心優しかった彼女が
結婚した途端、お金を浪費するようになってしまったー。
その裏に隠されていた”憑依”ー。
妻の身に起きていることを知った彼の運命はー?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「この女、イイ女だよなー」
笑みを浮かべながら、園香は自分を指さして笑うー。
「ーーな…な…何を言ってるんだー…?」
呆然としながら、そう言葉を呟く修司ー。
園香が何を言っているのか、まるで分からないー。
「ーー”何を”見たんだよ?全部言って見ろよ」
園香はそう言いながら、偉そうに足を組むと、
「ほら、言いたいこと、全部言えよ」と、
まるで男のような言葉遣いで、言葉を発しながら
修司の方を見つめたー。
園香とは思えないような不気味な態度に修司は気圧されてしまうー。
だが、ここで躊躇っても仕方がないー。
修司は、園香の浪費に違和感を感じていたこと、
これ以上は生活が厳しいこと、
大塚先輩の名前は伏せた上で、会社の人と相談したら
園香が浮気しているんじゃないか、だとか、ホストに貢いでいるのではないか、と
言われて不安になってー、
今日”会社に行ったフリをして”園香の様子を探っていたことー
全てを話したー。
「ーへへへ…”俺”は全部見られてたってことかー」
園香がそんな言葉を口にするー
「お…”俺”…?」
修司は、さらに戸惑うー
さっきから、自分のことを”この女”と言ったり、
”俺”と言ったり、園香の様子が明らかにおかしいー。
浪費するようになってから、色々おかしな部分はあったが、
今はそれに増して”さらに”様子がおかしいー。
「ーーでも安心しなー
お前の疑うような”浮気”でもないし、
ホストにはまっているわけでもないー
へへへへへー」
ニヤニヤと笑いながら胸を揉み始める園香ー
確かに、家に誰かがいた形跡もないし、
修司が家の中に入った後に
いっしょにいた男が逃げたー…なんて形跡もない。
本当に、園香一人だったのだろうー。
だがー
「じ…じゃあ、何のためにブランド品を買って
それを売ってお金にするなんてことー…してるんだー」
修司がそう言い放つー。
”ブランド品やアクセサリーが欲しくて買い漁っている”
それなら、まだ分かるー。
だが、買ったものを売却しているとなると、ますます意味が分からないー
大塚先輩の言葉を思い出すー。
「ーそりゃ、あれじゃないか?
直接お前のお金を使って浮気したり、貢いでりゃ、お前だって
”お金、何に使ってるんだ?”ってなるだろ?
でも、ブランド品を買い漁ってりゃ、
少なくともお前は”ブランド品を買うのにお金を浪費してる”って
そう思うだろ?
しかも、現にそう思ってるー
そういう、カモフラージュ的な意味だと思うぞ?」
浮気でも貢ぐでもないにせよー
大塚先輩の言う通り、”何かに金が必要”だが、
その”何か”を隠すために、ブランド品を集めるフリをしながら、
裏でその一部を換金して、金に換えていたのだろうかー。
修司が色々なことを考えていると、
園香は笑みを浮かべたー
「ーへへ、お前も素直に全てを打ち明けたようだからー
俺も教えてやるぜ」
園香の声ー。
だが、話をしているのが園香とは思えないような口調ー。
そしてー
続く園香の言葉は、修司が全く想像もしていない言葉だったー
「ー”憑依”」
園香の言葉に、修司は思わず「なに?」と聞き返すー。
「憑依って知ってるか?」
園香が間を置かずに、問いかけて来るー。
”憑依”の言葉の意味は知っているー。
修司が、その意味を答えると、
園香は「それだよ」と、笑ったー。
「ー何だって?」
修司はさらに戸惑うー。
「へへーお前の”妻”は、俺に憑依されてるんだよー」
園香のそんな言葉に、修司は表情を歪めたー
「ーな…何を言い出すんだいきなり!?」
修司は戸惑いながら声をあげるー。
流石に”はいそうですか”と、信じることは出来ないー。
「ーー俺が、お前の妻の身体を乗っ取って支配しているー
俺はなー、お前らのような新婚の夫婦の”女”を狙って憑依ー
その身体で財産をしゃぶりつくしてー、金を稼いでるんだー
ま、ただ金を持ち去ってもいいんだがー
こうして”急に妻が浪費を始めて戸惑う夫”を見るのは
最高だからなー…へへ
それにお前の言う通り、ただ金を持ち去るより、
大事になるのを遅らせることもできるからなー」
園香のそんな言葉に、
修司は表情を歪めながらも、
「ーーーー…そ、そんなこと言って、誤魔化そうとしてるのか?」と、
言葉を口にするー。
園香が、”憑依”などという現実離れしたことを持ち出し、
この場をやり過ごそうとしているのではないかと、そう考えたのだー
「ーはっはぁ…まぁ、信じられねぇよなー
でも、この世にはあるんだぜ?
”憑依薬”がー。」
それだけ言うと、園香は立ち上がって、
USBメモリを取り出すと、それを二人で共用していたパソコンに
差し込みー、パソコンを起動させたー。
「な、何をー…?」
修司が戸惑うー。
「まぁ、見てなってー」
そう言うとーー
パソコンに”映像”が映し出されたー。
笑みを浮かべながら、その映像を見つめる園香ー。
その、内容はー…
”ーーあ、あなた、誰ですか?”
”へへへー…お前の身体、貰うぜー”
”ーーひっ…!? た、たすけー”
”ーーいやあああああああっ…”
その映像はー
”男”が撮影した映像ー。
修司が仕事に出かけている間に、
男が宅配便を装い、玄関の扉を開けさせてー、
中に侵入ー、園香に憑依するまでの様子が
鮮明に記録されていたー。
「う…嘘だろ…!?」
修司が呆然とすると、
園香は「へへへー”この女”が、お前を苦しめるような浪費をする
女だと思ってたのか?酷いなぁ」と、挑発的に笑うー。
もちろん、映像が”男”と”園香”で撮影したやらせ映像の可能性も0ではないー。
だがー、映像内の園香の怯え方やー
映し出された”憑依の瞬間”は、まさにー”演技”とは思えなかったー
「お前!!!!!!!!!!!!!」
怒りの形相で叫ぶ修司ー。
”今まで”
園香が浪費をはじめてから今までー
”このことに気付けなかった”自分にも激しい苛立ちを覚える修司ー
「ー何でこんなことするんだ!!!園香を返せ!」
修司が叫ぶと、
園香は笑みを浮かべるー。
「言ったろー?金を稼ぐためー
それとーー
”復讐”」
園香の目が冷たい目つきに変わるー。
「ーふ、復讐ー?
お、俺は何も…何もしてないぞ!」
修司が叫ぶー。
”復讐”されるようなほど恨まれることを
これまでの人生でしたつもりはないー。
すると、園香は首を振ったー
「いやぁ、別にお前には恨みはないし、”俺”はお前と会ったこともないー。
もちろん、この女もなー」
そこまで言うと、園香は続けるー。
「ー俺はさ、昔、お前と同じように好きな女と結婚して
幸せな新婚生活を送ってたんだよー。
でもな、俺の場合はー、相手の女が”本物のワル”だったー。
俺の金を勝手に使いつくして、借金までして、
いつの間にか借金まみれー。
俺が問い詰めたらアイツは逆ギレー
最後には俺は刺されちまったー。
へへー
だから新婚で幸せそうなやつらを見るとむかつくんだよー
それが、お前らみたいな新婚夫婦に憑依してる理由さー」
園香が全てを打ち明けたー。
その瞬間ー
修司はゾッとしたー
”何故、こいつが、こんなに正直に全てを話すのかー”
そして、今の話ー
”最後には俺は刺されちまったー”
その言葉に、ゾッとしたー。
もしかすると、この男はー
園香の身体で、俺を刺してーー…殺す気なのかもしれない、と
反射的に思うー。
だが、それを見透かしたように園香は笑ったー
「ーへへ…俺は”人殺し”はしない主義だから安心しなー。
バレちまった時はいつも、こうして全部打ち明けて
トンズラするだけさー。
まぁ、金は返さないケドなー」
園香はそれだけ言うと、
ニヤリと笑ったー
「ーお前の妻は返してやるぜー…じゃあなー」
その言葉と同時に、園香はその場に倒れ込みー
白目を剥いたままピクピクと痙攣し始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”阿波野 俊治(あわの としはる)”
それが、園香に憑依した男の名前。
あのあとー、園香は正気を取り戻したー。
しかし、酷く取り乱し、
自分が修司を苦しめたことに責任を感じー、
塞ぎ込み、ついには自殺未遂を起こしてしまったー。
結果ー、現在、園香は意識不明の状態だー。
修司は怒り狂い、”憑依薬”について
死に物狂いで調べたー。
そして、購入者リストを手に入れー、
その中から、園香に憑依したと思われる男をあぶり出したー。
それが、阿波野 俊治だー。
「ーー俺はお前を、許さないー」
阿波野 俊治の家に乗り込んだ修司が叫ぶと、
俊治は「俺に復讐するつもりか?」と笑ったー。
「ーーー全ての罪を認めて、自首しろ!」
修司が叫ぶー。
「ーははは、無駄さー。やめておけ」
俊治は挑発的に笑うー。
「ーもう一度言う。全ての罪を認めて、自首しろ!」
修司は包丁を手に、そう叫ぶー。
修司は、この男が”罪を認めて自首”しないのであれば、
刺し違える覚悟で、今日、ここに来ていたー。
「ーーやめとけー。意味ないぞ」
俊治の言葉に、修司は「お前のせいで、園香は!」と
叫びながら俊治に突進するー。
「悪い悪いー 悪かったよー
自殺未遂するなんて、思わないだろ?」
俊治が笑うー。
修司の包丁を叩き落とし、俊治が、ソファーに座ると、
「まぁ、落ち着いて話し合おうや」と、
反対側のイスに座るように修司に促したー。
だがーーー
「ーーーよくも園香を…!貴様あああああ!」
園香の自殺未遂からのこん睡状態ー。
既に、修司を突き動かしているものは”怒り”のみだったー。
もう1本ー
隠して持っていたナイフを俊治に突き立てるー。
驚く俊治ー。
だが、余裕をかましてソファーに座っていた俊治は
何も抵抗できなかったー
驚いた表情のまま首を抑えー、
すぐにその場に倒れ込むと、俊治は動かなくなったー
「ーーーーはぁ…はぁ…園香ー」
目から涙をこぼす修司ー。
罪を犯してしまったー。
こんな仇討ちみたいな真似をしても、
園香は喜ばないー
そんなことは、分かっているー
けどー
「ーーざ~~~~んねんでしたあああああああああ!!!!」
「ーー!?!?!?」
突然、死んだはずの俊治がゾンビのように起き上がるー。
「ーなっ…」
修司が困惑していると、
白目の俊治がニヤリと笑うー。
「ー”これ”俺の本体じゃないんだよなァ!」
俊治が笑いながら言うー
顔色はみるみる悪くなりー、
どう考えても”俊治”は死んでいるー。
「ーーな…何を言ってー…!」
憑依薬の購入者は確かにこの男ー”阿波野 俊治”だったー。
こいつが、園香に憑依した本人に間違いないだけの
確証は得て、今日ここに来ているー。
だがー
「ーーこの前、俺の”過去”話しただろ?
俺が女に騙されて借金まみれにされて、しかも逆ギレされて
刺されたってー」
俊治が言うー。
確かにそれは、コイツが園香に憑依している時に聞いたー。
「ーあの時、俺は死んだんだよ」
俊治がニヤリと笑うー。
「なに?」
修司が困惑すると、
俊治は言葉を付け加えたー
「ーでも、俺の恨みがあまりにも強かったからかー
俺は成仏できなかったんだよなァ」
そこまで言うと、俊治が白目のまま邪悪な笑みを浮かべるー。
「ーけどさ、幽霊のままじゃ何もできねぇ
だから、そう、マイホーム…っていうかマイボディを手に入れて
この世界で行動してたのさー
この身体ー…阿波野俊治って男は、幽霊の俺が憑依した
”他人の身体”だー」
俊治の言葉に、呆然とする修司ー
「幽霊の俺が憑依したこの男の身体で、憑依薬ってのを見つけて
それを飲んで阿波野俊治ごと霊体になって、色々な女に憑依していたのさー」
俊治の言葉に、修司は震えるー
つまり、相手は”幽霊”であり、憑依薬を飲んで園香に憑依したこの阿波野俊治は
”幽霊に憑依された被害者”ー
幽霊となった男が、俊治に憑依し、乗っ取られた俊治が憑依薬を買い、
園香に憑依していたー。
「ーククー、だからこの男を殺しても、何も意味ないんだぜー?」
身体は死んでいるのか、唇も真っ青に染まりながら言う俊治ー。
「ーーそ…それで…!それで、あの時ー」
修司は悔しそうに歯ぎしりをするー。
園香に憑依しているこの男が、何故ペラペラと自分のことを
喋ったのか不思議だったー。
園香のフリを続ければ、少なくとも憑依などということには
永遠に気付かなかっただろうー。
だが、これで分かったー。
この男は”もし自分の居場所が突き止められても”
何も問題なかったのだー。
「ーーーへへ、お前のせいで俺のマイボディが壊れちまったじゃないかー
こいつ、なかなかイケメンで気に入ってたのになー」
阿波野俊治はそう言うと、笑みを浮かべるー。
「まぁいいー
これで、お前は殺人犯で刑務所行きー
俺は新しいマイボディとして、”お前の妻”の身体を貰うぜー?
昏睡状態でも、身体は生きてるから、使うには何も問題ねぇさ」
阿波野俊治はそう言うと、
笑みを浮かべながら
その場に倒れ込んだー
「おいっ!!おいっ!!!
ふざけるな!!園香をこれ以上…!苦しめるな!」
修司は叫ぶー。
がー、
既に通報されていたのか、程なくして修司は
駆け付けた警察官に取り押さえられて
そのまま”殺人犯”として連行されてしまったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー…」
病院ー
昏睡状態だった園香が目を覚ますー。
「ーー…!!」
看護師がそれに気づき、嬉しそうに園香に声をかけてから
先生を呼びに病室から出ていくー
「ーーーーー」
一人になった園香はニヤリと笑みを浮かべたー
「これからはこの女をマイボディにしてー
憑依薬を飲んで、色々な奴の新婚生活をぶち壊してー
金を手に入れてやるぜー」
園香はそう囁くと、
不気味な笑みを浮かべながら、一人、胸を触り始めたー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
何もかも奪われてしまったエンドでした~!
相手が幽霊だと、もうどうすることもできないですネ~…!
何とか、成仏させるしか…★
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
誰にも救いがない完全なバッドエンドですねー。
巫女とかみたいな、霊能力者でも連れてこない限り幽霊は無敵ですよね。
それにしても、気になったのですが、憑依人は幽霊なのに憑依薬がないと憑依出来ないんですかね?
コメントありがとうございます~!
幽霊は、直接憑依できるので阿波野という人に憑依していて、
その、阿波野という人の身体で憑依薬を飲んで、
そのまま阿波野の身体ごと霊体になって、さらに別の人に憑依してる感じデス~!
(この世界でマイホームとなる身体をこの幽霊は欲しがっていたので、
阿波野という男に普段は憑依したまま生活していました~!
1回阿波野から抜け出して、幽霊が別の身体に憑依すると、
この阿波野さんが目覚めちゃいますからネ~)