彼女の姿に変身した飼い猫ー。
本物の彼女と、
猫が変身した彼女ー
二人の彼女との共同生活は続くー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
飼い猫のみーちゃんが、
彼女の裕香に変身してから2か月が経過したー。
今ではすっかり”彼女が二人いる”生活にも慣れて来た博人ー。
裕香がみーちゃんにペンダントをプレゼントすると、
みーちゃんは喜んで、ペンダントを宝物にして、身に着けー、
いつも以上にウキウキと手伝いをし始めるー。
だがー、
その生活は、次第に綻びが見えて来たー。
「ーーただいま~!」
「ーおかえり!」
今日は仕事が休みだった博人が、
仕事から帰ってきた本物の裕香を出迎えるー。
博人は、
”裕香は裕香として”今までと変わらず優しく接していたし、
恋愛的な意味での”愛”を抱いていたのは裕香のほうだけー。
元々、博人は浮気をするようなタイプではないし、
猫のみーちゃんが裕香に変身したあとも、
”もう一人の裕香”とエッチなことをしたり、
”もう一人の裕香”に恋愛感情を抱くようなことはなかったー
「ー博人さん!さっきのー」
「ーあ!みーちゃん!えっとそれはー!」
笑いながらメイド服姿の”もう一人の裕香”と話をする博人ー。
博人は、”もう一人の裕香”のことは今まで通り
”みーちゃん”として可愛がっているつもりだったー
けれどー
「ーーーーーー」
もう一人の裕香と楽しそうに話をする博人のことを見てー
本物の裕香には、複雑な感情が芽生えてきていたー。
「ーーー……」
”わたしがいない間に”
二人はどんな風に過ごしているんだろうー…
そんな風に思ってしまうー。
もちろん、博人は、”もう一人の裕香”と、
あくまでも”猫”相手として接しているのは分かるー。
変わらず、わたしのことを大事にしてくれているのも分かるー
けれどー
それでも、裕香は、複雑な感情を抱いてしまうー。
メイド服姿のもう一人の裕香と、話をしている博人を
見つめるたびに、ずきずきと心が悲鳴を上げるー。
分かっているー。
博人はそんな人間ではない、とー。
こんなことを思ってしまう自分に自己嫌悪を感じながら、
裕香は「ーーなになに~?何話してるの~?」と笑いながら
二人の会話に割って入って行ったー。
「ーー」
会話に乱入されたからか、もう一人の裕香が
一瞬頬を膨らませるような仕草をしたものの
「裕香さん~!聞いて下さいよ~!」と笑いながら
言葉を続けたー。
キャットフードを食べるもう一人の裕香ー
その光景を眺めながら、
裕香と博人はいつものように晩御飯を食べるー。
二人の雑談は、いつものように盛り上がるー。
そんな中ー
博人は”ある言葉”を口にしたー
「裕香…あのさー」
博人の言葉に、裕香は「え?」と首を傾げると、
「ー俺たちの仕事も、だいぶ落ち着いてきたと思うしー
約束通りー…来年になったらー」
博人は少し恥ずかしそうにしながら、
息を吸って言葉を続けるー。
「来年になったらー…そのー…結婚…
あ、いや、裕香が良ければ、だけどー」
不器用な一面も持つ博人が少し顔を赤らめながらそう言うと、
裕香は嬉しそうに「博人…」と、微笑んだー。
「ーー本当の家族になろうー」
そんな言葉に、裕香は「うんー」と、嬉しそうに頷いたー
二人は、来年の春の裕香の誕生日に入籍することを約束して、
結婚後の生活ー
結婚後の色々な予定ー
そんな、”夢”を話し合うー。
最近は、猫のみーちゃんと博人が話をしているのを見て、
”博人を取られちゃうんじゃないか”だとか、
そんなことばかり思っていた裕香だったがー、
久しぶりに穏やかな気持ちで博人と話をすることができたー
「ーーーー」
そんな二人の様子を黙って見つめる
メイド服姿の”もう一人の裕香”ー
「ーーーーーーーーーーーーー」
もう一人の裕香…みーちゃんは、
心の中である決断をしていたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
今日は博人が仕事で、裕香が休みー
裕香は、もう一人の裕香と一緒に家事をやりながら
「いつも手伝ってくれてありがとうー」と
お礼の言葉を口にするー
だが、今日はもう一人の裕香に元気がないー
「…みーちゃん。大丈夫?」
心配になった裕香がそう呟くと、
もう一人の裕香は「あ!はい!だ、大丈夫です!」と、
慌てた様子で呟いたー
「ーーーーーーー」
”もしかして、わたしと博人の結婚のこと、気にしてるのかなー?”
そんな風に思いながら、裕香は
「ーどんな姿になっても、みーちゃんはみーちゃんだから、
気にしなくて大丈夫だからねー」と、優しく微笑んだー
結婚後も、みーちゃんはみーちゃんー。
そんな励ましの言葉ー
ただー
その中に1パーセントだけ
”あなたは飼い猫なんだから、博人のことを好きになっても、無駄だからね”
という黒い感情も、少しだけ込められていることをー
言葉を発した裕香自身も自覚していてー
”わたしってー…なんか嫌な感じだよね…”と、
自分の発言を少しだけ悔いながら、ため息をついて、
もう一人の裕香と共に、家の中の掃除を始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その翌日だったー。
博人と裕香が仕事に出かける準備をしていると、
もう一人の裕香が神妙な面持ちで呟いたー。
「ーーー……わたし、出ていきます」
とー。
「ーーえ?」
博人も裕香も困惑するー。
「ー博人さんと、裕香さんー
結婚するみたいですからー
これ以上、猫のわたしがここにいたら、邪魔かなってー」
もう一人の裕香は、少し寂しそうに呟いたー
「そ、そ、そんなことないよ!ね、博人!」
慌てた様子の裕香に、博人は「そ、そうだよ!」と、
もう一人の裕香のほうを見つめるー。
二人とも”邪魔者扱い”はしていないし、
これからもみーちゃんと一緒に暮らしていくつもりだったー
そんなみーちゃんの突然の言葉に驚く二人ー。
「ーーー……ありがとうございますー
でも、わたし、こんな姿になってしまってー
このままじゃ、迷惑が掛かるのでー」
もう一人の裕香がそう呟くー
「ーそんなことないってば!」
本物の裕香が必死に、みーちゃんを慰めようとしたが、
みーちゃんの決意は固かったー
朝からー
珍しく今日はメイド服を着ていないー、と思っていたが
もう、今朝の段階で、みーちゃんは”ここを去ろう”と
決意していたのだろうー。
「ーー今までお世話になりましたー
博人さんー
拾ってくださった御恩は、絶対に忘れませんー」
もう一人の裕香はペコリと頭を下げると、
そのまま玄関から飛び出して行ってしまうー。
「あ!待って!」
仕事前ではあったものの、放ってはおけない、と
裕香が、もう一人の裕香の後を追って、家から飛び出すー
「裕香!」
博人も慌てて後から飛び出すと、家の戸締りをしてから、
二人はアパートの前の通りに出るー。
仕事までには、まだあと数十分余裕はあるー。
裕香は「博人はあっちを!」と、反対側の道を指さすと
博人は「わかった!」と、叫びながらそのまま
お互いに別々の方角に向かって、”みーちゃん”を探し始めるー。
博人は、みーちゃんのことも心底心配をしていたー。
もちろん、恋愛感情はないし、
裕香の姿をしていても、
博人はあくまでも、もう一人の裕香を”猫”として可愛がっているー
けれど、猫も大事な家族の一員だー。
博人は必死に、みーちゃんの姿を探し続けたー。
だがー
そのまま”みーちゃん”が見つかることはなく、
裕香と連絡を取り合い、
二人はお互いに仕事に向かうことになったー。
そして、その日の夕方ー。
裕香から、連絡が入りー、
裕香から告げられた言葉はー
”みーちゃんが……”
仕事が終わり、博人が慌てて裕香と合流するとー
近所の空き地で”焼死体”が見つかったことを、裕香は
改めて説明したー。
燃えやすい何かを浴びていて、
身元不明、とのことだったもののー、
その焼死体には、裕香がみーちゃんにあげたペンダントが
身についていたことから、
その焼死体は、今朝、家を飛び出して行ったみーちゃんだということが
博人にも分かったー。
「ーーみーちゃん…」
「ーーー」
寂しそうな表情を浮かべる博人ー。
”みーちゃん”は、二人の結婚を邪魔しないようにー、と
家を飛び出し、そして、二人の前から姿を消してしまったー
きっとー
”裕香の姿のままじゃ、裕香に迷惑が掛かる”とでも
考えてしまったのだろうー。
博人は寂しそうに、焼死体が見つかったとされる場所の付近で
静かに手を合わせると、「ごめんなー」と、悲しそうに呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雨の日に突然出会ってー
家に拾ってきて飼うことになってー
ある日突然、裕香の姿になってー
ドタバタした日々だけど、何となく楽しかったー。
そんな風に思いながらもー
時は過ぎていき、みーちゃんが自ら命を絶ってから
1カ月以上が経過したー
「ー今日は裕香、休みだっけ?」
博人が言うと、裕香は「うん!」と微笑むー。
「そっかー。じゃあ今日は帰り、俺が買い物してくるよ」
博人がそう言いながら、
買ってくるものを確認しつつ、仕事に向かう準備をするー
「いってらっしゃい」
「いってきますー」
そんなやり取りをしながら、博人は玄関の扉を開けて
そのまま仕事へと向かったー。
「ーーーー」
一人残された裕香は少しだけ微笑むー
”1か月前”のことを思い出すー
「ーみーちゃん!どこにいるの?
みーちゃん!」
裕香に変身した猫・みーちゃんを探す裕香ー。
みーちゃんを探すうち、ほとんど人のいない
近所の空き地にやってきた裕香はー
背後から突然、何者かに何かを注射されて、
そのまま倒れたー。
「ーーーえ…」
少しして、裕香が目を覚ますとー
裕香は、表情を歪めたー。
”裕香の姿になった猫”が、そこにいたのだー
「ーみ…みーちゃん!よかったー!」
裕香がそう呟くと同時にー
もう一人の裕香は笑みを浮かべたー。
「ーー博人さんは、わたしのものー。」
とー。
「ーーえ?」
裕香が困惑すると、
みーちゃんが変身した裕香は笑みを浮かべたー
「博人さんは捨てられていたわたしを助けてくれたー
優しくしてくれたー
でも、博人さんの一番はわたしじゃなくて、あんたー」
みーちゃんが変身した裕香は、そう言うと笑みを浮かべたー
「ずっとずっと、裕香さんがジャマだったー。
博人さんと結婚ー?
そんなこと、絶対にさせないー」
そう言うと、もう一人の裕香は笑みを浮かべながら
何か液体の入った容器を裕香にかけるとー
そのまま裕香に火をつけたー。
”裕香から貰ったペンダント”を、”本物の裕香”にあえてかけてー、
裕香を燃やしたー
注射の影響で、身体が思うように動かなかった裕香は
「み…みーちゃん…!?」と、呆然としながら呟くー
「ーー裕香はひとりしかいらないー
博人さんと結婚するのは、わたしー」
”もう一人の裕香”はそう呟くとー、
思うように身体が動かず、燃えていく裕香を
笑みを浮かべながら見つめたー。
「ーーさようなら、裕香さんー」
この日ー
焼死したのはー
”裕香に変身したみーちゃん”ではなく、
”本物の裕香”のほうだったー
けどー
「ーーー」
そのことに、博人は気づいていないー。
裕香の姿で、博人や本物の裕香としばらく暮らして
”裕香に成りきることができる”と判断したタイミングで、
本物の裕香を処分したー
「ーー博人…大好き♡」
みーちゃんが変身した裕香は、
一人、自宅でそう呟くと、
今日も嬉しそうに、博人の帰りを待つのだったー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
猫が彼女に変身してしまうお話でした~!
恐ろしい結末に…☆!
今日もお読み下さりありがとうございました!!
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