<憑依>遺言状~生無き者に語る口はない~第二章

”憑依”を悪用する男ー。

彼は、自分の人生にとって障害となる人間を
”憑依”と”遺言状”を使って蹴落としていたー。

血も、涙もないー。
そんな憑依人の物語…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーうん!じゃ、また明日~!」
専門学校に通う亜理紗ー。

彼女は
”遺言状”と”憑依”を駆使して自分の邪魔者を
葬り去ることに生きがいを感じている憑依人ー
”翔”の浮気相手の一人だー。

と…言っても、亜理紗自身が悪いわけではないー。

何故なら亜理紗は、
翔がそんなことをしている人間だとは、夢にも思っていないし、
そもそも”自分が浮気相手”だとも思っていないー。

亜理紗は本気で翔のことが好きだし、
翔にとって”自分は彼女”だと思い込んでいるー。

”他に女がいる”なんてことは、全く知らないのだー。

「ーーーうっ…!」
亜理紗がビクンと震えて声を上げるー。

「ーーーえ?」
ちょうど、違う方向に歩き始めた友達が振り返るー

亜理紗が突然、”うっ”と、しゃっくりかのようなー
いや、それ以上に大きい声を出したからだー。

「ーー亜理紗ー…大丈夫?」
その言葉に、亜理紗はにこっと笑いながら
「大丈夫ー」と、微笑むー。

「ーーー今、急に変な声出さなかったー?」
友達の言葉に、亜理紗は「え~?そんなことないよ~」と笑いながら
返事をするー

「う~ん、じゃあ聞き間違いかな~」
友達が少し戸惑った様子でそう呟くと、
「あ、呼び止めてごめんねー」と、笑みを浮かべながら
「今度こそ、また明日!」と、手を振って立ち去っていくー。

「ーーーーー」
亜理紗は笑顔で手を振りながら、
相手の友達に聞こえないように、静かに呟いたー。

「ーーーー”永遠に”さようならー」
とー。

「ーーー」
スマホを見つめる亜理紗ー。

”念のため”
亜理紗は全てのデータを削除するー

そして、亜理紗の家に向かって歩き出すー。

「ーこのバカ女がー。
 俺といるときの写真はSNSに載せるなって言っただろうがー」

翔に憑依されてしまった亜理紗は、
自分の口で、自分に対する激しい怒りを呟きながら
夜の街を歩くー。

少しして、亜理紗の家に到着すると、
亜理紗は乱暴に紙を探して、ペンを手に
”遺言状”を書き始めるー。

”生きていくことに疲れましたー”

そんな書き出しから”遺言状”を書いていくー。

”筆跡”は、人の手に、感覚として染みついているー。
亜理紗の身体で、神経を集中させれば、
”亜理紗の筆跡を真似ること”ぐらい、
簡単に、することができるのだー。

「ーーーできた」
亜理紗は笑みを浮かべるー。

これから自殺をするというのに、
こんなに満面の笑みを浮かべている人間がいるのだろうかー。

翔はそんな風に思いながら
亜理紗の身体で、邪悪な笑みを浮かべるー

「この力があればー…何でもできるー」
とー。

そうー、
この力がある限り、翔の人生は何でも思い通りに
することができるー。

邪魔者を排除することもー
誰かを、蹴落とすこともー

その気になれば、他人の身体を乗っ取って悪事をこなすこともー。

だがー、
翔は”憑依”の力で、積極的に他人の身体を乗っ取り、好き放題
するようなことはなかったー。

遺言状を書いたついでに遊ぶことはあるー。

今も、そうー

「最後に亜理紗の身体を味わっておくかー
 ま…いつもとは違って亜理紗の身体で亜理紗の身体を味わうんだけどなー」

そんなことを呟きながら、亜理紗の身体で
一人、エッチなことを始める翔ー。

「さぁ最後のエッチだー!存分に興奮しろよ!」
亜理紗は笑みを浮かべながら自分の身体に向かって語り掛けるー。

あと1時間もしないうちに、
”生命活動を停止する”とは夢にも思っていないであろう
亜理紗の身体が激しく興奮して、
ゾクゾクするー。

翔は、”遺言状を書かせて死なせる”時以外には
基本的に、あまり憑依をしないー。

他人の身体を乗っ取って遊ぶようなこともしないしー、
他人の身体を乗っ取って、自ら凶悪事件を起こしたりするようなことも、しないー。

必要であればするが、翔にとって、それはさほど
必要なことではないのだー。

何故ならー
翔は、他の誰よりもー

自分自身が、大好きだからー

「ーーはぁ…♡ はぁ…♡ はぁ…♡」
絶頂を迎えた亜理紗は気持ちよさそうにふらふらと歩くと、
「ーーさ、自殺しよー」と、笑みを浮かべるー。

まるで、他人事ー。

いやー
翔にとっては、他人事ー

服を着て、身なりを整えてから、亜理紗は
クスッと笑うー。

「ーお前みたいなバカ女は、いらないー」
亜理紗は自分でそう呟くと、笑いながら
自ら命を絶ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「ーーーーー」
翔はスマホで、”専門学生、自宅で自殺”という
ニュースを確認するー

「ふん」
何の興味もなさそうにそのニュースの文章を見終えると
スマホをしまうー。

「あ、翔!」
”本命”の彼女の麻紀が近づいてくるー

「ーお、麻紀!どうした?」
翔が笑いながら言うと、麻紀はいつものように、日常的な話を始めるー

翔も楽しそうにその話に応じるー。

翔にとって”唯一”大切な人間と言えるのが、
この麻紀だー。

これまでー
”麻紀の邪魔者”にも何回か憑依して”消して”いる。

当然、麻紀は翔の力も知らないし、
翔が麻紀のために、と、そんなことをしているとも知らないー。

何も知らずに、翔と楽しそうに話す麻紀ー

「ーははは…わかったよー。じゃ、また」
翔はそう言いながら、雑談を終えると、
講義を受ける部屋に向かって歩いていくー。

その時だったー。

「ーー塚谷!」
翔の名前を呼ぶ声が聞こえるー。

翔が振り返ると、
そこには”彼女の明奈自慢”を繰り返していた大林の姿があったー

「ーー大林ー」

大林の”彼女自慢”があまりにもうるさいため、
先日、翔は明奈に憑依して、明奈の身体で”自殺”したー。
つまり、明奈の命を奪ったのだー。

”ーーもう、耐えられないー
 全部、大林くんのせいー”

そんな、”遺言状”を明奈に書かせてー。

「ーーお前か!?」
大林が突然、翔の胸倉を掴んだー

「ー!?」
翔が少し表情を歪めると、
大林は言葉を続けるー

「お前が…お前が明奈に何かしたのか!?」
大林の言葉に、翔は苦笑いしながらー
「落ち着けよ。大林ー」と、全く動揺する素振りを見せずに、
言葉を続けるー。

「ーー何があったんだ?」
明奈の”自殺”を知らないふりをしながら何食わぬ顔で聞くと、
大林は明奈の自殺の件を説明したー

「ー明奈が、自殺するはずなんてないんだー。
 しかも、俺に苦しめられたなんて遺言を残してー…

 明奈は…明奈は誰かに殺されたんだ!」

大林が涙目で叫ぶー。

”とことん面倒くせぇやつだな”
翔はそう思いながらも、大林の肩を叩くー。

「気持ちは分かるけど、俺は何もしらないよ」
とー。

ようやく大林が翔から手を離すと、
翔は「ーーでも、それって自殺じゃないのか?」と
わざとらしく聞くー。

「警察もそうだって言ってた!
 しかも警察のやつら、俺のせいだと疑ってる!」

大林の言葉に、翔は”だろうな”と内心で笑うー。

”死人に口なしー”
それ故に、
”死人の言葉”は、深く、重く、響き渡るー。

それが”遺言”となれば尚更だー。

仮に遺言が嘘であっても、
既に、本人に確認することはできないー。

故にー
”遺言”は強くなるー。

「ーーー他に侵入者の痕跡とかはあったのかー?
 あと、遺言の筆跡が違ったとかー」

翔がわざとらしく”疑問”を投げかけると、
大林は悔しそうに
「そんなモンねぇよ…」と答えるー。

”明奈の家に誰かが侵入した形跡はない”
”遺言状は確実に明奈の字だったー”

それを聞いて、翔は苦笑いするー

「ーだったら、残念だけどさ…やっぱりー…自殺なんじゃ?」
と、呟くー。

「ーーーー違う!」
大林は叫ぶー。

「ーーー」
翔は、大林に気付かれないように、冷たい目で大林を見つめるー。

”彼女自慢がうるせぇと思って彼女を消したらー
 今度はー、犯人捜しかー…
 面倒くせぇやつだなー”

「ーーー明奈が自殺なんてするわけがねぇんだ!
 俺のことを悪く言うはずがねぇんだー」

大林は怒りの形相でそう呟くー。

翔は、ため息をつきながら「あまり無理するなよ」と、
大林の肩を叩くー。

「ーーー……無理するさー。
 絶対に…絶対に、明奈を殺したやつを見つけてー…」

「ーー見つけたら、どうするつもりなんだー?」
翔は、冷たい目で大林を見つめるー。

「ーーーぶっ殺してやるー!」
大林がそう叫ぶー。

翔は「あんま物騒なことするんじゃねぇぞ」と、
言いながらそのまま立ち去っていくー。

「ーーーーー」
そんな言い合いを、少し離れた場所を偶然歩いていた
翔の彼女・麻紀が不安そうな表情で、見つめていたー。

”昔から、そうー”

麻紀は、少しだけ不安を感じながら、
静かにそう呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の夜ー。
帰宅した翔は、環境音を部屋中に流しながら目を閉じるー。

今日は、山奥の雨の音だー。

目を閉じると、山奥の風景が浮かんでくるー
雨が木々を濡らしー
土を濡らしー
やがて、山の雨の匂いを、運んでくるー

「ーーーーーーー」
翔は、幽体離脱したー。

どうして、精神を集中させると、幽体離脱できるのかー。
それは、未だに分からない。

しかしー
翔は確信していたー

”俺は、神に選ばれたんだー”
とー。

生物は、突然変異を起こすことで、進化してきたー。
そして、”俺こそが”次の進化の最初の人類に選ばれた存在であると、
翔は信じて疑わなかったー。

人間は、己の身体に長い間縛られてきたー。
そう、まるで”魂の牢獄”だー。

「けど、俺はー
 その牢獄から抜け出すことができるー」
笑みを浮かべる翔ー。

霊体化した翔が向かったのは、
友人の大林のところだったー。

「ーー大林、今までありがとうなー」
親友を自殺させるのは、少し気が引けるー。

だからこそ、今まで翔の多少の面倒な行動には
目をつぶってきたー。

しかしーーー
それも、もう終わりだー。

スマホを手に、何かをしていた大林ー

”万が一、ということもあるからなー”
そう思いながら、翔は大林に憑依したー

「ーーかはっ…!?」
苦しそうに変な声を出す大林ー

「ー男に興味はねぇ。さっさと死ぬか」
大林はそう呟くと、持っていたスマホを一応確認するー。

”問題なしー”
憑依したタイミングで、誰かと通話していたり、録音していたりー、
そういう可能性も0とは言えないー。

スマホを確認し終えた大林は
「さ~死ぬか!」と笑いながら呟くー。

本人が、こんなことを言うはずは絶対にないー。
全く死ぬつもりがないはずの人間が、笑いながら「さぁ死ぬか」と
言っているー。

そんな、異常な光景も”憑依”であれば、描き出すことが、できるー。

「ーーーー」
大林は、部屋に飾られていた彼女・明奈の写真を見つめるー。

大林と明奈の写真の数々ー。
大林も、明奈も、とても楽しそうにしているー。

「ー本当に、仲良しだったんだなー」
大林の身体で、翔は呟くー。

「ーーーーーーー」

”罪悪感”

ーーーーなどーー

翔は感じないー。

ニヤリと笑みを浮かべながら、
翔は大林の身体で、首を吊る準備を始めるー。

”彼女を自殺に追いやったのは俺だー。
 責任を持って、俺も今日、ここに死を選ぶー”

適当な遺言状を書き残した大林は、
笑みを浮かべたー

「ー喜べ大林ー。
 大好きな彼女のところに、送ってやるぞー」

その言葉と共に、首を吊り始めるー

やがてー
彼の身体が”死”に至りー
大林の身体から追い出された翔は、
にやりと笑みを浮かべたー。

”力は、使うためにあるー。
 憑依の力を持つ俺は、それを使う運命(さだめ)なんだよー”

翔は、死んだ大林のほうを見ながらそう呟くと、
笑みを浮かべながら、その場を去ったー

ーーーだがーーーーーーー

大林の部屋には、”小型のカメラ”が設置されていることにー
翔は、気づいていなかったー。

<第3章>へ続く

・・・・・・・・・・・・・・

コメント

やりたい放題の翔…!
こういう人物が憑依能力を手に入れてしまうと大変ですネ~!

次週もぜひお楽しみください~!

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憑依<遺言状>

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