<憑依>暗黒城主③ ~継承~(完)

憑依されて、松崎の思考に染め上げられた
町娘、お春。

松崎と同じく”自分の欲望のためなら容赦しない”女に
なってしまう。

そして、悲劇は起きた・・・

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「ねぇ…小西様…」
着物着崩したお春が、甘い声で囁く。

「な…なんだ?」
小西がドキドキしながら言う。

「わたし…
 もっともっと贅沢な暮らしをしたいの…」

お春が無茶を言いながら、小西の顔に手を触れる。

お春は、殿である松崎 孝之進に憑依されていた。
当初、小西はお春を助けようとしていたが、
松崎に憑依されたお春に誘惑されて、簡単に落ちてしまった。

その後、松崎はお春の体に飽きて、次の体を支配するべく、
お春を憑依から解放した。

しかし、既にお春は”松崎色”に染まっていた。

松崎をそのまま体現したのではないかと
思えるほどに、
お春は、横暴で、狡猾で、自分勝手な女に成り果てていた。

優しいお春はもう、居ない。

けれどーー
愛くるしいお春ー
誘惑してくるお春に負けた小西は
そのまま夫として、付き合いを続けていた。

「--ー贅沢と言ってもなぁ…
 私の立場ではこれが限界なのだ」

小西はまだ若い。
決して、贅沢が出来るほどの収入はない。

「ーーーだったら、、、
 奪えばいいじゃない?」

お春が笑う。

「奪う…?」
小西が首をかしげると、

「小西様が新しく任された村…
 あそこの者たちから、財産をむしりとるのよ」

お春が笑みを浮かべながら言う。

かつてのお春であれば、必死に
止めたであろうことを、今のお春は、
平然とやってのける。

「---し、しかし…あの村のものたちには罪は…」
そう言いかけると、お春が立ち上がった。

「小西様、わたしと、村、どっちが大切なの?」
立場を超えて、小西に高圧的に接するお春。

「だ…だが…」

小西が言うと、お春は冷たく、低い声で言った。

「けがわらしい村人など、
 私たちのために存在しているようなモノ。

 蛆虫どもから、財産を搾り取ったところで
 何も問題などないでしょう?」

お春は本気だ。

小西にはまだ良心が残っていた。

「---お春……
 もう、やめてくれ…。

 優しいお前は、どこに行ったんだ?
 なぁ…?」

小西が言う。

小西は”優しいお春”が好きだった。

憑依から解放されたとはいえ、
今のお春は、
”お春の姿をした悪魔”だ。

「元のわたし?
 うふふふふふふ♡
 
 おかしなこと言うのね?
 
 わたしはいつだってわたしじゃない。

 小西様、小西様がやらないなら
 わたしが一人残らず下民どもを
 斬り捨てるわ」

そう言うと、不機嫌そうにお春が
刀に手をかける。

「お春!やめてくれ!」
小西はたまらずお春につかみかかった。

「どけ!」
お春が声を荒げて、
小西を振り払った。

「---欲しいモノは力で手に入れる。
 邪魔なモノは全て、排除するーー」

お春が小西を見下しながら言う。

「お…お春…」
小西はうなだれた。

今の言葉は、殿である松崎がよく言う言葉だ。

「---わかった」
小西が言う。

自分は、取り返しのつかないことをしてしまった。
お春に何と詫びれば良いのか。

あの時、殿に憑依されたお春の体を見て、
小西は興奮を覚えてしまった。

そして、欲望に負けてお春を受け入れてしまった。

もしもあのとき、自分が助けるために動いていたならばー、
お春はこんな風に”変えられて”しまうこともなかったのかもしれない。

「---私がやる」
小西が刀を手にした。

ならばせめてー。
お春にこれ以上の罪を犯させない。

それが、
自分にできる、小さな償いなのではないかー。

「---うふふ♡
 嬉しい!」

お春が、からだを小西に押し付けた。

小西は不覚にもまた、興奮してしまう。

「---わたしのために頑張ってくださいね。
 小西様♡」

お春が甘い声で囁いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

地獄ー。

そう表現するのが正しいのだと思う。

小西は
屍だらけになった村に立っていた。

村人たちの財産を手に。

「----すまぬ」
小西がつぶやく。

「あら…良い眺めじゃない」
お春が嬉しそうに笑いながら背後から姿を現した。

「----た・・・たすけ・・・」
まだ死んでいなかった老人がお春の足をつかんだ。

お春が、ゴミを見る様な目でそれを見下す。

「----あら」

老人は、優しそうな容姿のお春に
希望を抱いて、声をあげた。

「たすけてくれーーーたのむ…」

その老人を見つめて、お春は手を振り払うと、
老人の頭を踏みつけた。

「---汚らわしい!
 わたしに触れるな!」

お春が荒い口調で叫んだ。

「---うぎゃあああ!」
老人が叫ぶ。

「お春!やめろ!」
小西も叫ぶが、お春は老人を見下しながら続けた。

「---小汚い村人風情が。
 お前たちの暮らしが今まで豊だったのは誰のおかげだ?

 わたしたちのおかげではないのか?」

老人が涙を流して悲鳴を上げている。

「--ーその恩を忘れて、
 その薄汚い手でわたしに触れるなんて、
 死罪に値するわ!」

お春が叫ぶと、刀を手にして、老人に突き立てた。

「あ・・・っ…あ・・・」
老人が手を伸ばす。

その表情はーーーー
お春の育ての親、一之介によく似ていた。

「--------!!」
お春の目が一瞬、輝きを取り戻す。

松崎に染められたとはいえ、
過去を全て失ったわけではない。

潜在意識の中に、お春の両親が残っていたー。

「----わたし…」
一転して怯えた表情になるお春。

血に染まった手を見て、震えはじめる。

「お春ーー?」
小西がお春に近づく。

「わたし…わたし…
 どうして・・・・・・」

涙をポタポタを流し始めるお春。

「---お春!大丈夫か!しっかりし・・・」

「うるさい!!!!触れるな!!!」

お春が乱暴に小西を振りはらった。

「はぁ…はぁ…
 わたしは…私は、、、これでいいのよ!
 ふふふふ、昔なんか関係ない!
 これが私よ!」

お春が強引に迷いを打ち消すと、
老人の亡骸に唾を吐き捨てた。

「---ふふふ、欲しいものは力で手に入れるの!
 迷う必要なんてないじゃない!

 うふふふふふふふ♡」

小西は唖然として、そんなお春の様子を見つめた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お春は次第にエスカレートしていった。

時折、迷いのような表情を見せることもあったが、
確実にお春は、浸食されている雰囲気だった。

松崎が植え付けた闇に。

城中で気に入らない女中を、
お春は毒殺した。

街中でお春にぶつかった子供を、
お春は見せしめとして、その場でビンタし、
撲殺した。

小西に対する要求もエスカレートしている。

「ねぇ…」
裸のお春が小西の頬を触って呟く。

「---わたしのこと、すき?」
お春がささやく。

優しい笑み。

まるで、町娘だったころのお春のようだ。

だがーーー
小西は震えていた。

怖いのだ。

お春がー。

最近は、何か意にそぐわないことをすれば、
小西にですら容赦なく暴力をふるうようになっていた。

もう、小西でも、手に負えなくなっていた。

「あ、、、、あぁ…」
小西は身を震わせながら返事をした。

お春は、そんな小西を見て微笑む。

「わたし、、、
 くだらない町娘で終わるところだった。

 小西様には感謝してるわ。
 侍の妻になれたんだもの。

 あんなカビの生えた食事処なんか・・・」

小西は耳を塞ぎたかった。

お春は、あの食事処を、何よりも愛していたはずだ。
それなのにー。

「--次は、、、城よ」
お春が言った。

「---なに?」
小西が驚く。

「--松崎様を殺して、
 この城を奪うの。

 既に、わたしがからだを使って、
 重鎮のみなさまな説得してあるわ。

 あとは、わたしたちが松崎様を殺すだけ」

お春が不気味に笑う。

殿である松崎を殺す?
そんな、馬鹿な…。

「----し・・・しかし」
小西はうろたえる。

松崎孝之進は、お春の体から抜けた後、
現在は、とある盗賊の始末にてこずっていて
まだ次の少女に憑依していない。

「---いいから、やるの。
 小西様が、この城の殿さまになるの!」

お春は有無を言わさず、
小西に「やれ」と態度で示した。

「くっ・・・」

「---いい?やるのよ」
お春が冷たい声でーー
”拒否すれば命はない”と言わんばかりの声で呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

松崎 孝之進は、
次の憑依対象に憑依する前に、
最近、家臣を襲うことも出てきた盗賊グループを
始末しようとしていた。

「上手くいかぬものよ…」
松崎が盗賊の潜伏している地図を見ながら呟く。

松崎の傍らには、二人の護衛がついている。

「----松崎様」

女の声だ。

「---うん?何用じゃ?」
松崎が言うと、女は有無を言わさずに入ってきた。

お春だ。

自分がこの前まで憑依していて、
”自分色”に染め上げて解放した、あのお春。

「----お春か…
 儂は今、忙しい、用なら小西を通して・・・」

松崎はそこまで言いかけて言葉を止めた。

お春の目を見てーーーー

松崎は思ったーー

”自分が、
 欲しいモノを奪うときに、している”目”と
 同じ目をしているーーーー” と。

「------!!」
松崎は即座に立ち上がって、刀の方に向かう。

だがーー

松崎の体に痛みが走った。

「----がっ・・・・こ、、、小西…!」
部屋の脇から小西が現れて、
松崎を斬りつけた。

護衛二人は、既にお春に誘惑されているのか
何も言わない。

「----くっ・・・くそっ」
松崎は邪悪な笑みを浮かべるお春の方を見る。

”自分色”に染め上げた…
それは、つまり、
お春も”欲しいモノは力で奪い取る”女になったということだー。

自分がお春なら、やはりこうしただろう。

誤算だったー。
まさか、、、自分で染めた女にーーー。

「----ぐ・・・」

松崎が床に倒れる。

そして、最後に思う。

”自分がもし、お春なら、この後にすることはーーー”

それが、松崎のこの世で考えた最後のコトになった・・。

「お見事です。」
そう言うと、お春は微笑んだ。

そして、冷たい声で呟いた。

「----切腹なさい」

と。

「な…なんだって?どういうことだ!」
小西が叫ぶ。

するとお春は笑った。

「城主になるのはあなたじゃない。
 このわたし。

 あなたは松崎様を殺して、自らも切腹して、
 最後を遂げる、裏切り者。

 汚名をかぶって、死ぬのよ」

お春はーーー
もう、小西への愛情すらなくしていた。

「---ふ、、ふざけるな!
 お春!!私はお前の為にーー」
小西が悔しそうに叫ぶ。

「---死になさい」
お春が無情な言葉を投げかけた。

「----くそっ…お春!!
 わたしは、、、お前のことが…」

小西はその場に涙を流しながら
蹲った。

「----」
お春が冷たい表情で松崎の護衛だった二人に合図をした。

そしてーーー

「があっ!」
小西は護衛の男に刺されて、
”切腹”に見せかけられてーーー
最後を遂げた。

殿である松崎を殺し、
自らも命を絶った”裏切り者”の汚名をかぶって…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お春は、城主となった。

城主になったお春は、暴政を敷いた。
民のことなど関係ない。

全て、愚民どもは、わたしのために存在するー

お春の口癖はそれだった。

やがてーー
お春は、農民が起こした一揆によって、襲撃され、最後を遂げた。
わずか26年の人生だったという…。

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現代。

「---財布盗まれたなんて、災難だったね」

とある高校。

生徒会長の沢条 春奈(さわじょう はるな)が言う。

声をかけられた友人は、
「うん…ちょっと悲しいな」とつぶやく。

春奈の友人は、昨日、学校に持ってきていた財布を
盗まれていた。
犯人は恐らく、クラス一の不良生徒。

昨日、先生が問い詰めたところ、暴れだし、停学処分となった。

だが、財布は出てこなかった。

「---わたしも見つかったら、教えるね!」
春奈が優しく言うと、友人は嬉しそうにうなずき、
下校していった…。

・・・一人になった春奈が鞄の中を見て微笑む。

「うふふ・・・
 財布は…ここよ。

 バカ女!」

春奈は友人が出て行った方を見て、そう吐き捨てた。

お春はーー
一揆の2年前に、子供を出産していた。

その血筋は、、
現代にまで続いているー。

そう、春奈はお春の子孫だった。

そしてーー
春奈の中には、あの時、松崎が刻み付けた”闇”が残っていたー。

表の顔はまじめで優しい生徒会長。

しかし、裏の顔は、自分の欲しいものを手段を選ばず手に入れる
あの時代の松崎と同じ冷徹さを持つ少女。

「---どいつここいつもバカばっかりで、助かるわ…
 くふふ・・・」

春奈はそう呟いて、教室を後にした…。

闇は、世代を超えて、受け継がれていた…

おわり

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コメント

初の時代劇モノでした!
いかがでしたか?

時代背景などは、ある程度気にしないで書いています。
時代劇メインの小説ならちゃんと考えなくてはいけませんけれど、
この小説は憑依メインなので…!

ご覧いただき、ありがとうございました!

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憑依<暗黒城主>

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