<憑依>浮気現場の目撃者①~後輩~

彼はー
彼女に内緒で”浮気”をしていたー。

しかし、彼女は”彼氏の浮気”にとっくに気付いていて、
”浮気相手の女”に憑依して彼氏に仕返しをしようと考えていたー

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「ーあ、先輩~!」

”先輩”の姿に気付き、手を振る女子大生ー

「ーお待たせ!里菜(さとな)ー」
やってきた男子大学生・矢島 正博(やじま まさひろ)が
そう言うと、里菜は嬉しそうに微笑むー。

正博と里菜は同じ大学に通う先輩と後輩の間柄ー。

正博には、同じ大学に通う彼女がいるー。
しかし、その彼女は、今、一緒に歩いている”里菜”ではないー。

里菜は正博の”浮気相手”だー。

彼女は小さい頃からの幼馴染の詩織(しおり)という子で
今でも仲良しだが、
その一方で、この里菜とも”浮気”をしているー

そんな状態だったー

正博は小さい頃から”女好き”ー。
後輩・里菜との浮気もそんな性格によるものだろうー。

「ー先輩とこんな風に一緒にお出かけできるなんて
 ホントに、夢みたいですー」

嬉しそうに言う里菜ー。

里菜は”大人しい”タイプの女子大生で、
大学でもいつも同じように大人しいタイプの女子と
一緒にいることが多いー。

サークルの活動を通して里菜と知り合った正博は、
そんな里菜と次第に親しくなってー
今はこうして”浮気”しているー。

正博は里菜に彼女の詩織の話は一度もしたことがなく、
里菜側は恐らく、本気で”先輩と”付き合っているという認識だー。

「ーーははは、俺も夢みたいだよー」
正博はそんな言葉を呟きながら
今日も里菜とのデート…いいやー、”浮気”を
堪能するのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「ーおはよ~!」
”本来の彼女”である詩織が正博を見つけると
手を振りながら近づいてくるー。

詩織はどちらかと言うと”お姉さん”みたいなタイプの子で、
同年齢であるものの、小さいころから
よく正博のことを叱ったり、時には助けたり、
本当の”お姉ちゃん”みたいに思うこともあったー。

しかもー
小学校から大学まで全部同じ学校ー、と
その縁は切っても切れないような感じで、
高校2年の時の文化祭の時に告白、今では
彼氏と彼女の関係になっていたー。

「ーーお、詩織!おはよう」
正博が、詩織に向かって微笑むー。

”浮気”相手の里菜のほうは、
後輩であることや、そもそも学部などが異なるために、
この広い大学でばったりと出くわすことは少ないー

それでも、詩織と鉢合わせしたことは確かにあるのだが、
里菜には詩織のことを”幼馴染”と説明してあるし、
詩織には里菜は”サークルの後輩”だと認識されているー。

”お姉さんタイプ”の詩織ー
”守ってあげたくなるような大人しいタイプ”の里菜ー

二人は全く違うタイプの女子大生だったー。

「ーーあ、そういえば来週の土曜日だけど、
 ちょっと用事があるからー」

正博がそう言うと、詩織は「あ、じゃあ、日曜日の方がいいかな?」と
二人の予定について相談を始めるー

「そうそう、実家の弟が、彼女を連れて来るとかで、
 俺もちょっと実家に顔を出してこようかなって」

正博の言葉に詩織は「へ~!昭(あきら)くんだったよね?彼女できたんだ~」と笑うー。

「ーははは、まぁ~俺もびっくりしたけどなぁ~
 どんな子だかちょっと見て来るよ」

正博のそんな言葉に、詩織は「昭くんの彼女さんに手を出しちゃだめだよ?」と
冗談を口にするー

「ーおいおいおい、俺は詩織一筋だぞ~?
 しかも、弟の彼女に手を出したりしないさ」

正博が苦笑いしながら、詩織の言葉を否定すると、
詩織も笑いながら、その後も雑談を続けたー。

やがてー
雑談が終わり、二人はそれぞれの授業に向かい始めるー。

しかしー
立ち去っていく正博の背中を見つめながら
詩織は静かに呟いたー

「ーー浮気ーしてるくせに」
とー。

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土曜日ー

正博は、予定通り”浮気相手”である里菜との
デートを楽しんでいたー。

「ー俺は里菜一筋だからさー」
嬉しそうに言う正博ー

つい先日は、彼女の詩織に”俺は詩織一筋だからさ”などと言っていた
正博だったが、今日は浮気相手の里菜にその言葉を
口にしていたー。

「ー先輩、絶叫マシンとか大丈夫ですか?」
里菜が笑いながら言うー

「ーーえ、あ、あぁ~、まぁ」
正博はそれだけ言うと、ジェットコースターに並んでいる人の
列を見て、時計を見てから
「そ、そうだー、先にお昼にしないか?」と笑うー。

「ーあ、そうですね!」
正博に続いて時計を確認した里菜は
嬉しそうにそう言うと、
正博は「俺が奢るよ」と、笑いながら
里菜と共に、遊園地内のレストランへと向かったー。

・・・・・・・・・・・・・・

「ーーそうだよねー。うん、ありがとうー」

正博の彼女・詩織は
正博の弟・昭と電話で話をしていたー。

正博は知らなかったが、
小さい頃から詩織のことを”お姉ちゃん”と呼んで懐いていた
弟の昭は、詩織の連絡先を知っていて、
たまに連絡を取っていたー。

二人の間に恋愛感情は全くなく、
単純に”兄の彼女”と”彼氏の弟”の関係でしかなく、
二人で遊びに行ったりすることは一切なかったものの、
昭は”兄・正博”の女癖の悪さを知っていて、
時々、心配して詩織に連絡を入れていたのだー

だからー
詩織は”里菜”との浮気を知っていたー。

”それにしても兄貴、俺に彼女ができた、なんて
 嘘までついてー”

電話相手の昭が苦笑いするー。

”たぶんまぁーその、浮気ですねー
 なんか、兄貴がすいません”

昭がそう言うと、詩織は「昭くんは別に悪くないしー」と
戸惑いながら”急に連絡してごめんね”と呟くー。

正博の浮気を疑った詩織は、
正博の弟・昭に連絡して
今日、本当に実家に戻っているのかを確認したのだー。

そして、その結果ー
正博は実家になど帰っておらず、
弟の昭は”彼女を家に連れて来る”どころか、
彼女がいないことも判明したー。

つまり、土曜日の予定は完全な嘘だったのだー。

”ーわたしとのデートを日曜日にして、
 土曜日に浮気相手とデート?”

詩織は不貞腐れた様子で一人、頬を膨らませるー

浮気されたことも当然そうだがー、
”浮気相手が優先”になっていることも、
詩織にとっては不愉快極まりなかったー。

”ーーそもそも俺、バイクが恋人なんで、
 彼女とかこの先もずっと作る予定ない、って
 兄貴に言ってるのに…

 兄貴も嘘が下手だなぁ”

昭はそんなことを呟くと
”あ、じゃあ、そろそろ俺、出かけるんで失礼します
 兄貴のこと、懲らしめてやってください”と、
笑いながら、そう付け加えたー。

「ーうん。ありがとうー」
詩織はそう呟くと、ため息をつきながら電話を切ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日の日曜日ー。
デートの最中に、詩織は「昨日、昭くんの彼女さん、どうだった?」と、
正博に聞いてみたー

すると、正博は”昭と詩織が連絡を取り合っている”とは
夢にも思っていないのか
平気でペラペラと嘘をつき続けるー。

「ーーー…」
詩織は、正博のそんな反応を心底残念に思い、
そして、深々とため息をつくことしかできなかったー。

こんなに、平然と嘘をつく人だったなんてー、と
強いショックー、強い怒りー、強い失望ー、
色々な感情が心の中に蓄積されていったー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そしてー
それから半月が経過したー。

詩織は”あるもの”を手に、
正博を”懲らしめよう”と考えていたー。

それがー
”憑依薬”ー

詩織はー、浮気相手の里菜に憑依してー
”浮気現場をその目で目撃しよう”と、考えていたー

浮気相手の目で、浮気現場を目撃するー。

そしてー
正博に”どうしてそんなことをしたのか”
問い詰めるー。

「ーーー…正博ー……」
詩織は、憑依薬を手に、悲しそうに正博の名を呟くと、
そのまま憑依薬を飲み干して、一人、部屋の中で意識を失ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー大丈夫ですか~?」
後輩の里菜が、少し笑いながら正博のほうを見つめるー。

正博は「え、あ、あぁ!大丈夫!楽しかったよ!」と、
少し青ざめた様子でそう言い放つー。

今日の”浮気”は映画館ー
里菜の見たい映画を、ということで見た映画が
ホラー映画だったために、正博は少しビビっていたのだー

「で、でも、里菜がああいうの好きだとは思わなかったー」
正博が言うと、
里菜は「え~?そうですか~?」と、微笑むー。

チラッとスマホを確認して、
”彼女”である詩織から連絡が来ていないかどうかを
確認する正博ー。

連絡が来ていないことを確認すると、
そのまま里菜のほうを見つめて
「今日は何食べたい?俺が奢るよ」と、言い放つー。

”浮気はいけないこと”という自覚はあるのか、
浮気が詩織に発覚することを、正博は恐れていて、
二人での”デート”中には特に気遣っているー。

大学内で会う分には”サークルの相談で”みたいな言い訳もできるー。

しかし、休日の映画館や遊園地ー
そういった場所で万が一鉢合わせしたり、見られてしまえばー
そこで、お終いだー。

「ーあ、その前にトイレに行ってきていいですか?」
里菜がそう言うと、正博は「あ、いいよ。じゃあ俺はここで待ってるからー」と、
穏やかに答えたー

「ーーーー」
映画館のトイレにやってきた里菜はー
トイレを済ませて、
手を始めるー

鏡を見つめながら少し笑みを浮かべたその時だったー

「ーー!?」
鏡にーーー
青い人影のようなものが一瞬見えた気がして振り返るー

「ーーーき、気のせい…かな?」
里菜はそう呟きー、再び正面を向いて手を洗い始めるー

がー
その直後、
身体にずぶっ、と、言葉に言い表せない不気味な感触を
感じてー
「うっ!」と声を上げるー。

声と共に身体をビクッと震わせた里菜はー
そのまま何事もなかったかのようにー
けれどもイライラしているのが分かる雰囲気で
手洗いの続きを始めたー

「ーーーー後輩の女の子と浮気するなんてー許せない」
と、呟きながらー。

・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー」

そんなことも知らず、正博は
映画館の休憩スペースで
スマホを確認しながら、
彼女である詩織に適当なメッセージを送るー。

”普通に休日を過ごしている”と言わんばかりの
内容のメッセージだ。

その送信を終えて、
視線をスマホから外すとー
目の前にー
里菜がいたー

「わっ!びっくりしたー…」
正博が驚いて少し声を上げると、
里菜は「誰に連絡してたんですか~~~????」と、
少し問い詰めるような口調で聞いてきたー

「ーーえ…あ、いやーそ、そのー」
気まずそうにする正博ー

正博はー”詩織”のことを里菜には言っていないー

里菜には”詩織”を幼馴染だと言ってあるし、
詩織には”里菜”をサークルの後輩だと言ってあるー。

正博からすれば、
彼女の詩織には、浮気は知られていないし、
後輩の里菜には、”正博には彼女がいる”ということを知られていないー
…つもりだー。

だからこそ、まさか”詩織にLINEを送った”などと言えるはずもなく、
表情を曇らせたー。

「ーーーあれ~?先輩ー
 もしかして、わたし以外の女がいるとかー」

里菜がニコニコ微笑みながらそう言うと、
突然真顔になって、低い声で

「ないですよね?」
と、正博に言い放ったー

「ーーえ…あ、う、な、ないよ!ないないないない!
 俺は里菜一筋だからー」

その言葉にー
”里菜に憑依した詩織”はー
思わず露骨に舌打ちをしてしまったー

”里菜一筋ー”

浮気されていたのは分かっていたー

でもー
面と向かって浮気相手一筋だと言われるとー

「ーーーー」
ギリッと歯ぎしりをして、正博を睨みつけた里菜は、
少し沈黙してから、ようやく笑顔を浮かべたー

”ーーまだ、我慢しなくちゃー。
 正博が”どんな風に”浮気してるのか、
 もっと知っておかないとー”

里菜に憑依した詩織はそう心の中で自分に言い聞かせながらー
青ざめる正博のほうを見て
「ーじゃあ、”デート”の続きしましょ?」と、
怒りを隠し切れない様子で、微笑んだー。

②へ続く

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コメント

浮気相手の後輩に憑依した彼女…!
ピンチの彼氏の運命は…☆?

明日の②以降も、ぜひ楽しんでくださいネ~!
今日もありがとうございました~!

コメント

  1. 匿名 より:

    前にも浮気彼氏に憑依薬で復讐するタイプの話ありましたね。
    あの話では、わざわざ、彼氏の目の前で憑依薬の存在を教えたせいで、結果的に彼女もみんな含めて、地獄みたいなことになりましたが、この話はどうなるか、楽しみですね。

    ところで、少し先のスケジュールに憑依の目撃者という、この話に似たタイトルがありますが、本作に関係あったりしますか? それともただ、似たタイトルというだけですかね?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆

      ”憑依の目撃者”のほうは、
      ”憑依した瞬間を見られてしまう”お話なので、
      題名は意図的に少し意識しましたが、内容は全く関連はないですネ~!