夏休みの期間だけ、
親友の親から、”親友の彼女になって欲しい”と、
そうお願いされた男子大学生ー。
他人の身体に憑依して、親友と接触を図ったもののー…?
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「ーーこの子、ですかー?」
夏休み開始直後ー。
直接会った翌日に
親友・隆介の父、宗助に案内されて
哲也は”憑依する対象”である、詩織という子が
入院している施設にやってきていたー。
「ーーあぁー。
うちは”昏睡状態の人間”を目覚めさせるための研究ー、
昏睡状態の間、身体機能をなるべく低下させないための
研究をしていてねー。
それで、この子のような子が、何人も入院してるー」
宗助はそう言うと、
「ーそれで、”身体機能を低下させないため”に作られたのが
この憑依薬でー、本人の意識がなくても、他人が
昏睡状態の子の身体に憑依して、動かすことが可能なんだー」と、
そう説明したー。
「そ、そんな薬がー」
哲也は驚くー。
「ーーまぁ、まだ研究段階で大っぴらに実用化はされていないからねー。
他人の身体を自由に動かせるわけだから、犯罪に利用される
リスクもあるし、そう簡単に実用化はできないー。」
宗助のその言葉に、哲也は
「ーーーーそれを俺が使って、隆介の彼女のフリをしろ、とー?」
「ーーーーおっと、
松島くんー、怪しい話だと思ってるだろ?」
宗助が苦笑いするー。
「ーま、まぁ、正直ー」
哲也が素直に苦笑いしながら言うと、
宗助は「大丈夫ー。今回の憑依はちゃんと申請して、認可が下りているー。
認可が下りないと、ここで勤務している人間でも、勝手に憑依薬を
使うことはできないからね」と、そう言葉を口にしたー。
隆介の父・宗助の勤務先は”医療技術の研究を行っている会社”で、
この世界ではそれなりに名が通った会社だー。
決して怪しい会社ではないのは、哲也も理解しているー。
”次世代のための医療の研究”ともなれば、憑依薬のように
一般人が驚くような、そんなものもあるのだろうー。
小さい頃から、”親友の父”・宗助はこの仕事をしていたし、
今更悪さをするとも思えないー。
「ーー使用目的も、話してあるんですか?
俺が憑依することとかもー」
哲也がそう言うと、「もちろん」と、宗助はパソコンを少しいじって、
”許可証”の画像を表示させたー。
「ーー…実際、既に昏睡状態の子を対象に、憑依は
それなりに行われていてねー。
運動機能の維持を目的に、うちの所員はみんな
一度は憑依を経験しているし、
僕も憑依をしたことはあるー。
憑依薬を飲んだ途端、副作用で死んだりしないから
心配しなくていいよ」
宗助はそう言うと、哲也の頭をポンポンと叩いたー。
小さい頃の時の癖がまだ残っているのかもしれないー。
「ーー分かりました」
ゴクリ、と唾を飲み込む哲也ー。
詩織という子は、本当に可愛らしい雰囲気に見えるー。
こんな子の身体に憑依することになるなんてー…。
と、そう思わずにはいられないー。
「ーーーーほどほどにな」
宗助が苦笑いしながら言うー。
「ーーえ?な、なにがですか?」
少しギクッとして、哲也がそう言うと、
宗助は「ー異性に憑依したら、そういう気持ちになってしまう気分は分かるけど、
外で変なことしたり、ネットに晒したりそういうことはしないように」と、
そう言葉を口にするー。
「ーし、し、し、しませんよ!」
苦笑いする哲也ー。
「ーーはは、ならよかったー。
まぁ、家の中なら、多少はー、御咎めもないと思うからー
度を越したようなことはしないようにだけ、守って貰えればー」
宗助はそこまで言うと
「そろそろ時間だ。準備はいいかい?」と、そう言葉を口にするー。
「ーーはい。
約束通り、”隆介に相手にされなければ”、すぐ憑依終了ということで
いいんですよね?」
哲也が再度確認すると、宗助は「もちろん」と、頷くー。
「分かりましたー」
哲也は、そう言葉を口にしながら、
”隆介のやつのことだから、例え告白したとしても
100%断られるだろうなぁ”と、
心の中でそう呟いたー。
がーーー
現在ーーー
”詩織”に憑依した哲也は
親友の隆介と、”詩織”として
約束したファミレスで会っていたー。
”憑依のことは、誰にも言っちゃだめだよ?
僕もクビになっちゃうからねー。”
隆介の父・宗助はそう言っていたー。
”それでも、松島君にお願いするのは、
松島くんのことを信じているからー”
とも、言われたー。
もちろん、小さい頃よく遊んでもらった
宗助のことは助けてあげたいし、
哲也としては期待を裏切る気はなかったー。
「ーーーあ、あのー……
い、いつも、お店ではありがとうございますー」
”詩織”として、少し恥ずかしそうにそう言葉を口にする哲也ー。
”恥ずかしそうな演技”をしているわけではなく、
正直、本当に恥ずかしい気持ちだったー。
”親友”を前に、自分の身体じゃない身体で、他人のフリをしつつ、
しかも異性の身体で、とくれば恥ずかしい気持ちになるのも
無理もないことだったー。
「ーーー…あ、いえ、お役に立てて良かったですー」
隆介が、照れ臭そうにそんな言葉を口にするー。
”おいおいおいおいーいつもの勢いはどうした!?”
詩織に憑依している哲也は、心の中でそう思いながらも
”隆介のバイト先”の話をするー。
隆介は書店でアルバイトをしていて、
詩織に憑依した哲也は、最近この辺りに引っ越して来たという
設定で、”本についての相談”をしながら、
隆介との距離を縮めー、連絡先を渡したー。
てっきり”彼女なんてコスパが悪い”と、豪語していた
隆介は、連絡してこないと思っていたもののー、
この有様だー。
しばらく、本の話題を続ける二人ー。
哲也自身も、”本”は好きであるため、
話をうまく作ること自体は、全然苦ではないー。
「ーへ~、俺もその本、好きなんですよ~!」
隆介がそんな言葉を口にするー。
詩織は「え?ほんとですか~?」などと、表面では
言葉を口にしながら
”お、おいっ!前にお前、”あんな本のどこがおもしろいんだよ?”って
言ってたじゃねぇか!”と、心の中で叫ぶー。
以前、”同じ本”の話題を出した時、
隆介は確かに”はははー!お前、アレ読んでんのかよ!?”などと
笑われたことを覚えているー。
が、今日は”好き”とか言ってしまっているー。
”あ~あ~あ、俺が女子だからかー?
隆介って案外、分かりやすいんだな”
心の中でそう思いつつ、”詩織”として
哲也はさらに隆介との会話を続けるー。
いつものように、好きなハンバーグと、
ポテトと、ドリンクバーとー…
色々頼んでいると、隆介は
「藤咲さん、案外食べるんですねー」と、笑うー。
「ーーえ…あ、ははー… み、見た目によらず
わたし、食べるんですー」
詩織は気まずそうにそう言いながらも、
今更注文を変えるのも逆に変な気がしたし、
そのまま注文を済ませるー。
やがてー、しばらく話し込むと
”そろそろいいか”と、内心で思いながら、
「ーーあの…もしよければー、わたしとお付き合いしてくれませんかー?」と、
唐突に”告白”したー。
隆介からすれば”最初に出会ってから2週間”ー。
かなり早いスパンでの告白だー。
がー、
隆介の父・宗助と”夏休み期間中だけ”と約束しているしー、
憑依薬の利用申請も、哲也の夏休み期間で切れるように
宗助が申請してたため、”時間はあまりない”
告白までにかけた”2週間”という時間も、大分慎重にやった方だー。
隆介の父・宗助にお願いされたからには、筋を通すー。
女の身体で多少、楽しむこともできたし、
良い経験もできたー。
”できる限りのことはやってあげたい”と、哲也はそう考えていたー。
告白までに、精一杯できる限りのことをして、
振られるー。
そうすれば、隆介の父・宗助にも”やれるだけのことはやりました”と、
堂々と報告することができるしー、
生涯独身を貫き、恋愛をしたくない隆介を、無理に恋愛の道に
引き込まなくて済むー。
哲也自身も、残りの夏休みはのんびり過ごすことができるし、
何も悪い話ではないー。
「ーーーえ?え??
い、今、なんてー?」
戸惑う隆介ー。
そんな隆介に対して、
詩織は”2度も同じこと言わせんなよー…”と、恥ずかしそうにしながらも
「わ、わたしと付き合ってくださいー」と、そう言葉を口にするー。
”さァ、俺を振れ!隆介!”
そんなことを思いながら、
詩織は、内心で笑みを浮かべるー。
「ーー…え… え… は、はい!喜んで!」
隆介はそう叫んだー。
「ーーあ、あははーそうですよねー
わたしなんかじゃやっぱりー」
詩織はそう言葉を口にすると、
そこまで言ってから口を止めたー。
「ーーーん?」
詩織は思わず変な声を出してしまうー。
「ーーーえ???ーーすみません、今、よく聞えませんでしたー」
さっきまで、意図的に愛想のイイ感じの声を出していたものの、
思わずそれも忘れて、低い声でそんな言葉を口にしてしまうー。
「ーーえ…あ、あのー
お、俺の方こそー、ぜひーーー
藤咲さん、よろしくお願いしますー!」
隆介が嬉しそうに頭を下げるー。
「ーーえっ!?ええええええええええ!?!?!?」
詩織は思わず変な声を出してしまうと、
「ち、ち、ちょっと待っててください!トイレ!」
と、そう叫んで、そのままトイレの向かって行くー。
動揺していたからか、男子トイレに入ってしまうと
鏡の前で「いやいや、嘘だろアイツー?」と、
困惑の表情を浮かべるー。
さっきまでの”穏やかな雰囲気”の詩織とは別人のような
表情を浮かべながら、
「ーーあ、アイツ、恋愛はコスパがとか言ってたよなー?」
と、一人でブツブツと呟くー。
「出会ってまだ1か月も経ってない女とあんな簡単にホイホイ付き合うのかー?
いやー、待てよー
あいつのことだから遊び目的かもー?
生涯独身宣言してたしな」
詩織はそう言葉を口にすると
「ふぅー」と、深呼吸してから男子トイレの外に出ようとするー。
がー、ちょうど、他のファミレスの利用客である男が
入って来てしまい、
詩織に憑依している哲也は、初めて”間違えて男子トイレに入ってしまった”と
いうことを自覚するー。
「ーーーえっ」
男が戸惑いの表情を浮かべるー。
”通報されたらまずい”と咄嗟に思ったのかー、
親友にあっさり告白を受け入れられたことが誤算でパニックに
なっていたのか、
「ーあ、い、いや、こう見えてお、俺、男なんです!」と、
それだけ言って男子トイレから逃げ出したー
”嘘”ーーー…では、ないー…。
身体は正真正銘”女”だけど、
中身は”男”なのだからー…
半分本当だし、多分セーフだ。
そんな風に思いながら、詩織は座席に戻ると、
穏やかな表情を必死に作りながら
「あ、ありがとうございますー嬉しいですー!」と、
少し棒読み気味でそう言葉を口にしたー
”こ、告白受け入れられちゃったら
夏休みの終わりまで俺、この身体で
隆介の彼女としてー?”
詩織に憑依している哲也はそう思いながらも、
嬉しそうにしている隆介の方を見て、
詩織は少しだけ心の中でニヤリと笑ったー。
「ーそ、そうだー
たとえ話なんですけどー、み、三木さんって
結婚願望とかはあるんですかー?
あ、わたしと三木さんが結婚するとかじゃなくて
ただ興味本位で~」
詩織は、そう言葉を口にしながら
隆介の反応を見るー。
「ーーはははー、もちろんー
結婚も、そういう相手の人ができたら、
相手と話し合って、考えていければとは思ってますー」
隆介が恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに言うー。
「ーーおおぉぉぉい!?隆ーーー」
”生涯独身”って言ってたじゃねぇかぁ!と、叫びそうになりながらも、
慌てて自分の口をバッと塞ぐと、詩織は
無理ににこにこしながら、
「ーーそ、そうなんですねぇ~あはは」と、そう言葉を口にしたー。
普段の”隆介”と呼んでいる癖が出てしまいそうになったー。
今はまだ”三木さん”呼びを続けた方がいいー。
「ーーじ、じ、じゃあー、これからーー
えっとー、わたしが、彼女と言うことでー
よ、宜しくお願いしますー」
詩織はピクピクと顔を引きつらせながらも、
笑顔を浮かべつつー、隆介に対してぺこりと頭を下げたー。
”お前の生涯独身宣言は、なんだったんだー?? くそっー!”
頭を下げながら、詩織に憑依している哲也はそう思いつつ、
これから夏休みの間”彼女として”過ごすことになってしまった現実を
改めて実感するのだったー…。
③へ続く
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コメント
次回が最終回デス~!!
大変な夏休みになってしまいましたネ~!
もし哲也くんが憑依自体に大喜びするタイプの子だったら、
また違った反応をしてそうですケド…笑
今日もありがとうございました~!☆
コメント
二人にとっても大変な夏休みですよネ~\(^o^)/★★★笑
哲也くん詩織ちゃんのカラダで多少楽しむことできたんですネ♪♪
うらやましいデス(*´艸`)笑
どんな夏休みになるのかっ!?
外に出たり、迷惑をかけるようなことを
しなければ大丈夫…★という約束で
少しだけお楽しみをした設定デス~笑