<憑依>遺言状~生無き者に語る口はない~ 第三章

”憑依”と”遺言”を悪用して、
何でも自分の思い通りにしてきた男・翔ー。

そんな彼の行く末は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大林が”自殺”したー。

大学にも、その情報が入りー、
”あいつ、やっぱ彼女の死に関係してたんじゃねえの?”
”違うだろ…?彼女に自殺されて、びびったんだろ?”
周囲が色々な噂をする中、翔は大学の構内を歩いていたー。

昨日ー
翔は、大林に憑依して”自殺”したー。

少し前には大林の彼女・明奈に憑依して”自殺”させているー。
その際に”もう、彼氏に耐えられない!”という遺言状を
遺したことで、大林は大学内でも冷たい目で見られるようになり、
当の本人は、”明奈は自殺なんかじゃない!”と犯人探しに
躍起になっている状態だったー。

そしてー
昨日ー

”彼女を自殺に追いやったのは俺だー。
 責任を持って、俺も今日、ここに死を選ぶー”

と、いう”遺言状”を大林に書かせて自殺したことで、
”やっぱ大林のせいだったんじゃねぇか”という
雰囲気に、大学中が染まっていたー。

「ーー翔ー」
背後から、翔の彼女であり、幼馴染の麻紀が声を掛けてくるー。

翔は、少し前に”自殺”した亜理紗を始め、たくさんの
”遊び相手”がいるが、この麻紀のことだけは大切にしていて、
小学生時代には、麻紀をいじめていた男子を”自殺”させたこともあったー。

今でもその時のことはよく覚えているー。

”僕が、麻紀ちゃんをいじめました”
と、乗っ取ったその男子の身体で、いじめを全て自白する”遺言状”を書き、
自殺させたのだー。

あの時
”初めて”遺言状を書いてから自ら命を絶ったー

翔は、いじめっ子の自殺に驚きながらも、
それまで落ち込んでいた麻紀が元気になっていくのを見て
”自分はいいことをした”と、そう思っていたー

それからだっただろうかー。
翔の”遺言状”に対する異常な執着はー。

”遺言状”に残した言葉は、
何よりも強い言葉となりー、
周囲に響き渡るー

それがたとえ、嘘であろうともー。
既に、本人”嘘かどうか確認する手段”も、ないのだからー。

「ーどうした?麻紀ー」
イケメンな翔は、今日もさわやかな笑みを浮かべながら
麻紀のほうを見つめるー。

麻紀は不安そうにしながら「大林くんー…自殺しちゃったんだってね…」と
そう、呟いたー。

「ーあぁ…残念だなー」
翔は、悲しそうな表情を浮かべながら
空を見上げるー。

その場で雑談をする二人ー。

しばらくすると、翔は時計を確認してから、
「あ、そろそろ俺、行くよ。またあとで」と、
笑いながら手を振るー。

「ーうん」
麻紀はそう言いながらも、立ち去っていく翔を見つめながら
表情を歪めたー。

少し前ー…

大林の彼女である明奈が”自殺”したあと、
大林は”明奈は自殺なんてしない!”と、手当たり次第、
大学内で何か事情を知る人間はいないかどうか、
聞いて回っていたー。

当然、大林は、翔の彼女である麻紀のところにもやってきていて、
”何か思いあたることがないかどうか”を、
聞いてきていたー。

必死に”何か少しでも引っかかることがあったら教えてくれ”と
彼は何度も何度も言っていたー。

”明奈が自殺するわけがない”
とー。

”誰かに殺されたんだ”
”誰かに脅されたんだ”
”誰かに無理やり、自殺させられたんだー”

そんなことまで言っていたー。

当初、麻紀は思い当たることがなかったため、
大林に対しても「ごめん…力になれそうにないー」と、返事をしていたが、
なんとなく”自殺した明奈”のことを考えていたときに、
あることを思い出したのだー。

麻紀は”小さい頃”から、”身の回りの人間が何度か自殺”しているー。

”どうしてわたしの周りでは、こんなに自殺する人が多いのだろうー?”
などと、思ったこともあるー。

”誰かに無理やり、自殺させられたんだー”

麻紀は、大林のそんな言葉が引っ掛かったー。

小さい頃、麻紀をいじめていた男子もそうだったがー
”絶対に自殺なんてしそうにない人間”が、これまで麻紀の周りで
何度も自殺しているー。

今まで、そんなことを考えたこともなかったがー
もしも”誰かが無理やり自殺させているとしたらー?”
そんな風に、麻紀は思ってしまったのだー

そして、ふとーーー

その数日前に、彼氏の翔と話したときに翔が
”大林のやつ、また彼女自慢がうるさくてさぁ”と、
笑いながら言っていたことを思い出したー

「ーーーーーーーーーーー」

麻紀が小さい頃から今までに見た
”身の回りの人間の自殺”はー、
全て”翔”に何らかの形で関わっている人間ー

そしてー
いつも、”自殺”が起きる前に、
翔は、その人物のことを麻紀に対して、口にしているー

そんなことを、思い出したー

翔は意識していなかったがー
いつも”憑依で誰かを自殺させる前に”
身近な人間に”その相手の話題を出す癖”が、あったー。

翔自身も自覚していない”誤算”ー
とも言える”癖”だー。

そんな中、麻紀は、翔と大林が何やら少しもめ気味で
話をしているのを見かけたー。

その直後ー
大林は自殺したー。

「ーーーーーーーーーーーーー」

”麻紀ちゃんの周りで、小さい頃から自殺する人が多い?”

麻紀は、大林が死ぬ二日前に、
”気になること”として、翔の名前は出さず、そのことを伝えたー。

大林は、そんな麻紀の言葉を聞いて、しばらく考え込んでいたー。

「ーーー何も…関係ないかもしれないけどー」
麻紀がそう言うと、大林はさらに深々と考えるー。

「ー麻紀ちゃんの仕業ー…ではないよなー」
冗談でそう口にすると、大林はさらにしばらく考えてから
ようやく口を開いたー。

「ーー俺も近いうちに、自殺するかもしれねぇな」
とー。

「ーーえっ…な、何を言ってるのー?」
突然の言葉に、意味が分からず戸惑う麻紀ー。

そんな麻紀を見て、大林は「はははっ」と笑うと、
「冗談だよ冗談」と呟いてから、
急に鋭い目つきになって、言葉を続けたー。

「ーーー俺は自殺する気なんかないー。
 でもー
 俺にその気がなくても、俺は自殺するかもしれないー」

大林は、そう言葉を口にするー。

大林の彼女である明奈が突然自殺したー。
大林は今でも、明奈は自殺ではないと思っているー。

「ーー頼みがあるー」
大林はそう呟くー。

「俺の部屋にカメラをセットしておくー
 その動画をネット上で常に見れるようにしておくからー…
 もし、もしも…俺が自殺したら、その時はー」

大林の言葉に、麻紀は不安そうな表情を浮かべながら、
大林のほうを見つめるー

そんな麻紀の表情を見て、大林はニヤッと笑うと
「大丈夫さー。俺が自殺する理由なんてないし。
 俺が”自分の意思”で自殺することは100%ねぇ」
と、自信満々に呟いたー。

その日の夜ー
大林は”自分の部屋の様子をライブ配信”するために
作ったサイトのアドレスとパスワードを麻紀に送ってきたー

”もしも、俺に何かあったら、でいいー。
 何が起きてるか、見てくれー。
 そして、明奈の仇を取ってくれー”

その二日後ー
大林は自殺したー。

麻紀は、恐怖すら感じながらも、
恐る恐る大林に言われた通りー
大林から常に送られて来ていた映像を確認したー

そこにはー

”「ー喜べ大林ー。
 大好きな彼女のところに、送ってやるぞー」”

自殺する直前の大林が、確かにそう言葉を口にしたのだー。

”大林君は、自殺なんかじゃないー”

麻紀は、そう確信したー。

そしてー
”今まで”自分の身の回りで不自然な自殺が
多発していたことの”答え”に麻紀はたどり着いてしまったー

麻紀は何もしていないー。
自分自身で、誰かを自殺させるようなことも、当然していないー

そうなればー…

小さい頃から、いつも麻紀の側にいる人物ー
それはー

「あのさー」
大学終わりー
翔を呼び出した麻紀は、翔に向かって、悲しそうな
表情を浮かべながら、言葉を掛けたー。

「ーーどうしたんだ?麻紀ー」
翔がいつものように穏やかな笑みを浮かべながら言うー。

夕暮れ時の屋上ー。
大学の屋上で待ち合わせていた二人は、
夕陽に照らされながらー
それぞれ、表情を歪めたー。

麻紀が、スマホを手に”大林が自殺する瞬間”の映像を
翔に見せつけていたのだー。

「ーーー…翔ーーー…
 あのさー…
 翔…大林くんの自殺に、関わったりなんか…してないよね?」

麻紀は、そう呟くー。

翔は、表情を歪めながら「もちろんだよー」と、
すぐに穏やかな笑みを浮かべると、
麻紀の言葉を否定したー。

「ーーーー…」
麻紀は「そう」とだけ呟くと、
「ーーーわたし、翔には感謝してるー」と、悲しそうに呟いたー

「小さい頃、いじめられていたわたしを助けようと
 一生懸命になってくれていたことは、今でも覚えてるし、
 こうやって、翔の彼女になってからも、
 翔は、本当に優しくしてくれたよねー」

麻紀の言葉に、翔は「はは…照れくさいなー」と笑うー。

翔は笑っているー。

だがー
翔の”心”は笑っていなかったー。

”自分の力に、麻紀が気づいているー!?”
ということは、当然、翔にも伝わっているからだー。

「ーーーーわたし、知ってるー。
 翔は本当は優しいってー。

 悪いのは”力”だってー」

麻紀は言うー。

「ーー翔…教えてー。
 ”何かの力”で、周りの人を自殺させているー…
 ちがうー?」

麻紀は勇気を振り絞って、翔のほうをまっすぐ見つめたー。

”憑依”とまでは理解していないようだー
だが、麻紀は翔が、大林を始め、多くの人を
”何らかの力で自殺させている”と、そう悟ったようだったー。

「ーーーーーー」
翔の表情から笑顔が消えるー。

夕陽が、二人を照らすー。

「ははははーーーー…」
翔が突然笑い出すー。

麻紀は、目から涙をこぼしながらー、
「ーーー翔ーーー」と、だけ呟くー

”力”
行き過ぎた力は、人間を狂わせるー。

もしもー
もしも、麻紀自身にも”翔と同じ力”があったならー

翔のようなことはしなくても、
”誰かを”自殺させてしまうー…かもしれないー。

自殺させても、誰にもバレないー
そんな力をもし自分が持っていたらー?

誰にも使わずに、一生を終えることができるのー?

自問自答する麻紀ー。
それは、分からないー

”力”を手に入れれば、人間、変わってしまうからー。

憎むべきは、”人”ー
それとも、”力”ー?

麻紀は、困惑しながら、翔のほうを見たー。

「ーーー教えて、翔ー。
 翔のこと、大好きだからこそ、わたし、知りたいー

 大好きな翔が、もしも、道を踏み外しているならー
 わたしはーーーー
 わたしは、翔を止めるー」

麻紀の言葉に、翔は微笑みながら頷くー。

「ーーーーーーー」
そして、しばらく頷いてから、ようやく口を開いたー

「ーー”遺言状”ってすげぇんだよ、麻紀ー」
とー。

麻紀の表情は歪むー。
”その言葉”は、翔が自分の罪を認めたのも同然だったからだー。

「”死”ってさー、この国だと、”美化”されるだろ?」
翔が笑うー。

「そんな死人が残した言葉は、どんな言葉よりも強くー、
 周囲に響き渡るー。

 ”遺言状”に、本人が全く思っていないようなことを書かせても、
 本人はもう、死んでるー。
 本当か、嘘か、確認する手段もないー。

 そして、そんな言葉は、この国では、
 何よりも強い言葉になるんだー。

 ”遺言状”に嘘が書かれているかもしれないのにー
 ”遺言状”に書かれた言葉は、フェイクでもリアルになるー」

翔は、そう言いながら、夕陽のほうを見つめるー。

「ーー俺、”他人に憑依することができるんだ”」
翔は呟くー。

「ーーーえ」
唖然とする麻紀ー。

翔は、驚く麻紀のほうを見て、静かに笑みを浮かべたー。

<最終章>へ続く

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コメント

土曜日のみ予約投稿の都合上、
週1連載or1話完結の作品をお送りしていますが、
今回の「遺言状」は頭の中で描いている内容を書ききるのに
思ったより分量が必要で、珍しく4話構成になってしまいました…!

当初は3話で完結の予定だったのですが
無理やり3話に詰め込んで駆け足エンドになるよりは…、
ということで、あと1話続くことになりました☆!

あと1週、最後までぜひお楽しみください~!

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憑依<遺言状>

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