<憑依>浮気現場の目撃者③~目撃~(完)

平然と浮気をする彼を、浮気相手に憑依して
懲らしめようとした彼女ー。

彼を懲らしめることには成功したもののー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・

”失望”ー

彼女である詩織には、そんな2文字しか
頭の中になかったー。

小さい頃から、誰よりも優しくて、
誰よりも困っている人を放っておけないー、
そんな、人間だと、
彼のことを信じていたー

しかし、正博は後輩の里菜と平然と浮気をしていたー。

「ーわ…別れる…別れるからー…だからー
 だから、sーーー」

里菜に憑依して、正博を問い詰めた際に
正博の口から出て来た言葉に、
詩織は絶望していたー。

”別れる”

そうー、正博は
浮気相手の里菜ではなく、詩織のほうを捨てる言葉を口にしたのだー。

もちろんー
あの場で浮気相手の里菜と別れてくれれば
それでよかった、という問題ではないー。

しかし、こうして、
本人の口から
”浮気相手のほうを選ぶ”言葉を聞かされるのは
詩織にとって、とても辛く、立ち直れないほどの
ダメージを与えるには十分すぎる言葉だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー先日はすみませんでしたー」

翌週ー
後輩の里菜がファミレスでの出来事を謝罪したー。

あのあと、意識を取り戻した里菜は、
記憶が飛んでいる不安や、
正博に水をかけたー…らしい状況になっていたことに動揺して、
正気を取り戻した直後に正博を置いて
逃げるように帰ってしまっていたー。

そのことを、里菜は謝罪していたー。

「ー周囲から変な目で見られてたので、ついー逃げてしまって」
里菜はそれだけ言うと、
正博は「い…いや…いいけどー…でも」と、困惑しながら言うー。

「ーーその……彼女の件」
と、正博が言うと、里菜は
「ーーえ?」と首を傾げるー。

そして、少し沈黙してから里菜は口を開いたー

「その…信じてもらえないかもしれないんですけどー…
 わたし、あの日ー…
 映画館でトイレに行ったぐらいから記憶が飛んでてー」

そんな里菜の言葉に、
正博は「えっ!?」と声を上げるー。

「ーーー…」
目に涙を浮かべる里菜ー

そんな里菜を見て、正博は
「い、いや、信じるー!信じるよ!」と言うと、
困惑した表情で里菜を見つめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大学での1日が終わるー。

正博の前に、彼女の詩織が姿を現すと、
詩織は暗い表情で「話…できる?」と、声を振り絞ったー

「ん?あ、あぁ…いいよ」
正博もなぜか暗い表情ー。

そしてー
人から目につかない場所に移動すると
詩織は言葉を口にしたー

「ー正博ー。別れよ」
とー。

「ーーーえ?」
正博が表情を歪めるー

「ーわたし、知ってるのー。
 浮気、してるよね?」

愛想も何も尽きてしまった詩織は、
単刀直入にそう言い放ったー。

”里菜に憑依して、懲らしめるー”なんてことまで
した詩織だったが、
もう完全に冷めてしまったー。

「ーーー……え……あ、いや、そのー」
戸惑う正博に対して、
詩織は「後輩の里菜ちゃんと、浮気してるよね。
弟の昭くんからも聞いてるし、わたし、知ってるの」と
言い放つと、正博は「い…いや…いや!待ってくれ!」と叫ぶー

「俺は、俺は、詩織一筋だから!
 待ってくれ!!」

泣きそうになりながら言う正博ー。

しかし、里菜に憑依していた詩織は知っているー

浮気相手の里菜の前では、”里菜一筋”と言っていたし、
”詩織と別れる”とも言っていたー

詩織は”憑依のこと”は言わないつもりだったものの、
浮気のことを口にしてもまだ”詩織一筋”なんて言い出す
正博に怒りを感じて、叫んだー

「里菜ちゃんにも、里菜一筋って言ってるよね!!!!」
詩織の目に涙が浮かぶー

「ーーーえ…そ…それはー」
正博が青ざめるー。

「ーーー…わたしと別れるって里菜ちゃんに言ったんだよね?
 だったらもういいよー
 別れよう。別れるよ!!別れたいんでしょ!?」

詩織はそれだけ言って立ち去ろうとするー。

もう未練なんてないー

いやー
相手は幼馴染ー
そう簡単に未練など、断ち切れないかもしれないー

でもー

「ーーー!!?」

がー
立ち去ろうとして、正門前までやってきた詩織の行動を、正博が止めたー

正博が詩織の前に回り込んでー
土下座したのだー

大勢の学生が通る正門前でー。

「ーーーえ…?」
詩織が呆然とすると、正博は叫んだー

「全部ー全部…話すから…
 話だけでも、聞いてくれー!」

泣きながら言う正博ー。

詩織は困惑しながらも
「ーーー…話だけなら」と、冷たく言うと
そのまま正博と共に再び場所を移動したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

”あの日のファミレス”にやってくると、
正博は言葉を口にするー

「ーー…浮気…そうだよな。浮気だよなー
 認めるよー」

正博はそう言うと、
確かに里菜とデートしていることを認めた上で、
でも本当に好きなのは詩織だけであること、
里菜は本当に”ただの後輩だと思っていること”を伝えたー

「そんなこと、信じられるわけないでしょ」
詩織が呆れ顔で言うと、
正博は言葉を振り絞ったー

「里菜ちゃんから、告白されたんだー」
とー。

「ーーー」
詩織は、”だから浮気してもいいって?”と
言葉を口にするー。

しかしー、
正博は言うー

「俺は振ったんだー。嘘じゃないー
 でも、里菜ちゃんが何度も何度も告白してくるんだー
 その都度、俺は振ったー

 10回以上は振ったー

 そしたらー
 あの子、言ったんだー

 泣きながら”付き合ってくれないとわたし、死んじゃいます”ってー」

その言葉に、詩織は表情を歪めるー

「それでも俺、振ったんだー
 でも、そしたら、里菜ちゃん俺の目の前で手首を切ってー…」

正博は困惑しながら言うー。

「ーわたしと付き合ってくれないと、わたし、死んじゃいますよ?」

里菜は、そう”正博”を脅したー

そして、里菜は、親が片親しかいなくて
小さい頃から病弱で友達も少なく、
いつもいつも寂しくてー、という身の上話を正博にしたー

小さい頃から優しくて、困っている人を放っておけない正博はー
”友達ならー”と、ギリギリの譲歩をして、里菜の望むように
デートも繰り返したー

だがー
少しでも”彼氏じゃない”雰囲気を出すと、その都度里菜は”死ぬ”と言い始めるー。

優しすぎる正博はどうすることもできず、
”里菜が一番”と言ったり、
リッピサービスを繰り返したー。

「ーーそれなら、相談してくれればよかったのに…!!」
詩織が言うと、
正博は「俺の性格、知ってるだろー…詩織を困らせちゃうと思ってー」と
涙ながらに言うー。

正博はー
”死ぬ”と言ってきた里菜を放っておけず”付き合っている状態”になってしまいー、
それを詩織に相談すれば詩織を困らせたり、イヤな気持ちにさせると考え、
”言い出せないまま、浮気状態”を続ける羽目になってしまっていたー。

「ーーー…でも、正博の話が本当だとしてもー…
 ずっと浮気を続けるつもりなの?」

詩織が不満そうに言うー

「う、浮気じゃないんだー
 俺は、詩織しか好きじゃないー
 あの子は、”後輩”としては可愛がっているけど、浮気なんかしたくないし
 今の関係にもなりたくなかったー

 でも、あの子、本当に手首を切ったし、
 俺がこうしないと、死んじゃうからー」

優しすぎて、小心者な正博がそう言うと、
詩織は”里菜に憑依した時の正博の反応”を思い出すー

確かに、里菜の身体で浮気を追求した時、
正博は”妙に怯えていた”

そしてー

「ーわ…別れる…別れるからー…だからー
 だから、sーーー」

あの時ー
”だから、死なないでー”と言いかけた気がするー。

「ーーー………」
詩織は、正博の話を聞いて、
”正博に非がない”とは思えなかったし、
困惑したものの、
”正博の話が本当なら”
自分の考えている”浮気”とは違うことも理解して、
困惑の表情を浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー
詩織は、正博の”浮気相手”である後輩・里菜を呼び出したー

「ーー…急に呼び出して、ごめんね」
穏やかな雰囲気で話に入る詩織ー。

「いえー大丈夫ですよ」
微笑む里菜ー。

真面目そうで、穏やかな雰囲気の里菜を見つめながら
詩織は、少し考えてから、言葉を口にしたー。

「ーーー…実はーーーー」

詩織は、全ての事実を話したー

自分が正博の彼氏であることー
正博から全部、里菜のことを聞いたことー
正博は、本当は困っている、ということー。

その上で、
”もしも正博の方が嘘をついているんだったらごめんね”と
付け加えた上で、
「もし、正博の話が本当ならー」と、続けて言葉を口にすると、
里菜はクスクスと笑ったー

「わたし、先輩同士が恋人関係なの、知ってましたから
 大丈夫ですー」

里菜の言葉に、
詩織は「えっ…」と、困惑するー。

後輩・里菜は”詩織と正博が付き合っている”のを知った上で、
正博とデートしていたというのだろうかー。

「じ、じゃあ、何でー」
詩織が言うと、里菜は
「先輩を、あなたから奪おうとしたんです」と、微笑んだー。

里菜はーーー
正博の性格を熟知した上で
”死ぬ”と言ったり、悲しそうな身の上話をしたりして、
正博が”里菜とデートせざるを得ない状況”を作り出して、
正博とデートしていたー

全ては、詩織から正博を奪うためー

一人っ子で甘やかされて育った里菜は
小さい頃から”欲しいものは”両親が何でも買ってくれていたー。

そんな生活が続いたまま大学生になった里菜は
今でも”欲しいものは手段を択ばず手に入れる”人間になってしまったー

「あ、そうそうー
 親が片方いないのも嘘ですし、 
 わたしが病弱って言うのも嘘ですー

 でもー
 ”可哀そうな女”になれば、
 先輩みたいな人はコロッ と、 ねー?」

里菜がニヤァ…と笑みを浮かべるー

「ーーー…里菜ちゃんー……」
詩織は表情を歪めたー

どんな理由であれ、結果的に”浮気”していた正博は確かに悪いー。
優しさからでも、そこは反省してほしいー。

でもー
本当の”邪悪”は、
本当の悪魔は、この里菜の方だったのだと悟るー。

「ーーでも、大丈夫ですー
 わたし、飽きっぽい性格でもあるのでー

 もう、先輩のことは、飽きちゃいました」

何も悪びれる様子もなくそう言い放つ里菜に対して、
詩織は戸惑いの感情すら覚えるー。

「ーーーそんな目で見てー…
 わたしは別に、悪いことはしていませんよ?

 何の法律にも違反していませんし、
 誰もわたしを裁くことなんてできませんー。

 違いますか?」

里菜の言葉に、詩織は、込み上げてくる感情を抑えながら
「ーー…それは、分かってるよー」と、
挑発に乗らないよう、穏やかに言い放ったー

「ー正博があんな性格で、ハッキリ言えなかったのも、
 良くないけどー

 でもー」

詩織はそこまで言うと、里菜のほうをまっすぐ見つめて、
ハッキリとした口調で言い放ったー

「2度と、正博には近づかないでー」

その言葉に、里菜はクスッと笑うとー

「飽きたって言いましたよねー
 大丈夫ですー

 わたしには”次”の目標が出来ましたからー」

里菜が穏やかに笑うー。

「ーーー…あんまり、こういうこと、続けない方がいいと思うよ」
詩織はそれだけ言うと、そのまま里菜を置いて
立ち去っていくー。

里菜の言う通り、里菜を裁くのは難しいー。

だからー
これが、詩織にできる限界だったし、
あとは、今後、里菜が”どう動くか”だー。

何もしてこなければー
それ以上、こちらとしても何もすることはないー

後日ー

正博に里菜の件を説明すると、
正博は驚くと共に、
詩織に何度も何度も謝罪したー

里菜が”死ぬ死ぬ”言ってたのも、
正博を縛り付けるための演技だったようで、
里菜は今も普通に、大学に健在だー。

詩織は、小さい頃と同じように
まるでお姉ちゃんのように正博のことを叱りながらも、
破局という最悪の結末は免れるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

数か月後ー

「ーーー次の目標ー って、言いましたよねー?」

部屋で一人呟く”詩織”ー

「ーあの日、映画館でトイレに行ったあと、
 何で、わたしの意識が少し飛んでたのか、
 ようやくわかりましたー」

にこっと笑う詩織は、
詩織とは違う、不気味な笑みを浮かべたー

「”こういうこと”だったんですねー」

あれから数か月ー
里菜は”映画館~ファミレス”の記憶が抜け落ちている原因を
一人で調べ続けてー
そして、詩織と同じ”憑依薬”にたどり着いてしまったー

”執念深く、絶対に仕返しする”性格でもある里菜のー
”次”の目標はー

”詩織に仕返し”することだったー

「ーー先輩の身体で、悪いことい~っぱいしちゃおうかな♡」
里菜に憑依されてしまった詩織は唇に指をあてながら
小悪魔のように微笑むと、
そのまま部屋の外に向かって歩き出したー。

そして、その数日後ー

彼はー
”浮気現場”の目撃者となったー

「ーーし…詩織ー?」
詩織の家に遊びに行く約束をしていた正博ー。

だが、正博が家を訪れると、
”里菜に憑依された詩織”は、
知らない男を部屋に連れ込んで、エッチなことを
している最中だったー

「ーー…え…」

”詩織が憑依された”などとは知らない正博は、
知らない男と嬉しそうにエッチなことをしている最中の
詩織を見てー

”彼女の浮気現場”を目撃して、
ただ、唖然とすることしかできなかったー

おわり

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コメント

タイトルの”浮気現場の目撃者”とは、
最後の場面の”憑依された彼女の浮気”を目撃する彼氏のことでした~!

彼女の方は最初から浮気を知ってましたし、
浮気相手に憑依しただけで、目撃とはちょっと違いますからネ~笑

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    前の類似作程じゃないですが、結局、この話も主人公の詩織はハッピーエンドにはならなさそうですね。
    それにしても、里菜、性格最悪ですね。まあ、理由はどうあれ、詩織は里菜に憑依したのだから、因果応報といえば、因果応報な気もしますが。
    里菜が詩織をどこまで滅茶苦茶にするつもりかは分かりませんが、半端なやり方をすれば、自分が憑依されたことを理解した詩織が、里菜に報復憑依、みたいな展開もありそうですよね。

    やるなら、詩織が復讐とか考えられなくなるように、完全に廃人になるまでやるか、それとも、詩織の命を奪うくらいまでするとかしないと、里菜自身が後々、危うくなるでしょうね。

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      詩織がハッピーエンドになるためには、
      問い詰めたあとに、憑依で先に仕留めてしまうしかなかったですネ~笑

      詩織に憑依した里菜がどこまでするつもりなのかは、
      謎に包まれています…☆