<憑依>身体のリサイクル③~”する側”~(完)

”身体リサイクル法”により、
逮捕された人間の身体に、
事情のある人間を憑依させる未来世界ー。

そんな世界でー
”若くして病気になってしまった少女がいたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーごめんね…」
高校2年生の井村 千穂(いむら ちほ)は、
申し訳なさそうに、そう呟いたー

「ーー…あ、謝るなよー…
 俺のほうこそ、ごめんなー…
 何もしてあげられなくてー」

そんな千穂に寄り添っていたのは、
幼馴染の男子高校生、
木島 太一(きむら たいち)。

太一と千穂は小さいころから仲良しで、
高校生になってからは
彼氏と彼女の関係に発展しているー。

しかしー
半年ほど前ー
千穂には、ある病気が判明したー。

本来、若者が発症することは
極めて稀な病気であったものの、
その”極めて稀”に千穂は当てはまってしまったのだー。

そしてー
千穂の病気は、治療をすることは難しくー
若くして余命宣告まで受けてしまっている状態だったー

「ーーううん…こうしてここに来てくれているだけでー…十分ー」
千穂は、弱弱しくそう呟くー。

入院し始めのころは
”わたし、病気だなんて全然信じられなくて!”などと笑っていたし、
お見舞いに来るたびに、千穂は”いつも通り”元気に
振舞っていたー。

けれどー
今ではそんな千穂の姿は幻想だったのではないか、と
思ってしまうぐらいに、千穂は弱弱しく、
やせ細っていてー
今やベッドで身体を起こすのもやっとな状況だったー。

日に日に、千穂の死が近づいているー。
イヤでも、太一はそのことを実感せざるを得なかったー

この時代の医療でも、治せない病気は、やはり存在するー
どんなに技術が発展しようとー
どんなに世の中の仕組みが変わろうと、人間は”神”に
なることはできないー

「ゴホッ…ゴホッ…」
千穂は、苦しそうに咳き込むー。

”どうして、わたしがー…”
千穂も、正直、最初はそう思ったー。

若い人間が掛かること自体が極めて稀な病気ー。
家族にその病気の人間がいるわけでもなければ、
特別、不健康な人生を送ってきたわけでもないー。

完全に”運が悪かった”としかいいようがない状態ー。

それでもー
仮に、若い人間が「0.1パーセント」の確率でしか
発症しない病気であったとしてもー

「0.0」ではない限り、必ずどこかに
発症する人間はいるー

それが、不運にも千穂だったのだー。

冬になりー
さらに弱っていく千穂ー。
今では、自力で起き上がることも、
食事を摂ることもできなくなっていたー。

両親が、毎日のように、心配して千穂の様子を見に来るー。

彼氏の太一も、必死に千穂を助ける方法を調べたー。

そしてー
太一はたどり着いたー

”身体のリサイクル”
にー。

この世界では、刑務所が満タンになり、
犯罪者を逮捕しておく場所も、費用も、人員も確保できない
状態になりつつあったー。
少子高齢化などがさらに進み、税収も減り、人員も減りー、という
悲惨な状況に
”刑務所のビッグバン”と呼ばれる最悪の悪夢が起きることまで
懸念されていたのだー。

しかしー
数十年前に”身体のリサイクル”と呼ばれる法律が制定されー、
逮捕された犯罪者の身体に
”病気で余命あとわずかな人間”
そしてー
”身体の不自由な人間”などを憑依させ、
犯罪者の身体を使うことが可能になった

これにより、
犯罪者を留置所に入れておく必要はなくなり、
スペース・人員・費用の削減が可能になりー
病気の人間や、不自由な人間は、”健康体”を手に入れることができるほか、
それに伴い、医療費や入院患者の入院場所の問題なども
改善されていたー。

だがー
”身体リサイクル法”が制定されてまだ数十年のこの時代ではー
お世辞にも”一般的に浸透している”とは言えずー、
病院が、助からない患者に”別の人間の身体で生きていく”ということを
提案することは少なかったし、
”別の人間の身体になる”ということに激しい抵抗を抱く人間もいたー。

また”別人の身体に憑依した人間”を差別するような動きも、
この時代にはまだ残っていたのだー。

それでもー、と、太一は、
その翌日、千穂の両親を呼び出して
病院の千穂の部屋で”身体リサイクル”法を利用することを
提案したー。

「ーー太一くんー。君は千穂に犯罪者の身体で生きて行けというのか!?」
千穂の父親が叫ぶー

「ーー違いますー、違いますー。
 この制度は、そういう制度じゃないんですー。
 実際に、リサイクル法を利用して、
 もう助からない病気だった漫画家が、今も別の身体で漫画の続きを書いていますー」

”リサイクル法”を使って生き延びた有名人を例に挙げて
必死に千穂の両親を説得する太一。

「ーーでも…他の人の身体になるなんてー」
千穂の母親もどちらかと言うと、反対の立場のようだー。

千穂は苦しそうに咳き込みながら、その様子を見守っているー。

「ーーそんなの、信じられないー。
 人間として生きることをやめるようなものだー。
 他人の身体に憑依して生きるなんてー」

千穂の父親は、頑なに”娘が他人の身体に憑依する”ことを
否定しているー。

太一は、苦しそうな千穂のほうを見つめるー

「ー大事なのは…千穂のー…本人の意思だと思います」
太一が、まっすぐ千穂の父親のほうを見るー。

太一と千穂は幼馴染であり、
家族ぐるみの付き合いがあったために、
太一のことも、千穂の両親は良く知っているし、
今、千穂と付き合っていることも知っているー。
両親共に、千穂と太一のことは応援していたー。

しかしー
身体リサイクルを利用するとなればー

「ーーー…太一…」
千穂が苦しそうに太一のほうを見つめるー。

「ーー太一くん。君はー
 千穂が、娘が別の人間の身体になってもー
 それを、千穂と呼べるのかー?
 今のまま、好きでいられるのかー?」

千穂の父親が言うー。

太一は「はい」と真っすぐ、父親のほうを見つめるー

「ーーどんな姿になったって、千穂は、千穂ですー。」

その強い決意に、父親は表情を歪めるー。

「ーー中身は千穂ー
 それは分かるー
 だがー、身体が違ったらー
 それはー

 人間は、身体と心が揃って、その人なんだー
 だからー」

千穂の父親がそう言いかけると同時に、
太一は「ーーこのままじゃ!」と声を荒げるー。

千穂の両親は、揃って太一のほうを見るー

太一は涙を流しながら、
千穂の両親を見つめていたー

「俺は、千穂の中も外も好きですー。
 本当なら、俺だって、”両方”揃っててほしいですー。

 でも、このままじゃー
 このままじゃ、千穂の身体も、心も、両方
 失われちゃうんですよ!

 千穂は完全に消えてしまうんですよ!」

太一が涙ながらに叫ぶー。

”身体リサイクル法”を使えば
千穂の心ー…中身は助けることができるー
身体は違っても、千穂は、そこにいるー。

けれどー
このままならー
千穂の身体も、心も残らないー

「ーー全て消えるか、半分でも助けることができるかー
 それなら、どっちを選ぶんですか!?

 俺は、千穂が望むならー
 迷わず、半分でも助けることができるほうを、選びますー」

太一の言葉に、千穂の父親は
しばらく考えてから頷くとー
「ーーわかったー」と、静かに、けれども
決意した様子で呟いたー

「千穂ーーー」
父親が千穂のほうを見るー

「ーー千穂ーー
 どうするー?
 お父さんも、お母さんもー
 お前の意思を、尊重するー」

父の言葉に、
千穂は、目から涙を流しながらー
「わたし…まだ…生きたいー」と、呟いたー

その千穂の願いを聞きー
千穂の両親も、ようやく”身体のリサイクル”を利用することを決断したー。

すぐに医師に伝えー
身体リサイクル庁に利用を申請するー。

3日ほどでー
千穂の”憑依相手”は決まったー。

年齢は2つほど上で、大学生の年齢だったがー、
どことなく千穂に似た雰囲気を持つ女だったー。

水嶋 日葵(みずしま ひまり)ー。
自分の浮気を隠蔽するため、浮気相手の男を刺殺した女だー。

”こんな犯罪者の身体にー”と、
父は複雑に思いながらもー
それでも、娘の生きたいという願いをー
そして、彼氏の太一の気持ちを受け取りー
千穂を、日葵に憑依させることに同意したー。

当日ー
病室に、特殊な装置と、スーツ姿のスタッフがやってくるー。

本来であれば、”リサイクルセンター”と呼ばれる場所に行くのだがー
動けない病人や、事情のある人間がリサイクルを利用する場合は、
こうして、リサイクル庁の人間がやってきて、憑依の案内をするー。

憑依のために必要な薬ー、
そして、別の場所ー
各刑務所に設置されている”憑依室”に、憑依薬を飲んで幽体離脱した
霊体を、正しく転送するための装置を、頭に取り付けるー。

ヘルメットのような感じの装置だー。

「ーーーーーー…」
千穂は緊張した様子で両親と、太一のほうを見つめるー。

「ーー大丈夫。千穂が生きられるなら、俺はどんな姿でもー
 これからも千穂と一緒だー。
 お父さんとお母さんも、きっとー」

太一の言葉に、背後にいた千穂の両親も頷くー。

「ーご安心下さい。痛みはありませんー。
 ”新しい身体”は一番近くの刑務所に既にやってきているため、
 憑依してから1時間ほどで、こちらに移動してこれます。」

リサイクル庁の人間がそう言うと、
概要を簡単に説明したー。

憑依した直後は、歩幅や身体の感覚、身長など、
色々な面が異なるために、転んだりする人間がいるため、
注意してほしい、というお話や、
味覚の違いなどについての説明も行われたー

「ーーわかりました」
千穂が弱弱しくそう呟くと、
辛そうに身体を抑えるー。

病気により、既に千穂の身体はボロボロだー。

「ーーーーーー」
千穂が目を閉じるー

リサイクル庁の人間が、憑依薬を千穂に注射するー。

”飲む”ことでも利用できるのだが、
千穂は既に、飲み物の摂取も難しい状態だったー

そのため、注射で対応したのだー。

千穂の身体が激しく痙攣を始めるー。

「ーーー千穂」
母親が心配そうに呟く中ー
千穂の”身体のリサイクル”は成功したー

「ーーーうっ!」
ビクンと震える日葵ー。

刑務所で服役していた女だー。

「ーーあ……え…わたし…」
日葵が自分の手を見つめるー

身体が、軽いー

”重病人”の状態から
一気に”健康体”に変わるー。

その、あり得ないほどまでの感動ー

日葵に憑依した千穂は
「動く…身体が…動く…」と、嬉しそうに微笑んだー。

そんな様子を見た刑務官が、日葵に千穂が憑依したことを
スキャナーで確認すると、
「ーご苦労様でした。無事に”リサイクル”は完了しました」と頭を下げる。

「ーーあ、」
日葵になった千穂は”健康体にはしゃいでいた”ことを恥ずかしそうにしていると、
刑務所の人間は「皆さん、同じような反応ですから」と、苦笑いしながら
日葵に対して「さぁ、ご家族の待つ病院に案内します」
と、日葵を、刑務所の外へと案内し始めたー

そしてー

病院にやってきた日葵ー。

鏡を見つめながらー
「ーーー……これが…あたらしいわたし…」
と、日葵の身体を見つめるー。

「ーごめんなさいー。よろしくお願いしますー」

この身体は”犯罪者”とは言えー
”他人の身体を奪う罪悪感”が千穂にはあったー。

鏡に映る日葵に向かって、そう呟くと、
日葵は、家族の待つ病室へと、足を運んだー。

病室の扉を開けるとー

そこには両親と、彼氏の太一が、
日葵をー
新しい千穂を待っていたー

「ーーただいま…」
日葵になった千穂が緊張した様子で言うと、
太一が嬉しそうに駆け寄ってきて、
日葵になった千穂の手を優しく握りしめたー。

「ーーーーー」
両親もちょっと複雑そうにしながらも嬉しそうだー。

「ーー…あ、ちょっと待っててね」
太一や両親と雑談していた日葵になった千穂は、
そう呟くと、病室でまだ、装置に繋がれている
千穂自身の身体の方に向かっていきー
もう動くことのないその手を握りしめたー

”ー今まで、ありがとうー”
元、自分の身体に向かってそう呟くと、
日葵になった千穂は、家族と太一のほうを見てー

「ーーーわたし…まだ生きられるんだねー」
と、嬉しそうに、穏やかな表情でほほ笑んだー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

”身体のリサイクル”が当たり前になっている世界のお話でした~!

お気づきの方もいるかもしれませんが、
③は、①・②よりも前の時代のお話ですネ~!
(①・②は、リサイクル法が始まって時間が経った23世紀、
 ③はリサイクル法が始まって数十年の22世紀デス~)

①②③と続いているお話で、1話ごとに登場人物を変える形式は、
普段はあまり書かないので、書いていて新鮮な気持でした!

お読みくださりありがとうございました~!☆

憑依<身体のリサイクル>
憑依空間NEO

コメント

  1. 匿名 より:

    憑依する側より二話めみたいな憑依される側の視点の方が面白いですね。

    憑依されることになった日葵も二話めの憑依被害者みたいに色々わめいてたんですかね?

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!☆
      視点の違いで、皆様の好みも分かれそうですネ~★!

      もちろん、第3話の日葵も「はいそうですか」とはなってないはずデス~★笑

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