<入れ替わり>天才ハッカーとわたし②~シーラカンス~

正体不明の天才ハッカー”シーラカンス”と
入れ替わってしまった女子大生ー。

しかも、元に戻る方法を削除してしまいー…?

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「チッー」
萌奈と入れ替わってしまった
天才ハッカー”シーラカンス”こと、公島 聖人は
表情を歪めたー。

彼はー現役の大学生。
表では普通の大学生として活動しながら、
裏では”シーラカンス”を名乗り、数々のハッキングを
繰り返してきたー。

世間の言う通り、彼が狙っているのは
”これまでに何らかの不正をやらかした”企業や団体ー、
あるいは”現在進行形で何らかの不正をやらかした企業や団体”だー。

”理由”はいくつかあったー。

一つは”父親”ー。
聖人の父親は、聖人が幼少期にブラック企業の犠牲になったー。
過労で倒れ、そのまま死亡したのだ。
しかも会社は、言い逃れをして、”父親本人のせい”ということで
片付けられてしまったー。
そのため聖人は、”何らかの不正をしている企業・団体”に
憎悪にも似た感情を抱いているー。

もう一つは”母親”ー
父親が亡くなったあと、母も病に倒れて現在は病気療養中ー。
そんな母親を完治させるためには莫大な手術費がかかるー。
彼はその資金を、”シーラカンス”としての活動から
手に入れているのだー。

普通に働いていては”絶対に”手に入れることの出来ない金額が
彼には必要だったー。

そのために、己のスキルを極限まで生かし、
今日まで”シーラカンス”として活動してきたー。

誰一人として、彼の正体を知る人間はいないー。
しかしー

「ーくそっ…まさかこんな子にバレるなんてー」
爪をガリッと齧りながら萌奈(聖人)は
表情を歪めるー。

”しかも、”手”が違うだけでキーボードも打ちにくいしー”

萌奈の部屋にあった、あまり使われて無さそうなパソコンを使いー、
萌奈の身体になってしまった”シーラカンス”こと聖人は、
聖人になった萌奈に連絡を取っていたー。

だが、自分の指より細く、繊細な感じの萌奈の指では、
”キーボード”の入力をするだけでも、
感覚がかなり違っていたー。

言うならば”キーボードを新しいものに交換した”
そんな時と同じような”慣れるまでは気になる”違和感だー。

”このパソコン、スペックヤバいなー”
萌奈(聖人)はため息をつくー

いや、別にヤバくはないのかもしれないー。
普通の女子大生がちょっと使う程度のパソコンなら
十分だろうー。
この子の容姿や、部屋の中を見る限り、
別にパソコンでゲームをやったりもしそうにないし、
まさかハッキングなんてしないだろうから
スペックなど、ほどほどで良いはずだー。

がー、萌奈(聖人)からしてみれば
”これはきついなー”と思うような、そんな性能のパソコンだったー

”えええ…シーラカンスさんってわたしと同じぐらいの年齢だったなんてー”
聖人(萌奈)がパソコンの向こうから言うー。

「ーおい!静かにしろ!」
萌奈(聖人)が思わず叫ぶー。

”どうしてシーラカンスって名乗ってるんですか?実は魚の生まれ変わり?”
聖人(萌奈)の声がパソコンの向こうから響くー

萌奈同様に”自分の声を他人として聞く”と言う状況に困惑しながらも、
「ー深海魚は、そう簡単に人間からはその姿を見られないし、
 日常の光が照らされることのない場所にいるだろ?
 そういうイメージで名乗ってるんだよ」
と、萌奈(聖人)は素直に”シーラカンス”を名乗り始めた由来を答えたー

”へ~以外とメルヘンチックなんですね~”
聖人(萌奈)の言葉に、何だか茶化されたような気がして
「う、うるさい!」と、声を出すー。

「ーーそれで、今、僕のパソコンには何が表示されてるんだ?」
ため息をつきながら、萌奈(聖人)が言葉を口にするー

聖人(萌奈)が不慣れな雰囲気で
”シーラカンスのパソコン”に表示されている情報を報告してくるー

それを聞いて、萌奈(聖人)は大きなため息をついたー

「ー君は元に戻るためのシステムを消してしまったようだなー」
そう、言葉を口にしながらー

”えぇっ!?ど、どういうことですか!?”
聖人(萌奈)が叫ぶー。

萌奈(聖人)は今一度ため息を吐くと、
仕方がなく事情を説明したー

「僕は、”人間”に直接ハッキングしてその身体を支配する
 システムを開発していたー。
 まぁ、システムの内容は詳しくは言えないし、
 言ったところで君は理解できないかもしれないから
 言わないがー、
 コンピューターにハッキングするシステムに応用と
 技術開発を重ねて僕が開発中の独自のシステムだ」

萌奈(聖人)がそう言うと、
聖人(萌奈)が
”わぁ…わたしの声でそういう説明されると、わたしが急に
 天才になったような気分になりますねー”と笑ったー。

”緊張感のないやつだなー”
そう思いながらも、「そのテストとしてとある企業の社長の身体に
ハッキングしようとしたんだが、僕としたことが
まだシステムが完全じゃなかったらしくー、無関係の君の身体に
ハッキングするどころか、僕と君の身体が入れ替わってしまったらしいー」
と、事情を説明したー。

狙いは萌奈とは無関係の企業の社長だったが、
”情報”を飛ばそうとした際に何らかの不具合が発生し、
自分の人格を間違った相手…つまり萌奈に飛ばしてしまった挙句、
その萌奈の人格を代わりに、聖人の身体の方に吸収してしまい
結果的に入れ替わり状態になってしまったのだったー

”なぁんだ…シーラカンスさんも大したことないんですね”
急に笑うような口調で言いだす聖人(萌奈)ー

「ーなんか棘のある言い方だなー
 人の身体にハッキングするなんてシステム自体、
 僕でなきゃ作ることもできないー。
 こんな難しいシステム、一度で成功する方がおかしいんだよ」

と、萌奈(聖人)は言い返したー。

「で、そのソフトを”間抜けな”君が消してしまったというわけだ」

萌奈(聖人)は少し皮肉を込めてそう返したー。

”あ、その言い方も棘がありますよ!”
聖人(萌奈)が少し拗ねたような口調で言うー。

そう、棘を込めてやったのだー。

そんなことを思いながら、
萌奈(聖人)は「まぁ、元に戻る方法はあるー。
そのシステムの構築方法は全部、僕の頭の中に入ってるからー…
こっちでそれを構築して、もう一度同じ条件を整えればー」
と、説明し始めるー。

がー、その時、信じられない言葉を聖人(萌奈)が口にしたー

”でも、これってー
 わたし、”シーラカンス”の正体を知ってしまったわけですからー
 ーーアレですよね?”

聖人(萌奈)が言うー。

「”アレ”とは?」
萌奈(聖人)が聞き返すとー
”ーーわたし、口封じのために元に戻った後に消されたりしません?”
と、聖人(萌奈)は言い放ったー

「ーーーーーー」

”ーーーーーーー”

とんだ天然なやつだと思ったが
そういうところだけは鋭いー。

確かにー…
確かに、”そのまま”何もせず元に戻すつもりはなかったー。

今、”どうするか”は考えている最中だがー、
”シーラカンス”としての活動は、無関係の人間を巻き込むことは
最小限に抑えたいとは思いつつも
”何の罪のない人間も”巻き込んで来たー。

例えば個人情報を流出させて企業に責任を負わせる際には
”流出してしまった客”はただの被害者でしかないし、
ある会社をハッキングして倒産に追い込んだ時には
”その企業のブラックな部分とは何の関係もない社員”も
仕事を失い、露頭に迷ったー。

”意味もなく一般人を苦しめることは”しないー。
だが、目的のためなら多少の犠牲も止む無しー。

それが、”シーラカンス”の考え方だー。

”ふふふーでも、そうはさせませんよ”
聖人(萌奈)が笑うー

「ーえ?」
萌奈(聖人)が首を傾げると、
聖人(萌奈)は続けたー

”ーわたしの身の安全を100%保証してくれるまで、
 わたしは身体を返しませ~ん!”

聖人(萌奈)の言葉に、
萌奈(聖人)は唖然とするー。

”僕のような”計算”で生きているような人間にとってー
 一番厄介なタイプだー”

心の中で舌打ちをするー。

”天然で何をするか、何を言い出すか分からないタイプ”
こういうタイプの人間は”計算外”のことを、よくするー

それ故に、彼は苦手だったー。

”わたしの安全を保証してくれますか?”
聖人(萌奈)の言葉が続くー。

「そんなことはしないー。約束する」
萌奈(聖人)は、平静を装い、そう返事をするー。
その口調には一切の動揺も感じられないー。

”ーーーーーーーー”
聖人(萌奈)が、考え込むー。

やがてー、
”でも、元に戻ったらやっぱり始末されそうなんですけど”

と、そんな言葉が聞こえて来たー

「ーーーーー」
萌奈(聖人)は”思った以上に疑い深いやつだ”と、思いながら
”仕方がない”と、少し脅すような口調で言葉を続けたー

「ーあまりそういうことを言うなら、僕にも考えがある」
とー。

”え?”
聖人(萌奈)の戸惑うような声ー

「ーーあまり元に戻れないと僕も困るんだー。
 だから、君が元の身体に戻るのを拒むのなら、
 僕は君の身体で”シーラカンス”として”仕事”をすることになるー。

 僕は知っての通り、正体不明のハッカーだからなー。
 別に僕の身体だろうが、君みたいな女子大生の身体だろうが、
 どっちでも仕事をするには困らないー」

萌奈(聖人)が淡々と説明するー

”そ…そんなことしたらわたしが犯罪者になっちゃうじゃないですか!”
聖人(萌奈)が焦りの声を上げるー

「ーーそれにー……」
チラッと鏡を見る萌奈(聖人)ー

「君はなかなか可愛いからなー
 ずっと、僕に身体を預けているとー…
 そう…例えばこの胸を揉んだりも、しちゃうかもしれないな」

萌奈(聖人)は、笑みを浮かべながら胸を見つめるー。

”積極的にそういうことをするつもりは”特になかったがー、
興味がないわけでもないしー
こういう言い方は”脅し”になるー。

そして、彼、”シーラカンス”の狙い通り、
聖人(萌奈)は折れたー。

”わ、わ、分かりましたよ!じゃあ、
 わたしの安全を絶対、約束してくださいよ!?
 元に戻ったらグサッ!とかナシですからね??”

聖人(萌奈)の言葉に、
萌奈(聖人)は「わかったわかったー僕は元に戻れさえすればいい」
と、うんざりした様子で答えるー。

”もし、約束を破ったらわたし、あなたがシーラカンスだって
 全世界に公開しますから!!
 わたし、あなたの本名も知ってるんですから!”

「ーーー」
ギリッと歯ぎしりをする萌奈(聖人)ー。

”それが”怖いんだよー、僕にとってはー。

聖人は思うー。

萌奈が”元に戻ったあと命を奪われないかどうか”心配する
気持ちは分かるー。
自分が、逆の立場だったら確実にそう考えるだろうー。

しかしー、聖人の方も不安なのだー。
”元に戻ったあと、萌奈が”シーラカンス”の正体をばらしたりしないかどうか”がー。
こちらが約束を守ったとしても、萌奈の側が約束を守るかどうか、
聖人からすれば、それが分からないのだー。

”僕は、まだ終わるわけにはいかないー”

最低でもー
母の手術費を確保するまではー…
”シーラカンス”は、滅びるわけにはいかないー

「ーーーーわかった。こちらは絶対に何も手出しをしないと約束するー
 君も、僕が”シーラカンス”だと言うことは絶対に言わないと約束してくれ」

”ーーー…そっちが約束を守ってくれるなら、わたしも何もしません”

お互いー
相手が本当に約束を守るのかは疑心暗鬼なまま、
元に戻るための話し合いを始めたー

”君も、僕が”シーラカンス”だと言うことは絶対に言わないと約束してくれ”

偶然ー
妹・”萌奈”の部屋の前を通りがかった萌奈の兄・尚政が
表情を歪めるー

「しー…シーラカンス…!?」

ニュースにもなっている天才ハッカー。
当然、その名は兄の尚政も知っているー。

そしてー
妹の部屋から、聞こえて来た妹の声ー

今、萌奈は何て言っていただろうかー。

”僕がシーラカンスだ”と、言っていなかっただろうかー。

兄の尚政は「も…萌奈…!?」と、呆然とした表情を浮かべながら
そのまま自分の部屋の方に向かって立ち去って行ったー…

③へ続く

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二人は無事に元に戻れるのでしょうか~?
次回が最終回デス~!

ぜひ、結末を見届けて下さいネ~!

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