<憑依>夏休みのおかしな思い出③~夏のおわり~(完)

夏休みの間だけ、”親友の彼女”として
振る舞うことになってしまった彼ー。

彼に待ち受けている運命はー…?

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帰宅した詩織は、青ざめていたー。

「ーーま、まさかアイツが彼女を作るなんてー…」
詩織に憑依している哲也は、
普段から”生涯独身宣言”をしていて、
”恋愛はコスパが悪い”などと豪語していた親友・隆介は
詩織の身体で告白しても、ほぼ100%振られる、とそう思っていたー。

そうなれば、隆介の父親・宗助との約束通り、
”そこで終わり”のはずだったー。

がーー

隆介には”告白”を受け入れられてしまったー。
これで、約束通り、夏休みの終盤まで
詩織として過ごすことになってしまったー。

”ーーそうかそうかー。隆介の彼女になれたんだねー。
 本当に、ありがとうー。”

隆介の父・宗助に電話で報告をすると、
「ーま、まさか告白してOKを貰うなんて思いませんでしたよー」と、
詩織の身体で、哲也はそう言葉を口にするー。

”ーはははーいやぁ、でも隆介のこと見てるとさー
 口ではああ言ってるけど、きっかけがないだけだと思ったからー
 それで、松島くんにお願いしたんだー。

 うちの研究のためにもなるしー、
 それにー…

 松島くんも、何だかんだで楽しんでるだろ?”

宗助の言葉に、詩織は「ま…ま…まぁ…楽しいことはあるにはありますけどー」と、
詩織の姿を鏡で見つめるー。

隆介と会う時以外は、自由時間ー。
詩織に憑依してから半月近くー。
色々と楽しい経験をしたのは確かだー。

女の身体で過ごすことで、色々な違いを味わえたし、
ドキドキもしたー。

”こんなに可愛い声”で、何でも喋ることができるのも
楽しいし、ゾクゾクするー。

最近は、おしゃれをするのもちょっぴり楽しくなってきたし、
女の身体で、ひとり、Hなことをするのも、
男の身体の時とは全然違う感覚で、新鮮だしー、
何よりすごいー。

哲也自身、”男”としての快感も当然知っているが故に、
とにかく”すごい”の一言だー。

”女の人”は、それが普通だから
そういう風には思わないだろうけれどー、
男としての快感が、普段の日常である哲也からすれば、
”こんな風に感じるのか”と、驚きを抱かずにはいられなかったー。

「んーー…?」
隆介の父・宗助と電話をしながら詩織はふと思うー。

「ー俺が隆介の彼女になったってことはーー…?」

そう思いつつ、
ついつい、”隆介と自分がHなことをする光景”を
頭の中に浮かべてしまうー

「オエッー」
詩織は思わずそんな言葉を口にして、
スマホを落としてしまうー。

流石に、それは想像できない。
いくら自分が”藤咲 詩織”ー
生物学的にも”女性”の身体に憑依しているとはいえー、
それは流石にー

”ど、どうかしたかなー?大丈夫?”
隆介の父・宗助に心配そうにそう聞かれた詩織は
「あははー大丈夫ー。大丈夫ですよー」と、慌てて誤魔化したー。

「ーあ、そういえば明日は一度大学に用事があるので
 いったんこの身体から出たいのですけどー」
詩織がそう言うと、宗助は”あぁ、じゃあうちの施設に来てくれれば、
その身体から一度、松島くんを取り出すよ”と、そう言葉を口にしたー。

「分かりましたー」
詩織は、そう言葉を口にすると電話を切って、小さくため息をついたー。

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翌日ー

「ーーこ、これでこの身体から出るんですか?」
苦笑いする詩織ー。

掃除機のような、そんな大きなホースが頭上に見えるー。

「ーあぁ、見た目はアレだけどー
 これで、その身体から松島くんを取り出すことができるから
 自分の身体で済ませたい用事を済ませて来るといいよ」

そう言うと、詩織の頭上に用意したホースのようなものの電源を入れる宗助ー。

掃除機のような風が出てきて、吸い込まれるような感覚を味わう詩織ー

「うぉっ!?おぉぉぉぉぉぉっ!?」
髪が上に逆立つぐらいに、吸引されながらー、
詩織は声を上げるー。

やがてー、すぽっ!と魂が抜けるような感覚がしてー、
ホースの反対側の排出口から、
哲也の魂が出てきて、それが実体化したー。

「ぶわっ!」
床に叩きつけられるかのように自分の身体に戻った哲也ー。

「ーこ、これー、もうちょっとどうにかなりませんかー?」
苦笑いしながら哲也が言うと、宗助は
「はははーもうちょっと研究が進めばもっと快適になるとは思うよ」と、
それだけ言葉を口にしたー。

さっきまで自分が使っていた”詩織”の身体は
また抜け殻のような状態になって、
座ったまま、口をぽかんと開いているー。

「ーーこの子が、目を覚ます可能性はあるんですかー?」
哲也が、心配そうに詩織を指差すと、
「この子は、身寄りを無くして、精神的に壊れてしまってー
 自殺しようと事故を起こしてねー。
 奇跡的に助かりはしたんだけどー、
 本人に”生きる気力”が失われているからか、
 意識がもう長いこと戻っていないんだー」と、
宗助は、改めて詳しく説明したー。

「ーーそうですかー」
哲也は、詩織の方を見つめるー

呼吸はしているー。
けれど、意識が戻る様子はないー。

「ーー憑依から解放されたはずみで
 意識が戻った子もいるからー、
 そういう意味でも、憑依は役に立ってくれるかもしれないー」

宗助は、そんな言葉も口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー俺の家に来ますかー?」

夏休みも半分が過ぎ、終盤になったー。

親友・隆介とのデートを重ねていた詩織は、
そんな言葉に、「えっ!?」と声を上げたー。

”ぐ…隆介め…ついに彼女とヤるつもりだなー!?”
戸惑う詩織ー。

隆介の彼女になってみて、分かったことがあるー。
それは、想像以上に隆介が優しいことー。

そしてー、”ずっと一緒にいると、心も彼女になってしまいそうで、
頭がおかしくなりそうになること”

それ故にー、詩織の身体で家に帰宅すると、
哲也はいつも「俺は哲也 俺は哲也 俺は哲也ー」と、
自分に言い聞かせるかのように言葉を口にしているー。

そうでもしてないと、自分が”詩織”になってしまいそうなー
そんな気がしたからー。

「ーーい、家にってことはー…そ、それはー」
詩織が困惑しながら隆介の方を見つめるー。

「ーほら、せっかくだしー!」
隆介のそんな言葉に、詩織は息を大きく吸うと、
”女として1回ヤッてみるのも…まぁ、悪くはないのかなー”などと、
そんなことを思いながら、
オェッ!と思いつつも、そのまま好奇心で隆介についていったー。

がー、家にやってくると
隆介は、”本の話”を嬉しそうにするだけで、
何かをする素振りを見せないまま時間が過ぎー、
そのまま「あ、じゃあ、そろそろ送っていきますよ」と、言葉を口にしたー。

「え…?」
詩織が少し表情を歪めるー。

「ーーえ?」
隆介も困惑の表情を浮かべるー。

「ーーーあ…いえ、家なんて言うからー
 てっきりわたしー…なんか、そういうことするのかと…」
詩織が申し訳なさそうに言うと、
隆介は「えっ!?!?そういうことー?」と、首を傾げながら、
ようやく何を言っているのか理解したのか、
「えっ!?いやいやいや、そんなことしませんよ!」と、そう言葉を口にするー。

「ーそういうことー…その、もしもするんだったら
 ちゃんと相談してからでしょうし、
 それにー、なんていうかー
 俺ー…そういうのあまり分かんないのでー
 
 今日はただ、純粋に前に言ってた本を
 見せたかったっていうかー。それだけなので」

隆介はそう言葉を口にすると、
詩織は少しだけ笑うー

”なんだー隆介ー、いいやつじゃんー”
そんな風に思いながら、少しドキドキしている自分に気付いて
”いやいや、親友にドキドキするとか、俺の方がヤベェ奴だぞ”と、
心の中で思いつつ「ーーあ、わたし、一人で帰れます!」と、
そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”詩織”の身体で”隆介の彼女”として過ごす夏休みは
その後も続いたー。

途中、風邪を引いてしまった時には、
隆介は心底心配してくれていたー。

がー
夏休みの終わりが近付くにつれて、
詩織に憑依している哲也は
ある感情を抱き始めていたー。

「ーーーあいつの前から、どうやって姿を消せばいいんだー?」
とー。

そうこうしているうちに”終わりの日”は近付いて来るー。

「ーーー今日も楽しかったです」
デート終わりー、隆介がそんな言葉を口にするー。

「ーーーー」
詩織は、表情を曇らせるー。

詩織に憑依している”哲也”からすれば、
別に詩織の身体から抜けても、
親友の隆介とお別れになるわけではないー。

が、元通りに戻ればまた親友としての付き合いであって、
もう詩織として付き合うことはないしー、
恋人関係ではないー。

正直、今でも隆介のことを恋人として考えることはできないー。
”哲也”としてはー。

しかし、不思議なもので、詩織の身体に憑依して
詩織として振る舞っていると、
”彼女”でいられることを今は嬉しく思ってしまうー。

憑依から抜けたあと、彼女でいたい、とは全く思わないー。
でもー…この身体でいるときはー…

「ーー藤咲さん?」
心配そうに声をかけて来る隆介ー。

「ーーあ、いえーーちょっと考え事しててー」
詩織はそう言いながら苦笑いすると、
隆介は心配そうに「ー何か悩みがあれば、俺でよければ力になりますからー」と、
そんな言葉を口にしたー。

でもー、この悩みは相談できないー。
絶対にー。

”詩織”が姿を消した時、隆介はどういう反応をするだろうかー。
そんなことを考えると”彼女”として、そして”親友”として
心が痛んだー。

がーーーー
その翌日のことだったー。

”研究センター”で爆発事故が起きたー。
隆介の父・宗助が勤務しているセンターだー。

隆介の父・宗助の担当している研究とは別の研究中に
事故が起きて爆発、施設は炎上ー、
隆介の父・宗助との連絡もつかなくなり、
詩織は慌てて現場に駆け付けたー。

しかしー…
研究センターは大炎上していてー、
全ては燃えてしまったー。

”憑依している人間の魂を取り出して元に戻す”
あの掃除機のような装置もー、
研究成果も、憑依薬に関する記録もー、
何もかもー。

そしてー、
隆介の父・宗助を含む、研究者たちも焼死体で発見されたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーー」

あの年の夏休みは、今でも忘れられないー。

”わたし”にとってー、
男から女にー、
哲也から、詩織にー、
別の人間として生まれ変わったー、
そんな夏休みとなったのだからー。

人生で一番大変でー、
一番おかしな夏休みの思い出ー。

「ーーー」
詩織は、あの夏休みーー…
”詩織”に憑依した時のことを思い出し終えると、
静かにため息をついたー。

「ーーもう、”わたし”が男だったなんて、
 考えられないなぁ~…」

少し懐かしむようにして呟く詩織ー。

あのあとー、
施設の全焼により、元に戻る方法がなくなり、
”憑依”のことを知る人間もほとんどいなくなってしまったことで、
哲也は元に戻ることができなくなってしまったー

何とか元に戻る方法を探したものの、それは見つからず
途方に暮れて落ち込んでいる”詩織”を隆介は一生懸命励ましてくれたー。

隆介だって、”父親”が施設の事故で死んだばかりで
辛かったはずなのにー。

そしてー、”哲也”も行方不明扱いになり、
隆介からすれば”親友”も”父親”も失う結果になってしまったー。

それでも、前を向く彼を見て、
”詩織”に憑依した哲也は”詩織”として生きていくことを決めたー。

一瞬、”俺は哲也だ”と打ち明ける選択も考えはしたー。
でも、それはしなかったー。
打ち明けたところで、どうせ元には戻れないしー、
これから知り合う人の前では女として生きていくことになるだろうしー、
言えば、周囲の人間を戸惑わせてしまうだけだからー。

だから、哲也はあの夏休みにー、
”自分”と決別して、”新しい人生”を生きることにしたー。
この”詩織”という子には申し訳ないけれどー、
元々命を絶とうとしていた子だと、哲也は聞いていたし、
そもそも憑依から抜け出す方法もない以上、
こうするしかなかったー。

あれから既に、7年が経過してー、
今の”詩織”は、すっかり心も女になってー、
自分が哲也であったことは、遠い過去の記憶となっていた。

「ーー!」
玄関の扉が開いたことに気付いて、詩織が玄関の方に
歩いていくとー、
そこには子供を連れた”夫”の隆介の姿があったー。

「ーおかえりなさいー」
詩織が穏やかな笑みを浮かべながら出迎えると、
隆介は「ただいま」と、嬉しそうに笑ったー。

「ーママ~!」
詩織に向かって、隆介との間にできた子供が嬉しそうに
駆け寄って来るー。

詩織は、そんな子供を抱きかかえると、
これから先も、この幸せを大切にしていこうー、と、
改めてそんな風に思うのだったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ちょうど夏休みシーズンなので、
夏休みのお話でした~!☆!

ちなみに、詩織に憑依したままになってしまった哲也くんは、
隆介にも、元々の両親にも、
自分が哲也だということは話をしていない設定デス~!
(自分の元々の親には、自分が急に消えてしまったことへの
 申し訳なさがあって、こっそり素性を隠して仕送りのようなことを
 しているようデス…★)

お読み下さりありがとうございました~!!

コメント

  1. TSマニア より:

    哲也も女の子のカラダでずっといると魂も女性のカラダに馴染んで女性化しますよネ!

    まさかの爆発事故だったんですネっ!!

    隆介は純太と違いましたネ☆

    • 無名 より:

      感想ありがとうございます~!☆

      隆介くんは、純太くんみたいな危険人物では
      ありませんでした~笑

  2. 匿名 より:

    研究施設の爆発事故、本当にただの事故なんですかね?

    実は憑依などの真相を偶然、知ってしまった隆介が、哲也が元に戻れなくなるようにするため、意図的に起こしたようにも思えますが。もしそうだとしたら、自分の目的のために父親まで死に追いやっているので、隆介は相当に狂ったヤバい人間ということになりますけども。

    あと、多分、誤字がありました。

    ▷「ーーい、家にってことはー…そ、それはー」
    詩織が困惑しながら哲也の方を見つめるー。

    ↑隆介の間違いですよね?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆!

      施設の爆破事故がもしも隆介の仕業だったら…!
      考えただけで恐ろしいですネ~笑

      誤字の報告もありがとうございます~!☆
      修正しておきます~!!