とある企業の女社長は、
経営に苦しんでいたー。
しかし、優しい性格の彼女はどうしても
”コストカット”
つまりは、人件費の削減に踏み切れずにいたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー……」
若くして起業し、それなりの成長を遂げて来た企業の女社長ー、
三島 凛香(みしま りんか)は、困惑の表情を浮かべていたー。
「ーー社長ー。
やはり、ここは”人員整理”をするしかないかと」
専務を務める塩野 龍(しおの りゅう)が、そう言葉を口にするー。
凛香と龍は、同じ大学の出身ー。
凛香が起業すると聞き、凛香の能力を高く買っていた彼は、
”僕も仲間に入れてくれ”と、そう嘆願し、凛香と共に会社を大きくしてきたー。
彼は、どんなに経営が上手く行っても、
ひたすらに会社のことのみを第1に考え、
自分自身は”僕はトップに立つ器ではない”として、
社長を蹴落として自分が社長になろうという、そんな野心を見せることもなく、
ひたすら尽くして来たー。
ただーー…彼が尽くしているのは
あくまでも”会社”であり、”凛香”ではなかったー。
「ーーでも、みんなわたしについてきてくれた人たちだし、
その人たちの期待を裏切ることはできないわー」
申し訳なさそうに呟く凛香ー。
「甘いですねー。
徹底的なコストカットをしなければ、会社は倒産しー、
全ての社員は路頭に迷う。
もちろん、僕もー。そして社長も」
龍はそれだけ言うと、眼鏡をかけ直しながら、
「ーー50人を切り、50人を救うかー。
それとも、誰も切らずに全員仲良く沈むかー」
と、呟くと、
「そんな選択を迫られているところまで、僕たちは来ている」と、
そう言葉を続けたー
「ー分かってるー。それは分かってるわー…けどー」
情を大事にする凛香と、
冷徹に会社の利益を追求する龍ー。
二人の意見は一致しなかったー。
龍は”このままでは我が社は滅びる”と危機感を抱きー、
”ある人物”を呼び寄せることを決めたー。
それはー
”コストカットの魔人”の異名を持つ、
経営コンサルタント、
Mr・カットを名乗る男の招集だー。
彼がアドバイスをした会社は、
徹底的なコストカットに成功し、
経営を立て直している企業ばかりー。
名前は胡散臭いものの、確かな実績がそこにはありー、
そして、今までMrカットがコンサルを手掛けた会社は、
別に経営権を奪われたりしているわけでもなく、
社長もそのまま存続している会社がほとんどだー。
「カットさんを呼ぼう」
龍はそう言葉を口にすると、
”行動は早い方がいい”と、そう考えて
その日のうちに、コストカットの達人でもある
経営コンサルタント”Mr・カット”に連絡を取るのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー」
数日後ー
Mrカットが会社にやってくると、
戸惑う凛香から、会社の経営や収益に関する資料を見せてもらい、
それに目を通していたー。
「ーーーね、ねぇ、大丈夫なのー?」
凛香が小声で言うと、
「Mrカットにコンサルを依頼した会社は軒並み業績が改善していますから、
問題ないでしょう」
と、龍はそう言葉を口にするー。
同じ大学の出身ではあるものの、
龍の方が年齢が1歳年下であることもあって、
少なくとも人前では、丁寧な口調は崩さないー。
「ーーー」
やがて、凛香と龍が見つめる中、
しばらく無言で書類に目を通していたMrカットは鼻で笑ったー。
「ーーー…無駄。無駄、無駄、無駄、無駄、無駄ー。
何ですかこれは?」
とー。
「ーー!」
凛香が表情を曇らせると、
「これではこの会社はつぶれますねー
余計なコストがかかり過ぎているー」と、
Mrカットはそう言葉を口にするー。
「ーー特にそう、人件費ー。
この会社には不要な人件費が多すぎるー。
次にー、取引先との縁を大事にしているのでしょうが、
余計な取引が多すぎるー。
これらの費用を早急に削り、コストカットすべきです」
Mrカットの言葉に、専務の龍は「僕もそう思います」と、
そう返すと、
Mrカットは続けたー。
「ーー今すぐ、余計な人員の整理を始めましょう」
とー。
「ーそ、それはー…
わ、わたしはついてきてくれたみんなをーー」
凛香は、”人件費の削減はしたくない”とそう言い放つー。
が、それを聞いたMrカットは笑うと、
「社長、会社の無駄なコストの多くは”情”で出来ています」と、
そう言葉を口にするー。
「冷徹にならなければ、この会社は沈むー」
Mrカットはそう言うと、専務の龍のほうを見て
「二人きりで少しだけお話させてもらえませんか?」と、
そう言葉を口にするー。
龍は一瞬「僕もー」と、言いかけたものの、
社長の凛香のほうを見て、凛香が頷いたのを見て、
龍はその言葉を飲み込むと、
「ー分かりました」と、そう言葉を口にして、
その部屋を後にしたー。
社長の凛香とMrカットが二人きりになるー。
すると、Mrカットは言ったー。
「どうあっても、人件費の削減はしたくない、と、
そう仰るわけですか?」
とー。
凛香は戸惑いながらも「はい」と、答えると
Mrカットは「ならば仕方ありませんねー」と、そう言葉を口にすると、
突然、口で”変な音”を出し始めたー。
人間とは思えないようなー、不気味な”声”
いや、音ー。
「ーーー!?」
凛香が驚いているとMrカットは言ったー。
「ーこれは私が長年の修行の上に習得した、
”人の思考を塗りつぶす”特殊な”音”ですー。」
Mrカットはそう言うと、
人の脳に影響を与え、その人間の人格に影響を与える音波を
口から発し始めるー。
「ーーーーぅ…や、やめー」
凛香は頭を抑えるー。
「ー無駄ですよー。
この会社のコストは”あなたの情”が原因だー。
情を捨て、無駄なコストをひたすらカットするのですー。
ひたすらに、ねー」
Mrカットはそう言葉を口にすると、頭を抑える凛香を見つめながら
口で”人を操る”力を持つ音を再び発し始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その翌日から、
凛香は徹底的なコスト削減に乗り出したー。
「ーーあなたとの契約は更新しませんー」
”使えない”契約社員に対して、そう言葉を口にするー。
「ーあなたは、退職してもらおうかしらー」
凛香は、企業時からの仲間も
”コスト”を計算して、不要だと判断した人間は切り捨て始めたー。
「ー社長ー。ようやく決断してくれたようですねー。
”Mrカット”を呼んで本当によかったー」
専務の龍がそう言葉を口にすると、
「えぇ、そうねー。今までのわたしは甘かったわー。
ーーあの人と出会えて、目が覚めた気分ー」と、
凛香はそう言葉を口にすると、
「そうだー。この会社との取引は切っておいて」と、
龍に書類を手渡すー。
龍は少しだけ表情を歪めたものの、
「この会社ー、起業したころからお世話になっていたところでは?」と、
そう言葉を口にするー。
が、凛香は「それがどうしたの?無駄は削減しないと」と、
そう言葉を口にするー。
龍は少しだけゾッとしながらも、
Mrカットがよほど何かを凛香に言ったんだろうなー、と、
そう思いながら、それ以上は凛香に何も言わず、
「分かりました」と、頭を下げて指示の通りの処理を終えるー。
取引先の会社は、凛香に泣きついていたものの、
凛香は「あなたたちは、無駄なのよー」と、冷たく言い放って、
容赦なく長年世話になっていた取引先の会社に見切りをつけたー。
”豹変”とも言うべき変貌を遂げた凛香は、
容赦なくコストをカットしていき、
危険水域にあった会社の経営はあっという間に
立て直されていくー。
「ーーあなたのおかげですー。
ありがとうございますー」
専務の龍は、感謝の言葉をMrカットに対して口にすると、
Mrカットは「いえー。私はただ、アドバイスをして
それに見合う報酬を頂いたまでです」と、
凛香の会社の経営改善を示すデータを見つめると、
満足そうに笑うー。
「ーーー社長の人とのつながりを大事にするところは
確かに魅力ではあったー
でも、それで会社がつぶれてしまうのならー、
と、僕も思っていたところでしたからー、
あなたが社長の背中を押してくれて助かりました」
龍はそう言葉を口にすると、
Mrカットは少しだけ笑うー。
”術をかけた”などとは、他の人間に言うことはできないー。
「ーーでは、私はこれでー。」
Mrカットは、残っていた事務上の処理を終えると、立ち上がるー。
「ー他にも、山ほどコンサルの依頼がありましてねー。
このあとも、次の依頼主と会うことになってますー」
Mrカットは少しだけ笑いながらそういうと、
龍は「忙しいんですね」と、そう言葉を口にしながら、
「ー本当に、ありがとうございました」
と、感謝の言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーそ、そんなー…」
起業時から一緒にやってきた大学の友人の一人にも
解雇を突き付けた凛香ー。
「ーーあなたは会社にとって、余計なコスト」
凛香はそう言うと、自主的に退職するように、
その相手に容赦なく言葉を投げかけるー。
「ーーー」
そんな様子を見つめながら、専務の龍は
「ーー社長の判断だー残念だけど、従ってもらうしかない」と、
そう言葉を口にしながら、内心で笑みを浮かべるー。
「ーーでも、どうしてー」
凛香の友達でもある、起業時からのメンバーの一人の彼女は
目に涙を浮かべながら言うー。
「ーあなたは友達だけど、でも、会社には必要ない」
凛香は冷たい口調で言うー。
今の凛香にもはや情などないー。
会社の”コストカット”のことしか考えていないー。
”確かに、彼女は”友達”としての面が強すぎて、経営上は足枷になっていたからなー”
龍は、少しだけ彼女に同情しながらも、
”ついに切る決断をしてくれた”と、社長である凛香の判断を支持していたー。
結局、その創業メンバーの一人も解雇され、
凛香はさらにコストカットを進めたー。
もちろん、社内からは反発もあったものの、凛香は強引な手でそれを
鎮圧して、外部からスタッフを雇うなどして”邪魔者”は排除していったー。
そしてー
「ーーー社長ー。話とは?」
専務の龍が、社長室にやってくると、
凛香は「塩野くんー」と、そう言葉を口にすると、
机の上に1枚の書類を置いて、それを差し出したー。
「ーーーー!?!?!?」
龍は、その紙を見て、驚きの表情を浮かべる。
凛香が机の上に置いたのは”退職願”と書かれた紙だったからだー。
「ーーえっ…?」
龍が”信じられない”というような表情を浮かべながら
凛香のほうを見つめると、
凛香は「あなたも無駄なコストだから。それ、書いて」と、
冷たい口調で言葉を口にしたー。
「ーーなっ…えっ…????
い、いやー、えっー、ど、どうしてですか!?社長!?」
龍はそう叫ぶー。
ただ、専務の立場に甘んじて来たわけではないー。
仕事も、かなりの量をこなしていて、
決してサボったりはしていないー。
がー、Mrカットによって術をかけられ、豹変した凛香は
それでも”龍はコスト”だと判断したようだー。
「ーあなたは必要ない。書きなさい」
凛香が、強い口調で言うー。
そんな凛香を見て、龍は
「ーー”先輩”ーいったい、どうしたんですかー?」と、
社長と専務の間柄になる前の呼び方でそう言葉を口にするー。
しかしー、凛香は言ったー。
「ー会社のために不要なコストは、容赦なく切り捨てるー」
とー。
その目には、狂気が宿っているように見えたー
「ーーー先輩ー……なぜー…」
龍は呆然としながら、退職願を書くことを拒もうとしていると、
凛香は「いいから書きなさい!」と、机を叩いて声を荒げたー。
「~~~~~~~」
龍は、呆然としながら、それを書いてしまったー。
そして、長年一緒にやってきた会社からあっけなく追放されてしまった龍ー。
会社のためを思い、経営コンサルタントのMrカットを呼び寄せた龍はー、
その結果、自分自身も凛香に”カット”されることになってしまったー。
その数年後ー、
凛香の会社は、急成長を遂げていたものの、
強引すぎるコストカットで恨みを買ったのだろうかー。
凛香が乗る車が爆破されて、凛香も帰らぬ人になってしまったのだったー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
1話完結のMCモノでした~!★
怪しい人を呼び寄せちゃったことで、
みんな不幸になってしまいましたネ~…!
お読み下さり、ありがとうございました~~!!
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