめてぇえええええ!」
お春が頭を抱えて、その場に蹲る。

「---お春!」
部屋に家臣の小西が入ってきた。

その瞬間、お春の体がビクンとして、
笑みを浮かべた。

松崎が再びお春の意識を乗っ取ったのだ。

「---あら?小西様」
お春本来の口調で言うお春。

「---殿!どうしてですか!
 その娘の体で、育ての親を殺めさせるなど、
 非道すぎます!」

小西が怒りの表情でお春に迫る。

「ふふ・・・私が殺したいから
 殺したのですよ 小西様♡」

甘い声で小西を誘惑するお春。

その声に、小西はドキッとしてしまう。

だが、すぐに小西は首を振った。
お春は殿に憑依されている。
そのことをすぐに、今一度、自分に言い聞かせて、
自分の”欲望”を自制した。

「殿!此度の件、私には見過ごすことはできませぬ!
 殿!今すぐその娘を解放してください…!」

小西が頭を下げる。

「----ふふふ」
お春は頭を下げた小西を見下している。

「---もしもできぬと言うのであれば…」
小西が刀に手をかけた。

お春を殿ごと斬り捨てて、
自分も切腹する。

小西はその覚悟だった。

「----小西様…」
お春が着物をそのまま下に降ろした。

ふさっと音がして、お春の綺麗な体があらわになる。

「---な、、何を」
小西の刀にかけた手が緩む。

お春は笑みを浮かべながら近づき、
小西の手をつかみ、刀から手を遠ざけた。

「小西様…
 お春は、小西様の妻になりとうございます♡」

体を小西に密着させながらお春が甘い声で言う。

「---と、、殿…お、、、おやめください」
小西がうろたえる。

お春はすかさず、小西の頬に手を触れて、
そのまま小西の唇を奪った。

町娘が唇を奪う。
この上ない無礼。

しかし、小西はもう何も考えられなかった。

「---」
小西が表情をゆがめる。

お春が体を少し離して、
上目遣いで言う。

「嫌で…ございますか?」

と。

「---……」
小西は唇をかみしめる。

「--小西様は、お春のことが、嫌いなのですか…」
お春が目に涙を浮かべる。

分っているー。
全部、殿の演技だ。

でも、、、それでも・・・!!!

「----お春!!!」
小西はお春をそのまま押し倒した。

お春の甘い声、誘惑、美しい体。

もう小西には我慢できなかった。

「んあっ・・♡ もぅ!小西様ったら♡」
お春がさらに誘惑するような甘い声を出した。

小西の自制心は完全に崩壊したー。
彼は、欲望に堕ちてしまった。

「あぁああああっ♡ 小西様っ!小西さまぁっ♡」

部屋にお春の声が響き渡った・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1週間後。

お春と小西は結ばれた。

小西は、もう、街の人たちのことなど
どうでも良くなってしまっていた。

「----」
だが、お春の中にいる松崎は”次”を見据えていた。

お春がいた町とは、別の小さな集落に、お春よりも好みの
少女を見つけたのだ。

お春より幼い少女のその体を奪おうとしていた。

だからーお春はもう…。

松崎は、お春の思考を”自分色”に染めた。
そしてーーー

「---小西様、お春のお願い、聞いてくださいますか?」
お春が体を密着させながら言う。

「---あ、あぁ…お前の為なら、私は何でもする」

「---本多様を斬り捨てて欲しいの」
お春が言う。

本多ー。
殿である松崎の腹心で、憑依薬を開発した男。

「---な、、、し、しかしそれは」
小西が言うと、
お春が突然口調を変えた。

「---小西…
 ”邪魔者”は全て葬るのが儂のやり方だ。

 どうだ?
 もし本多を斬り捨てれば、
 儂はお春の体を解放しよう。

 なに、案ずるな。
 お春の思考と記憶はお前に都合の良いように、
 改変しておく」

お春の言葉に小西が悩む。

そしてーー

「小西様、おねがいしますね♡」
と、お春は囁いた。

憑依薬の製法は、本多から聞いている。
なれば、もう本多は不要だ。
憑依薬の製法を知る人間は、少ない方がいい。

”邪魔”になったものは腹心であっても
斬り捨てる。

それが、松崎のやり方だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜。

「---んっ?」
腹心の本多が、物音を察知する。

「---誰だ?」
本多が叫ぶと、
草陰から小西が姿を現した。

「なんだ、お主か」
本多が刀から手を離して笑みを浮かべる。

「・・・・・」
小西は何も答えない。

その様子を見て、本多は笑う。

「しかし驚いたぞ。
 お主があの町娘と結ばれるとはな。
 殿も一体何を考えている事やら」

本多の言葉を無視して小西は
本多に近づいた。

「本多様・・・」
小西が言うと、本多は表情を変えた。

本多とて、歴戦の侍。
小西から放たれる殺気に気付いたのだ。

「---貴様…まさーーーーーー」

そう言いかけて、刀に手をかけたが
既に手遅れだった。

小西の刀が空気を裂き、
本多は驚きの表情を浮かべたまま、血を吹き出し、
絶命した。

「----うふふ♡ お見事でございます」
お春が嬉しそうに、背後から姿を現した。

「---これで、お春は一生、あなたのものでございます」

そう言うと、お春はふっと、力が抜けたように倒れた。

「---お春!」
お春にかけより、抱きかかえる小西。

「うっ・・・・・」
憑依から解放されたお春が目を覚ました。

「---お春、しっかりしろ!」
小西が言うと、
お春は微笑んだ。

「---うふふ・・・♡
 わたしなら大丈夫です。

 小西様…、
 これからはずっと一緒ですよ♡」

お春が甘い声で囁く。

お春の思考は、すっかり松崎と同じような
思考になってしまっていた。

「お養父様のことはざんね・・・」
小西が、食事処の店主のことを言おうとするとお春が笑った。

「愚民が、ひとり消えただけですから」

と。

そして、その夜、
お春と小西は再び体を激しく交えた。

二人の欲望が、満たされるまでーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「----くくく…なかなかのものであった」
松崎 孝之進は不気味に笑う。

お春の体はなかなかのものだった。

彼女の思考は既に染め上げた。
あの女は、松崎と小西に忠実なしもべだ。

そして、小西も、お春を通じて、
思いのままに指示に従わせられる。

「わしは、、、次の女を手に入れる」

松崎は邪悪な笑みを浮かべた。

ーーこれから起こる、悲劇のことは知る由もなかったーーー

③へ続く

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コメント

染められたお春。
すっかり女の罠に堕ちた小西。
次の体を狙う松崎。

色々歪んでますねー

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