<入れ替わり>天才ハッカーとわたし①~突然の出来事~

”シーラカンス”

そう名乗る謎の天才ハッカーがいたー。

誰にも素性を知られていないその男ー。
だが、ある日、その男はハッキングのトラブルで、
女子大生と身体が入れ替わってしまい、
その正体を知られてしまうー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”シーラカンス”によるハッキング被害により
個人情報流出ー

「ーー…これ、やばくない?」

大学で、友達の一人、静穂(しずほ)が
そんなニュースをスマホに表示しながら呟くー。

人気のアパレル系の商品を扱うサイトから、
ハッカーによるハッキングで個人情報が流出した、
というニュースだ。

「ーわたし、ここ前に登録したことあったような気がする~…
 まぁ、メールアドレスぐらいしか入れてないと思うし
 登録しただけで使ってないから、別にいいけどさー」

そう言いながらも、少し不満そうな静穂ー。

そんな静穂の話を聞きながら
「でも、最近こういうの多いよねー」
と、同じ大学に通う、峰村 萌奈(みねむら もな)が呟くー。

「ーーうんうん、萌奈も気を付けた方がいいよ~!
 ま、わたしたちが個人的に気を付けられることなんて
 限られてるとは思うけどさー」

静穂はそれだけ言うと「あ、そろそろ行かなくちゃ」と
立ち上がるー。

”天才ハッカー・シーラカンス”

最近、出現した深海魚を名乗る謎のハッカーで、
ここ数か月で既に大手企業を含む、色々な場所が被害を受けているー。

何のためにそのようなことをしているのかは”不明”だが、
今までに狙われた企業や、団体にはある共通点があったー。

それは、”何らかの不正を行っている”
あるいは”まだ明るみに出ていない不正がある”
そんな企業・団体ばかりだったのだー。

”シーラカンス”が、そういう所を”あえて”ターゲットにしているのか、
それとも”たまたま”なのかは分からないー。

だが、一部ではそんな”シーラカンス”のことを英雄のように
扱う人まで現れる始末だったー。

とは言え、”シーラカンス”のやっていることは違法行為だー。
決して英雄ではないー。
もちろん、不正のある企業・団体はそれを正さなくてはいけない。
それもまた事実だが、
かと言って、”シーラカンス”のハッキングによって
被害を被っている”善良な一般市民”が存在しているのもまた事実だー。

事実、今日ニュースになっているアパレル系サイトも
”一般の利用者の個人情報”も流出しているー。
仮にこのアパレル系サイトの運営会社に黒い部分が
あったとしても、”無関係の人”まで巻き込んでいるやり方はー、
少なくとも、萌奈には正しいと思えないー

「ーー…(こういう人たちって何考えているのかなー)」
萌奈はそんなことを思いながらも、最近話題になっている
”シーラカンス”のことを考えるのをやめて、
そのまま次の授業が行われる部屋に移動し始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日も”いつも通り”の1日だったー。

穏やかで少し天然な一面のある萌奈は、
今日もお昼の最中にドジをやらかして
友達の静穂に笑われたりしてー、
良くも悪くもいつも通りの1日を過ごしたー。

そして、帰宅する萌奈

「ーお、萌奈おかえり~」

萌奈は実家暮らしー。
同じく実家暮らしの1歳年上の兄ー、尚政(なおまさ)が、
萌奈の帰宅に気付き、笑みを浮かべるー。

「あ、お兄ちゃんただいま~」
萌奈はそう返すと、いつも通り兄の尚政と雑談を繰り広げるー。

萌奈と尚政の間柄は良好ー。
小さい頃からほどほどに仲良しで、
お互い大学生になった今でも、その関係は特に変わっていないー。

「ーーマジかー…それはヤバいなー」
尚政が、萌奈から”お昼にやらかしたドジ”の話を聞いて笑うー。

「ーーまぁ、萌奈のそういうところが可愛いんだけどなー」
笑いながらそう言う尚政に対して、
萌奈は「もう~!揶揄わないでよ~!」などと言いながら
自分の部屋へと向かうー。

そうー
この日もいつも通りー。

本来であれば、萌奈が”彼”と関わることなど
永遠にないはずだったー。

”萌奈”と”シーラカンス”は、
住む世界が違いすぎるのだからー。

だがー……
この日ー”それ”は起きてしまったー

「ーーーー……」
萌奈が、ふと目を覚まし、身体を起こすー。

”あれ…?もう朝かなー?”と、
思いながら、寝ぼけた様子で周囲を見渡すー。

昨夜も、普通にいつも通りの時間にベッドに入り、
いつも通り、すぐに寝てしまったー。
何も変わらない夜だったー。

だがー

萌奈は周囲を見渡しながら首を傾げるー。

「ー……?」
その疑問は当然だったー。

目を覚まして、目に入り込んで来た光景はー、
”いつも見慣れた光景”ではなかったのだー。

いつもであれば、
自分の部屋で寝れば、自分の部屋で目を覚ますー。

夢遊病で徘徊でもしていない限り、
それは当たり前のことだー。

だがー、その”当たり前”の光景が、失われていたー

見知らぬ少し広々とした部屋で目を覚ました萌奈はー
困惑の表情を浮かべるー。

旅行中の朝ー、
目を覚ましたら”いつもと違う風景”が広がっていて、
戸惑うことはあるー。
だが、今は旅行中じゃないし、友達の家に宿泊しているわけでもないー。

引っ越し翌日だったりすれば
”見慣れた部屋”ではない場所で目を覚まして
戸惑うこともあるかもしれないー。

しかしー、
引っ越しの予定なんかないし、そんなことは起こらないー

「え…なに…?」
萌奈は戸惑い、声を出すー。

そして、その声に驚き、
バッと、後ろを振り返るー

咄嗟に”誰かがいる”と思ったのだー。

だが、そこには誰もいないー

「ーーー!?!?!?!?」

今、確かに男の声がしたー。
その男は自分と同じように”え?なに…?”と
戸惑っていたー。

なのに、自分の背後には誰もいないー

「え……だ…誰かいるんですかー!?」

ー!?!?!?!?!?

そこまで言って、萌奈は再び後ろをバッと振りむくー。

また、”男の声”がしたー。
そう思って振り返った萌奈ー

いいやー
背後にあった鏡のようなものに反射したのはー
”見知らぬ男”の顔だったー。

年齢はー大学生、あるいは行っていたとしても
20代後半ぐらいだろうかー。
そんなに歳を取っているようには見えないー。

萌奈はーーー
寝て起きたら”知らない場所で知らない男”になっていたー

がーーーー…
”天然”は萌奈は、そもそもそれに気づかなかったー

「あ~…び、びっくりしたぁ…」
男(萌奈)が、鏡を見ながら言うー。

どうやら萌奈は自分が”見知らぬ男”の身体に
なってしまっていることに気付いていない様子だったー

「ーーあ、あの…こ、ここどこだか知ってますかー?」
男(萌奈)が男の声で言うー。

だが、当然、鏡に映っているのは自分であるため、
自分と全く同じ仕草をしているー。

当然ー、萌奈と会話することも出来ないー。

「って…なんでわたしと同じセリフを言うんですか!?」
少しムッとした様子の男(萌奈)ー

鏡の中の男(萌奈)もムッとするー。

それを見て「も~~~!真似しないでくださいよ~!」と、
叫ぶと、その直後、突然机に並べられていたパソコンの数々が
謎の音を発し始めたー

パソコンには”シーラカンス”のアイコンのようなものが
表示されているー

「ー!?!?!?!?」
びくっとしながら、男(萌奈)が震えるとー
画面には”通話”と書かれたボタンが表示されていたー。

見たこともない通話アプリのようなものが
パソコン上に開かれているー。

それを見て、ゴクリと唾を飲み込む男(萌奈)ー

「こ、これって誘拐ー!?」
そう呟くと、また鏡のほうを見てー
「わたしと同じセリフを言わないでくださいー!」と、
ムキになって叫んだー

「もう」
そう思いながらも”誰かがわたしを助けるために連絡してくれてるのかも”と
思いながら、パソコンの”通話”と書かれた表示をクリックするー

するとー

”ー繋がったー…”
と、女の声がパソコンから聞こえて来たー。

”落ち着いて聞いてほしいー”
そんな女の声に
男(萌奈)は”何か聞いたことあるような…?”と、首を傾げるー。

友達かー、大学の教員か、それとも家族かー、
”日常的によく聞く声”であるような気がして
必死に誰の声だったか思い出そうとするー

「ーお…落ち着いてって…い、今、どういう状況なんですか!?」
男(萌奈)が”男”の声で叫ぶー

それと同時に、鏡のほうを見て
「って!ちょっと!さっきからわたしの言ってること、真似しないでください!」
と、叫ぶー。

未だに”自分の身体から出ている声”なのに、
ちょうど鏡が置かれているからか、”鏡の中に移る男”が発している声だと
勘違いしている萌奈ー

天然な女子大生とは言え、ここまで気付かないのも、
なかなか珍しいー。

”ーー?”
パソコン越しに声をかけてきている女も、
”男になった萌奈”が独り言を発しているのを聞いて、
首を傾げるー

”だ…誰かいるのか?”
女が、男(萌奈)に問いかけて来るー。

「ーい、います!へ、変な男の人が!
 わたしと同じセリフをしゃべってーー

 って、また! も~!いい加減にして下さい!」

男(萌奈)が叫ぶー。

萌奈が男の身体になっているため、”萌奈の声”が出ず
”男の声”で萌奈は喋っている状態だが、なおも気付かないー。

”ーーーー…それ、鏡じゃないかな?”
相手の女が言うー。

「え?」
呆然としながら、男(萌奈)が、
鏡のほうを見つめながら、身体を動かしてみるー。

流石に気づいて、鏡の方に駆け寄っていくと、
ようやく、それが鏡だと気付き、
”鏡に映っていた男”は、自分であると気付くー

「えええええええええええええええ!?!?!?!?!?
 な、何ですかこれ!?
 何が起こってるんですか!?
 えっ!?わたしが、男の人にー!?
 何ですかこれ!? えっ!?」

軽くパニックを起こして
マシンガンのように質問攻めを始める男(萌奈)ー

”いや、だから落ち着いて聞いてくれってー”
男口調な女がそう言うと、
”ーー僕と、君の身体が入れ替わってしまったんだ”
と、女が言葉を口にしたー

「へ…?」
男(萌奈)が困惑しながら首を傾げると、
”僕が今、君の身体で君の家に居てー、
 君が今、僕の身体で僕の家に居るー
 そういうことだ”
と、女が説明したー

「ーーあ…」
”どこかで聞いたことある気がするー”
そう思っていた声は、萌奈自身の声ー
”わたし”の声だったのだー

普段、自分の声をモニター越しに聞くような機会は少ないー。
それ故に、一瞬、自分の声だとは気付かなかったのだー

「ええええええええええええええええ!?!?!?!?
 い、、入れ替わり~~~~~!?!?!?!?」

悲鳴に似た叫び声を上げる男(萌奈)ー

「ーえっ!?な、なんですか!?
 なんでそんなことにー!?
 えっ!?わたしの身体を盗んだんですか!?
 っていうか、あなたは誰ですか!?」

男(萌奈)が再び質問攻めを繰り返すと、
萌奈(男)が画面の向こうから言葉を続けたー

”ーー盗む気はなかったー
 ちょっとした事故だー。
 すぐに元に戻すー。

 このことは忘れて、何も見ずに
 目の前にあるパソコンで、僕の言った通りに操作してほしいー”

その言葉に、
男(萌奈)は戸惑いながら頷くとー、
萌奈(男)からの指示通りに操作していくー。

しかし、難しい英文字ばかりのものを色々操作させられて
そもそもパソコンがそんなに得意じゃない萌奈はー
盛大に失敗ー、
違う操作をしてしまいー、

「ーーあ、なんか、プログラム削除って出てますー」

と、苦笑いしながら呟いたー

”は?”
萌奈(男)がパソコンの向こうから言うー

「え?なんか赤い画面が出て、今動かしてたやつが消えちゃってー
 それに、パソコンに”シーラカンス”って表示されてますけどー
 シーラカンスって最近たまにニュースになっているハッカーとかなんとかの
 名前ですよねー?」
男(萌奈)はそう言うと、「あれ…これは?」と、近くに置かれていた
身分証明書のようなものを見つめるー。

”え?いや、ちょっと待て!おい!”
萌奈(男)がパソコンの向こうから叫ぶー。

だが、男(萌奈)は見てしまったー
知ってしまったー

男の正体をー。

「ーー公島 聖人(きみしま まさとー)…」
男(萌奈)はそう呟くと、
パソコンに向かって首を傾げながら言い放ったー

「ーーえ…もしかして、あなたが”シーラカンス”ですか?」
とー。

”ーーーーー”
萌奈(聖人)は、呆れた様子でパソコンの向こうで頭を抱えたー

”入れ替わりの原因”となったプログラムを”間違えて”消されてしまい
すぐには元に戻れなくなってしまった挙句ー
”誰にも知られていない”天才ハッカー・シーラカンスの正体を
知られてしまったー。

まさかー”入れ替わり”などというトラブルで
正体が発覚するとは夢にも思っていなかった彼は
萌奈の身体で大きな大きなため息を吐き出したー

②へ続く

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コメント

”誰にも素性を知られていない正体不明の男”が
入れ替わりをきっかけに、正体が発覚してしまう…
と、いうところから思いついたお話デス~!

どうなってしまうのか、ぜひ見届けて下さいネ~!

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