”身体リサイクル法”
刑務所が満タンとなり、維持していくコストも人員も、場所も
確保できなくなったこの未来世界では、
”犯罪者の身体”に、”身体の不自由な人”や”余命僅かな人”を
憑依させる行為が、日常的に行われていたー。
そんな世界でー
”逮捕”された女の運命はー…?
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「ーーー……仕方ないでしょ!金が欲しかったんだから!
警察官に向かってそう叫ぶ女ー。
先日逮捕された女ー
石村 由美(いしむら ゆみ)は、
柄の悪い男と組み、色仕掛けで街を歩く男を誘惑しては、
組んでいた男と共にターゲットの男を痛めつけてー
金を巻き上げていた女だったー。
そのことが発覚して、共犯の男共々逮捕されてー
取り調べを受けているー。
だがー
その態度は反抗的だったー。
「ーーーーっていうかあんた、わたしのこと
イヤらしい目で見ないでくれる!?」
男の警察官に対してそう言い放ち、
由美は不機嫌そうに呟くー
「ーー話を逸らすんじゃない!」
警察官も、由美の反省が見えない態度に、
苛立ちを見せるー。
由美のことをイヤらしい目でなど見ていないー
”ーー全く反省のしない女だなー”
そんな風に思いながら、警察官は
由美の取り調べを進めていくー。
”どうせ、すぐ出れるでしょ”
牢屋に戻ると、由美は余裕の笑みを浮かべたー。
刑務所では、由美の他に二人の女がいたー。
それぞれ、何らかの罪を犯しているのだろうー。
だがー
由美にとっては、そんなこと、どうでもいいことだったー
”ーってか、騙されるほうが悪いんだし”
由美は、牢屋の中でも髪をいじりながら
不貞腐れた態度を見せているー。
高校生までの由美はー
とても真面目な女子生徒だったー。
しかしー
当時、付き合い始めた彼氏が、悪い男で、
由美は、浮気された挙句、無理やりエッチなことをさせられてしまいー、
そこから、由美は歪み始めたー。
大学生になってからは、夜遊びを繰り返すようになりー
やがて、悪い男たちと絡みだしてー
”自分が色目を使えば、男なんて、簡単に落とせる”
と、いう考えにたどり着いてしまったのだったー。
それからは、柄の悪い男と組み、数々の男を騙しては
金を巻き上げる犯罪行為を繰り返してきたー
”男なんて、どうせヤラしいやつばかりなんだからー”
由美は、そんな風に思いながら
”騙されるほうが悪い”と、自分を正当化ー、
逮捕された今も、自分が悪いとはみじんも思っていなかったー。
「ーー人を殺したわけでもないし、どうせすぐ出れるから」
由美は、同室の女たちにも、そう説明していたー。
もちろん、由美とて、
この時代の”身体リサイクル法”は当然理解しているー
犯罪者の身体に”病気で余命あとわずかな人間”や
”事故などで不自由になった人間”などを
憑依させるという法律だー。
”憑依される側”からしてみれば、
自分の身体は生きていても、
肉体も意識も完全に乗っ取られてしまうー、
と、いうことは死んでいると同じようなことだがー、
刑務所が満タンになった今の時代ー
もはや、それ以外に有効的な方法はないー、
というのも現実だったー。
しかしー
とは言え、犯罪者全員が、”身体のリサイクル”に使われるわけではなく、
あくまでも”必要”と判断された場合のみだー。
特に、重罪を冒した人間や、再犯を繰り返している人間が
その対象となるケースが多いー。
”憑依される身体”に選ばれている基準は、一般的には明かされておらず
不明だったが、由美のような人間が、憑依される可能性は、
限りなく低いと言えたー。
だがー
その翌日ー
由美は呼び出されたー。
「ーーは?」
由美が、”取調室”とは違う部屋に通されて、
表情を歪めるー。
何やら、メディカルチェックが始まっているようだー。
由美は「何のためにこんなことしてんの?」と、不満そうに
腕組みをしながら呟くー。
だが、刑務所の人間は、答えなかったー。
そしてー
全てのメディカルチェックを終えると、
由美は、刑務所長に呼び出されたー
由美が不機嫌そうに「ー何なのいったい?」と、
所長の部屋に入ると同時に口にすると、
所長は、無言で机に紙を差し出したー。
青い紙に、文字が書かれているー。
刑務所の人間や、警察官たちに対しても、
攻撃的な態度を繰り返していた由美が、
はじめてその表情を曇らせたー。
”リサイクル通知書”
と書かれたその青い紙はー
通称”青紙”と呼ばれて、
犯罪者たちから恐れられている紙だー
由美は、まさか自分がその紙を目にすることになるとは、
夢にも思っていなかったー。
リサイクル通知書ー
青紙は、
簡単に言えばー
”あなたは、憑依されることになりました”ということを
伝える紙だー。
つまりー
”死刑宣告”に等しいとも言えるー
「ーーちょ…!?は???意味わかんないんだけど!?」
由美が叫ぶー。
「どういうこと!?は?ちょっと訳が分かんない!」
由美は、表情を歪めながら所長に向かってそう叫ぶー。
「ーー紙に書かれている通りだー」
所長が、淡々とそう呟くと、由美は憔悴した様子で
紙を手にしたー
そこにはー
”下記のものを”身体リサイクル法”に基づき、
リサイクルすることを通知するー。
と、書かれていたー
そしてー
そこには、今日の日付と、
由美に憑依する人間の名前が書かれていたー。
由美に憑依する人間は、
”男”だったー。
基本的にリサイクル法での憑依は、
男⇒男 女⇒女の憑依が基本的だー。
例えば、病気で余命あとわずかの人間が、
リサイクル法で生きながらえる場合、
同じ性別にすることが多いー。
憑依後の”定着”の問題や、
憑依後の新しい身体での生活など、
色々な面から配慮されて、
基本は”同性への憑依”が行われるー。
しかし、由美に憑依する人間は、男性だったー。
異性に憑依するケースとして、いくつか考えられるのは、
”性に関する悩みを解消するために、リサイクル法が使われる場合”
”何らかの事情から、余命あとわずかな人間や、不自由な人間が
異性に憑依することになった場合”
そしてー
”裏口”
裏口とは、身体が不自由でも、余命あとわずかでも、
性別に関する悩みがあるわけでもないーー
つまり”本来、リサイクル法を使わなくてもいいはずの人間”が、
憑依をすることだー。
”女になりたい”
”男になりたい”
”可愛くなりたい”
”イケメンになりたい”
そんなー
命に、健康に関わること以外の目的で、リサイクル法を使うことが
”裏口”だー。
大金を積んだりー、
権力者だったりー
そういう人間が、”本当はしなくてもいいはずの憑依”を
することがあるのだー。
「ーーふ、ふ、、ふざけないで!
わたしは、男を騙しただけでしょ!?
人殺しもしてないしー、それで、リサイクルとかー!」
由美が必死になって叫ぶー。
だが、所長は首を横に振ったー。
「ーー逮捕された人間全てが対象になることは、
君も知っているはずだー」
所長の言葉は、確かに正しいー
身体リサイクル法は、”全ての犯罪者”が対象で、
色々な事情や、犯した罪などから、”憑依される人間”が選ばれるー。
実際のところー
”重罪人”や”再犯を繰り返す人間”が優先的に対象に選ばれるのも事実だったが、
必ずしも、そうとは限らないのも事実だったー。
由美の場合はーー
”反抗的な態度を繰り返した”点ー
”再犯の可能性が高いと上層部に判断された”点ー
そしてー
娘が逮捕されたことを知った両親がー
”自ら希望”を出したことー
が、決めてだったー。
両親は、由美に見切りをつけて、リサイクル対象になるよう、
申請していたのだったー
「ーーふ…ふ、、ふざけなんなよ!ねぇ!!ちょっと!」
由美が所長に飛び掛かろうとするー。
だが、周囲に刑務官に取り押さえられてしまうー。
「ーーい…いや…いやだ!わ、、わかった!わかったから!やめて!」
由美は必死に叫び出すー。
”自分がこれから憑依される”
それは、由美からしてみれば
”死ぬ”のと同じだー
「ーー”憑依室”に連れていけ」
その言葉に、由美は悲鳴を上げたー。
”青紙”による通知後、即日で憑依は行われるー。
そうしないと、自殺や、自傷行為などのリスクがあるためだー。
”リサイクル通知書”が受刑者本人に渡される時点で、
既に、その人物に憑依する人間が決まっており、
別の場所で、”憑依の準備”が進められているー。
「ーふ…ふざけんな!こんなことしてただで済むと思ってるの!?」
由美が刑務官たちから逃れようと暴れながら叫ぶー。
「ー身体リサイクル法に基づいた対応だ。何も問題はあるまい」
所長は淡々と答えるー
「ふざけんな!わたしは絶対、誰かにわたしの身体をあげたりしないから!
わたしの中に誰かが入ってきたら、そいつを逆に飲み込んでやる!」
由美が威勢よく叫ぶー。
所長は、それを軽く受け流すー。
どんなに強靭な意思の持ち主であったとしても、
そのようなことは”不可能”であると所長はよく理解しているからだー。
「ーーあんたを、呪ってやる!恨んでやる!うあああああああ!」
怒り狂った叫び声をあげながらー
由美はそのまま連行されたー。
そしてー
由美が連れて来られたのは”憑依室”と呼ばれる部屋ー。
憑依室は、取調室ぐらいのサイズの部屋だー。
そこに、由美が押し飛ばされて、扉の鍵が外側から閉まるー。
憑依室前の控室からは、ガラス張りで中の様子が
見えるようになっておりー
そこで、”最後の10分間”が与えられるー。
通知してから、最後の時間を与えるのは、
身体リサイクル法が制定される際の
”人道的な見地から”という理由だったー
もし、この場で由美が自殺しようとしたり、
問題行動に走ろうとすれば、ただちに憑依は決行されるー。
「ーーー許さない…!あんたたちを絶対に許さない…!」
由美が、憑依室隣の控室から、由美を見つめる刑務官たちを
ガラス越しに睨みつけるー。
”憑依されるまでの10分”を過ごす憑依室には、
簡単な和菓子と、飲み物が置かれているー
”これから憑依される人間”に対する
最後の晩餐と言わんばかりにー。
「……許さない…!許さない…!」
由美は、最後の10分をー
刑務官たちに呪いの言葉を呟きながら、過ごすー。
しかしー
時間は確実に過ぎていきー、
刑務官の一人が、端末のようなものを操作すると
”それでは、憑依を開始してください”と、
別の場所で待機している”憑依する側”に連絡を入れたー
「ーーいやっ!いやだ!」
由美が部屋の中で逃げようともがき始めるー
だがー
次の瞬間ー
「ーーうっ…」
由美がビクンと震えてー
そのまま、その場に立ち尽くすー。
うなだれた状態の由美は、数秒後に顔を上げるとー
「ーーへへへへ…やべぇ…本当に女になってるー…」
と、笑みを浮かべたー。
「ーーなんだ…勿体ないなぁ」
由美が食べなかった和菓子を口にすると、
憑依された由美は両手を動かしたり、両足を動かしたりしてからー
刑務官のほうを見たー。
特殊な装置で”ちゃんと憑依が完了したかどうか”のスキャンを終えると、
由美は部屋の外に出るー。
由美に憑依した人間は”とある企業のトップ”で、
身体リサイクル法を”裏口”で利用した男だー。
病気や、身体が不自由な人間に使うー、という本来の目的ではなくー
”女になりたい”という理由で、”金を積んだ”ー。
もちろん”裏ルートの場合”でも、犯罪歴がないかどうかなど、
厳重な審査は行われるー。
「ーーーどうですか?僕、ちゃんと女になってます?」
由美が嬉しそうに頬を触りながら言うと、
刑務官たちは「しっかり、憑依できてますよ」と笑みを浮かべたー。
「ーーこんなかわいいのに、犯罪を犯すなんてなぁ」
刑務官が用意した鏡を見つめながら、由美は自分の顔を触ると、
「まぁ、この身体は、僕が有意義に使いますからー…」と、笑みを浮かべてー
そのまま刑務官たちに案内されー
刑務所の外へと歩き出したー。
③へ続く
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コメント
3話モノながら、1話ごとに登場人物が変わるスタイルですネ~!
次回は”憑依する側”を描きます~!
コメント
他の作品では何も悪いことしてないのに、一方的な欲望とかで理不尽に身体を奪われるという話が多いので、大なり小なり悪いことをした人間が憑依されるというのは因果応報な感じでまだ納得がいく感じがしますね。犯罪者の有効利用という感じで、合理的な気がします。
それにしても、事前に自分が憑依されることを知らされてから憑依されるのってかなりエグいですよね。
多くの話では何も分からないうちに憑依されるパターンが多いので、恐怖とかを味合わずにすんでるのでその方がまだマシなような気がします。
だいぶ前の話で憑依される瞬間にこだわる憑依人の話がありましたが、自分的にはこの話の由美みたいに憑依される恐怖で錯乱して喚き立てる方がグッとくるというか、すごく好みな感じです。
前の『極限少女』とか『姉さんと妹、どっちに憑依しようかな?』もこの話に近い物があったので最高でした。
コメントありがとうございます~!
事前に知らせた上で憑依…!
確かに恐ろしいですよネ~笑
作中では人道的な意味合いで通知する…
みたいな感じになってますが、
逆にいたぶっているようにも見えます…笑☆
作中のような世界だと、有効活用にはなってますネ~!