とある大学ー
都市伝説好きの男が、
”憑依は実在する”という都市伝説を耳にしたー。
彼は、そんな話題を女友達に振ったもののー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ー憑依?」
”えっ!?”と言うような表情を浮かべながら、
女友達の裕美香(ゆみか)が、思わず聞き返すー。
「そうそうー。
霊体になって、他人の身体に入り込んで
それで身体を支配しちゃうみたいなやつー」
裕美香の近くでスマホを見つめながら
そう言葉を口にする男子大学生の塚村 尚樹(つかむら なおき)は、
嬉しそうにそう言葉を口にするー。
別に、彼自身は”憑依”願望があるわけではないし、
特別、下心があるわけでもないー。
どちらかと言えば性欲は少ない方だし、
Hな動画を見たりすることもほとんどないー。
しかし、そんな彼が”憑依”に目を輝かせていたのはー
尚樹は”都市伝説”の類が大好きだったからだー。
都市伝説的な話であれば、
それがどんな分野の話であろうと、目を輝かせるー。
それが、塚村 尚樹という男子大学生だったー。
「それが、どうかしたの?」
突然、憑依の話を持ち掛けられた裕美香が
苦笑いしながら首を傾げるー。
裕美香はとてもやさしい子で、
見た目も、中身も”理想的”な女子という感じの子だー。
”全てを併せ持つような子って本当にいるんだなぁ”と、
そう思ってしまうような子で、
男女問わず、友達は多いー。
尚樹は、そんな裕美香の幼馴染ということもあり、
大学で再会した時から、特に仲良くしてもらっているー。
休日には、裕美香から”遊びに”誘われることもあり、
遊園地や映画館にもよく行く間柄でー、
周囲からは”もう恋人同士じゃん”などと、よく揶揄われているもののー、
裕美香本人が”彼氏を作るつもりはなくてー、ごめんね”と、
申し訳なさそうにしているため、尚樹も、そんな裕美香の意思を尊重し
”単なる女友達”ということにしているー。
かと言って、”色々な男と遊びたいから”と、言うわけでもなさそうで、
少なくとも尚樹の知る限り、尚樹のような関係の相手は、裕美香にはいないー。
「ーーいやいや、”憑依”が本当にあるかもしれないって、都市伝説!」
尚樹が目を輝かせながら言うー。
”男に憑依されて豹変した美女がいる島”
そんな都市伝説の特集がネット上に掲載されているのだー。
「ーーあはは…なんだー」
裕美香は、そう呟くとすぐに、
「さすがにそれはないんじゃないかな…」と、
尚樹の持つスマホの画面を見つめるー。
その記事によれば、とある島の美女が、
島の問題児に”憑依”されて、豹変してしまったのだとかー。
記事には、憑依される前とされた後の写真ー、
それに、友達や家族の証言なども記載されている。
「ーーふ~ん、随分詳しく書かれてるね~」
裕美香はそう言いながらも、スマホを尚樹の方に向かって返すと、
「でも、憑依なんて本当に出来ちゃったら、
それこそ大変なことになるだろうし、これは流石にないと思うなぁ」と、
笑いながら、そう言葉を口にするー
「まぁ、それはそうなんだけどさぁ…」
尚樹がそう呟くー。
「それに、遠く離れた島とかだと、
独自の文化とかもあったりするし、
尚樹がイメージするような憑依じゃなくて、
島の神様が~、とか、そういう感じの話が、
誇張されて広がってるだけだと思うよ」
裕美香のそんな言葉に、
尚樹は「う…そう言われるとそうな気がするー」と、
苦笑いしながらスマホを見つめるー。
「ーーー…でもー”もし”本当に憑依があるとしたら
尚樹はどうする?」
裕美香は、少し残念そうにしている尚樹に
気を使ったのか、そんな言葉を口にするー
「え?え~…あ~…そうだなぁ~」
尚樹は少しの間、考えると、
「別に誰かに憑依したいって、俺自身は思わないけどー
ほら、やっぱり都市伝説的なものを見るとワクワクするじゃん!?」と、
目を輝かせるー
「ーあははー
尚樹ってば本当に、伝説を追うことにしか興味ないんだねー」
裕美香はそう言うと、
尚樹は笑いながら「ーあ、でも、もし恋人が出来たりしたら大事にするよ!」と、
”遠回しに”裕美香にアピールするー。
がー、”彼氏を作るつもりはない”と断言している裕美香は、
「ーうんうん!もし彼女さんが出来たら応援するからね!」と、
”あえて”か、それとも”天然”か、分からないが、
とにかく尚樹の遠回しのアピールを、しれっと回避してみせたー
「ーーおっとっと、そろそろ次の授業に行かないとー」
お昼の時間ー
ついつい長々と話してしまった、と、尚樹が
そう言葉を口にすると、
「いつもくだらない話ばかり聞かせてごめんな!じゃ!」と、
そのまま慌てて立ち去って行ったー。
「ーーふぅ~…」
一人残された裕美香は、そんな風にため息を吐きだすと
言葉を口にするー
「はぁ~…びっくりしたぁ」
とー。
「ーーー憑依は”実際に”あるしー…
ーーー”目の前に”当事者がいるんだけどー…ね ふふー」
裕美香はそう呟くと、食べ終えた昼食を綺麗にトレーに乗せながら、
尚樹が立ち去って行った方向を見つめるー。
「ーー”この身体”わたしのじゃないんだよね~…」
裕美香はそう言いながら自分の手を見つめて、
手を開いたり、閉じたりを繰り返すー。
裕美香と尚樹は幼馴染ー。
しかし、小学校卒業後、二人は別々の学校に進み、
それから大学まで、別々の学校だったため、接点はなかったー。
尚樹にとって、その”空白の期間”に裕美香は”憑依”されているー。
高校時代、裕美香はたった今、尚樹が都市伝説として
語っていた”憑依”によって、男に身も心も支配され、
乗っ取られてしまったのだー。
「ーーまさか、わたしがー”男”なんて知ったら
驚くだろうなぁ」
裕美香はそんなことを呟きながらクスッと笑うー。
「まぁ、身体は正真正銘、”女”だけどー」
そう呟くと、ため息をついて
そのまま自分も次の授業の場に向かうー。
裕美香が高校生の頃ー、
彼は”憑依薬”を海外出張の最中に怪しげな売人から入手したー。
そしてー、近所の高校の近くで”自分の好みの子”を物色した結果、
見つけたのが裕美香だったー。
男は、自分の人生を捨てて、裕美香に憑依したー。
最初は、裕美香の記憶を読み取ることができなかったがー、
裕美香に憑依している時間が長くなればなるほど、
裕美香の身体に馴染んだのか、裕美香の脳から記憶も引き出せるようになり、
男は、完全に裕美香を支配したー。
「ーーーまぁ、でも別にー
”わたし”は、悪さをするつもりはないからー、
安心してねー?」
裕美香は、尚樹が立ち去って行った方向を見つめながら微笑むー。
”都市伝説の答え”など、意外とすぐ側にあるものだー。
この、裕美香のようにー。
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それからも、”裕美香”に憑依した男は、
裕美香として女子大生ライフを堪能するー。
大学生活も順調に時が流れていきー、
尚樹との関係も”幼馴染”として良好な関係が続いたー。
そして、数年が経過したある日ー。
”20歳”を越えたことで、裕美香は、
尚樹と一緒に近くのお店で”酒”を飲んでいたー。
元々、裕美香に憑依した男は40代ー。
裕美香に憑依したあとは律儀に20歳になるまで待っていたが
元々、酒が大好きだったために、
久しぶりの酒にとても嬉しさを露わにしていたー。
「ーまさか、裕美香がそんなに飲めるなんて思わなかったなぁ」
尚樹が少しだけお酒を飲んだ後は、ソフトドリンクを口に運びながら
苦笑いするー。
「ふふー、何でも新しいことにはチャレンジしなくちゃ!」
裕美香が笑いながらお酒を手にそう呟くと、
尚樹は「はははー、まぁ、それもそうかー」と、
言葉を口にしたー。
しかしー…
”異変”が起きはじめたのは、
その少し後だったー。
さらに飲み続けた裕美香の態度が
明らかにおかしくなったのだー
「ーーあいつら、いつもわたしを馬鹿にしてたけどさー
今じゃ、わたしも可愛い女子大生だしー?
ふふっー、ざまあみろっての」
裕美香が酔いながらそう呟くー。
「ーゆ、裕美香ー流石に飲みすぎー…」
尚樹が困惑しながら言うと、
裕美香は笑うー。
「ーー聞いてよ尚樹~~
わたしさぁ、ず~っと、ずっと
女子から気持ち悪がられてさぁ、
友達からも一生童貞とか言われて馬鹿にされてたんだよねぇ」
裕美香の言葉に、
尚樹は「な…何のこと?」と、困惑するー
「あははー
でも、今はもう誰にもバカにされないー
だって”俺”は美少女になったんだからー
うふふふふふ」
酔っているせいか、
”素”が出て来る裕美香ー。
裕美香に憑依してから既に数年経過しているせいか、
完全に男言葉にはならずー、
何か、今の裕美香が混じっているようなぎこちない口調だが、
明らかに様子がおかしいー
「ーど、どういうこと?」
戸惑う尚樹ー。
「ーーこの女の身体は、本当に最高だよ
だってみんな優しくしてくれるし、
ふふふー あぁ、たまんないー」
裕美香はそれだけ言うと、むにゃむにゃと、寝落ちしそうに
なり始めるー
「ちょ、ちょっとー?」
尚樹はさらに戸惑うー。
辛うじて寝落ちを免れた裕美香は
ニヤニヤしながら顔を上げると、
「そういえば、この前、”憑依”の都市伝説、調べたよねぇ」と、
笑いながら尚樹の肩をポンポンと叩くー。
「ーえへへ、あれは、都市伝説じゃねぇんだよー
えへへへへへ」
裕美香はそう言うと、尚樹に身体を密着させながら、
クスクスと笑うー。
「ーーーえ」
尚樹は表情を歪めるー。
そういえば、さっきから裕美香は何かおかしなことを
言っているー。
まるで、裕美香じゃないようなー
おかしなことをー
「ーゆ、裕美香ーそれってー」
尚樹がそう聞き返すー。
しかし、裕美香はもう、横で寝息を立てながら
「わたしはもうー誰にも、馬鹿にされないー」と
寝言をブツブツと呟いていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
裕美香を家まで何とか送り届けると、
裕美香をベッドに寝かせて、
そのまま「じゃ…俺はこれで」と、立ち去っていく尚樹ー。
尚樹は裕美香の家から出ると、
とても戸締りできそうにない裕美香の代わりに
玄関の鍵を外から閉めて
”鍵はポストに入れておいたよ”とLINEを送り、
そのまま立ち去っていくー。
「ーえへへ、あれは、都市伝説じゃねぇんだよー
えへへへへへ」
そんな、裕美香の言葉が頭から離れないー
「ーーいやいやいやいや、そんなこと、あるわけないよなー」
裕美香が憑依されているなんてありえないー。
あれは、”都市伝説”だー。
自分でも、都市伝説がどういうものかは、理解しているつもりだー。
その話にワクワクしー、
そして、真相がどのような真相であったとしても、
その真相にたどり着くまでの過程を楽しんでいるのだー
まさか、まさか本当に”憑依”があるなんて思えないー。
「ーーーははー、俺が変な都市伝説の話したから
酔っておかしなことを言いだしただけだよなー」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、尚樹は
そのまま自分の家に向かって歩き出したー。
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「おはよ~ 先週はごめんねー」
月曜日ー
大学で裕美香と遭遇すると、
裕美香がすぐにそんな言葉を口にしたー
「はははー、随分酔ってたけどー無事で何より。
あ、鍵はちゃんと回収したか?」
尚樹がそう言うと、裕美香は「うん。送ってくれたみたいで、ごめんね」と
言葉を口にしたー
「いやいや、いいよいいよー」
尚樹がそう言うと、裕美香は少しだけ考えてから
「ー酔ってて記憶が飛んでるんだけどーわたし、失礼なこととかしてないよね?」
と、言葉を口にするー
「ーーえっ!?」
尚樹はそう声を上げると、すぐに”あの日言われたこと”を思い出すー
だがーー
「い、いやー、特にはなかったかな~すぐ寝ちゃったし」
と、誤魔化したー
何だか、怖くて聞けなかったー。
「ふふ、そっかー。ならよかったー。今日も頑張ろうね」
そう言って、尚樹と別れる裕美香ー。
裕美香は廊下を歩きながら
一人呟くー
”あ~あ、つい昔の癖で飲みすぎちゃったー
この身体はお酒に弱いみたいだし、気を付けないと、ねー”
裕美香が特定の男と”恋愛”しないのはー、
”中身が男”であるためー
”この女の彼氏は”俺”だから、ねー”
裕美香に憑依している彼氏は、
乗っ取った裕美香の身体を彼女、自分を彼氏だと
そう認識しているー
だから、誰とも付き合わないのだー。
「ーーーーーーまぁ、でもー
これからも、”何もするつもりはない”から、安心してねー」
”俺はただ、普通に暮らしたいだけー”
だから、これからも”普通の女子”として生きるー。
ただ、それだけだー。
裕美香はそう思いながら、そのまま今日も
”ふつうの女子大生”としての1日を始めるのだったー。
”都市伝説の答え”はー
そう、案外、近くにあるのかもしれないー。
おわり
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コメント
1話完結の憑依モノでした~!☆
”都市伝説をテーマにした憑依モノ”ということで
私のネタストックにずっと眠っていた作品ですネ~!
1話でサクッと形に出来そうだったので
今回、無事にこうして日の光を浴びることになりました☆!
今日もお読み下さりありがとうございました~~~!!
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