<入れ替わり>天才ハッカーとわたし③~予期せぬ未来~(完)

正体不明の天才ハッカー”シーラカンス”と、
ごく普通の天然な女子大生”萌奈”の二人が
入れ替わってしまったー。

二人を待ち受ける運命はー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー」
萌奈(聖人)は、萌奈の部屋で聖人になった萌奈と
連絡を取り合いながら、
”元に戻るため”の準備を進めていたー

「そっちから、そのフォルダの中に入っている
 上から2個目のデータを送信してほしい」

その言葉に、聖人(萌奈)は
”え~、え~っと”と、混乱しながらも、
言われた通りにするー

「よし、OKー」
萌奈(聖人)は、恐るべきスピードで、
入れ替わった原因となった”人にハッキングするためのシステム”を
構築していくー。

結果的に”入れ替わってしまった”のは、
聖人にとっても誤算の”事故”ではあったものの、
全く同じ条件を組み立てれば、恐らくはもう一度”入れ替わり”が
発生するはずだー。

「ーこっちでハッキング用のシステムが完成したら
 君のほうにそれを送るから、僕の指示に従って
 それを作動させてほしいー」

萌奈(聖人)が言うとー、
”わたしの声なのに、やっぱ、なんかすごく天才になった感じがする”と、
聖人(萌奈)が感心した様子で言うー。

声は”萌奈”だが、口調も話す速さも、内容も、
色々違うからだろうかー。
”天才になった萌奈”というようなー
そんな声に聞こえるー。

「ーーそりゃどうもー。
 逆に僕は間抜けになった感じだな」

皮肉っぽく言う萌奈(聖人)ー

”あ~!わたしのこと、今バカって言いましたね?
 そういうこと言ってると、シーラカンスさんの身体で、
 色々なことしちゃいますよ”

聖人(萌奈)がムキになりながら
”例えばズボンを脱いだりとか!”と、言い放つー

「そしたら僕は君の身体でエッチなことをするだけだ」
淡々とそう返す萌奈(聖人)ー

”ひっ!?そ、それはダメ!ダメですよ!絶対!”
聖人(萌奈)と会話しながらも、
萌奈(聖人)は”さっさと元に戻りたい”と、
”慣れない萌奈の手”で、システムを構築していくー

聖人のパソコンの方に既に”ベース”は揃っているから
比較的短時間で再構築できるはずだー。

「ーー!」
萌奈(聖人)が表情を歪めるー

”わたしの身体に本当に何もしてないですよね?
 変なことしたりーー”

さっきからずっと喋り続けている聖人(萌奈)ー

「しっ!」
萌奈(聖人)は、画面の向こうの聖人(萌奈)に向かってそう叫ぶと、
聖人(萌奈)は「へ?」と不思議そうに首を傾げるー。

「ーー誰か来た!」
そう言いながら萌奈(聖人)がパソコンを慌てて閉じるー

するとー
部屋に萌奈の兄である尚政がやってきたー

「萌奈、ちょっといいかー?」
尚政のそんな言葉に、
萌奈(聖人)は”こ、これはー…兄か?弟か?”と、
瞬時に頭をフル回転させるー。

お互いにー”互いの身体のまま生きる”という選択肢は
考えてなかったし、
サッサと元に戻るつもりだったため、
”何の情報交換”もしていなかったー

そのため、今、部屋にやってきた尚政が
”兄”なのか”弟”なのかも分からないー。

(待てー落ち着いて考えろー…
 今、こいつは僕のことを”萌奈”と呼んだー…
 こいつが弟ならー…お姉ちゃんとか姉さんとかー
 呼ぶ可能性の方が高いー…気がするー

 もちろん、姉相手でも名前で呼ぶ可能性もあるがー
 ここはー)

萌奈(聖人)はそう考えるとー
「あ……お、お兄ちゃんー」と、苦笑いしながら声を発したー。

「ーー萌奈さー、最近ニュースになってるアレ、知ってる?」
尚政が少し気まずそうに言うー。

”お兄ちゃん”と呼ばれても特にそこに反応を示す様子がないところを見ると、
”僕の推理は正しかったようだな”と、萌奈(聖人)は
心の中で少し安堵するー。

”兄さん”とか、別の呼び方の可能性もあったしー、
的中できたのは奇跡と言ってもいいー

「ーーあ…あれって?」
萌奈(聖人)が首を傾げるー

「ーーー……シーラカンスー」
尚政はそう言いながら、萌奈(聖人)のほうを見つめるー

先程、萌奈の部屋から”僕がシーラカンス”と、萌奈(聖人)が言っているのを
聞いてしまった尚政は、強い不安を感じていたー。

”あり得ない”
そうは思いつつも、妹の萌奈がシーラカンスー
あるいは、シーラカンスの関係者なのではないかとー

「え…しー、シーラカンス!?
 なんだっけそれ?化石?魚?」

萌奈(聖人)が笑いながら言うー。

”なんか天然っぽい子だし、こうだろ?”

聖人は、瞬時に”この子ならこう反応する”と思ったのだー。

「ーーーーーーー」
尚政が萌奈(聖人)のほうを見つめるー。

「ーーぷっ…はは、いや、なんでもないー」
尚政は思わず笑ってしまうー

”萌奈がシーラカンスなわけないかー”
とー。

「ーーち、ちょっと~何よもう~!」
わざとらしく頬を膨らませて見せる萌奈(聖人)

そんな態度も完璧だったのか、
尚政はそれ以上詮索することなく
「いやいや、何でもないよ」と、笑いながら
立ち去って行ったー。

「ふ~~~~~」
安堵のため息をつく萌奈(聖人)ー

パソコンを開いて、少し顔を赤らめるー。
萌奈の身体がドキドキしているのを感じるー。

「ーーち、ちょっと~何よもう~!」
と、萌奈のフリをして声を出した時の声がー
想像以上に可愛かったー。

”今”は自分の身体であるこの身体から
そんな声が出たことに少し驚き、
ドキッとしてしまったのだー。

「ーーーーー」
胸を服の上から見つめながら、
少しドキドキしてしまいながら
”いけないけない”と、首を横に振るー。

”シーラカンス”を名乗り、ハッカーとして暗躍するようになってから
”感情”というものを極力捨てて来たー。
自分は”普通の生活”を送ることはできないー。
だから、そう、”マシン”のように、感情を殺して生きて来たー。

だがー、
萌奈の身体にドキッとしてしまったことで、
”やっぱ、僕も人間なんだな”と、改めて実感するー

「と、この身体でずっといると冷静さを欠きそうだー。
 早く元に戻らないとなー」

そう呟くと、聖人になった萌奈に再度連絡を入れると
「すまないー君のお兄さんが部屋に来て」と、
事情を説明したー

”え!?お、お兄ちゃんがー!?大丈夫でしたか?
聖人(萌奈)の言葉に「まぁ、僕は頭の回転が速いからなー」と答えたー

”そっかぁ…ならよかったですー”

そして、二人はやり取りを続けてー、
ついに”人体をハッキングするプログラム”を再び使用可能の状況に
することに成功したー

「ーこれでよし。
 今からこれをそっちに送るから、そしたら僕の指示通りに
 プログラムを起動してくれ。

 くれぐれも僕の指示以外のことはしないでくれよ?」

萌奈(聖人)がそう言いながら、
ため息をつくとー
ふと、スカートから覗く、萌奈の足が目に入るー。

顔を赤らめながら、首を横に振りー、
煩悩に負けないように、パソコンのほうを見つめるー。

”も~!巻き込まれたわたしはいい迷惑なんですからね!
 しかも、何時間も無駄にしてー…”

聖人(萌奈)の言葉に、
萌奈(聖人)は「そもそも君が最初に間違って操作したりしなければ
すぐに元に戻れたんだけどな」
と、皮肉を口にするー

”うっー”
聖人(萌奈)は悔しそうにそう呟くと、
”じゃあ、約束、絶対に守って下さいね?”と、再度、確認の言葉を口にしたー

「ー分かってるー。君には何もしない。約束するー。
 その代わり君も、僕ー…”シーラカンス”のことは絶対に口にしないでほしい」

萌奈(聖人)がそこまで言うと、
聖人(萌奈)は”あのー…”と、気まずそうに言葉を口にしたー

”ーーー…こんなこと、いつまで続けるんですか?”

その言葉に、萌奈(聖人)は
「ーハッキングのことか?」と、返事をするー。

”ーーはいー 何か理由があるのかもしれませんけどー、
 話をしてる感じー…シーラカンスさんは完全な悪人じゃない気がしてー”

聖人(萌奈)の言葉をそこまで聞くとー、
萌奈(聖人)は少しだけ笑ってから答えたー

「ー僕は悪人だよー。不正にハッキングしてるんだからー
 理由はどうあれ、悪人さー」

”悪党”
その汚名はいくらでも着るー
それでも、父の復讐と、母を救うことー
それを、成し遂げたいー

”ーー!?”
聖人(萌奈)側か慌ただしい音が聞こえ始めるー

「どうした?」
萌奈(聖人)がパソコンに向かって語り掛けると、
聖人(萌奈)が”え…な、なんか警察みたいな人がー!?”と、
困惑の声を上げたー。

「ーー!?!?」
萌奈(聖人)は表情を歪めるー

”シーラカンス”には敵も多いー
ライバルハッカーや、敵対するハッカーもいて、
ハッカー同士、警察に情報提供をして
足の引っ張り合いをすることもあるー

恐らく、”今回”もそれだー。

いやー、もしかすると警察ですらないかもしれないー
”ハッカー”は敵が多いー
殺し屋の類の可能性すらあるー。

聖人が自分の身体にいれば”うまく対処できる”自信はあるしー、
これまでにも何度かピンチはあったが
それを全て乗り越えて来たー

がー、聖人の中身が萌奈の状況ではー

「ーー…押せ!ボタンを押せ!」
”人体へのハッキングシステム”の送信は完了したー。

萌奈(聖人)がそれを見て叫ぶー

しかし、聖人(萌奈)は、”えっ!?えっ!?どうしよう!?あっ…あっ!?”と、
パソコンを連打するような音が聞こえー、
その直後、エラーを吐き出すような電子音と、警官らしき男の声ー、
衝撃音が聞こえー、通話が途絶えてしまったー

「ーーーーー……」
呆然とする萌奈(聖人)ー

すぐに、”聖人の部屋”の状況を確認しようと、
自分の部屋にセットしてある隠しカメラに萌奈に部屋からハッキングして
様子を探るー

「ーーー…!」

すると、そこにはーーー……

”シーラカンスを始末したー。全てのデータの削除も終わった”

そう連絡する”謎の男”の姿が見えるー

そしてー

「ーーーーー…!!!!」

聖人(萌奈)が倒れているー。

その様子からは、生きているのか、死んでいるのか分からないー
だがー…

男が立ち去っていくのが見えるー。

男に見覚えはないー。
恐らく、裏社会のヒットマンか何かだろうー。

天才ハッカーは、”色々な方面から恨まれる”

こういうことも、全くないわけではないー。

だがー…

「ーーおい…!返事をしろ!おい!」
男が出て行ったのを確認して、萌奈(聖人)が
パソコン越しに叫ぶー。

がー、聖人(萌奈)はピクリとも動かないー。

「ーーーーーー……」
萌奈(聖人)は困惑の表情を浮かべながら
爪をガリッと齧るー。

「ーーーーー」
”この子を巻き込んでしまった”そんな思いもあるし、
”自分の身体を失ったかもしれない”という思いもあるー。

色々な複雑な思いが交錯するー。

けれどー
ここで立ち止まるわけにはいかないー。

「ーチッ」
萌奈(聖人)は舌打ちするとー、
”聖人の家のパソコン”と全ての繋がりを遮断しー、
そのままパソコンを閉じたー。

謎の男が”データは消した”とか何とか言っていたー

恐らく、データは消えたー。
証拠があそこから漏れることはないしー
”シーラカンス”は死んだー。

少なくとも、裏社会の連中や、社会はそう思うはずだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

数か月後ー

「ねぇねぇ また”シーラカンスの被害が出たんだって」
友達の静穂がスマホのニュースを見つめながら言うー。

「そうなんだ~」
大学の昼休みー

萌奈がーー

いいや、”萌奈になった聖人”がそう言うと、
静穂は「っていうか、最近、萌奈、なんだか前よりクールになったんじゃない?」と
苦笑いするー

「そうかなぁ~?自分じゃ分からないけどー」
萌奈(聖人)はそう言うと、
静穂は「ぜったいクールになったって!前みたいにドジっ子みたいなこと
あまりしなくなったし」と、笑うー。

「ーーあははー わたしももう大人だし、いつまでもドジばっかり
 してられないからー」

そう言いながら笑う萌奈(聖人)ー

萌奈は少し前から”一人暮らし”を始めたー。
両親や兄の尚政には最もらしい理由をつけたため、
全く疑われなかったー

そしてー
一人暮らしを始めた萌奈(聖人)は

今日もー

「ーーーはいー僕がシーラカンスですー」
合成音声で、”ハッキング”をする上で必要な情報を得るため、
情報屋と会話を始める萌奈(聖人)ー

萌奈はー
今、”シーラカンス”として活動しているー。

”聖人”から”萌奈”へー

けれど、中身は同じー
そして”表向きの名前も”同じー

2代目”シーラカンス”となってしまった”萌奈”はー、
静かに笑みを浮かべながらー
”僕は、目的を果たすまでは、死ねないー”と、
少し寂しそうに、そう呟いたー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

一方的に被害を受けた萌奈ちゃんが
気の毒デス…☆!

身体も2代目シーラカンスになってしまいましたし、
いつかお兄ちゃんが気付いたりしたら、
大変なことになりそうですネ~!

お読み下さり、ありがとうございました~!

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