暴君、松崎に憑依された町娘、お春。
彼女は、自らを拾ってくれた、恩人であるはずの店主に
刃を向けた。
今のお春に、恩など、どうでも良かった。
そして、彼女は堕ちていくー。
どこまでも…。
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食事処に鈍い音が響き渡る。
「ぐはっ…」
店主の一之介が信じられないという表情でお春を見る。
だが、
お春の表情には優しさなど微塵も残されてはいなかった。
浮かび上がっていたのはー、
悪魔のような笑み。
「---お養父さま。。。
殿に逆らうからこうなるのよ!」
お春が心底見下したような声で言う。
刀を抜くお春。
返り血を浴びても、驚くことなく、
むしろ、今の状況を喜んでいる。
心優しいお春がー
育ての親である一之介を刺した。
集まっていた野次馬たちが騒然としている。
「---いい?
この男のようになりたくなかったら、
殿に対して薄汚いマネなやめることね」
お春が、野次馬たちを蔑むような目で見渡して言った。
「---お・・・はる!」
一之介が這いずってお春の足をつかんだ。
お春が足元の一之介を
まるでゴミでも見るかのような目で見下した。
「あら?…お養父様。
意外としぶといですね?」
冷たい声で言うお春。
その声には、慈悲のかけらもない。
「-----お主…
お春ではないな…!」
お春が憑依されていることを感じ取ったのか、否か。
それは分からない。
けれど、一之介は違和感を感じて、そう言った。
「---くふふ・・・♡
お養父様?どこからどうみても、
お春ですよ。
ホラ!わたしのこと、お忘れですか?うふふふふ♡」
挑発するように色っぽいポーズをとるお春。
そしてーーー
ズブッ と鈍い音がした。
お春が一之介に”トドメ”を刺した。
刀を振り、血を払うと
そのままお春は、店から出て行こうとした。
「---お春おねえちゃん!」
近所の、お春に懐いていていた少女が悲痛な叫びをあげる。
「-----」
お春はその少女を、薄ら笑みを浮かべながら見つめた。
「--どうして!お姉ちゃん!どうして!」
まだ小学生ぐらいの少女が叫ぶ。
「---どきなさい」
お春が冷たく言った。
「---うっ…うぅ…」
少女は涙を流して、その場で泣き崩れた。
「---逆らえば死よ!
覚えておきなさい!あはははははははっ♡」
お春は、育ての親をその手にかけて、
笑いながら城へと戻って行った。
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家臣・小西が怒りの形相で廊下を歩いていた。
お春が、
町で自らの育ての親を斬り捨てた。
その事実を聞いた小西は、
お春に殿である松崎孝之進が憑依していることを
知りながら、死をも覚悟してお春の元へと向かう。
「---どこへいくつもりだ?」
腹心の本多が呼びとめた。
「---本多殿」
小西が振り向くと、本多は笑みを浮かべた。
「やめておけ。
殿がお使いになられた薬は、
この儂が作り出したものだ。
万一にも、お春とかいう町娘を助け出す方法はない」
腹心の本多は言った。
本多は、異国から伝わる秘術の研究をしていた。
その過程で、憑依薬に辿り着いたのだろう。
「----それでも、私は行かねばならぬ」
小西は本多を無視して、廊下を歩き始めた。
本多はその背中を見つめながら言った。
「--死に急ぐとは…愚かな」 と。
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「…うぅ…私は…なんてことを…
お養父さま…ごめんなさい・・・ごめんなさい…」
お春が、城内で悲痛な叫びをあげていた。
自分が、この手で、一之介を殺めてしまった。
「---わたし…わたしは…」
涙が止まらない。
自分のしたことの、重大さをお春は
噛みしめていた。
ーー憑依している松崎は、一時的に
お春の意識を解放した。
”自分が育ての親を殺めたという絶望”を
味あわせるために。。
”良いではないか”
脳の中からお春に直接 声をかけた
「ひっ…
や、、、やめてください・・・!
もう、、、これ以上わたしを…!」
”お前は高貴な女だ。
下々のものなど気にする必要はない”
”お前は、優れた存在
愚民のことを気にするな”
”愚民は搾取される存在”
”お前は、美しい”
”お前は…”
松崎が、脳内で呪いのように呟いた。
「やっ…やめてぇえええええ!」
お春が頭を抱えて、その場に蹲る。
「---お春!」
部屋に家臣の小西が入ってきた。
その瞬間、お春の体がビクンとして、
笑みを浮かべた。
松崎が再びお春の意識を乗っ取ったのだ。
「---あら?小西様」
お春本来の口調で言うお春。
「---殿!どうしてですか!
その娘の体で、育ての親を殺めさせるなど、
非道すぎます!」
小西が怒りの表情でお春に迫る。
「ふふ・・・私が殺したいから
殺したのですよ 小西様♡」
甘い声で小西を誘惑するお春。
その声に、小西はドキッとしてしまう。
だが、すぐに小西は首を振った。
お春は殿に憑依されている。
そのことをすぐに、今一度、自分に言い聞かせて、
自分の”欲望”を自制した。
「殿!此度の件、私には見過ごすことはできませぬ!
殿!今すぐその娘を解放してください…!」
小西が頭を下げる。
「----ふふふ」
お春は頭を下げた小西を見下している。
「---もしもできぬと言うのであれば…」
小西が刀に手をかけた。
お春を殿ごと斬り捨てて、
自分も切腹する。
小西はその覚悟だった。
「----小西様…」
お春が着物をそのまま下に降ろした。
ふさっと音がして、お春の綺麗な体があらわになる。
「---な、、何を」
小西の刀にかけた手が緩む。
お春は笑みを浮かべながら近づき、
小西の手をつかみ、刀から手を遠ざけた。
「小西様…
お春は、小西様の妻になりとうございます♡」
体を小西に密着させながらお春が甘い声で言う。
「---と、、殿…お、、、おやめください」
小西がうろたえる。
お春はすかさず、小西の頬に手を触れて、
そのまま小西の唇を奪った。
町娘が唇を奪う。
この上ない無礼。
しかし、小西はもう何も考えられなかった。
「---」
小西が表情をゆがめる。
お春が体を少し離して、
上目遣いで言う。
「嫌で…ございますか?」
と。
「---……」
小西は唇をかみしめる。
「--小西様は、お春のことが、嫌いなのですか…」
お春が目に涙を浮かべる。
分っているー。
全部、殿の演技だ。
でも、、、それでも・・・!!!
「----お春!!!」
小西はお春をそのまま押し倒した。
お春の甘い声、誘惑、美しい体。
もう小西には我慢できなかった。
「んあっ・・♡ もぅ!小西様ったら♡」
お春がさらに誘惑するような甘い声を出した。
小西の自制心は完全に崩壊したー。
彼は、欲望に堕ちてしまった。
「あぁああああっ♡ 小西様っ!小西さまぁっ♡」
部屋にお春の声が響き渡った・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間後。
お春と小西は結ばれた。
小西は、もう、街の人たちのことなど
どうでも良くなってしまっていた。
「----」
だが、お春の中にいる松崎は”次”を見据えていた。
お春がいた町とは、別の小さな集落に、お春よりも好みの
少女を見つけたのだ。
お春より幼い少女のその体を奪おうとしていた。
だからーお春はもう…。
松崎は、お春の思考を”自分色”に染めた。
そしてーーー
「---小西様、お春のお願い、聞いてくださいますか?」
お春が体を密着させながら言う。
「---あ、あぁ…お前の為なら、私は何でもする」
「---本多様を斬り捨てて欲しいの」
お春が言う。
本多ー。
殿である松崎の腹心で、憑依薬を開発した男。
「---な、、、し、しかしそれは」
小西が言うと、
お春が突然口調を変えた。
「---小西…
”邪魔者”は全て葬るのが儂のやり方だ。
どうだ?
もし本多を斬り捨てれば、
儂はお春の体を解放しよう。
なに、案ずるな。
お春の思考と記憶はお前に都合の良いように、
改変しておく」
お春の言葉に小西が悩む。
そしてーー
「小西様、おねがいしますね♡」
と、お春は囁いた。
憑依薬の製法は、本多から聞いている。
なれば、もう本多は不要だ。
憑依薬の製法を知る人間は、少ない方がいい。
”邪魔”になったものは腹心であっても
斬り捨てる。
それが、松崎のやり方だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜。
「---んっ?」
腹心の本多が、物音を察知する。
「---誰だ?」
本多が叫ぶと、
草陰から小西が姿を現した。
「なんだ、お主か」
本多が刀から手を離して笑みを浮かべる。
「・・・・・」
小西は何も答えない。
その様子を見て、本多は笑う。
「しかし驚いたぞ。
お主があの町娘と結ばれるとはな。
殿も一体何を考えている事やら」
本多の言葉を無視して小西は
本多に近づいた。
「本多様・・・」
小西が言うと、本多は表情を変えた。
本多とて、歴戦の侍。
小西から放たれる殺気に気付いたのだ。
「---貴様…まさーーーーーー」
そう言いかけて、刀に手をかけたが
既に手遅れだった。
小西の刀が空気を裂き、
本多は驚きの表情を浮かべたまま、血を吹き出し、
絶命した。
「----うふふ♡ お見事でございます」
お春が嬉しそうに、背後から姿を現した。
「---これで、お春は一生、あなたのものでございます」
そう言うと、お春はふっと、力が抜けたように倒れた。
「---お春!」
お春にかけより、抱きかかえる小西。
「うっ・・・・・」
憑依から解放されたお春が目を覚ました。
「---お春、しっかりしろ!」
小西が言うと、
お春は微笑んだ。
「---うふふ・・・♡
わたしなら大丈夫です。
小西様…、
これからはずっと一緒ですよ♡」
お春が甘い声で囁く。
お春の思考は、すっかり松崎と同じような
思考になってしまっていた。
「お養父様のことはざんね・・・」
小西が、食事処の店主のことを言おうとするとお春が笑った。
「愚民が、ひとり消えただけですから」
と。
そして、その夜、
お春と小西は再び体を激しく交えた。
二人の欲望が、満たされるまでーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----くくく…なかなかのものであった」
松崎 孝之進は不気味に笑う。
お春の体はなかなかのものだった。
彼女の思考は既に染め上げた。
あの女は、松崎と小西に忠実なしもべだ。
そして、小西も、お春を通じて、
思いのままに指示に従わせられる。
「わしは、、、次の女を手に入れる」
松崎は邪悪な笑みを浮かべた。
ーーこれから起こる、悲劇のことは知る由もなかったーーー
③へ続く
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コメント
染められたお春。
すっかり女の罠に堕ちた小西。
次の体を狙う松崎。
色々歪んでますねー
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